呼吸器学

呼吸器学 · 14

呼吸器診断の微生物・細胞・組織・検査技術

Microbiology cytology histology and laboratory techniques

前提:臨床
気管支鏡検査
前提:病態
ヒト結核の起因菌
検査値
血中好酸球

ポッドキャスト

🧠 全体像:呼吸器疾患の検体検査は、病原体を探す微生物検査、剥離細胞をみる細胞診、をみる生検、全身反応とガス交換をみる血液検査に分かれる。検体の質・採取部位・抗菌薬投与前かが診断能を左右する。

微生物学的検査

検査 主な用途 注意点
SARS-CoV-2、、など 遺伝子検出は必ずしも生菌や原因病原体を意味しない
培養 細菌・真菌・抗酸菌の同定と感受性 適応例では可能なら抗菌薬前に良質検体を採る
グラム染色 細菌・炎症細胞の迅速評価 が多い検体は唾液混入
チール・ネルゼン染色 抗酸菌 陽性でもは・培養が必要
尿中抗原 肺炎球菌、Legionella pneumophila 適応を重症度・疫学で選ぶ
血清学 一部ウイルス・ 急性期単回抗体よりやを優先する場面が多い

成人のでは、検体検査を全例へ一律に行わない。外来例では喀痰グラム染色・培養と血液培養をルーチンに行わず、入院例でも重症、・緑膿菌を経験的にカバーする場合、これらの既往分離、直近90日以内の入院と投与などで優先する。肺炎球菌尿中抗原は重症例、尿中抗原は重症例または集団発生・最近の旅行などの疫学的リスクがある例で検討する。⚠️ では尿中抗原に加えての培養またはも併用する——これは「と分かった症例」ではなく全体に掛かる推奨で、起因菌が判明する前の段階で適用する。1

マントゥー試験

皮膚試験は0.1 mLを前腕に皮内注射し、48〜72時間後に発赤ではなくの(前腕の長軸に直交する向き)をmmで測る。27 Gの針を刃面が上になるように使い、正しく入れば径6〜10 mmのができる。0.1 mL以外の量を入れた場合や深く入ってができなかった場合は無効なので、前回の部位から2インチ(約5 cm)以上離して再検する。以下はのリスク別判定基準であり、検査対象と陽性閾値は地域の結核対策指針に従う。2

  • 5 mm以上:感染、感染性結核患者との最近の接触、結核を示唆する胸部X線所見、臓器移植、換算15 mg/日以上の長期投与や阻害薬などによる免疫抑制。
  • 10 mm以上:結核高蔓延国の出生、高リスク集団施設(介護施設・ホームレス支援施設・矯正施設など)での居住・勤務、抗酸菌検査室勤務、・糖尿病・重度腎疾患・一部の悪性腫瘍・一部の腸疾患などの併存、標準体重の90%未満の、5歳未満児、高リスク成人へ曝露した乳児・小児・青年、薬物・アルコールの乱用。
  • 15 mm以上:危険因子のない者。

⭐ 現行のの立場は「の検査はほとんどの場合=(血液検査)で行い、TSTはが使えない・高価すぎる・負担が大きい場面での容認される代替」である。 ただし5歳未満の小児ではTSTを検査法として推奨している(血液検査を使うもいると併記)。接種者ではの影響を受けないが望ましい。2

💡 TSTを使う場合、接種歴で閾値は変えない。による反応と真の感染による反応を確実に見分ける方法はないため、接種者もを受けていないものとして評価する。の接種後2年間は反応が出やすく、複数回接種は感度と陽性持続期間をさらに延ばす。2

や、判定・手技の誤りで偽陽性になり、、感染後8〜10週以内、生後6か月未満、生ワクチン(麻疹・水痘など)接種直後、直近のウイルス感染、・進行癌・・などの重篤な病態で偽陰性になりうる。⚠️ TST陰性は結核症を否定しない(とくに重症例や感染例)。症状があれば結果を待たずに画像・細菌学的検査へ進む。2

⚠️ 現象と2段階法:過去に感染した高齢者や、接種歴・感染のある人では、時間とともに感度が落ちて初回TSTが陰性になることがある。ところがその検査自体が免疫を刺激するため、次の検査で陽性化する(現象)。これを新規感染としないよう、繰り返し検査する予定の人(米国では医療従事者のベースライン検査)には2段階法を用いる——初回が陰性なら1〜3週後にもう一度行い、2回目が陽性なら既感染と分類する。ではは起こらない。2

⚠️ TSTの禁忌は過去のTSTで壊死・水疱・潰瘍・アナフィラキシーなど重篤な反応があった場合だけで、乳児・小児・妊婦・感染者は禁忌ではない。一方、過去に陽性だった記録や結核症の治療歴が文書で残っている人には行わない(多くはその後も陽性であり続け、結果によらず診療に寄与しない)。2

細胞診

  • :を注入・吸引し、気道表層細胞を採取。
  • :病変部をブラシでし、保存液またはガラスへ塗抹。
  • :末梢気管支へしてを注入・回収し、、微生物、蛋白・沈着物を調べる。
  • 喀痰・胸水細胞診:悪性細胞の検索に用いるが、陰性で悪性を否定できない。

組織診

方法 主な対象
気管支鏡下 中枢気道病変
びまん性/末梢肺病変
縦隔・、
ガイド 胸膜近傍・末梢結節
経気管支肺 組織診断を要する未確定のILD
・ 、非侵襲検査で未確定のILDなど

検体採取法は単に侵襲が最小のものではなく、病変部位、必要な、分子検査に必要な腫瘍細胞率、出血・気胸リスクを統合し、診断に十分な検体を得られる範囲で低侵襲な方法を選ぶ。

