組織学

組織学 · 7.1

免疫・リンパ系:細胞と概要

Lymphoid & immune system — Cells & general

応用トピック
リンパ増殖性疾患の症候学

🧠 は「→即応部隊(自然免疫)→学習する部隊(獲得免疫)」という3段階の防衛ライン、とで覚える。 が突破されて初めて自然免疫が動き、それでも足りなければ獲得免疫が数日かけて特異的な応答を立ち上げる——「速いが大雑把」な自然免疫と「遅いが正確で記憶する」獲得免疫の対比が、リンパ系全体を理解する軸になる。

生体防御の3段階

flowchart TD
  A["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='protective surface mechanisms'>表面バリア</span>:皮膚・粘膜"]
  A --> B["② 自然免疫:即時的・非特異的"]
  B --> C["③ 獲得免疫:特異的・記憶を形成"]
段階 主な担い手 特徴
皮膚の(08-1-epidermis)、粘膜の・、気道粘液・(11-1-conducting-portion) 病原体の侵入そのものを物理的・化学的に防ぐ第一線
自然免疫 好中球・好酸球・(03-7-blood)、マクロファージ、肥満細胞(03-1-cells)、、NK細胞などの 感染への迅速な反応、炎症を惹起する。特異性は低いが即応性が高い
獲得免疫 リンパ球(T細胞・B細胞) 2回目以降の遭遇でより強く速い反応()。特異性が高いが成立に時間を要する

💡 自然免疫の担い手に「(ILC)」という枠組みが加わっている。 ILCはT細胞・B細胞のような多様化したをもたないリンパ球で、大部分が組織に定住している1。サブセットごとに名称が乱立していたため、2013年に産生しうるサイトカインと発生を規定する転写因子に基づいてILC1・ILC2・ILC3の3群に分類する統一が提案された2。NK細胞もこのファミリーの細胞傷害性の系列として、ILC1・ILC2・ILC3と並べて扱われる3。「リンパ球=獲得免疫」ではない——形態はリンパ球でもをもたず即座に働く細胞群がある、という点が、リンパ球をまるごと獲得免疫に割り当てる古い整理との違い。覚え方としては、ILC1・ILC2・ILC3が出すサイトカインがそれぞれTh1・Th2・Th17のものに対応する「T細胞の自然免疫版」と対応づける。

💡 が突破されて初めて自然免疫・獲得免疫が動員される、という順序を理解しておくと、「切り傷から感染が広がる」というな現象が、実は生体防御の第一線(皮膚バリア)の破綻から始まっていることが分かる。

獲得免疫の2つの応答様式

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocyte progenitor'>リンパ球前駆細胞</span>"]
  A --> B["B細胞(B-lymphocyte, CD20):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='humoral response'>液性免疫</span>"]
  A --> C["T細胞(T-lymphocyte, CD3):細胞性免疫"]
  B --> D["形質細胞へ分化し抗体を産生"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>(cytotoxic T cell)"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='helper T cell'>ヘルパーT細胞</span>(helper T cell)"]

T細胞の活性化には、マクロファージ・などのの働きが必須であり、獲得免疫は自然免疫の制御を受けて始動する——両者は独立した2系統ではなく、連携するシステムである。

💡 「」は1種類の細胞ではなく、由来で整理し直されている。 単球・・マクロファージは長らく機能と表面形質で分けられてきたが、これらの性質は重なり合って区別が難しいため、2014年にまず由来(ontogeny)で分類し、次いで局在・機能・表現型で分けるという統一が提案された4。2017年にはヒト末梢血の約2,400細胞の1細胞-seqから6種・単球4種のが同定され、(pDC)の定義の見直し、CD1c陽性のさらなる細分、conventional DCの循環前駆細胞の存在が示されている5。を「マクロファージと」の2語で済ませず、由来の異なる複数集団の総称と捉える。

一次リンパ性器官と二次リンパ性器官

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary lymphoid organs'>一次リンパ性器官</span>:リンパ球の産生・成熟"]
  A --> A1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymus'>胸腺</span>"]
  A --> A2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow'>骨髄</span>"]
  B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary lymphoid organs'>二次リンパ性器官</span>:リンパ球の活性化・増殖"]
  B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymph node'>リンパ節</span>"]
  B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spleen'>脾臓</span>"]
  B --> B3["MALT・扁桃・虫垂"]

