呼吸器学

呼吸器学 · 11

気管支鏡検査

Bronchoscopy

前提:正常
胸膜と肺呼吸器:気道部(気道壁の構造)
応用トピック
呼吸器診断の微生物・細胞・組織・検査技術肺移植
検査値
気管支肺胞洗浄

ポッドキャスト

🧠 全体像:は内視鏡を気道へ挿入し、観察・検体採取・治療を行う。は末梢観察と検体採取、は気道確保、大量吸引、異物・大量出血・中枢気道治療に強い。

目的

診断 治療
気道内病変の観察 分泌物・の吸引
肺癌、喀血、の評価 の摘出
肺感染症、結核、免疫不全例の検体採取 狭窄の、
の評価 、熱・冷凍・
洗浄、、、生検、 出血コントロール

中枢気道閉塞を疑う所見

は喉頭・気管・などの太い気道が狭くなる病態である。は喉頭〜胸郭外気管の狭窄を示唆するが、胸郭内気管やではな、左右差、反復性として現れることもある。重症閉塞では音が消失し、、、、低酸素、を来す。

  • 成人のは明確な窒息歴を欠くことがある。同一葉・同一区域の反復肺炎、治りにくい肺炎、、、限局性では、骨片などのや腫瘍を考える。1
  • 挿管後は、単なる「への慢性反応」ではない。やカフの圧迫・摩擦でと虚血が起こり、潰瘍・軟骨炎、、過剰な線維化を経てとなる。後しばらくして、、治療抵抗性の「喘息様」症状として現れうる。2
  • 安定例では胸部CTで狭窄の部位・長さ、病変、壁外圧迫、末梢肺のを評価し、気管支鏡で直接観察する。呼吸・循環が不安定ならより気道確保を優先する。3

軟性鏡と硬性鏡

特徴 細く長く、・末梢へ到達しやすい 太い管腔で気道を確保し大量吸引・大型器具を使える
麻酔 +中等度鎮静、状況により全身麻酔 原則として手術室で全身麻酔
得意 観察、、、末梢検体採取 異物、大量出血、中枢狭窄・腫瘍
限界 大量の血液・分泌物吸引、気道安定化が弱い ・末梢観察が難しい

治療的気管支鏡

病変が、壁外圧迫、両者の混合のどれかで、使う手技が変わる。即時効果が必要か、出血しやすいか、病変より末梢の気道と肺が保たれているかを重視する。3

病変・目的 主な手技 学習上の要点
腫瘍を直ちに開通 機械的、、、レーザー、クライオリカナリゼーション 熱手技は迅速で止血にも使えるが、気道を避けるためを管理する
壁外からの圧迫 、 腫瘍を削るだけでは内腔を保てない。が機能するか確認する
混合型 +拡張/ 成分を減らしてから必要な支持を加える
異物、、、気管支鋳型 、バスケット、吸引、クライオプローブ、必要時 大量出血や換気不安定、大きな異物では太い作業腔と確実な気道確保が重要

クライオプローブは先端を・含水性異物・腫瘍へ接触させ、急速冷却して凍着させる。対象が付着した状態でプローブと気管支鏡を一体として引き抜くため、大きなをで回収できる場合がある。4 ただし「凍らせれば必ず全部取れる」手技ではなく、対象の水分量・硬さ・付着、出血、気道径で成功が変わる。接触のは遅れて現れる一方、クライオリカナリゼーションは凍着した組織をその場でして即時開通を狙う。

は壁外圧迫やを支えるが、移動、、感染、、破損などを起こしうる。良性狭窄では長期合併症を特に考慮し、他の治療で十分な開通が得られるのにに留置しない。

検体採取

  • :を注入し吸引して表層細胞・微生物を採る。
  • :被覆ブラシを病変部で展開し、細胞診標本を得る。
  • :で可視病変を採取する。
  • :気管支へし、を分割注入後に低圧で回収する。画像異常区域から細胞・微生物・蛋白などを得る。
  • :末梢肺実質をで採取し、出血・気胸に注意する。
  • 経気管支:超音波気管支鏡でリンパ節・を穿刺する。

