Biochemistry

Biochemistry · 4/3

解糖系

Glycolysis — L I

疾患
メトヘモグロビン血症
画像所見
FDG-PET

🧠 は「でATPを2つ投資し、で4つ回収する」二段構えで読む。 グルコース1分子を細胞質で10段階の酵素反応によりピルビン酸2分子まで酸化し、正味2 ATP と 2 NADH を得る。ほぼすべての生物に共通する中心的経路であり、10個の中間体はすべてリン酸化されている点が重要。

全体像:2つの相

は、投資と回収の2相に分かれる。

英語 反応の要点 ATP
preparatory (investment) phase グルコースをリン酸化・開裂し、triose(三炭糖)2分子にする −2 ATP(投資)
payoff phase glyceraldehyde-3-phosphate(G3P)2分子をピルビン酸へ変換 +4 ATP、+2 NADH(回収)

正味のグルコース1分子 → ピルビン酸2分子 + 2 ATP + 2 NADH

flowchart TD
  A["グルコース(C6)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preparatory phase (glycolysis) / preparation stage (behaviour change)'>準備期</span><br>ATPを2つ投資"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fructose'>フルクトース</span>1,6-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bisphosphate'>ビスリン酸</span><br>fructose-1,6-bisphosphate"]
  C --> D["C3–C4結合を開裂<br>triose phosphate ×2"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='payoff phase'>報酬期</span><br>ATP4・NADH2を回収"]
  E --> F["ピルビン酸(C3)×2"]

リン酸化中間体の重要性

10個の中間体がすべてリン酸化されていることには、3つの意味がある(講義の強調点)。

  1. 細胞外への漏出を防ぐ(trapping): 細胞膜はの輸送体を欠くため、リン酸化された解糖中間体は細胞外へ出られず、細胞内に保持される。
  2. : は、を酵素的に保存する必須要素。(phosphoanhydride bond、ATPなど)の開裂で放出されるエネルギーは、glucose-6-phosphate のようなリン酸エステルの形成に部分的に保存される。
  3. : で生じる 1,3-bisphosphoglycerate(1,3-BPG)と phosphoenolpyruvate(PEP)は、を ADP に渡して ATP を作る(=)。

10段階の酵素反応

各段階を、酵素・基質→生成物・特徴で整理する。不可逆な3反応(hexokinase・PFK-1・pyruvate kinase)は調節点になる。

# 酵素 反応 特徴
1 glucose → glucose-6-P ATP消費、不可逆、調節点
2 glucose-6-P → fructose-6-P (aldose→ketose)
3 -1 PFK-1 fructose-6-P → fructose-1,6-BP ATP消費、不可逆
4 fructose-1,6-BP → DHAP + G3P C3–C4結合を開裂
5 DHAP → G3P DHAPをG3Pへ(以降2分子で進む)
6 グリセルアルデヒド-3- GAPDH G3P → 1,3-BPG NAD⁺→NADH、Pi取り込み
7 1,3-BPG → 3-PG (+ATP)
8 ホスホグリセリン酸ムターゼ phosphoglycerate mutase 3-PG → 2-PG の転移
9 エノラーゼ enolase 2-PG → PEP 脱水
10 PEP → ピルビン酸 (+ATP)、不可逆、調節点

💡 は2か所。 と違い、酸素もも要らずに ATP を作る。ステップ7(phosphoglycerate kinase)とステップ10(pyruvate kinase)で、高エネルギー中間体から直接 ADP にが渡される。や赤血球でもここは働く。

ヘキソキナーゼ vs グルコキナーゼ

講義が最も強調する対比。両者は同じ反応を触媒する(isozymes:同じ反応を触媒するが異なる遺伝子にコードされる2つ以上の酵素)だが、動態と役割が大きく異なる。

項目 (I–III)
分布 ほとんどの組織 肝臓・
広い(fructoseなど複数のhexose) グルコースに特異的
Km(グルコース親和性) 低Km(約0.2 mM)= 高Km(約10 mM)=
glucose-6-P で阻害される 阻害されない
調節 (G6Pによる) ・ホルモン(insulinで誘導)

