組織病理学

組織病理学 · H1-024

大動脈粥状硬化症(肉眼標本)

Atheromatosis of the aorta

描出疾患
アテローム性動脈硬化症

🧠 全体像:は、内膜に脂質、、炎症細胞、、が蓄積し、脂質壊死性核心をが覆うを形成する病変である。肉眼では内膜面の黄白色で隆起した斑として見え、潰瘍、出血、血栓、石灰化、動脈瘤を伴うととなる。

標本の要点

項目 所見
臓器 大動脈
標本 内腔を開いた肉眼標本
基本病変 内膜面に多発・融合する黄白色〜灰白色の隆起性プラーク
表面 平滑なに加え、不整、陥凹、潰瘍状のを認めうる
プラーク内部 脂質・壊死性核心と、それを覆う
合併変化 、表面破綻、血栓、塞栓、石灰化、中膜弱化と動脈瘤

肉眼での観察順

  1. 大動脈内膜の平滑な正常部と、黄白色に隆起した病変部を比較する。
  2. 病変が点状・線状のか、明らかな厚みをもつ線維性かを分ける。
  3. 表面の、びらん、潰瘍、暗赤色の出血、付着血栓を探す。
  4. 硬い白色部は石灰化を疑い、壁の拡張や菲薄化があれば動脈瘤性変化を評価する。
  5. 分枝入口部に病変が強いかを確認する。

内膜面では多数の隆起性病変が融合し、一部は褐色〜暗赤色で表面不整を示す。単なるより進行した病変として読む。

プラーク形成

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial dysfunction'>内皮機能障害</span>・脂質滞留"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>の内膜内蓄積と修飾"]
    B --> C["単球流入・マクロファージ化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foam cells'>泡沫細胞</span>が集積<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty streak'>脂肪線条</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular smooth muscle cell'>血管平滑筋細胞</span>が内膜へ遊走・増殖"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen fiber'>膠原線維</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>を産生"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous cap'>線維性被膜</span>+脂質壊死性核心をもつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atheroma'>粥腫</span>"]
    G --> H["破綻・びらん・出血・血栓・石灰化"]

の表層をが覆い、内部に壊死、、、、マクロファージが含まれる。の厚さと炎症、壊死性核心の大きさはプラークの安定性に関係する。

病変の段階と合併症

病変 内容 臨床病理学的意義
内膜の集積 。必ずしも全てが進行になるわけではない
線維性 と脂質壊死性核心 、壁構築の変化
表面破綻・びらん 内容が血液へ露出 、
破綻などで内部へ出血 プラークの急速な拡大、不安定化
石灰化 壊死性組織への 壁の硬化、画像での可視化
中膜弱化 下でが減少し、弾性線維・が分解 動脈瘤形成、

💡 は「若ければほぼ全員にある」ので、見つけたこと自体の情報量は小さい。 した15〜34歳2,876例の剖検研究(PDAY)では、最年少の15〜19歳群でもすべての大動脈に内膜病変があり、でも半数超に認められた。頻度と広がりは30〜34歳群まで年齢とともに増え、は黒人でより広汎だったが隆起性病変には人種差がなかった。大動脈は総病変の頻度が高い一方、総病変に占める隆起性病変の割合はのほうが高い1。だから肉眼標本では、黄色い病変を「平坦な」と「厚みのある線維性」に分ける手順(観察順の2番)が意味をもつ。

⚠️ 動脈瘤は単に「石灰化して弾力が失われる」ために生じるのではない。高度のでは、厚い内膜による内腔側から中膜への栄養に加え、マクロファージなどが放出するプロテアーゼによる・コラーゲン分解、の減少が重なる。中膜の構造支持が失われた壁が血圧によるに耐えられなくなり、拡張して動脈瘤となる。石灰化は進行プラークに伴う変化ではあるが、それだけを動脈瘤の原因とみなさない。でも壁の変化の芯は同じで、の脱落との分解による中膜・外膜の菲薄化が進み、血圧によるが壁の強度を上回ったときに破裂する。破裂例の死亡率は65〜85%に達し、どの径でも破裂しうるがリスクは径とともに上がる2。

💡 大動脈のプラークは「その場の狭窄」よりとして効く。 60歳超の250例と対照250例をで比べたでは、・近位に厚さ4 mm以上のをもつ者が患者の14.4%に対し対照では2%で、危険因子を補正したのは9.1(95%信頼区間3.3〜25.2)だった。4 mm以上のは心房細動やとは関連せず、1〜3.9 mmののほうが70%以上のとしばしば併存した3。標本で潰瘍・付着血栓を探すのは、このの経路を見ているからである。

鑑別

病変 鑑別点
平坦またはわずかに隆起する黄色で、進行プラークほど硬く厚くない
石灰化は中膜にあり、典型的には粥状の脂質壊死性核心を作らず、も目立たない
壁の炎症・が中心で、病型により内膜や分枝狭窄を示す
から血液が中膜内へ入りを作る。表面の潰瘍だけとは異なる
血管壁表面に付着する血液成分の層状塊で、下床のプラークと区別して記載する

まとめ

  • 大動脈では、黄白色の隆起性が多発・融合する。
  • 組織学的なは、脂質壊死性核心とである。
  • 模式図に示される、マクロファージ、、脂質、壊死がプラークを構成する。
  • 破綻、出血、血栓、塞栓、石灰化、中膜弱化による動脈瘤が重要な合併変化である。

出典

  1. 1.Prevalence and extent of atherosclerosis in adolescents and young adults: implications for prevention from the Pathobiological Determinants of Atherosclerosis in Youth Study(JAMA・1999)外因死した15〜34歳2,876例の多施設剖検研究(PDAY)で、最年少の15〜19歳群でもすべての大動脈に内膜病変が、右冠動脈でも半数超に病変が認められたこと、病変の頻度と広がりは30〜34歳群まで年齢とともに増えること、脂肪線条は黒人でより広汎だが隆起性病変に人種差はないこと、総病変の頻度は右冠動脈より大動脈で高い一方、総病変に占める隆起性病変の割合は右冠動脈のほうが高いことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Abdominal aortic aneurysms(Nature Reviews Disease Primers・2018)腹部大動脈瘤は血管平滑筋細胞の脱落と細胞外基質の分解による中膜・外膜の菲薄化という壁構造の変化から生じ、血圧による壁応力が壁の強度を上回ったときに破裂すること、破裂例の死亡率は65〜85%であること、どの径でも破裂しうるが破裂リスクは径とともに上がること、喫煙・男性・家族歴が主要な危険因子で65歳超の男性に最も多いことを確認した。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Atherosclerotic disease of the aortic arch and the risk of ischemic stroke(New England Journal of Medicine・1994)60歳超の虚血性脳卒中250例と対照250例を経食道心エコーで比較した前向き症例対照研究で、上行大動脈・近位弓部に厚さ4 mm以上の粥腫をもつ者は患者の14.4%・対照の2%であり、危険因子補正後の虚血性脳卒中のオッズ比は9.1(95%信頼区間3.3〜25.2)だったこと、4 mm以上の粥腫は心房細動や頭蓋外内頸動脈狭窄と関連しない一方、1〜3.9 mmの粥腫は70%以上の頸動脈狭窄としばしば併存したことを確認した。閲覧 2026-08-24