組織病理学

組織病理学 · H1-023

びまん性肝脂肪変性(肉眼標本)

Specimen - diffuse hepatic steatosis

描出疾患
アルコール性肝疾患非アルコール性脂肪肝疾患

🧠 全体像:びまん性(diffuse hepatic steatosis)は、にが蓄積した状態である。肉眼では肝臓が腫大し、黄色く、軟らかく、切面が脂っぽく光沢を帯びる。初期のは原因を除けば可逆的だが、炎症とが加わると線維化・肝硬変へ進みうる。

標本の要点

項目 所見
臓器 肝臓
標本 肉眼標本
大きさ 腫大し、極端な例では4〜6 kgに達することがある
色調 びまん性の黄〜黄褐色
硬さ 軟らかい
被膜 張りがあり、表面は初期には平滑
切面 脂っぽい光沢を示し、基本的な小葉構築は初期には保たれる
の脂肪滴が大きくなり、核を辺縁へする化

肉眼での観察順

  1. 正常肝より大きく、辺縁が丸みを帯びているかを見る。
  2. 表面と切面が均一に黄色く、病変ではなくびまん性変化であることを確認する。
  3. 切面の光沢と脂っぽさ、軟らかさを確認する。
  4. 表面が平滑で構築が保たれると、結節・・萎縮を示す肝硬変を区別する。

黄色く腫大したと比較的平滑な表面は、線維化が前景に立つ前のびまん性に合う。

脂肪が蓄積する機序

脂肪量は、脂肪酸の流入・合成と、酸化・超低密度リポ蛋白(very-low-density lipoprotein:)としての搬出の釣り合いで決まる。

flowchart TD
    A["脂肪酸の肝流入増加<br>肥満・絶食・末梢<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>"] --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in the hepatocyte'>肝細胞内</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triglyceride'>中性脂肪</span>が増加"]
    B["脂肪酸合成の増加<br>インスリン抵抗性・過栄養"] --> E
    C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-oxidation'>β酸化</span>の低下<br>低酸素・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitochondrial damage'>ミトコンドリア障害</span>・過剰NADH"] --> E
    D["アポ蛋白合成・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very-low-density lipoprotein'>VLDL</span>分泌の低下<br>蛋白<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malnutrition'>栄養障害</span>・毒性傷害"] --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Macrovesicular fat'>大滴性脂肪</span>化"]
    F --> G["原因が除去されれば改善しうる"]
    F --> H["炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular injury'>肝細胞傷害</span>が持続"]
    H --> I["線維化"]
    I --> J["肝硬変"]

主な病因

病因 への寄与
アルコール エタノール代謝でが上昇し、を抑えて合成を促進する。アポ蛋白・代謝障害も加わる
代謝機能障害 肥満、2型糖尿病、、インスリン抵抗性により脂肪酸流入と合成が増える
絶食・急激な体重減少 末梢脂肪組織から肝臓への流入が増える
蛋白 アポ蛋白合成が低下し、として脂質を搬出できない
低酸素・薬物・毒物 ミトコンドリアでのや蛋白合成を障害する

⚠️ 飲酒関連肝障害を評価するエタノール量はmgではなくg単位で扱う。飲み方、性別、代謝・遺伝要因、併存肝疾患でもリスクが変わるため、固定した1日量だけで個人の発症を決めない。

現在の病名整理

旧称「」は、現在はを中心とする脂肪性肝疾患(steatotic liver disease:SLD)の枠組みへ移行している。飲酒と代謝異常は排他的ではなく、両者が重なる場合もある。2023年の多学会Delphiコンセンサス(56か国236名)は、を来す各病因を包む概念としてSLDを採用し、/NASHを/MASH(/)へ改称した。心代謝リスク因子5つのうち1つ以上をもつことが診断の要件で、代謝指標も既知の原因もない例はとされる。心代謝リスク因子をもちながら週140〜350 g(女性)・週210〜420 g(男性)を飲む例は、でもでもなくMetALDという中間の枠に置かれる1。旧称の/NASHは実習・試験ではまだ使われるので、両方の対応を覚えておく。