は「血糖センサー」。 高Kmのため生理的濃度で飽和せず、血糖が高いほど活性が上がる。肝臓はから届くグルコースの洪水を効率よく取り込み、ではの閾値を決めるグルコースセンサーとして働く。血糖が低いときは糖新生で作ったグルコースを、リン酸化で捕捉される前に細胞外へ逃がせる。

PFK-1:律速段階

-1(PFK-1)は、生理条件で不可逆な反応を触媒し、の速度を決める中心的調節酵素である。誘導との両方を受ける。

💡 にコミットする」段階。 glucose-6-P は糖新生・グリコーゲン・へ分岐できるが、PFK-1 を通るとへ進むことがほぼ確定する。だからここが最重要の制御点になる。

ピルビン酸の3つの運命

で生じたピルビン酸は、条件により3方向へ進む(Harper Fig. 17-1)。

運命 条件 行き先
アセチルCoA(acetyl-CoA) 、ミトコンドリアあり
乳酸 /ミトコンドリアなし(赤血球) 乳酸発酵、NAD⁺再生
エタノール 酵母などの発酵

💡 赤血球はミトコンドリアを欠く。 そのために依存し、ピルビン酸を乳酸に変えて NAD⁺ を再生する。を持たない細胞では、が唯一のATP供給路になる。

赤血球の代謝と臨床

講義は赤血球特有の分岐と病態を扱う。

2,3-ビスホスホグリセリン酸経路

赤血球では、1,3-BPG から分岐して 2,3-bisphosphoglycerate(2,3-BPG/2,3-DPG) が作られる。2,3-BPG はに結合し、ヘモグロビンの低下させて末梢への酸素放出を促す。

⚠️ 輸血血液の保存で2,3-BPGが枯渇する。 では 2,3-DPG が保存1週目で急減し、2週目末には検出不能になる。そのため保存赤血球は組織へ酸素を放出しにくい。輸血後、数時間〜数日で 2,3-DPG は再合成される(〜95%まで回復)。

メトヘモグロビン血症

機序
後天性 酸化性物質・薬物(など)への曝露
先天性 NADH依存性 b5 reductase(methemoglobin reductase)の欠損(まれ)

飲料水中のによる乳児の「」は、後天性の例として挙げられる。

パスツール効果

にグルコースを高速消費している細胞に酸素(O₂)を加えると、O₂ が使われるにつれてグルコース消費速度が大きく低下し、乳酸の蓄積が止まる。逆に、酸素が不足すると解糖が亢進する。

💡 「酸素があると解糖にブレーキ」が にATPを効率よく作れると、への依存が減る。がん細胞では酸素があっても解糖が亢進する()点と対比される。

がん診断への応用

解糖の亢進を画像化する応用。2-[¹⁸F]fluoro-2-deoxyglucose(FDG) は hexokinase によりリン酸化されて 6-phospho-FDG となり、それ以上代謝されずに細胞内に捕捉される。¹⁸F からのを検出することで、解糖が盛んな組織(=がん組織 cancerous tissue)を PET( positron emission tomography) で描出できる。

まとめ

  • は細胞質で10段階、(−2 ATP)と(+4 ATP・+2 NADH)に分かれ、正味 2 ATP・2 NADH。
  • 中間体はすべてリン酸化され、漏出防止・・高エネルギー化合物形成に働く。
  • 不可逆な3反応(hexokinase・PFK-1・pyruvate kinase)が調節点。PFK-1が
  • はステップ7・10で、酸素なしにATPを作る。
  • (低Km・高親和)と(高Km・血糖センサー)の対比が重要。
  • ピルビン酸はacetyl-CoA/乳酸/エタノールの3運命。赤血球はミトコンドリアを欠きに依存。
  • 臨床:2,3-BPGと・輸血血液の保存、、FDG-PET。