呼吸器学

呼吸器学 · 05

気管支誘発試験と薬理学的スパイロメトリー

Bronchial provocation testing and pharmacospirometry

前提:正常
呼吸器:気道部(気道上皮・平滑筋)肺気量・死腔・肺胞換気
症状
気管支攣縮
検査値
スパイロメトリーメサコリン誘発試験

ポッドキャスト

🧠 全体像:は「収縮しやすさ」を、は「拡張しうる変化」を調べる。どちらも喘息を支持するが、陽性だけで喘息確定、陰性だけで完全否定とはならない。

メサコリン誘発試験

適応

喘息が疑われるが通常のが正常または診断的でない場合に、を評価する。

禁忌は「検査の質を損なうもの」と「患者に危険や苦痛を与えうるもの」に分かれる。事前の票で拾い、検査を依頼したか検査室の責任と相談してから進める。1

  • 低い基礎はである。 重症のをもつ喘息患者でも重篤な有害事象の危険は小さいため、としない。吸入前のが成人で予測値の60%未満または1.5 L未満なら、段階的な誘発試験を行わないのが妥当とされる(運動負荷のように単回の強い刺激を用いる検査では75%未満)。同じ%予測値を小児の目安にも使える。
  • 循環器:コントロール不良の高血圧(収縮期200 mmHg超、拡張期100 mmHg超)、3か月以内の心筋梗塞・脳卒中、既知の。が心血管イベントを誘発しうるほか、換気血流不均等による低酸素血症も生じる。
  • 最近の眼科手術、および強制呼出によるが有害となる病態。
  • 再現性のあるができない場合。質の高い誘発試験は、受け入れ可能な手技ができることに依存する。
  • に固有の:妊娠・授乳中(生殖毒性試験が行われておらず、吸入が母乳へ移行するかも不明)、の使用中(重症筋無力症など)。

💡 低いは、安全面よりも解釈面で問題を起こすことのほうが多い。 基礎の気道径が小さいこと自体が反応を過大に見せうるためである。1

手順と判定

  1. 基礎を測定する。
  2. 対照後、を段階的に吸入する。
  3. 各段階でを測り、基礎値から20%低下させる()を求める。装置とプロトコルを厳密に規定できる場合は()も使えるが、装置間で比較しやすいがの推奨指標である。1
  4. 終了後に吸入(short-acting beta₂ agonist: )を投与する。肺機能が基礎値の10%以内に戻るまで帰宅させない。 無投薬でも通常45〜60分で自然に回復するが、実際にはで誘発されたを解除する。1

⚠️ までのを要する手順は推奨されない。 深吸気そのものに気管支を広げる作用があり、検査の感度を下げるためである。吸入は1分以上のか、適切な呼吸回数を設定した定量吸入装置で行う。1

💡 (希釈液)でが20%を超えて低下したら、は報告しない。 「希釈液の吸入後に有意な肺機能低下がみられたため、は投与しなかった」と記載する。1

PD20・PC20の基準値

はを対照値から20%低下させる送達用量、は同じ低下を生じる吸入液濃度である。装置が肺へ送る量は吸入器と手順で変わるため、2017年基準は装置間で比較しやすいを優先する。1

の区分
2 µmol超(400 µg超) 16 mg/mL超 正常
0.5〜2.0 µmol(100〜400 µg) 4〜16 mg/mL 境界域
0.13〜0.5 µmol(25〜100 µg) 1〜4 mg/mL 軽度
0.03〜0.13 µmol(6〜25 µg) 0.25〜1 mg/mL 中等度
0.03 µmol未満(6 µg未満) 0.25 mg/mL未満 高度

PD20の読み方

下図は、が少ない段階で20%低下へ達するほどが強い、という読み方を示す模式図である。曲線は順に「過敏性が強い例」「過敏性が弱い例」「20%低下の判定線」を表し、数値は患者の実測データではない。実際のは、20%低下を挟む2点から採用プロトコルに従って補間する。

xychart-beta
    title "メサコリン累積用量とFEV₁低下(模式図)"
    x-axis "累積送達用量(µg、対数間隔)" [0, 6, 12, 25, 50, 100, 200, 400]
    y-axis "基礎値からのFEV₁低下(%)" 0 --> 50
    line "過敏性が強い例" [0, 4, 9, 20, 32, 40, 45, 48]
    line "過敏性が弱い例" [0, 1, 2, 4, 7, 11, 16, 20]
    line "20%低下の判定線" [20, 20, 20, 20, 20, 20, 20, 20]

