呼吸器学

呼吸器学 · 10

呼吸器救急

Pulmonary emergencies

前提:病態
無気肺/ARDS
前提:正常
呼吸器:呼吸部(肺胞上皮・サーファクタント)

ポッドキャスト

🧠 全体像:呼吸器救急では、気道閉塞、低酸素血症、高CO₂血症、呼吸、循環不全を同時に評価する。ならまず上気道・を疑い、胸部画像と血液ガスでは「画像パターン」「酸素化」「換気」「pH」を別々に読む。

急性呼吸不全の初期分岐

flowchart TD
  A["急性呼吸困難・呼吸窮迫"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='barking cough (as in croup)'>犬吠様咳</span>・吸気努力?"}
  B -->|"はい"| C["上気道・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central airway obstruction'>中枢気道閉塞</span>として気道確保"]
  B -->|"いいえ"| D["胸部X線・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='point-of-care ultrasound'>POCUS</span>・ABG"]
  C --> E["安定化後に胸部CT・気管支鏡で部位と原因を評価"]
  D --> F["気胸・胸水・肺水腫・肺炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atelectasis'>無気肺</span>を検索"]
  D --> G{"ABGの型"}
  G -->|"pH低下+PaCO₂上昇"| H["急性/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute exacerbation'>急性増悪</span>性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory acidosis'>呼吸性アシドーシス</span>"]
  G -->|"PaO₂低下+PaCO₂正常〜低下"| I["I型呼吸不全"]
  G -->|"PaO₂正常+PaCO₂著減+HCO₃⁻低下"| J["代謝性アシドーシスの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory compensation'>呼吸性代償</span>を疑う"]
  H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>増悪・肥満低換気・神経筋/胸壁疾患など"]
  I --> L["肺炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>・肺水腫・肺塞栓など"]

PaCO₂高値だけでは急性換気不全とは限らない。では慢性高CO₂血症がありうるため、pH低下とHCO₃⁻による代償の程度を合わせて急性、慢性、性を区別する。反対に、正常なPaO₂と著明な低PaCO₂をみたら「肺は正常」とせず、、、腎不全などへのを考える。

上気道・中枢気道閉塞

閉塞部位 呼吸音の手掛かり 主な原因・注意点
喉頭〜胸郭外気管 、、吸気努力 、浮腫、腫瘍、機能異常。では音が消える
胸郭内気管・ な喘鳴、呼気優位の雑音、左右差 腫瘍、挿管後狭窄、異物、、気管支鋳型
葉・ 喘鳴、。は目立たないことがある 閉塞性、同一部位の反復肺炎、、気管支拡張を来しうる

は狭窄のだが、すべての「」病変で同じ音になるわけではない。音のは胸郭内外の位置と固定性で変わり、重症閉塞では気流そのものが減って静かになる。安定例では造影CTで狭窄部位・長さ・/壁外圧迫を評価し、気管支鏡で診断と気道を計画する。1

急性呼吸窮迫症候群

病態

敗血症、肺炎、誤嚥、外傷、ショック、、吸入毒、などを契機にと好中球が肺胞上皮・を傷害し、を生じる。

flowchart TD
  A["肺内/肺外傷害"] --> B["炎症・好中球流入"]
  B --> C["肺胞上皮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary endothelium'>毛細血管内皮</span>傷害"]
  C --> D["蛋白豊富な肺水腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyaline membrane'>硝子膜</span>"]
  D --> E["サーファクタント低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar collapse'>肺胞虚脱</span>"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced vascular compliance'>コンプライアンス低下</span>・シャント・難治性低酸素血症"]
  F --> G["回復または器質化・線維化"]

診断

ARDSのでは、既知の侵襲または呼吸症状悪化から1週間以内、両側陰影、心不全・のみでは説明不能、PEEP/CPAP 5 cmH₂O以上で300 mmHg以下を満たす。軽症200超〜300以下、中等症100超〜200以下、重症100以下。2胸部X線・では両側びまん性陰影/、ABGでは低酸素血症を示す。

