組織学 · 6.1
循環器:一般構造
Circulatory system — General plan
🧠 血管壁は例外なく「内膜・中膜・外膜」の3層構造、と一枚岩のルールとして覚える。 動脈・静脈・毛細血管の違いはこの3層の“厚み・組成の配分”の違いにすぎず、構造そのものが別物なわけではない——中膜が厚ければ動脈、薄ければ静脈、そもそも中膜がなければ毛細血管、という「量の違いが質の違いに見える」典型例として血管系全体を捉える。
血管壁の3層構造
すべての血管の壁は、内側から外側へ向かって3つの同心層からなる。
⚠️ 3層がそろうのは動脈と静脈だけで、交換血管は例外。 毛細血管の壁は内皮+基底膜(+基底膜の中に埋まる周皮細胞 pericyte周皮細胞(pericyte) pericyte(周皮細胞))だけからなり、中膜も外膜ももたない。後毛細血管細静脈postcapillary venule 後毛細血管細静脈(postcapillary venule)postcapillary venule(後毛細血管細静脈) も中膜をもたないが、ここは白血球が血管外 extravascular 血管外(extravascular) extravascular(血管外) へ出る主要な場所である1。周皮細胞pericyte 周皮細胞(pericyte)pericyte(周皮細胞) は中膜の平滑筋の代わりに壁を支えるだけでなく、内皮のバリア性そのものを規定する——周皮細胞 pericyte 周皮細胞(pericyte) pericyte(周皮細胞) を欠く成体マウスでは内皮のトランスサイトーシス transcytosis トランスサイトーシス(transcytosis) transcytosis(トランスサイトーシス) が亢進して血液脳関門が破綻する2。冒頭の「中膜がなければ毛細血管」という言い方は、厳密には「中膜も外膜もない」という意味であり、3層は動脈・静脈についての一般則として押さえる。
flowchart TD
A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tunica intima'>内膜</span>:内皮+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subendothelial'>内皮下</span>層+(動脈のみ)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal elastic lamina'>内弾性板</span>"]
A --> B["中膜:弾性線維+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='smooth muscle cells'>平滑筋細胞</span>"]
B --> C["外膜:結合組織"]
| 層 | 構成成分 | 備考 |
|---|---|---|
| 内膜tunica intima内膜(tunica intima)tunica intima(内膜) | 内皮(単層扁平上皮simple squamous単層扁平上皮(simple squamous)simple squamous(単層扁平上皮))、内皮下subendothelial 内皮下(subendothelial)subendothelial(内皮下) 層、内弾性板internal elastic lamina内弾性板(internal elastic lamina)internal elastic lamina(内弾性板) | 内弾性板internal elastic lamina 内弾性板(internal elastic lamina)internal elastic lamina(内弾性板) は動脈のみに存在し静脈にはない |
| 中膜 | 弾性線維+平滑筋細胞 smooth muscle cells 平滑筋細胞(smooth muscle cells) smooth muscle cells(平滑筋細胞) (04-3-smooth-muscle) | 弾性線維が優勢なら弾性血管、平滑筋が優勢なら筋性血管(06-2-arteries) |
| 外膜 | 結合組織(コラーゲン線維collagen fibersコラーゲン線維(collagen fibers)collagen fibers(コラーゲン線維)) | 大動脈など太い血管では外膜自身を養う栄養血管vasa vasorum栄養血管(vasa vasorum)vasa vasorum(栄養血管)が存在する |
⭐ 外膜は動脈系で薄く、静脈系で厚い——動脈は中膜(弾性線維・平滑筋)が壁の強度を担うのに対し、静脈は中膜が薄いぶん外膜の結合組織が壁を補強する役割を担う、という血管系全体を貫く原則。
内皮の役割
内膜を構成する内皮は単層扁平上皮 simple squamous 単層扁平上皮(simple squamous) simple squamous(単層扁平上皮) (02-1-classification)の一種で、全身の血管の内腔を連続して覆う。単なる「裏張り」ではなく、血液凝固の制御、白血球の血管外遊走 diapedesis 血管外遊走(diapedesis) diapedesis(血管外遊走) の足場 scaffold足場(scaffold) scaffold(足場)、血管透過性vascular permeability 血管透過性(vascular permeability)vascular permeability(血管透過性) の調節、血管トーヌスvascular tone 血管トーヌス(vascular tone)vascular tone(血管トーヌス) の調節(一酸化窒素nitric oxide, NO 一酸化窒素(nitric oxide, NO)nitric oxide, NO(一酸化窒素) などの分泌)といった能動的な機能をもつ3。
💡 「動脈・静脈・毛細血管はそれぞれ全く別の構造をもつ」と誤解しがちだが、実際には同じ3層のテンプレート template (needle guide grid) テンプレート(template (needle guide grid)) template (needle guide grid)(テンプレート) を、血行動態的な要求(高圧に耐える・逆流を防ぐ・物質交換exchange of substances 物質交換(exchange of substances)exchange of substances(物質交換) を行う)に応じて厚みと組成を変えているだけ——この視点をもつと、06-2-arteries・06-3-capillaries-sinusoids・06-4-veinsの各論もこの一般構造からの「変形」として素直に理解できる。
まとめ
- 動脈と静脈の壁は内膜・中膜・外膜の3層構造を共通してもつ(毛細血管は内皮+基底膜のみで中膜・外膜を欠く)。
- 内弾性板internal elastic lamina 内弾性板(internal elastic lamina)internal elastic lamina(内弾性板) は動脈にのみ存在し、静脈にはない。
- 中膜の弾性線維・平滑筋の配分比が弾性血管・筋性血管を分ける。
- 外膜は動脈で薄く静脈で厚く、太い血管の外膜には栄養血管 vasa vasorum 栄養血管(vasa vasorum) vasa vasorum(栄養血管) が存在する。
- 動脈・静脈・毛細血管の違いは、共通の3層構造の厚み・組成配分の違いとして理解できる。
出典
- 1.Evolving functions of endothelial cells in inflammation(Nature Reviews Immunology・2007)白血球の血管外遊走は内皮が接着分子(E-セレクチン、ICAM-1、VCAM-1)とケモカインを提示することで成立する内皮主導の過程であり、部位は主に後毛細血管細静脈である閲覧 2026-08-26
- 2.Pericytes regulate the blood-brain barrier(Nature・2010)周皮細胞を欠く成体マウスでは血液脳関門の透過性が水・低分子・高分子トレーサーのいずれに対しても上昇し、その経路は内皮のトランスサイトーシス亢進である。周皮細胞は内皮の血液脳関門特異的遺伝子発現の制御と、アストロサイト足突起の極性化の誘導という2つの経路でバリアを成立させる閲覧 2026-08-24
- 3.Vascular Endothelial Cell Biology: An Update(International Journal of Molecular Sciences・2019)内皮は単なる血管内腔の裏張りではなく、血管トーヌス(一酸化窒素・プロスタサイクリン・エンドセリン)、止血・凝固(トロンボモジュリン、組織因子経路インヒビター、von Willebrand因子)、血管透過性、白血球接着・遊走を能動的に制御する器官として扱われる閲覧 2026-08-26