最高用量でもが20%低下しなければ、は最高用量を超える値として報告し、範囲外へ外挿しない。 2026でも、成人・青年と小児のいずれについても、標準用量のによりが基礎値から20%以上低下することを、を支持する基準としている。2

⚠️ 誘発試験でが下がったら、/も下がっているかを確かめる。 や努力不足で吸気が不完全になると、気道が狭まっていなくてもが見かけ上低下するためである。2

20%低下はを示すが、、COPD、気道感染後などでも陽性となる。適切な下で症状が現在または直近にある時期の陰性結果は活動性喘息の可能性を大きく下げるが、症状のない時期、拮抗薬の不足、間接刺激だけに反応する運動選手などでは偽陰性がありうる。などは標準化した指示に従い、喫煙は1時間、飲酒は4時間避ける。通常量のには臨床的に有意な影響は認められていない。1 ⚠️ 重篤なに備え、重症のを治療する薬を検査室に常備する。2017年技術標準が挙げるのは、皮下注用のアドレナリンと、(バルブ付き併用)・・用のである。酸素は使える状態にしておき、器・血圧計・ーも用意する。誘発されたを解除する通常の手段はであり、アドレナリンは重症例に備える薬という位置づけである。蘇生器具の扱いを含め急性のに対応できる者が近くにいること、検査開始後は患者を1人にしないことも求められる。1

気管支拡張薬反応試験

手順

  1. 投薬前の・を品質基準に沿って測定する。
  2. などを+またはで投与する。
  3. では通常10〜15分後(ではより長く待つ)に再測定する。
  4. との変化を、検査目的に応じた基準で評価する。

気管支拡張薬反応の基準値

「有意な反応」の基準は、一般的なの解釈か、喘息診断かで異なる。

基準 陽性とする変化 主な用途
ERS/ATS 2022 FEV₁またはFVCが予測値の10%を超えて増加 一般的なの反応判定
2026・成人および青年 またはが投与前値から12%以上かつ200 mL以上増加。15%以上かつ400 mL以上ならより確信をもてる 喘息におけるの証明
2026・小児(6〜11歳) が投与前値から予測値の12%以上増加(ピークフローなら15%以上) 小児喘息におけるの証明

/方式の計算は次のとおりで、分母は投与前値ではなく予測値である。3

変化率=後−前予測値×100変化率=\frac{後-前}{予測値}\times100

⭐ この2つは新旧の関係ではない。目的が違うため、2026年の時点でも併存している。

  • ERS/ATS 2022は、変化を投与前値に対して表す方法(絶対変化、および投与前値に対する相対変化)をもう推奨しないと述べた。2005年基準の「200 mL超かつおよび/またはが12%以上増加」はその2つの組合せであり、投与前の肺機能の大きさに反比例して歪み、身長・年齢・性の影響も受けることが理由である。代わりに、の反応の95がで10.1〜11.6%予測値、で9.6〜10.2%予測値だったことを根拠に、予測値に対する変化率10%超を境界に置いた。3
  • GINA 2026はこの2022年基準を検討したうえで、喘息診断には従来の「12%以上かつ200 mL以上」を維持すると明記した。理由として、2022年基準が喘息の診断能ではなく生存データに基づくこと、/の作業部会自身が臨床の診断判断への使い方について推奨を控えていること、旧基準では陽性だが2022年基準では陰性になる診断喘息の患者に高い呼吸器症状の負荷が認められたことを挙げている。2

実際、/ 2022は「投与後の急性の変化をどう解釈するかを扱うのであって、反応を診断や臨床判断にどう使うかは扱わない」と自ら断っている。3

⚠️ 同じ患者が、報告書がどちらの基準で計算しているかによって「反応あり」にも「反応なし」にもなる。 2022年基準を実装済みのソフトも既にある。2 どちらの基準で判定したかを結果に明記する。陽性だけで喘息を確定せず、陰性だけで除外しない。

💡 予測値の10%は、投与前後で10%変化することとは別物である。 / 2022はこの点を明示し、あわせて厳密なに頼りすぎないよう注意している(正常範囲の境界と同じ限界をもつため)。3

