病理学

病理学 · C/18

無気肺/ARDS(急性呼吸窮迫症候群)

Atelectasis and acute respiratory distress syndrome

タグ
High-yield / ポイント
応用トピック
溺水の病理診断とアルコールの関与急性呼吸窮迫症候群の病態・症状・診断・治療呼吸器救急
疾患
急性呼吸窮迫症候群
画像所見
無気肺

🧠 全体像:は「なぜが失われたか」(閉塞による吸収、圧迫、線維化による収縮)という原因の違いで3型に分かれるのに対し、はと肺胞上皮(とくにII型肺胞上皮)という2つのバリアのいずれか、または両方が傷害される急性肺胞傷害の最終像であり、形成とサーファクタント喪失という2つの結果が低酸素血症を説明する。

A)無気肺

定義

= 肺組織の小・大領域の虚脱 → の不十分な拡張 → 酸素化不良の血液が肺動脈からへシャント → と低酸素。

3つの型

1.

2.

  • 原因:胸腔への液体・血液・空気の貯留 → 機械的に肺を虚脱
  • 原因:
  • 縦隔:占拠病変にされへ押される(吸収性・とは逆方向)

3.

  • 原因:肺・胸膜の局所・全般的な線維化変化が完全な拡張を妨げる
  • 縦隔:線維化に牽引され患側へ引かれる

要点

  • 吸収性・は、閉塞や圧迫原因を解除できれば再膨張しうるが、、基礎肺障害、感染・線維化の併存で回復度が変わる
  • は線維化を背景とするため固定性になりやすいが、「病型名だけ」で可逆性を断定しない
  • 講義は「低酸素血症と、虚脱した肺へのを防ぐために速やかに治療する」とする。対応のは範囲、低酸素血症、発症速度、気道閉塞の疑いで決める。急な葉性・全肺性虚脱や呼吸不全、異物・・腫瘍によるは迅速に原因検索・解除へ進み、小さな依存性・は臨床状態と原因に応じて再膨張と経過を確認する

B)ARDS(急性呼吸窮迫症候群)

定義

  • ARDSは多様な傷害による急性肺胞傷害の最終像
  • 初期傷害:または肺胞上皮(あるいは両方)へ
  • :早期の構造的肺変化の組織学的用語
  • の変遷:1994年の米欧コンセンサス会議(AECC)定義は・の問題が指摘され、2012年のは(PaO₂/FiO₂)により軽症・中等症・重症の3群に分け、「()」という用語を廃止した1。2023年の新しいグローバル定義(2024年誌上発表)はを土台に、使用中の非挿管患者を含め、によるSpO₂/FiO₂比をの代替として認め、胸部画像に超音波を加え、資源の限られた環境での診断も可能にした2。
項目 (2012)1 新グローバル定義(2023)2
発症時期 既知の誘因、または呼吸器症状の新規出現・悪化から1週間以内 同じ(1週間以内)
胸部画像 胸部X線またはで両側陰影(胸水・/肺の虚脱・結節で十分に説明されない) 胸部X線・の両側陰影、または十分に訓練されたによる超音波での両側B線・
浮腫の由来 心不全や輸液過剰で十分に説明できない呼吸不全(の基準は廃止) 肺水腫が・輸液過剰だけ、または主にそれで説明されるものではなく、低酸素血症が主にによるものではない(誘因があればこれらが併存していても診断できる)
呼吸補助の条件 PEEP(軽症はCPAPでも可)5 cmH₂O以上 挿管例はPEEP 5 cmH₂O以上。非挿管例は30 L/分以上、またはPEEP 5 cmH₂O以上のNIV/CPAP。資源の限られた環境では不要
軽症 P/F 200超〜300以下 挿管例でP/F 200超〜300以下、またはS/F 235超〜315以下
中等症 P/F 100超〜200以下 挿管例でP/F 100超〜200以下、またはS/F 148超〜235以下
重症 P/F 100以下 挿管例でP/F 100以下、またはS/F 148以下
非挿管例 対象外 P/F 300以下またはS/F 315以下で診断(重症度は分けない)
資源の限られた環境 対象外 S/F 315以下で診断(PEEP・酸素流量の条件は問わない。重症度は分けない)
  • S/F(SpO₂/FiO₂比)はSpO₂が97%以下のときだけ使う。の形のため、97%を超えるとS/Fはの重さを反映しない。・ヘモグロビン血症などが疑われるときもでは診断しない2。
  • の3群では死亡率が軽症27%・中等症32%・重症45%と段階的に上がった1。