準備と安全評価

  1. 適応、代替、出血・低酸素・気胸などを説明し同意を得る。
  2. 画像、併存症、薬剤、アレルギーを確認する。血液検査は全例一律ではない。BTSは・・ヘモグロビン値を異常凝固の臨床的危険因子があるときに行うよう推奨し(Grade D)、その危険因子として、肝疾患を示す所見、の既往・家族歴・身体所見、活動性出血または検査前輸血を挙げる。腎不全・透析例では生検・経気管支の出血合併症が約8%(重大4%・軽微4%)と一般集団より高い。⚠️ ただし有意な出血をきたした患者の3分の2超は凝固が正常で臨床的危険因子も持たない。 検査が正常でも出血しないとは言えない。5
  3. 観察・洗浄と、生検を伴う手技では出血リスクが異なる。BTSはを気管支内生検(EBB)・(TBLB)の7日前に中止し、低用量(アスピリン)単独は継続してよいとしている(Grade C)。洗浄までの気管支鏡は2万/μL超で施行でき、EBB・TBLBを予定する場合はの要否を血液内科と相談する(Grade D)。5 💡 7日という数字は、内服下のTBLBで100 mL超の過剰出血が単独内服で89%、アスピリン併用で100%(非内服では3.4%)に生じるという観察から来ている。ただし出血に対する輸血や死亡に至る例はまれで、多くは気管支鏡的に制御できる。5 抗凝固薬・の扱いと時期は、薬剤の適応、、腎機能、手技の出血リスクを含めて処方医・施設手順と調整する。6
  4. 検査で鎮静を行う場合、健康な成人では軽食・非ヒト乳(など)は6時間前まで、は2時間前までを目安にとする。⚠️ 揚げ物・脂肪食・肉を摂った場合は6時間では足りず、8時間以上が必要になりうる。 摂取した量と種類の両方から絶食時間を決め、や誤嚥リスクがあれば個別化して麻酔・施設指針に従う。78
  5. は鎮静の前に確保し、退室まで維持する。検査中はを連続監視し(Grade C)、心拍数・呼吸数・血圧・SpO₂を検査前・中・後に反復して記録する(Grade D)。5 ECGは心疾患などで追加し、CO₂モニタは症例、鎮静法、施設手順に応じて選択する。9 酸素投与の目安をBTSは数値で示しており、SpO₂が4%を超えて低下するか90%未満となり、かつそれが1分を超えて持続するときに酸素を追加する(Grade D)。5 目標値は通常SpO₂ 94〜98%、高CO₂血症リスクでは88〜92%へする。10

低酸素血症、重度、肺高血圧、、肝疾患、SVC閉塞、免疫抑制、凝固異常はリスクを高めるが、「SpO₂ 90%未満」「 40%未満」を一律のとはしない。利益・緊急性、酸素化・、検体手技を個別に判断する。不安定な循環、補正不能な重度低酸素、重篤な不整脈、同意不能な検査などでは延期を検討する。

実施

鼻腔・口腔から挿入し、によると必要最小限の鎮静を用いる。⚠️ 濃度は経路ごとに違う。 BTSは鼻腔のに2%ゲル(Grade A)、気道内への spray-as-you-go 投与に1%液(Grade A)を当て、による気道内投与は推奨していない(Grade B)。中毒を避けるため、咳を抑えて苦痛を取れる最少量にとどめる(Grade D)。5 気道内への投与では全投与量を記録する。1%製剤は2%製剤と同等の有効性を保ちながらを減らせる。11 全気管支区域を系統的に観察し、不要な吸引を避ける。+オピオイドなどの鎮静は呼吸抑制を起こすため、少量ずつ効果を確認し、拮抗薬・気道管理器具を準備する。5

flowchart TD
  A["適応と画像で標的決定"] --> B["出血・低酸素・鎮静リスク評価"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nil per os (NPO)'>絶飲食</span>・薬剤調整・同意"]
  C --> D["監視下に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='local anesthesia'>局所麻酔</span>/鎮静"]
  D --> E["気道観察と検体採取/治療"]
  E --> F["出血・気胸・呼吸抑制を監視"]

合併症と対応

  • 出血:少量なら吸引、冷生食、局所など。大量なら出血側を下にして肺を保護し、太い吸引路・・・/外科を動員する。
  • 気胸:特にTBLB後。⚠️ 生検を行っていなくても起こりうるため、BTSは生検の有無にかかわらず術後に合併症を観察するよう求めている。5 観察時間とルーチン胸部X線の要否は、症状、患者リスク、手技内容、施設手順で判断する。胸痛、呼吸困難、SpO₂低下または臨床的疑いがあれば胸部画像を行い、まれな遅発性気胸を疑うべき退院後症状も説明する。912
  • 低酸素、呼吸抑制、、気道閉塞、肺水腫、不整脈。
  • 発熱・肺炎は後などに起こりうる。

まとめ

  • とは目的・気道安定性・吸引能力で使い分ける。
  • 出血・低酸素・鎮静リスクを手技ごとに評価し、固定閾値だけで可否を決めない。は全例のルーチンではなく、臨床的危険因子があるときに行う。
  • は一律に止めない。は生検(EBB・TBLB)の7日前に中止し、低用量単独は継続してよい。
  • 大量出血では出血側を下にし、肺を守ることが最優先である。

