組織病理学

組織病理学 · H1-017

肝腫瘍の中心壊死(肉眼標本)

Necrosis tumoris

🧠 全体像:は、増殖する腫瘍が不完全な腫瘍血管からの灌流を上回り、腫瘤中心部がに陥った状態である。肝標本では「多発する腫瘤」「生きた腫瘍の周辺部」「淡黄褐色の」「出血」を分けて読む。

標本の要点

項目 所見
臓器 肝臓
標本 固定された肝切面の肉眼標本
病変 多発性腫瘍結節と
腫瘍周辺 比較的均一な灰白色から淡褐色の
腫瘍中心 淡黄褐色の壊死と赤褐色の出血
注意点 多発性だけではとを確定できない

発症機序

flowchart TD
    A["腫瘍細胞が急速に増殖"] --> B["異常で不均一な腫瘍血管を形成"]
    B --> C["中心部への酸素・栄養供給が不足"]
    C --> D["腫瘤中心部の虚血"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedo necrosis'>中心壊死</span>"]
    B --> F["脆弱な血管が破綻"]
    F --> G["腫瘍内出血"]

は「血管新生が速すぎるから」ではなく、が不規則で機能不全な血管網の供給能力を上回るために生じる。壊死の形は腫瘍の種類、治療歴、感染の有無などでも変わる。

肉眼標本の読み方

1.結節数と分布を確認する

の円形腫瘤が内に多発している。多発性・境界明瞭な結節はを示唆するが、多中心性または転移を伴うも多発しうる。

💡 多発か単発かは確率を動かすだけである。 非硬変肝に生じたでは単発が67%と多いのに対し、硬変肝では単発は48%にとどまる1。結節数は背景肝の状態を反映する手掛かりであって、原発性か転移性かの決め手ではない。

2.周辺部と中心部を分ける

  • 腫瘤周辺のは、生存する腫瘍細胞が多い領域である。
  • 中心の淡黄褐色部は壊死を示唆する。
  • 赤褐色から黒褐色の部分は腫瘍内出血を示唆する。
  • 壊死部と生存部の境界は不規則で、各結節で程度が異なる。

💡 壊死の有無そのものが予後情報を持つ。 された単発小型(径3 cm以下)335例では46.9%にがあり、腫瘍径・と有意に相関し、壊死のある群は癌特異的全生存率・のいずれも不良だった2。は「腫瘤が大きくなった結果」であるだけでなく、増殖速度とを反映する悪性度のとして読む。

3.背景肝を観察する

背景肝に肝硬変性結節があるかを確認する。肝硬変はを支持する背景になるが、肉眼像だけで原発臓器や組織型を断定しない。オランダの1221例のコホートではの19%が非硬変肝に発生しており、非硬変例では女性、、あるいは背景肝疾患の危険因子をもたない例が多かった。腫瘍径は非硬変例のほうが大きい(中央値8 cm対4 cm)1。肝硬変がないことはを否定する根拠にならない。

⚠️ 「多発結節=」「肝の腫瘍=」という二つの短絡を避ける。原発性か転移性かは、組織像、、画像、既往歴を統合して判断する。

鑑別

病変 鑑別点
多発性・の境界明瞭な結節が多く、を伴いやすい
多発性 肝硬変を背景としうるが、非硬変肝にも発生する
液状のをもち、感染・が主体
びまん性肝硬変構築の一部で、を伴う大型腫瘤とは異なる
治療後腫瘍 塞栓術・・薬物療法後には広範な壊死を生じうる

組織像で確認する点

肉眼的ながかかは、組織像で確かめる。生存部から壊死部へ移る境界、腫瘍細胞の配列、血管侵襲、背景肝の線維化を評価し、必要に応じてで組織型を決める。肝細胞への分化を示す代表的なパネルはArginase-1・HepPar-1・の3者で、非肝性腫瘍でもHepPar-1は2.7%、は3.1%が陽性になるのに対しArginase-1陽性例はなく、Arginase-1がもっとも特異度が高い。単独マーカーではなく3者を組み合わせて判定する3。

まとめ

  • 肝腫瘍のは、が不完全な血流供給を上回ることで生じる。
  • 多発腫瘤では、生存する周辺部、淡黄褐色の壊死、赤褐色の出血を分けて観察する。
  • 多発性はを示唆するが、それだけで原発性・転移性を確定できない。
  • 最終診断には組織像、、画像、臨床情報が必要である。

出典

  1. 1.Hepatocellular carcinoma in cirrhotic versus noncirrhotic livers: results from a large cohort in the Netherlands(European Journal of Gastroenterology & Hepatology・2016)オランダ5施設の肝細胞癌1221例のうち19%は背景に肝硬変がなく、非硬変例では女性・非アルコール性脂肪性肝疾患・危険因子なしの割合が高いこと、非硬変肝の肝細胞癌は単発が多い(67%対48%)一方で腫瘍径は大きい(中央値8 cm対4 cm)ことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Tumor necrosis as a poor prognostic predictor on postoperative survival of patients with solitary small hepatocellular carcinoma(BMC Cancer・2020)肝切除された単発小型肝細胞癌(径3 cm以下)335例のうち46.9%(157例)に腫瘍壊死が認められ、腫瘍径(P=0.026)および脈管侵襲(P=0.003)と有意に相関し、壊死のある群は癌特異的全生存率・無再発生存率がいずれも不良だった。腫瘍壊死は生物学的悪性度の指標になりうる。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Arginase-1, HepPar-1, and Glypican-3 are the most effective panel of markers in distinguishing hepatocellular carcinoma from metastatic tumor on fine-needle aspiration specimens(American Journal of Clinical Pathology・2012)肝細胞癌と転移性腫瘍の鑑別ではArginase-1・HepPar-1・glypican-3の3者パネルが推奨され、非肝性腫瘍でのHepPar-1陽性2.7%・glypican-3陽性3.1%に対しArginase-1陽性は0%とArginase-1が最も特異度が高いことを確認した。閲覧 2026-08-24