呼吸器学

呼吸器学 · 09

呼吸器の身体診察

Physical examination

前提:正常
身体診察の生物物理I―視診身体診察の生物物理II―触診身体診察の生物物理III―打診身体診察の生物物理IV―聴診
症状
ばち指山羊音声音振盪脊柱側弯症頻呼吸

ポッドキャスト

🧠 全体像:呼吸器診察は→触診→→の順に行い、左右差と病変の「空気・液体・実質密度」を統合する。単独所見の感度は限られるため、バイタル・病歴・画像と合わせる。

視診

  • 成人安静時呼吸数は通常12〜20/分。は12/分未満、頻呼吸は20/分超。は深さの増大を指し、呼吸数だけでは定義しない。
  • 正常の吸気:呼気時間比は概ね1:2。では呼気が延長する。
  • :漸増・する換気と無呼吸を周期的に反復する。
  • :リズムと深さが不規則。
  • (、、)、、、は増大を示す。
  • チアノーゼ、、、・を確認する。はだけでなく、肺癌・・などでもみられる。

触診

は発声による振動の胸壁伝導を、同じ高さで左右比較する。肺は振動を減衰させるが、気道が開存したまま肺胞が充実すると伝導が増す。一方、の液体・空気や気道閉塞は振動を胸壁へ伝わりにくくする。

打診

音 意味 代表病態
正常肺 生理的
空気増加 肺気腫、喘息、気胸
空気減少・液体・実質密度増加 肺炎、、胸水

胸水については、評価された8つの手技のうち従来のによるが最も精度が高かった(統合8.7、95%CI 2.2〜33.8)。ただし前向き5研究・934例に基づく値でが広く、があっても確定には胸部X線が要る。1

肺炎では、前向きコホート17研究ので確率を最も上げたのは全体的な臨床印象(6.32、95%CI 3.58〜10.5)と(6.17、1.34〜18.0)で、(2.62、1.14〜5.30)と実測した体温(2.52、2.02〜3.20)が続く。確率を最も下げるのはに異常が無いこと(0.25、0.11〜0.48)である。個々の症状・徴候の大半は役に立たず、のようにが非常に広い所見もある。2

聴診

患者を座位にし、口を開けて通常よりやや深く呼吸してもらう。器を衣服の上ではなく皮膚へ当て、同じ高さの左右をに比較しながら、からまで・側胸部・背部を一定の順序で聴く。背部だけでは、前方優位の病変や・の異常を捉えにくい。毎回ほぼ同じ部位・順序で比較すると、左右差とを再現性よく評価できる。

  • 細かい:高調で短い断続音。、肺水腫などで聴取する。
  • 粗い:より低調で長い断続音。物、、肺水腫などで聴取する。
  • 喘鳴:笛様の連続音。喘息・COPDなどのでみられるが、なら異物や腫瘍も考える。
  • :低調ないびき様の連続音。中枢側気道の分泌物・狭窄で生じ、咳で変化することがある。
  • :上気道・中枢の高調音。吸気性は胸腔外、は、は・固定性中枢気道病変を示唆する。
  • /消失:胸水、気胸、重症、。
  • は胸膜面の炎症やなどを示唆する。

呼吸音は標準化された用語を用い、「断続音か連続音か、音調、呼吸相、左右差、咳による変化」で記述する。名称には観察者間の揺れがあり、どのも単独ではでない。3

正常所見(negative findings)の記載例

「異常なし」だけで済ませず、実際に確認した範囲を定型順序で記録する。

胸郭は左右対称で使用なし。気管は正中、胸郭拡張とに明らかな左右差なし。両側は。・側胸部・背部で肺胞呼吸音を左右対称に聴取し、なし。

この文章はを自動挿入するためのものではない。診察できなかった部位、体位・疼痛・協力困難などの、酸素投与条件があれば併記する。

所見の組合せ

病態 呼吸音・
↑ 、、 通常なし
胸水 ↓ 低下 大量なら反対側
↓ 低下/消失 通常なし
↓ 消失、循環不全 遅れて反対側
肺水腫 通常左右差なし 通常、胸水併存で なし
喘息 ↓のことあり 喘鳴、 なし
肺気腫 ↓ 、 なし
通常左右差なし 通常 両側底部の細かい 通常なし。片側性ならへ
↓ 低下 側へ
多くは正常 多くは正常 正常または局所所見 なし

まとめ

  • は振盪増強+、胸水は振盪低下+、気胸は振盪低下+が基本である。
  • のは遅い所見で、欠如しても否定できない。
  • 身体所見は組合せで診断確率を動かす。肺炎では「に異常が無い」が最も確率を下げる所見だが0.25で除外には至らない。一方、胸水ではが低くの低下も無ければ、全体のによっては胸部X線を省ける場合があるとされる。所見をどう使えるかは疾患とで変わる。21

出典

  1. 1.Does This Patient Have a Pleural Effusion?(JAMA・2009)抄録で確認した。前向き5研究・934例のシステマティックレビューで、評価した8つの手技のうち従来の打診による濁音が最も精度が高く統合陽性尤度比8.7(95%CI 2.2〜33.8)、声音振盪の低下が無いことは陰性尤度比0.21(0.12〜0.37)である。著者は、濁音は胸水の確率を大きく上げるが確定には胸部X線が要ること、検査前確率が低い場面では声音振盪の低下が無ければ全体の臨床状況によっては胸部X線が不要になりうることを結論に書いている。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Accuracy of Signs and Symptoms for the Diagnosis of Community-acquired Pneumonia: A Meta-analysis(Academic Emergency Medicine・2020)抄録で確認した。画像を参照基準とする前向きコホート17研究のメタ解析で、市中肺炎の確率を最も上げるのは全体的な臨床印象(陽性尤度比6.32、95%CI 3.58〜10.5)、次いで山羊音(6.17、1.34〜18.0)、打診濁音(2.62、1.14〜5.30)、実測した体温(2.52、2.02〜3.20)であり、最も下げるのはバイタルサインに異常が無いこと(陰性尤度比0.25、0.11〜0.48)である。著者は個々の症状・徴候の大半は役に立たないと結論している。DOIはCrossrefで解決し、巻号頁と著者を照合した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Towards the standardisation of lung sound nomenclature(European Respiratory Society・2016)捻髪音、喘鳴、類鼾音の標準用語と聴診所見の記述法閲覧 2026-08-02