組織病理学

組織病理学 · H1-003

急性心筋梗塞

Acute myocardial infarction

描出疾患
急性冠症候群

🧠 全体像:この標本は、核を失った好酸性心筋、、密なから、発症後およそ1〜3日のを考える。診断の中心は虚血性との炎症反応であり、波状線維だけで梗塞と断定しない。

標本の要点

項目 所見
臓器 心臓
標本 HE染色の心筋
病変
壊死形式
低倍率の鍵 との染色性の差、の
高倍率の鍵 質の好酸性化、核・横紋の消失、波状線維、
推定 密なと核消失から、おおむね発症後1〜3日

発症機序

多くは冠動脈のが破綻またはびらんを起こし、その上に形成された血栓がを急減させる。固定性の冠動脈狭窄を背景に、プラークの急性変化やなどの動的要因が重なる場合もある。心筋のが需要を下回ると、最もが低くの高いから不可逆的傷害が始まり、閉塞が持続すればへ波状に拡大する。

💡 を進む速さには実験的な裏づけがある。 イヌの閉塞モデルでは、40分の虚血で壊死はにとどまるが、壊死の割合は40分で38±4%、3時間で57±7%、6時間で71±7%、24時間で85±2%と、へのように進んだ1。ヒトの時間軸をそのまま与える数値ではないが、「再灌流が早いほど救済できる心筋が多い」という治療戦略の根拠になっている。

flowchart TD
    A["冠動脈プラークの破綻・びらん"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet plug'>血小板血栓</span>形成と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary blood flow'>冠血流</span>低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subendocardial'>心内膜下</span>心筋の虚血"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiomyocyte (cardiac myocyte)'>心筋細胞</span>の不可逆的傷害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulative necrosis'>凝固壊死</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil infiltration'>好中球浸潤</span>"]
    F --> G["マクロファージによる壊死組織除去"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Granulation tissue'>肉芽組織</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen fiber'>膠原線維</span>性瘢痕"]

観察の順序

低倍率

  1. 心筋の走行をし、染色性が均一な正常部と、好酸性が強く炎症細胞の多い梗塞部を区別する。
  2. 壊死部の広がりが・であることを確認する。
  3. が梗塞部に密集するか、辺縁に偏るかを見る。
  4. 出血、心筋間浮腫、既存瘢痕など、梗塞や再灌流を示唆する付加所見を探す。

高倍率

所見 意味
波状心筋線維 を失ったが隣接するに引かれて細く波打つ。早期変化だが単独では非特異的
細胞質の好酸性化 タンパク変性と消失を反映する
核・横紋の消失 の不可逆的傷害を支持する
密な 発症後1〜3日ごろに目立つ反応
心筋線維の 壊死組織が分解され始めていることを示す

⚠️ 好中球を「を貪食する主細胞」と説明しない。 好中球はを放出して壊死組織を分解するが、本格的な貪食と除去の中心は後から入るマクロファージである。

心筋梗塞の時間経過

おおよその時期 主な病理所見
数時間以内 所見は乏しい。辺縁に波状線維を認めうる
4〜24時間 好酸性化、初期、浮腫・小出血、好中球流入
1〜3日 核・横紋の消失を伴う、密な
3〜7日 マクロファージによるの除去、、辺縁充血
1〜2週 辺縁からが進入
2〜8週以降 が増加し、最終的に灰白色瘢痕となる

時間推定にはと再灌流の影響があり、単一所見ではなく複数所見を組み合わせる。剖検例でも心筋梗塞の組織学的同定と時期推定はしばしば不確実で、欧州心血管病理学会(AECVP)の見直しは、病理所見を臨床経過および臨床的に定義された梗塞の病型と突き合わせて解釈するよう求めている2。

臨床所見との対応

では胸痛、呼吸困難、心電図変化、上昇を認めうる。ただし、すべての心筋梗塞がST上昇を示すわけではなく、ST上昇型と非ST上昇型の双方がある。病理標本は壊死の存在とを示すが、臨床診断では症状、心電図、、画像を統合する。

鑑別

病変 鑑別点
心筋炎 炎症がに一致せず、リンパ球主体でへの傷害を伴うことが多い
カテコールアミン傷害 が目立ち、分布は斑状でと一致しないことがある
再灌流 、、浮腫が強い
心筋標本の 横帯を認めても周囲の壊死・炎症・出血を欠く
古い心筋梗塞 が失われ、低細胞性の密な性瘢痕が主体

まとめ

  • の基本病変は、低下による心筋のである。
  • から壊死が始まり、閉塞が続くとへ広がる。
  • この標本では波状線維、核消失、密なが重要で、発症後1〜3日程度を示唆する。
  • 波状線維だけでは非特異的であり、と炎症反応を合わせて診断する。

出典

  1. 1.The wavefront phenomenon of ischemic cell death. 1. Myocardial infarct size vs duration of coronary occlusion in dogs(Circulation・1977)イヌ回旋枝閉塞モデルで、40分の虚血では心筋壊死は心内膜下にとどまり、閉塞時間の延長とともに壊死が心外膜側へ波面として進行した。貫壁性壊死の割合は40分で38±4%、3時間で57±7%、6時間で71±7%、24時間で85±2%であり、心外膜側には少なくとも3時間、おそらく6時間まで救済可能な虚血心筋帯が残る閲覧 2026-08-24
  2. 2.Diagnosis of myocardial infarction at autopsy: AECVP reappraisal in the light of the current clinical classification(Virchows Archiv・2020)欧州心血管病理学会(AECVP)による剖検時心筋梗塞診断の見直し。ヒトの心筋梗塞の組織学的な同定と時期推定はしばしば不確実であり、とくに急性冠動脈閉塞を欠く場合は診断が難しい。病理所見は臨床的に定義された心筋梗塞の病型と照合して解釈する必要があり、心筋梗塞と他の心筋傷害を区別することが求められる閲覧 2026-08-24