組織学

組織学 · 7.2

免疫・リンパ系:胸腺

Lymphoid & immune system — Thymus

🧠 胸腺は「T細胞の学校」と覚える——をもたない唯一のリンパ性器官という一点だけでも他のリンパ性器官と区別できる。皮質は「入学したての未熟な生徒(未熟)が密集する教室」、髄質は「教育を終え卒業間近の生徒がまばらになった講堂」というイメージで、皮質・髄質の細胞密度の違いを直感的に押さえる。

胸腺の基本構造:濾胞を欠く唯一のリンパ性器官

胸腺は(07-1-cells-general)で、T細胞()の分化・成熟(選択)の場である。

⭐ 他のリンパ性器官(リンパ節・脾臓・MALT)がすべてをもつのに対し、胸腺だけはをもたない——これは胸腺がB細胞の増殖の場ではなく、専らT細胞の分化に特化した器官だから。この一点は鑑別表(07-5-malt-tonsilsの一覧表参照)で頻出。

皮質と髄質

flowchart TD
  A["胸腺小葉"]
  A --> B["皮質:未熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymocyte'>胸腺細胞</span>が密集、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperchromasia; strong (contrast) enhancement'>濃染</span>"]
  B --> C["髄質:成熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymocyte'>胸腺細胞</span>がまばら、淡染"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hassall corpuscles'>ハッサル小体</span>:髄質に特徴的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentric'>同心円状</span>構造"]
領域 細胞密度 主な内容
皮質 高い() 増殖中の未熟な(, thymocytes)が密集し、(自己MHCを適度に認識できる細胞だけを生き残らせる)を受ける
髄質 低い(淡染) を通過した細胞が移動してきて(自己反応性クローンの除去)を受ける、が特徴的に存在

⚠️ は皮質、は主に髄質で起こる。 「選択は皮質でまとめて起こる」と覚えてしまうと髄質の存在意義が説明できなくなる——髄質の上皮細胞は転写因子 AIRE によって、・網膜など本来そこにない末梢組織の抗原(組織限局抗原)を異所性に発現し、それに強く反応するをその場で除去する。AIRE 欠損マウスでは髄質上皮細胞における末梢抗原の異所性転写が特異的に低下し、多臓器の自己免疫を発症した(ヒトでも AIRE の機能欠損型変異は多臓器自己免疫を起こす)1。

ハッサル小体と上皮性細網細胞

  • :胸腺に特有の支持細胞で、他のリンパ性器官の(03-1-cells、由来)とは異なり上皮由来。突起を伸ばして状の骨組みを作り、皮質と髄質の微小環境を区画する
  • :髄質にみられるがに配列し変性・角化した構造。発見から150年以上「アポトーシスしたの処理場」「した遺物」など諸説あって機能不明だったが、ヒトのが TSLP()を発現し、これが胸腺の CD11c 陽性に CD80・CD86 を高発現させ、そのが CD4⁺CD25⁻ の胸腺T細胞を CD4⁺CD25⁺FOXP3⁺ の性T細胞へ分化・増殖させることが示された2

💡 胸腺の支持細胞()が上皮由来であるのに対し、リンパ節・脾臓のは(線維芽細胞系統)由来——同じ「」という名前でも由来がまったく異なる、という点は混同しやすいので明確に区別しておく。

血液胸腺関門

胸腺皮質の毛細血管周囲はとにより血液胸腺関門を形成し、未熟なT細胞が分化の途中で無秩序な抗原に曝露されるのを防ぐ——選択過程が制御された環境で進むことを保証する構造。

💡 胸腺のは思春期に始まるのではなく、生後1年目から連続して進む。 生後1か月〜107歳の204例のでは、胸腺という臓器そのものの大きさは生涯ほとんど変わらない(中央値 19.5 cm³。個体ごとの最大値は生後1年以内に到達する)。加齢で起きているのは、リンパ球に富むと結合組織が脂肪組織に置き換わることであり、これは15歳以降に顕著になる。一方、T細胞の産生と選択の場である上皮性の区画(皮質・髄質)は生後1年目から生涯にわたって負の対数関数的に縮小し続け、その速度は思春期の内分泌環境の変化では変わらない3。組織像で「胸腺が脂肪に置き換わっている」ことと「T細胞産生能が落ちている」ことは、別々の区画で起きている別々の現象として区別する。

まとめ

  • 胸腺はで、をもたない唯一のリンパ性器官という点で他と区別される。
  • 皮質は未熟が密集し、髄質は成熟T細胞がまばらで淡染、は髄質に特徴的。
  • 胸腺の支持細胞()は上皮由来で、他のリンパ性器官の由来のとは起源が異なる。
  • は皮質、は主に髄質で起こり、髄質上皮細胞は AIRE 依存的に組織限局抗原をして自己反応性クローンを除去する。
  • は TSLP を介してを、性T細胞の分化を誘導する。
  • 加齢性退縮は上皮性区画の縮小として生後1年目から進み、臓器サイズはによって見かけ上保たれる。
  • 血液胸腺関門は未熟T細胞を無秩序な抗原曝露から守る。

出典

  1. 1.Projection of an immunological self shadow within the thymus by the aire protein(Science・2002)転写因子AIREは胸腺髄質上皮細胞で末梢組織限局抗原を異所性に発現させる。AIRE欠損マウスは髄質上皮細胞での末梢抗原の異所性転写が特異的に低下し、多臓器の自己免疫疾患を発症する。ヒトでもAIREの機能欠損型変異は多臓器自己免疫を起こす閲覧 2026-08-24
  2. 2.Hassall's corpuscles instruct dendritic cells to induce CD4+CD25+ regulatory T cells in human thymus(Nature・2005)ヒトのハッサル小体はTSLPを発現し、TSLPで条件づけられた胸腺CD11c陽性樹状細胞がCD80・CD86を高発現してCD4+CD25−胸腺細胞をCD4+CD25+FOXP3+の制御性T細胞へ分化・増殖させる。150年以上機能が不明だったハッサル小体の役割を示した閲覧 2026-08-24
  3. 3.The involution of the ageing human thymic epithelium is independent of puberty. A morphometric study(Scandinavian Journal of Immunology・1985)生後1か月〜107歳の204例の形態計測。胸腺そのものの大きさは加齢で変わらず(中央値19.5 cm3、個体最大値は生後1年以内)、脂肪組織はリンパ球に富む血管周囲腔と結合組織のみを15歳以降に置換する。上皮性区画(皮質・髄質)の容積は生後1年目から生涯にわたり負の対数関数的に縮小し、その速度は思春期の内分泌変化に影響されない閲覧 2026-08-24