また、単純性が全例で一定の順番に「肝炎→肝硬変」と進むわけではない。非硬変期の脂肪性肝疾患で2回のを受けたスウェーデンの718例(生検間隔の中央値3.4年)では、組織学的に進行したのは30.4%にとどまり、単純性からへの進展は12.5%、肝硬変への到達は5.6%だった。残りは不変または改善である2。炎症、肝細胞、線維化が加わると進展リスクが上がる。アルコール関連肝障害では線維化が・周囲から始まり、進行するとがを囲む。虚血性傷害や結節の線維性置換もに加わりうる。一方、初期線維化は原因治療により改善しうるため、「線維化が始まれば完全に不可逆」とは限らない。

💡 「可逆」がどこまで示されているかを数字で押さえる。 生検で確認された293例に52週間のを行った前向き研究では、25%でが消失し、47%で activity scoreが低下し、19%で線維化が退縮した。体重減少が大きいほど改善率が高く、10%以上減量した群で最も高かった3。つまり「原因を除けば可逆」はだけでなく初期の線維化にも及ぶが、介入しても大半では線維化は退縮しない。可逆性は「起こりうる」であって「起こる」ではない。

肉眼的鑑別

病変 鑑別点
正常肝 赤褐色で、ほど黄色く腫大・軟化しない
赤褐色と黄褐色が混じるナツメグ状を示す
色調は一様でなく、充血や胆汁うっ滞を伴いうる。脂っぽい黄色の均一なだけではない
肝硬変 表面・切面にとを認め、進行例では硬く萎縮する
グリコーゲン蓄積 を示すが、典型的な脂っぽい黄色調とは異なる

まとめ

  • びまん性は、腫大・黄色・軟らかさ・脂っぽい光沢が肉眼上の鍵である。
  • 肝細胞では大きな脂肪滴が核を辺縁へする。
  • アルコールではの上昇、代謝機能障害ではインスリン抵抗性と脂肪酸流入増加が中心となる。
  • 原因を除けばは可逆的だが、炎症と線維化が持続すると肝硬変へ進みうる。

出典

  1. 1.A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature(Hepatology・2023)2023年の多学会Delphiコンセンサス(56か国236名、4回の調査)が脂肪性肝疾患(steatotic liver disease)を各病因を包む上位概念に採用し、NAFLDをMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)へ改称して心代謝リスク因子5つのうち1つ以上を診断要件としたこと、代謝指標も既知の原因もない例をcryptogenic SLDとしたこと、MASLDの条件を満たしつつ週140〜350 g(女性)・週210〜420 g(男性)飲酒する例をMetALDという別枠に置いたこと、steatohepatitisという語は病態概念として残されたことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Progression of non-alcoholic fatty liver disease and long-term outcomes: A nationwide paired liver biopsy cohort study(Journal of Hepatology・2023)非硬変期の脂肪性肝疾患で6か月以上あけて2回の肝生検を受けたスウェーデンの718例(生検間隔の中央値3.4年、初回は単純性脂肪化69.2%・非線維化脂肪性肝炎12.5%・非硬変性線維化18.2%)で、組織学的に進行したのは30.4%(218/718)にとどまり、単純性脂肪化から脂肪性肝炎への進展は12.5%(62/497)、肝硬変への到達は5.6%(40/718)だったこと、進行例は不変/改善例に比べ終末期肝疾患の発生率が高かった(23.8対11.4/1,000人年、補正ハザード比1.65)一方、全死因死亡率には差がなかったことを確認した。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis(Gastroenterology・2015)組織学的に確認された脂肪性肝炎293例に52週間の生活習慣介入を行った前向き研究(対再生検261例)で、25%(72例)が脂肪性肝炎の消失、47%(138例)がNAFLD activity scoreの低下、19%(56例)が線維化の退縮を示したこと、体重減少の程度が組織所見の改善と独立して関連し(オッズ比1.1〜2.0)、10%以上の減量群で改善率が最も高かったことを確認した。閲覧 2026-08-24