2024年公表の新グローバル定義案では、非挿管患者も、30 L/分以上または呼気終末圧5 cmH₂O以上のNIV/CPAP下で、300 mmHg以下、またはSpO₂ 97%以下でS/F比315以下ならとして診断しうる。胸部X線・に加えて熟練者のを認め、資源環境では最低流量・PEEPを必須としない修正版も定めたが、実行可能性・・予後の前向き検証は今後の課題である。3

治療

  • 原因治療:敗血症、肺炎、誤嚥などを治療する。
  • :ベース約6 mL/kgの低、30 cmH₂O以下を目標に調整する。4
  • PEEPは酸素化、血行動態、を再評価しながらFiO₂と組み合わせる。2024年のガイドラインは、中等症〜重症に対して低PEEPよりを伴わない高PEEPを提案し(条件付き推奨、確実性は低〜中等度)、長時間のは行わないことを強く推奨する(強い推奨、確実性は中等度)。ここだけ推奨が強い点に注意する。ステロイドは全体に提案(条件付き、確実性は中等度)、は早期の重症例に、静脈静脈型は重症の選択例に提案される(いずれも条件付き、確実性は低)。5
  • 中等症〜重症ではを検討する。
  • 循環を保ちつつ保守的輸液管理を行い、難治例では筋弛緩、などを専門チームで検討する。

肺炎

肺炎は・肺胞・間質の感染性炎症で、肺胞内滲出物を伴う。

型 特徴・病原体 画像
発熱、咳、喀痰、呼吸困難など。原因微生物は肺炎球菌、H. influenzae、S. aureus、Mycoplasma pneumoniae、Chlamydia pneumoniae、各種ウイルスなど 、、、など多彩で、臨床像だけで病原体をに分類しない6
挿管48時間以降。緑膿菌、腸内細菌、Acinetobacter など耐性菌リスク 新規/増悪浸潤影をと統合

発熱、咳・喀痰、呼吸困難、胸痛、、を認める。は重症度、治療場所、想定病原体、以後の管理方針に応じて選ぶ。7 胸部X線が基本で、所見不明瞭・合併症・反復例ではを用いる。入院の要否は臨床判断に加えて検証済みのルールで裏づけ、CURB-65(条件付き推奨、質は低い)よりPSI/PORT(強い推奨、質は中等度)を優先する。⚠️ ただしどちらも入院後の治療強度(に上げるか)を決めるために作られたではない——そこは上記の重症度基準の仕事である。7 抗菌薬レジメンをPORTクラスだけで機械的に決めず、市中/院内、重症度、誤嚥、耐性菌リスク、腎機能、地域に基づき選ぶ。

重症市中肺炎

重症度の物差しは2007年の/基準で、2019年の/ガイドラインがこれを検証済みの定義として採用し、他の予後スコアより優先して推奨している。を要するまたは侵襲的人工呼吸を要する呼吸不全というが1項目、あるいは次の9項目のうち3項目以上あればとする。7

  • 呼吸数30/分以上、250以下、多葉性浸潤影
  • 混乱・、 20 mg/dL以上
  • 白血球4,000/μL未満(感染によるもので、化学療法によるものは含めない)、血小板100,000/μL未満、36℃未満
  • 積極的輸液を要する低血圧

を満たせばで直ちに臓器支持を行い、は評価の補助として用いる。⚠️ 病棟へ入院した後にへ移された患者は、救急外来から直接へ入室した患者より死亡率が高い。7 の急増、意識・循環悪化、病棟の監視能力も含め、3項目がそろうまで対応を待たない。

なお2026年に公表されたのガイドラインは、による診断、検査が陽性のときの経験的抗菌薬、抗菌薬投与期間、全身性ステロイドの4論点を更新した文書である(本実行ではのみ取得。重症度基準の再定義はに挙がっていない)。8