⭐ 「リンパ球が生まれる場所(一次)」と「リンパ球が働く場所(二次)」を分けて覚えるのが最も整理しやすい——胸腺・骨髄でリンパ球は分化・成熟し、その後リンパ節・脾臓・MALTといったへ移動して抗原に遭遇し、実際の免疫応答(活性化・増殖)を起こす。

消化管・呼吸器・泌尿生殖器の粘膜にびまん性に分布するの集まりはと呼ばれ、その中で増殖するB細胞は小型のを形成する(07-5-malt-tonsils)。

なぜワクチンが効くのか:免疫記憶という仕組み

一度目の感染では、体はまだその病原体を知らないため、十分な量の抗体や攻撃力の高い細胞が揃うまでに数日を要し、その間に症状が進んでしまう。しかし同じ病原体に二度目に出会うと、初回の反応で作られた一部の細胞が長く体内に残り続けており、これらがすぐさま大量に増えて即座に強い反応を立ち上げる。この「一度覚えたら忘れない」という性質こそがであり、ワクチン接種はこの仕組みを逆手に取って、病原体そのものに感染することなく、あらかじめ体に「覚えさせておく」ための手段だと理解できる。

まとめ

  • 生体防御は・自然免疫・獲得免疫の3段階からなり、速さと特異性のがある。
  • 獲得免疫はB細胞による(抗体産生)とT細胞による細胞性免疫に分かれ、の働きに依存する。
  • 自然免疫側にも(ILC)というリンパ球集団があり、サイトカインと転写因子でILC1・ILC2・ILC3に分類される。NK細胞もその一員である。
  • ・単球・マクロファージはを第一の軸として分類し直されており、は複数のの総称である。
  • (胸腺・骨髄)はリンパ球の産生・成熟の場、(リンパ節・脾臓・MALT)は活性化・増殖の場という役割分担がある。
  • により二度目以降の感染はより速く強く排除され、ワクチンはこの仕組みをあらかじめ利用する手段である。

出典

  1. 1.Innate Lymphoid Cells: 10 Years On(Cell・2018)ILCはT細胞・B細胞が発現するような多様化した抗原受容体をもたないリンパ球で、大部分が組織定住性である。粘膜での常在細菌・病原体への応答、獲得免疫の増強、組織炎症の制御に加え、代謝恒常性・組織リモデリング・神経系との対話にも関わり、可塑性の知見を受けて分類が再整理された閲覧 2026-08-24
  2. 2.Innate lymphoid cells--a proposal for uniform nomenclature(Nature Reviews Immunology・2013)自然リンパ球(ILC)は発生上関連する細胞群で、免疫と組織の発生・再構築に関わる。新たに同定された各サブセットに多様な名称が使われて混乱していたため、産生しうるサイトカインと発生・機能を規定する転写因子に基づいて3群に分類する統一命名法が2013年に提案された閲覧 2026-08-24
  3. 3.Natural killer cells and other innate lymphoid cells in cancer(Nature Reviews Immunology・2018)NK細胞は自然リンパ球の一員(細胞傷害性の系列)として扱われ、ILC1・ILC2・ILC3のサブセットと並べて論じられる。NK細胞は多様な腫瘍細胞に細胞傷害活性を示し、がん免疫療法の標的として研究が進んでいる閲覧 2026-08-24
  4. 4.Dendritic cells, monocytes and macrophages: a unified nomenclature based on ontogeny(Nature Reviews Immunology・2014)単核食細胞系は従来、機能と表現型で単球・樹状細胞・マクロファージに分けられてきたが、これらの性質は重なり合うため分類が難しい。まず由来(ontogeny)で分類し、次いで局在・機能・表現型で分けるという統一命名法が2014年に提案された閲覧 2026-08-24
  5. 5.Single-cell RNA-seq reveals new types of human blood dendritic cells, monocytes, and progenitors(Science・2017)ヒト末梢血の約2,400細胞の1細胞RNA-seqにより樹状細胞6種・単球4種のサブタイプが同定された。形質細胞様樹状細胞の性質をもちながらT細胞を強く活性化する新しいサブセットが見つかりpDCの定義が見直され、CD1C陽性樹状細胞のさらなる細分と、conventional DCの循環前駆細胞の存在が示された閲覧 2026-08-24