出典

  1. 1.Foreign Body Inhalation in the Adult Population: Experience of 25,998 Bronchoscopies and Systematic Review of the Literature(Respiratory Care・2015)成人気道異物が閉塞性肺炎、区域性無気肺などで遅れて発見され、軟性・硬性気管支鏡で摘出されることを確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Post-intubation subglottic stenosis: aetiology at the cellular and molecular level(European Respiratory Review・2021)挿管による粘膜外傷、虚血・低酸素、異常創傷治癒が肉芽・線維性狭窄へ進む機序を確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Management of Central Airway Obstruction: An American College of Chest Physicians Clinical Practice Guideline(American College of Chest Physicians・2025)中枢気道閉塞の診断、硬性鏡、腫瘍減量、拡張、ステントを病変形態に応じて選ぶ原則を確認した。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Blood clot removal by cryoextraction in critically ill patients with pulmonary hemorrhage(Journal of Thoracic Disease・2019)クライオプローブを血餅へ凍着させ、軟性気管支鏡とともに回収する気道再開通手技を確認した。閲覧 2026-09-08
  5. 5.British Thoracic Society guideline for diagnostic flexible bronchoscopy in adults: accredited by NICE(British Thoracic Society・2013)発行元PDFで全文(Thorax 2013;68 Suppl 1、i1–i44)を確認した。クロピドグレルは気管支内生検・経気管支肺生検の7日前に中止し低用量アスピリン単独は継続可(Grade C)、洗浄までの気管支鏡は血小板2万/μL超で施行可(Grade D)、凝固検査・血小板数・ヘモグロビンは異常凝固の臨床的危険因子があるときに行う(Grade D。ただし有意な出血例の3分の2超は凝固正常かつ危険因子なし)、酸素追加はSpO2が4%超低下または90%未満が1分超持続するとき(Grade D)、連続パルスオキシメトリ(Grade C)、生検の有無によらず術後に気胸を含む合併症を観察(Grade D)、鼻腔は2%リドカインゲル・気道内のspray-as-you-goは1%液(ともにGrade A)でネブライザは非推奨(Grade B)。閲覧 2026-09-21
  6. 6.Management of antithrombotic agents in patients undergoing flexible bronchoscopy(European Respiratory Review・2017)抗血栓薬の中止は薬剤適応と気管支鏡手技の出血リスクを踏まえて個別に決めることを確認した。閲覧 2026-08-09
  7. 7.Practice Guidelines for Preoperative Fasting and the Use of Pharmacologic Agents to Reduce the Risk of Pulmonary Aspiration(American Society of Anesthesiologists・2017)発行元PDFの全文で確認した。待機的な全身麻酔・区域麻酔・処置時鎮静の前に、透明飲料は2時間前まで、軽食または非ヒト乳は6時間前まで摂取してよく、揚げ物・脂肪食・肉を含む食事では8時間以上の絶食が必要になりうること、摂取した量と種類の両方を考慮して絶食時間を決めることを勧告している。閲覧 2026-09-21
  8. 8.2023 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Preoperative Fasting: Carbohydrate-containing Clear Liquids with or without Protein, Chewing Gum, and Pediatric Fasting Duration—A Modular Update of the 2017 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Preoperative Fasting(American Society of Anesthesiologists・2023)待機的な処置時鎮静における透明飲料2時間の絶飲食基準を維持する更新閲覧 2026-08-02
  9. 9.Guidelines on analgosedation, monitoring, and recovery time for flexible bronchoscopy: a systematic review(BMC Pulmonary Medicine・2021)標準監視は非侵襲的血圧とSpO₂で、心疾患ではECGを加え、カプノメトリと一律の回復観察時間には十分な合意がないことを確認した。閲覧 2026-08-09
  10. 10.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society・2017)鎮静処置中・回復期の酸素飽和度監視と目標SpO₂閲覧 2026-08-02
  11. 11.A Randomized Trial of 1% vs 2% Lignocaine by the Spray-as-You-Go Technique for Topical Anesthesia During Flexible Bronchoscopy(Chest・2015)軟性気管支鏡の局所麻酔では1%リドカインが2%と同等の有効性を保ちながら総投与量を減らしたことを確認した。閲覧 2026-08-09
  12. 12.Delayed Pneumothorax Post Transbronchial Biopsy: A Case Report(Cureus・2021)経気管支肺生検後には遅発性気胸がまれに起こりうるため、退院後の症状にも注意を要することを確認した。閲覧 2026-08-09