なお、はの表では成人・青年について「または」と書き、同じ報告書の解説本文では「」とだけ書いている。2

両検査の比較

問い 気道は収縮しやすいか 既存の狭窄が可逆的か
主な対象 喘息疑いだが通常検査が非診断的 がある患者
陽性指標 20%低下を生じる(装置・手順を規定した場合は) / 2022:予測値の10%超。 2026の成人・青年:投与前値から12%以上かつ200 mL以上
注意 偽陽性、誘発性 陰性でも喘息を否定しない
flowchart TD
  A["喘息を疑う症状"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span>"]
  B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airflow limitation (airflow obstruction)'>気流閉塞</span>あり?"}
  C -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchodilator response test'>気管支拡張薬反応試験</span>"]
  D --> E{"有意な改善?"}
  E -->|"あり"| F["可変性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airflow limitation'>気流制限</span>を支持"]
  E -->|"なし"| G["喘息以外・固定性閉塞・検査時期を再評価"]
  C -->|"なし/非診断的"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methacholine challenge test'>メサコリン誘発試験</span>を検討"]
  H --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced expiratory volume in one second'>FEV₁</span>が20%低下?"}
  I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway hyperresponsiveness'>気道過敏性</span>を支持"]
  I -->|"いいえ"| K["活動性喘息の可能性は低下"]

まとめ

  • 誘発試験は、拡張薬反応試験は可逆性を評価する。
  • では 400 µg超を正常、100〜400 µgを境界域とし、用量が少ないほどが強い。
  • 後はで回復させ、肺機能が基礎値の10%以内に戻るまで帰宅させない。検査室には皮下注用アドレナリンと、酸素を備える。
  • 反応は、一般的な肺機能解釈では予測値の10%超、成人・青年の喘息診断では投与前値から12%以上かつ200 mL以上で、基準の目的と分母が異なる。/ 2022は投与前値を分母にする方法をもう推奨しないとし、 2026は喘息診断について従来基準を維持すると明記している。どちらで判定したかを書く。
  • 検査結果を症状の変動、ピークフロー、炎症所見、治療反応と統合する。

出典

  1. 1.ERS technical standard on bronchial challenge testing: general considerations and performance of methacholine challenge tests(European Respiratory Society・2017)出版社サイトが403のため、同一論文の保存版HTML全文(本文のみ。表1〜6の中身は取得できていない)で確認した。PD20を推奨指標とする理由、低い基礎FEV1が相対的禁忌であること(気管支拡張薬吸入前FEV1が成人で予測値60%未満または1.5 L未満、単回の強い刺激では75%未満)、高血圧の数値(収縮期200 mmHg超・拡張期100 mmHg超)、眼科手術後と頭蓋内圧上昇が禁忌であること、妊娠・授乳とコリンエステラーゼ阻害薬がメサコリン固有の相対的禁忌であること、飲酒4時間・喫煙1時間の回避、通常量のカフェインは臨床的に有意な影響がないこと、皮下注用アドレナリンとサルブタモールを検査室に常備し酸素を使える状態にすること、基礎値の10%以内に回復するまで帰宅させないこと、無投薬でも45〜60分で自然回復すること、希釈液で20%超低下した場合はPD20を報告しないこと、全肺気量までの最大吸気を要する手順は推奨されないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Global Strategy for Asthma Management and Prevention(Global Initiative for Asthma (GINA)・2026)2026年版PDFの全文で確認した。診断基準の表(Box 1-2)は、成人・青年で投与前値からFEV1またはFVCが12%以上かつ200 mL以上増加(15%以上かつ400 mL以上ならより確信できる)、小児6〜11歳でFEV1が予測値の12%以上増加を気管支拡張薬反応陽性とし、標準用量のメサコリンでFEV1が20%以上低下することを誘発試験陽性としている。誘発試験でFEV1が下がったときはFEV1/FVCも下がっているかを確かめるよう注記がある。解説本文はERS/ATS 2022の予測値10%超基準を検討したうえで従来基準の維持を明記しており、同じ本文は成人の基準をFEV1とだけ書いている。閲覧 2026-09-08
  3. 3.ERS/ATS technical standard on interpretive strategies for routine lung function tests(European Respiratory Society / American Thoracic Society・2022)全文PDFで確認した。気管支拡張薬反応はFEV1またはFVCの予測値に対する変化率で表し10%超を有意とすること、投与前値を分母にする絶対変化・相対変化の方法はもう推奨しないこと、その根拠として健康成人の反応の95パーセンタイルがFEV1で10.1〜11.6%予測値・FVCで9.6〜10.2%予測値と報告されていること、本文書は気管支拡張薬反応を診断や臨床判断にどう使うかは扱わないと自ら断っていることを確認した。閲覧 2026-08-02