組織学

組織学 · 11.1

呼吸器:気道部

Respiratory system — Conducting portion

応用トピック
気管支誘発試験と薬理学的スパイロメトリー咳嗽気管支鏡検査吸入薬物療法気管支喘息

🧠 気道は末梢へ向かうにつれ「軟骨が消え、腺が消え、平滑筋がまとまってから消える、上皮が薄くなる」という4つの変化が同時並行で進む、と1本の物差しで覚える。 からに至るこの変化はすべて「呼吸部(肺胞)に近づくほど、ガス交換の邪魔になる構造を削ぎ落とす」という1つの原則で説明できる。

気道の区分:肺外と肺内

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrapulmonary'>肺外部分</span>"]
  A --> A1["鼻腔"]
  A --> A2["喉頭"]
  A --> A3["気管"]
  B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrapulmonary'>肺内部分</span>"]
  B --> B1["気管支:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='main bronchus'>主気管支</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lobar bronchus'>葉気管支</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental bronchus'>区域気管支</span>"]
  B1 --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchiole'>細気管支</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal bronchiole'>終末細気管支</span>まで"]
  B2 --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory portion'>呼吸部</span>"]

呼吸上皮を構成する細胞

気道の大部分を裏打ちする(02-1-classification)は、異常に厚い基底膜の上に複数種の細胞が並ぶ。

細胞 特徴
最多、頂端に250〜300本の線毛(02-2-apical-specializations)をもち粘液を咽頭側へ輸送
に核、頂端に顆粒を含み粘液を分泌
に関わるとされる
、を分泌
幹細胞・前駆細胞、他の上皮細胞へ分化する
クラブ細胞 で優勢になる非線毛の。分泌タンパク質(CC16)を出し、上皮の再生源にもなる
肺イオン細胞 2018年の単一細胞解析で同定された稀な細胞。FOXI1と液胞型H⁺-ATPaseを発現し、のCFTR転写産物の主要な供給源である12

⚠️ クラブ細胞は「Clara細胞」と呼ばれていた。 1937年にこの細胞を記載したMax Clara(1899-1966)が活動的なナチ党員で、原記載のもとになった気管支組織がドレスデンで処刑された囚人から採られていたことが2010年の史料調査で明らかにされ、eponymとしての使用が問題視された3。以後は人名を含まない club cell(クラブ細胞)が標準の呼称になっている——古い教科書・論文では Clara cell と書かれているので、同じ細胞だと分かるようにしておく。

💡 上皮の細胞種の一覧は単一細胞解析で書き換えられた。 ・・・・という古典的な5分類は光顕・による形態分類だが、2018年にヒト気管支上皮とマウス気管上皮の単一細胞解析が同時に発表され、稀な細胞型として肺イオン細胞が新たに同定された12。全上皮細胞のごく一部でありながらCFTR転写産物の主要な供給源であり、嚢胞性線維症の病態を上皮の細胞地図の上で捉え直す起点になった。古典的な形態分類が誤りになったわけではなく、その下に階層と稀少細胞が足された、と理解する。

💡 とが協調してを構成する——が分泌する粘液が異物・塵埃を捕捉し、の協調した拍動がその粘液を咽頭側へ運び出す、という「捕まえる()」「運ぶ()」の役割分担で理解する。除去の実行力は線毛の機械的運動だけでなく咳にも担われており、液体分泌の障害・・咳の欠如・上皮の破綻のいずれか一つでもクリアランスは破綻する4。

気管支樹での構造変化:軟骨をもつ気道

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='main bronchus'>主気管支</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lobar bronchus'>葉気管支</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental bronchus'>区域気管支</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal bronchus'>終末気管支</span>:軟骨をもつ最後の区分"]

気管支樹での構造変化:軟骨をもたない気道

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchiole'>細気管支</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal bronchiole'>終末細気管支</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory bronchiole'>呼吸細気管支</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar duct'>肺胞道</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveoli'>肺胞</span>"]