気胸

気胸ではへ空気が入り陰圧が失われ、肺が部分〜完全虚脱する。は基礎肺疾患のない原発性と、COPD、結核、、嚢胞性線維症、、悪性腫瘍などに伴う続発性に分かれる。・医原性(人工呼吸、、など)もある。

はの破裂が多く、若年、男性、・やせ、喫煙、家族歴がリスクとなる。はなどのまたは・などので起こる。

所見と診断

突然の同側、呼吸困難、、、低下、。X線ではと末梢消失、仰臥位では。POCUSでは・B-line消失、が手掛かりとなる。

緊張性気胸

進行する上昇で静脈還流・心拍出量が低下し、低血圧、頻脈、重度呼吸窮迫を来す。や反対側へのはなくてもよい。

緊急対応:臨床的にを疑い循環・呼吸不全があれば、胸部画像を待たず直ちに減圧する。は直ちに認識して処置を要する病態であり(エビデンスの質は中等度、推奨は強い)、治療の第一選択はである(中等度・強い)。ドレーンは第4〜6肋間のまたはから側方に入れるのが最良の経路とされる。9 はを緊張性へ悪化させうる。

⚠️ の部位は資料間で割れており、「どこか一つが正解」ではない。 /AASTのガイドラインは、が手元に無い緊急時や病院前の選択肢として第2肋間を挙げ、代替として第5肋間を挙げる。9 2025年のは、欧州外傷コース(ETC)が第2肋間、米国外科学会の外傷初期診療コース(このが引用しているのは第10版の学生用マニュアル)が第4〜5肋間の前を推奨していて部位も針も食い違うと指摘し、右側は第5肋間または第2肋間、左側は心損傷のおそれがあるため第2肋間がより安全としている(著者ら自身が、研究間のが大きいため慎重に解釈するよう断っている)。10

💡 は「効いたはず」と思い込めない手技である。 8,046例を含むではへ到達できない失敗率が32.84%(I²は99.72%)で、針長が1 cm増すごとに失敗率がおよそ7.76ポイント下がった。10 針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため、指胸郭開放も有効な減圧手段であり、いずれにせよ続いてを留置する。9

安定例

現行の管理はX線上の大きさだけでなく、症状、生理学的安定性、続発性か、通院可能性、患者希望で決める。軽症で安定したは保存的観察、外来用、などを検討し、症候性・不安定・続発性・両側性ではドレナージと呼吸器/胸部外科評価を行う。

酸素は低酸素血症へ投与し、通常94〜98%、高CO₂血症リスクでは88〜92%へする。気胸を早く吸収させる目的で全例を96〜100%にする過剰酸素は避ける。

まとめ

  • はで、ベースのが中心である。2024年のガイドラインで強い推奨が付くのは「長時間のを行わない」だけで、高PEEP・ステロイド・・はいずれも条件付き推奨である。
  • PSI/CURB-65は入院の要否を決めるで、へ上げるかは2007年/基準(1項目または9項目中3項目以上)で判断する。抗菌薬は感染状況と耐性菌リスクで選ぶ。
  • は画像を待たず即時減圧するが、の部位は資料間で割れ、失敗率も高い。治療の第一選択はである。安定気胸はサイズだけでなく症状・リスクで管理する。