(ILD)では病歴、、多職種検討で診断できる場合に生検を機械的に追加しない。組織診断が必要な場合、の2022年ガイドラインは①の適応がある患者では経気管支肺をその代替検査として提案し、②の適応がない患者にもを提案し、③で診断に至らなかった場合にはを追加することを提案する。④診断に至らなかったときのの再施行については賛否いずれの推奨も出していない。は訓練を受けるべきだが、訓練の種類についての推奨は出されていない。3

⚠️ の診断率はより低く、その代わり重篤な有害事象と入院期間が少ないという交換条件であり、エビデンスの確実性はおおむね「非常に低い」。などの基礎病態と、出血・気胸・・周術期リスクを多職種で比較する。全例でを優先するという意味ではない。3

血液・生理検査

  • :酸素化、換気、。
  • 血算:、貧血、好酸球、血小板。
  • CRP・・など炎症指標:単独で感染の有無を決めない。⭐ 臨床的に疑われ画像で確認されたには、初回値によらず経験的抗菌薬を開始する(強い推奨、エビデンスの質は中等度)。低値を理由に初期抗菌薬を見送らない。1
  • 腎肝機能・電解質:造影、抗菌薬、全身状態の評価。
flowchart TD
  A["臨床疑いと画像"] --> B{"感染が主?"}
  B -->|"はい"| C["喀痰・血液・尿・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchoalveolar lavage'>BAL</span>:染色、培養、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test'>NAAT</span>"]
  B -->|"いいえ/腫瘍・ILD"| D["細胞診と標的に適した生検"]
  C --> E["検体品質・抗菌薬歴・疫学で解釈"]
  D --> F["組織型・分子検査・病期へ"]

まとめ

  • 検体の採り方と質が検査法そのものと同じくらい重要である。
  • TSTは0.1 mLを皮内投与し、48〜72時間後の径を地域・リスクに応じて判定する。接種歴では閾値を変えない。
  • 現行のはの検査をほとんどの場合で行い、TSTはが使えない場面の代替と位置づける。例外は5歳未満の小児で、ここではTSTが推奨される。
  • 細胞診陰性は癌を否定せず、標的と必要組織量に応じ生検法を選ぶ。ILDのは「診断率はより低いが有害事象と入院が少ない」という交換条件で、エビデンスの確実性は非常に低い。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America(American Thoracic Society / Infectious Diseases Society of America・2019)全文(PMC6812437)で確認した。外来の市中肺炎には喀痰グラム染色・培養も血液培養も行わないこと(いずれも強い推奨)、入院例では重症・MRSAや緑膿菌への経験的治療・これらの既往分離・直近90日以内の入院と非経口抗菌薬投与で採取すること、肺炎球菌尿中抗原とレジオネラ尿中抗原はルーチンには行わず重症例(レジオネラは集団発生や最近の旅行などの疫学的要因でも)に限ること、そして下気道検体の選択培地培養またはレジオネラNAATの併用は「レジオネラ肺炎と判明した重症例」ではなく重症市中肺炎の成人に対する推奨であること、臨床的に疑われ画像で確認された市中肺炎には初回プロカルシトニン値によらず経験的抗菌薬を開始すること(強い推奨・質は中等度)を確認した。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Clinical Testing Guidance for Tuberculosis: Tuberculin Skin Test(Centers for Disease Control and Prevention・2025)ライブページとアーカイブ(2026-09-05取得)で確認した。どちらもメタデータの最終更新表示が2025年1月31日で、この時点が現行である。投与は精製ツベルクリン0.1 mLを前腕屈側へ27 G針の刃面を上にして皮内注射し径6〜10 mmの膨疹を作ること、48〜72時間後に前腕の長軸に直交する向きで硬結径を測り発赤は測らないこと、誤った量や深すぎる注射は無効で前回の部位から2インチ以上離して再検すること、陽性閾値が5 mm・10 mm・15 mmの3区分であること、10 mm区分に標準体重の90%未満の低体重と薬物・アルコール乱用が含まれること、CDCの指針が結核感染の検査にほとんどの場合は血液検査を推奨しツベルクリン皮膚試験は血液検査が使えない・高価すぎる・負担が大きい場面での容認される代替であること、5歳未満の小児にはツベルクリン皮膚試験を検査法として推奨していること、BCG接種者には血液検査が望ましいこと、BCG接種歴にかかわらずリスク層別化で判定すること、偽陰性の原因に最近8〜10週以内の感染・生後6か月未満・生ワクチン接種直後が含まれること、ブースター現象と2段階法(初回陰性なら1〜3週後に再検し2回目陽性なら既感染と分類)の運用、禁忌が過去のツベルクリン皮膚試験での重篤反応だけで乳児・小児・妊婦・HIV感染者は禁忌でないこと、陰性でも結核症を否定できず症状があれば結果を待たずに他の診断検査を始めるべきことを確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.European Respiratory Society guidelines on transbronchial lung cryobiopsy in the diagnosis of interstitial lung diseases(European Respiratory Society・2022)抄録で確認した(全文は取得できなかった)。組織所見を要する未診断の間質性肺疾患について、外科的肺生検の適応がある患者では経気管支肺凍結生検を代替検査として提案すること、外科的肺生検の適応がない患者にも凍結生検を提案すること、凍結生検が非診断的だった場合は外科的肺生検を追加検査として提案すること、非診断的だったときの凍結生検の再施行については賛否いずれの推奨も出していないこと、術者は訓練を受けるべきだが訓練の種類については推奨を出していないこと、凍結生検の診断率は外科的肺生検より低い一方で重篤な有害事象と入院期間は少ないこと、エビデンスの確実性はおおむね「非常に低い」ことを確認した。閲覧 2026-09-21