末梢へ向かうにつれ生じる4つの変化

変化 内容
軟骨 気管支では板状〜不規則な(03-5-cartilage)が支持するが、に入ると徐々に消失する
腺 (漿混合腺)は徐々に減少し消失する
平滑筋 気管支ではに散在するが、では連続した層として発達し、さらに末梢では再び薄くなる
上皮の高さ 円柱→円柱→立方へと徐々に低くなる

⭐ 「軟骨と腺は末梢に向かってに減少する」のに対し、「平滑筋はでむしろ連続した層として最も発達し、その後減少する」という平滑筋だけ異なる変化パターンを示す点は頻出の引っかけ——のが主にレベルで問題になるのは、この平滑筋の発達がこの部位で最大になることと関連づけて理解できる。

慢性的な刺激による杯細胞の増生

長期にわたる喫煙やなどの慢性刺激にさらされ続けると、ではの数が異常に増え、粘液の産生が過剰になることがある。このとき同時にの機能が低下しやすく、増えすぎた粘液を運び出す力が追いつかなくなる。その結果、粘液が末梢の気道にたまりやすくなり、慢性の咳や痰、さらには繰り返す感染の温床となる。もともと異物を捕まえて排出するための仕組みが、刺激の量に見合わない形で働き続けることで、かえって呼吸を妨げる要因に変わってしまうというが、この分野の臨床的な理解の核になる。

まとめ

  • 気道は(鼻腔・喉頭・気管)と(気管支・)に分かれ、(・・など)が主体をなす。ではクラブ細胞(旧Clara細胞)が優勢になり、2018年の単一細胞解析で稀な肺イオン細胞が加わった。
  • とはとして協調し異物を排出する。
  • 末梢へ向かうにつれ軟骨・腺はに減少するが、平滑筋はで最も発達したのち減少するという異なる変化パターンを示す。
  • な刺激はの増生と線毛機能の低下を招き、粘液の停滞・慢性炎症の温床となりうる。

出典

  1. 1.A revised airway epithelial hierarchy includes CFTR-expressing ionocytes(Nature・2018)マウス気管上皮の単一細胞RNA解析と生体内系譜追跡により、稀な細胞型Foxi1陽性「肺イオン細胞」、クラブ細胞の局在に応じた機能的多様性、扁平上皮構造hillock、および刷子(tuft)細胞・杯細胞の亜集団が同定された。イオン細胞はマウスCftr・ヒトCFTR転写産物の主要な供給源であり、刷子細胞・神経内分泌細胞・イオン細胞はいずれも基底前駆細胞から直接補充される閲覧 2026-08-24
  2. 2.A single-cell atlas of the airway epithelium reveals the CFTR-rich pulmonary ionocyte(Nature・2018)ヒト気管支上皮とマウス気管上皮の単一細胞プロファイリングにより、FOXI1・液胞型H⁺-ATPaseの複数サブユニット・CFTRを共発現する稀な新規細胞型「肺イオン細胞」が同定された。Notchシグナルが必要、FOXI1発現が十分であり、イオン細胞が導管部上皮のCFTR活性の主要な供給源である閲覧 2026-08-24
  3. 3.The Clara cell: a "Third Reich eponym"?(European Respiratory Journal・2010)史料調査により、細気管支上皮の当該細胞を1937年に記載したMax Clara(1899-1966)はナチ党の活動的な党員であり、ライプツィヒでの気管支上皮の原記載を含む組織学研究の多くが近隣ドレスデンで処刑された囚人の組織に基づいていたことが示された。この経緯からeponym「Clara cell」の使用が問題視された閲覧 2026-08-24
  4. 4.Airway Epithelial Differentiation and Mucociliary Clearance(Annals of the American Thoracic Society・2018)粘液線毛クリアランスは導管部気道上皮と粘膜下腺の多様な細胞が液体・電解質・抗菌/抗炎症タンパク質・粘液を気道表面へ分泌して成立し、粒子・病原体は線毛の機械的運動と咳の双方によって除去される。液体分泌障害・線毛機能不全・咳の欠如・上皮の破綻はいずれもクリアランス障害となり、慢性肺疾患の病態に寄与する閲覧 2026-08-24