組織病理学

組織病理学 · H1-015

膵脂肪壊死(肉眼標本)

Specimen: liponecrosis pancreatis

描出疾患
急性膵炎

🧠 全体像:膵のでは、膵臓と周囲脂肪を確認し、脂肪組織へ散在する「白色・黄白色のチョーク状斑点」を探す。この斑点は漏出したリパーゼが脂肪を分解し、がカルシウムと結合したを反映する。

標本の要点

項目 所見
臓器 膵臓と膵周囲脂肪組織
標本 固定された肉眼標本
病変 に伴う酵素的
色 白色から黄白色
質感 チョーク状・石鹸状
分布 膵周囲脂肪に多発性・斑状に広がる

発症機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pancreatitis'>急性膵炎</span>"] --> B["活性化<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic enzyme'>膵酵素</span>が膵外へ漏出"]
    B --> C["リパーゼが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triglyceride'>中性脂肪</span>を分解"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>を形成"]
    D --> E["カルシウムと結合して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saponification'>石鹸化</span>"]
    E --> F["肉眼的な白色・黄白色のチョーク状斑点"]

では、部に嵌頓した結石が膵液流出を妨げ、上昇とを引き起こす。アルコール関連膵炎も、への直接傷害や分泌・小膵管の変化を介して酵素の早期活性化を促す。

肉眼標本の読み方

1.臓器の位置関係を確認する

膵臓はに囲まれる。標本では膵実質そのものだけでなく、周囲の黄色い脂肪組織を広く観察する。

2.白い斑点を探す

正常脂肪の黄色を背景に、不規則な白色から黄白色の斑点が多数散在する。これがを含むであり、単なる脂肪の色むらではない。

3.分布と広がりを読む

病変は膵周囲脂肪に限らず、、腸間膜、後腹膜へ広がることがある。広い分布はが組織間隙へ漏出したことを示す。

💡 チョーク状斑点の多さは、重症度との飾りではない。 で放出されるは、に細胞内カルシウム放出とミトコンドリア阻害を介した壊死を起こす(飽和脂肪酸にはこの作用がない)。ヒトでは膵内の体積が大きいほどが広く、肥満マウスでを阻害すると・・腎肺障害・死亡が減った1。

⚠️ を「胆汁が膵臓へ逆流してを活性化する」だけで説明しない。中心となるのは共通出口の閉塞、膵液流出障害、である。オポッサムを用いた実験では、膵管だけをした群も、胆管と膵管を別々にした群も、胆汁逆流の起こる共通胆膵管をした群と同程度の性膵炎を発症し、胆汁逆流は発症に必須でも重症化因子でもなかった2。

組織像との対応

肉眼像 組織像
白色・黄白色斑点 壊死脂肪内の
不規則な斑状分布 の漏出範囲
周囲の赤褐色変化 出血・
軟化した膵実質 酵素的実質壊死

顕微鏡では核を失ったゴースト状と好塩基性を認める。詳しい検鏡所見は H1-012:膵 で確認する。

鑑別

肉 鑑別点
硬いを形成し、びまん性のチョーク状斑点とは異なる
線維性壁をもつ液体貯留が主体
化膿性病変 黄白色膿が貯留し、細菌感染とが主体
を背景に生きた組織へ沈着する

まとめ

  • 膵は、膵周囲脂肪の多発性白色・黄白色チョーク状斑点として見える。
  • 肉眼像の本体は、とカルシウムが結合したである。
  • 膵臓だけでなく周囲脂肪、、腸間膜、後腹膜まで観察する。
  • 組織像ではゴースト状と好塩基性に対応する。

出典

  1. 1.Lipotoxicity causes multisystem organ failure and exacerbates acute pancreatitis in obesity(Science Translational Medicine・2011)肥満者では膵内脂肪細胞の体積増加が急性膵炎時のより広範な膵壊死と関連し、急性膵炎が多臓器不全と結びついた。腺房細胞を用いた実験で不飽和脂肪酸は細胞内カルシウム放出、ミトコンドリア複合体I・Vの阻害、壊死を引き起こしたが、飽和脂肪酸にはこの作用がなかった。肥満(ob/ob)マウスで脂肪分解を阻害すると血清不飽和脂肪酸の上昇が抑えられ、腎障害・肺障害・全身性炎症・低カルシウム血症が防がれ、膵壊死と死亡率が低下した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Pancreatic duct obstruction triggers acute necrotizing pancreatitis in the opossum(Gastroenterology・1993)オポッサムで膵管のみの結紮、胆管と膵管を別々に結紮、共通胆膵管の結紮の3群を比較したところ、いずれの群も出血性壊死性膵炎を発症し重症度は同等であった。胆汁逆流が起こるのは共通管結紮群だけであり、共通管を介した胆汁逆流は膵炎の発症に必須ではなく、膵管閉塞に伴う膵炎の重症度を悪化させることもなかった閲覧 2026-08-24