出典

  1. 1.Management of Central Airway Obstruction: An American College of Chest Physicians Clinical Practice Guideline(American College of Chest Physicians・2025)中枢気道閉塞では病歴・診察、胸部CT、原因に応じた治療的気管支鏡を統合することを確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition(JAMA・2012)ベルリン定義がP/F比により軽症200超〜300以下、中等症100超〜200以下、重症100以下に分類することを確認した。閲覧 2026-08-13
  3. 3.A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome(American Thoracic Society・2024)非挿管ARDS、S/F比、肺超音波、資源制約環境を含む新グローバル定義閲覧 2026-08-02
  4. 4.Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2000)予測体重1kgあたり6 mL・プラトー圧30 cmH₂O以下を目標とする低一回換気量換気が、従来の一回換気量に比べ死亡率を低下させたことを確認した。閲覧 2026-08-13
  5. 5.An Update on Management of Adult Patients with Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2024)中等症〜重症ARDSの高PEEP戦略と長時間リクルートメント手技の回避閲覧 2026-08-02
  6. 6.Ambulatory patients with community-acquired pneumonia: the frequency of atypical agents and clinical course(The American Journal of Medicine・1996)市中肺炎では臨床像だけから非定型病原体による肺炎を確実に区別できないことを確認した。閲覧 2026-08-09
  7. 7.Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America(American Thoracic Society / Infectious Diseases Society of America・2019)全文(PMC6812437)で確認した。Table 1が2007年IDSA/ATS基準として大基準2項目・小基準9項目を挙げ、大基準1項目または小基準3項目以上を重症市中肺炎の検証済み定義とすること、白血球減少の項に「感染のみによるもの(化学療法によるものではない)」という脚注が付くこと、本ガイドラインが他の予後スコアより2007年IDSA/ATS基準を推奨すること、入院の要否にはCURB-65(条件付き推奨・質は低)よりPSIを優先すること(強い推奨・質は中等度)、PSIとCURB-65は入院後の治療強度を選ぶために作られた道具ではないこと、病棟入院後にICUへ移された患者は救急外来から直接ICUへ入った患者より死亡率が高いこと、臨床的に疑われ画像で確認された市中肺炎には初回プロカルシトニン値によらず経験的抗菌薬を開始すること(強い推奨・質は中等度)を確認した。閲覧 2026-09-21
  8. 8.Diagnosis and Management of Community-acquired Pneumonia: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2026)抄録のみを閲覧した(本文は取得できなかった)。本ガイドラインが更新した論点が、肺超音波による診断、呼吸器ウイルス検査陽性時の経験的抗菌薬、抗菌薬投与期間、全身性ステロイドの4つであることを確認した。重症度基準の再定義は抄録に挙がっていない。閲覧 2026-09-21
  9. 9.Thoracic trauma WSES-AAST guidelines(World Society of Emergency Surgery / American Association for the Surgery of Trauma・2025)全文(PMC12522690)で確認した。緊張性気胸と大量血胸が直ちに認識と処置を要する病態であること(エビデンスの質は中等度、推奨は強い)、単純気胸・緊張性気胸・血胸の治療の第一選択が胸腔ドレーンであること(中等度・強い)、側方からの胸腔ドレーン挿入(第4〜6肋間の前腋窩線または中腋窩線)が最良の経路であること、胸腔ドレーンが手元に無い緊急時や病院前では第2肋間鎖骨中線、あるいは代替として第5肋間中腋窩線への針減圧が治療選択肢になりうること、針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため指胸郭開放も有効な減圧手段であることを確認した。閲覧 2026-09-21
  10. 10.Meta-analysis of the optimal needle length and decompression site for tension pneumothorax and consensus recommendations on current ATLS and ETC guidelines(World Journal of Emergency Surgery・2025)全文(PMC12087068)で確認した。欧州外傷コースが14または16ゲージの「超長」カニューレを第2肋間鎖骨中線へ、ATLSが小柄な成人で5 cm・大柄な成人で8 cmの針を第4または第5肋間の前中腋窩線へと推奨しており、部位も針も食い違うと著者らが述べていること、8,046例を含む統合解析で胸膜腔へ到達できない失敗率が32.84%(I²は99.72%)であったこと、針長が1 cm増すごとに失敗率がおよそ7.76ポイント下がること、著者らの提案が「右側は7 cm針を第5肋間中腋窩線または第2肋間鎖骨中線へ」「左側は心損傷のおそれがあるため第2肋間鎖骨中線がより安全」であること、ただし研究間の異質性が大きくバイアスの危険もあるため慎重に解釈すべきだと著者ら自身が述べていることを確認した。閲覧 2026-09-21