⚠️ 病理所見はDAD()だが、の臨床基準を満たす患者を剖検すると、組織学的にDADが確認されるのは約半数にとどまる3。DADの有無はの診断要件ではない。

発生機序

  • は通常、2つのバリアからなる:+肺胞上皮
  • では膜が損なわれる → 2つの結果:
    1. → → → → フィブリン滲出 → 形成
    2. の傷害 → サーファクタント喪失 → 肺胞が拡張できない
  • 背景機序:炎症促進・抗炎症のバランス破綻 → 炎症促進側へシフト → 内毒素・好中球・マクロファージによる肺傷害
flowchart TD
    A["多様な傷害<br>(内毒素・好中球・マクロファージ介在の炎症)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar-capillary membrane'>肺胞毛細血管膜</span>の傷害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary endothelium'>毛細血管内皮</span>傷害"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type II alveolar epithelial cell (pneumocyte)'>II型肺胞上皮細胞</span>の傷害"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased capillary permeability'>毛細血管透過性亢進</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial edema'>間質浮腫</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar edema'>肺胞浮腫</span>→フィブリン滲出"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyaline membrane'>硝子膜</span>形成"]
    D --> H["サーファクタント喪失"]
    H --> I["肺胞が拡張できない"]
    G --> J["低酸素血症(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>)"]
    I --> J

形態

急性期:

  • 肺:暗赤色、硬く、なし、重い
  • 組織像:毛細血管うっ血、肺胞上皮壊死、間質・肺胞内出血、好中球集積
  • 最も特徴的:(フィブリンに富む浮腫液+壊死した上皮細胞の)

器質化期:

  • の著明な増殖 → 肺胞裏打ちの再生の試み
  • 完全な消散はまれ
  • フィブリン滲出物の器質化 → 肺胞内線維化 → の肥厚
  • :DADを伴う剖検例で、の所見(毛細血管うっ血・肺胞内水腫)は発症1週未満の90%、1〜3週の74%に認められるが3週超では17%まで低下し、3週を超えて生存した例は全例が増殖性変化、約2/3が線維化を呈する。→(器質化期)→というをたどる4。

臨床像

急性期を生存した場合、2つの転帰:

  1. 6〜12か月以内に正常な呼吸機能が回復
  2. びまん性間質線維症 → 呼吸機能の永続的障害
  • 転帰を左右する介入:過大なは肺胞をさらに傷害しうる()。・患者を対象としたRCT(861例で中止)で、6 mL/kg・30 cmH₂O以下を目標とする低換気は、12 mL/kg・50 cmH₂O以下の従来換気に比べ死亡率を下げた(31.0%対39.8%、P=0.007)5。

💡 ポイント: の型:吸収性()、圧迫性(胸水・気胸)、(線維化、不可逆的)。ARDS = DAD、 = フィブリン+壊死細胞、の傷害 → サーファクタントなし。転帰:回復または間質線維症。

まとめ

  • は原因により吸収性(気道閉塞→捕捉空気の吸収)、圧迫性(液体・血液・空気の貯留)、(肺・胸膜の線維化)の3型に分かれる。
  • 吸収性・は原因を解除できれば再膨張しうるが、は線維化を背景とするため固定性になりやすい。
  • はと肺胞上皮という2つのバリアのいずれか、または両方が傷害される急性肺胞傷害の最終像で、(DAD)が組織学的特徴だが、臨床基準を満たす例の剖検でDADを認めるのは約半数にとどまる。
  • は(2012、発症1週間以内・両側陰影・心不全で説明できない・PEEP下ので3段階)から、使用中の非挿管例・SpO₂/FiO₂比・超音波・資源の限られた環境を取り込んだ2023年の新グローバル定義へ拡張された。
  • は透過性亢進→間質・→フィブリン滲出→形成という経路をたどり、II型肺胞上皮傷害はサーファクタント喪失による肺胞拡張不全を招く。
  • 急性期の肺は暗赤色・硬く・なしで重く、器質化期にはの増殖とフィブリン滲出物の器質化により肺胞内線維化が進む。
  • 生存例の転帰は6〜12か月での正常呼吸機能の回復、またはびまん性間質線維症による永続的な呼吸機能障害の2つに分かれる。

