組織学

組織学 · 14.1

男性生殖:精巣

Male reproductive system — Testis

応用トピック
男性不妊症

🧠 精巣の機能は「の中(精子を作る)」と「の外(テストステロンを作る)」に完全に分業している、と覚える。 内ではに支えられながらが分裂・変態して精子になっていく縦の流れがあり、の外側の間質にはが単独でホルモンを作る——「精子生成」と「ホルモン産生」という2つの仕事が、解剖学的に完全に別の場所(管の内と外)で行われている点が精巣理解の軸。

精細管と精子形成

はの集合体で、その上皮(精細上皮, seminiferous epithelium)で精子形成が進行する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spermatogonium'>精祖細胞</span>:基底膜近くに位置、幹細胞"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary spermatocyte'>一次精母細胞</span>:減数分裂第一分裂前"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary spermatocyte'>二次精母細胞</span>:減数分裂第一分裂後"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spermatid'>精子細胞</span>:減数分裂第<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binary fission'>二分裂</span>後"]
  D --> E["精子:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spermiogenesis'>変態</span>を経て管腔へ放出"]

は基底膜近くに位置し、分化が進むにつれて管腔側へ移動する——この「基底膜側が未熟、管腔側が成熟」という配置は、他のの分化パターン(08-1-epidermisの基底層→)と共通する原則。

⭐ ヒトのA型はの染まり方でAdark(暗調型)とApale(明調型)の2種だけに分けられる(げっ歯類のAsingle→Apaired→Aalignedという階層とは別の分類体系である点に注意)。従来からAdarkは予備の幹細胞、Apaleはに自己複製して分化へ進む幹細胞と位置づけられ、ヒトではB型が1世代しかないためげっ歯類より精子形成効率が低い1。さらにAdarkは一枚岩ではなく、核内をもつAdark(AdVac)がの約10%を占め、その89%がにあって血管の近くに留まり、上皮周期のI期・II期にのみ分裂する——これが本当の予備幹細胞にあたる。をもたないAdarkとApaleは周期を通じて活発に分裂している(増殖細胞の47%)2。

💡 精子形成に要する日数は「74日」と「64日」が併記されるが、根拠の質が違う。 形態学的観察に基づく古典的推定(上皮周期16日×約4.6周=約74日)は1960年代のデータに依存しており、この受け入れられてきた値は約6日ずれている可能性が指摘され、再検討が求められている3。一方、(²H₂O)を3週間飲ませて精子への標識取り込みをGC/MSで直接測る方法では、標識精子が射出精液に現れるまで平均64±8日(範囲42〜76日)だった4。つまり「約64日」は直接測定値、「約74日」は古典的形態推定値であり、どちらも精巣上体通過を含むか否かで意味が変わるため、数字だけを覚えず出所とセットで押さえる。

セルトリ細胞と血液精巣関門

はの基底膜から管腔まで達する支持細胞で、発達中の生殖細胞を取り囲み栄養・機械的支持を提供する。

  • 隣接する同士は(02-3-cell-junctions)で連結し、(blood–testis barrier)を形成する
  • この関門によりは基底区画()と管腔区画(以降)に分けられる

💡 関門の実体は「だけ」ではない。 はに加え、・尿細管複合体・様結合が同じ場所に並存して構成される。しかも固定した壁ではなく、前細糸期・細糸期のを基底区画から管腔区画へ通すために、上皮周期の第VII期後半から第VIII期前半に一度分解して作り直される5。したがって「基底区画=、管腔区画=以降」という線引きは大枠であって、前細糸期はまだ基底区画側にいて、そこから関門をくぐると理解しておくとよい。

  • :、(発生期)、

⭐ が存在する理由は、減数分裂で生じる・精子は、体細胞と異なる(自己とは異なるタンパク質)をもつため、免疫系から隔離する必要があるから——この関門が破綻すると自己の免疫系が精子を「異物」と認識し、自己免疫性の不妊につながりうる。血液脳関門・はいずれも「特殊な内部環境を血液・免疫系から隔離する」という共通目的をもつ。

ライディッヒ細胞:精細管の外

の間の間質に単独または小集団で存在するは、テストステロンを分泌するステロイド産生細胞で、豊富な(sER, 01-2-membranous-organelles)をもつ好酸性の細胞質が特徴。下垂体の()により分泌が刺激される。

💡 「の中(・生殖細胞)」と「の外()」という空間的な分離は、精子形成と男性ホルモン産生という2つの機能が、互いに異なる制御系(→、→)で独立に調節されていることの組織学的な現れとして理解できる。

まとめ

  • 内ではから精子までの分化が基底膜側から管腔側へ向かって進行する。
  • は(および外質・様結合)によりを形成し、を基底区画と管腔区画に分ける。関門はを通すため上皮周期に合わせて一時的に作り直される。
  • は減数分裂産物(・精子)を免疫系から隔離する役割をもつ。
  • は外の間質での刺激下にテストステロンを分泌する。
  • ヒトのA型はAdark(予備幹細胞)とApale(自己複製する幹細胞)の2種で、精子形成の所要日数は古典的推定で約74日、標識による直接測定で64±8日。

出典

  1. 1.Human spermatogonial stem cells: a possible origin for spermatocytic seminoma(International Journal of Andrology・2011)ヒトのA型精祖細胞はAdarkとApaleの2種のみで、Adarkは予備幹細胞、Apaleが自己複製する幹細胞とされ、B型精祖細胞は1世代しかないためげっ歯類より精子形成効率が低い閲覧 2026-08-24
  2. 2.A subpopulation of human Adark spermatogonia behaves as the reserve stem cell(Reproduction・2020)核内空胞をもつAdark(AdVac)はヒト精祖細胞の約10%を占め89%が静止期にあり血管近傍に位置する予備幹細胞で、空胞をもたないAdarkとApaleは上皮周期を通じて活発に分裂する(増殖細胞の47%)閲覧 2026-08-24
  3. 3.The cycle of the seminiferous epithelium in humans: a need to revisit?(Journal of Andrology・2008)ヒト精子形成の基礎データは1960年代のもので精度が不十分であり、受け入れられている精子形成期間は約6日ずれている可能性があるため再検討が必要である閲覧 2026-08-24
  4. 4.A stable isotope-mass spectrometric method for measuring human spermatogenesis kinetics in vivo(The Journal of Urology・2006)重水を3週間摂取させ精子DNAへの標識取り込みをGC/MSで測ると、標識精子が射出精液に現れるまで平均64±8日(範囲42〜76日)であり、従来の推定(60〜70日)のうち短い側を支持する閲覧 2026-08-24
  5. 5.The blood-testis barrier: its biology, regulation, and physiological role in spermatogenesis(Current Topics in Developmental Biology・2005)血液精巣関門は密着結合だけでなく基底側外質特殊化・基底部尿細管球状複合体・デスモソーム様結合が並存して構成され、前細糸期および細糸期精母細胞を通すため上皮周期の第VII期後半から第VIII期前半に一度分解・再構築される閲覧 2026-08-24