出典

  1. 1.Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition(JAMA・2012)本文(Wayback保存の誌上版HTML)で、1994年の米欧コンセンサス会議(AECC)定義以降、信頼性・妥当性の問題が指摘されていたこと、Berlin定義が発症を既知の誘因または呼吸器症状の新規出現・悪化から1週間以内とし、両側陰影を胸部X線に加えCTでも認めたこと、肺動脈楔入圧の基準を外し「心不全や輸液過剰で十分に説明できない呼吸不全」としたこと、最低5 cmH2OのPEEPを課したうえでP/F比により軽症(200超〜300以下)・中等症(100超〜200以下)・重症(100以下)の3群に分類したこと、臨床医が軽症側の部分集合を指す語として誤用していたことを理由に「急性肺傷害(ALI)」という用語を廃止したこと、この3群の死亡率がそれぞれ27%・32%・45%と上昇したこと(P<0.001)を確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome(American Thoracic Society・2024)全文(PMC10870872)のTable 1・2で、2023年の新しいグローバルARDS定義が全カテゴリー共通の基準として、肺炎・肺外感染・外傷・輸血・誤嚥・ショックなどの誘因があり、肺水腫が心原性肺水腫や輸液過剰だけでは説明されず、低酸素血症が無気肺だけでは説明されないこと、誘因または呼吸器症状の出現・悪化から1週間以内の発症、胸部X線・CTの両側陰影または超音波での両側B線・コンソリデーション(胸水・無気肺・結節/腫瘤で十分に説明されないもの)を置いたことを確認した。非挿管ARDSは高流量鼻カニュラ30 L/分以上またはPEEP 5 cmH2O以上のNIV/CPAP下でPaO2/FiO2 300以下またはSpO2/FiO2 315以下(SpO2 97%以下のとき)、挿管ARDSは最低5 cmH2OのPEEP下で軽症200超〜300以下(S/F 235超〜315以下)・中等症100超〜200以下(S/F 148超〜235以下)・重症100以下(S/F 148以下)、資源の限られた環境ではPEEPも酸素流量も要さずSpO2/FiO2 315以下で診断することを確認した。概念モデルの説明では、組織所見は一様でなく、肺胞内浮腫・炎症・硝子膜形成・肺胞出血を含みうるとしている。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Acute Respiratory Distress Syndrome and Diffuse Alveolar Damage. New Insights on a Complex Relationship(Annals of the American Thoracic Society・2017)剖検・生検研究で、ARDSの臨床基準を満たす患者のうち組織学的にびまん性肺胞傷害(DAD)を認めるのは約半数にとどまり、DADの有無はARDSの診断要件ではないがDADを伴う群は死亡率が高いことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Chronology of histological lesions in acute respiratory distress syndrome with diffuse alveolar damage: a prospective cohort study of clinical autopsies(The Lancet Respiratory Medicine・2013)DADを伴うARDS剖検159例で、滲出期の所見(毛細血管うっ血と肺胞内水腫)は発症1週未満の90%(82例中74例)、1〜3週の74%(54例中40例)に認められたが3週超では17%(23例中4例)に低下し、3週を超えた症例では全例に増殖性変化、約2/3に線維化を認めたことを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome(New England Journal of Medicine・2000)抄録で、急性肺傷害・ARDS患者のRCT(ARDSNet/ARMA試験)が861例の登録時点で中止され、予測体重1kgあたり6 mL・プラトー圧30 cmH2O以下を目標とする低一回換気量換気群は、12 mL/kg・プラトー圧50 cmH2O以下の従来換気群に比べ死亡率(主要評価項目=自宅退院かつ補助なしで呼吸できるようになる前の死亡)が31.0%対39.8%と低く(P=0.007)、最初の28日間の人工呼吸器非使用日数も多かった(12±11日対10±11日、P=0.007)ことを確認した閲覧 2026-08-27