組織病理学

組織病理学 · H1-025

脾・腎アミロイドーシス(肉眼標本)

Amyloidosis of the spleen and kidneys

描出疾患
アミロイドーシス

🧠 全体像:全身性(systemic amyloidosis)では、ミスフォールドした前駆タンパク質からなるが細胞外へ沈着し、腎臓や脾臓を腫大させる。肉眼では「腫大した硬い臓器」「灰白色〜淡黄色」「半透明で蝋様の切面」を手がかりにし、確定にはと型判定が必要である。

標本の要点

項目 所見
臓器 両側腎臓と脾臓
標本 肉眼標本
腎臓 腫大し、淡色〜灰白色で蝋様の切面を示す。皮質が幅広く見えることがある
脾臓 腫大しうる。沈着分布により優位または優位の像をとる
病変の本体 細胞外の沈着
確認法 Congo red陽性と交差下の異常

アミロイド沈着の流れ

flowchart TD
    A["前駆タンパク質の過剰産生・構造不安定化"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='misfolding'>ミスフォールディング</span>"]
    B --> C["βシートに富む不溶性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloid fibril'>アミロイド線維</span>"]
    C --> D["細胞外へ沈着"]
    D --> E["実質を圧迫し、血管・基底膜・間質を障害"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal impairment'>腎機能障害</span>・蛋白尿<br>脾腫などの臓器障害"]

は慢性炎症だけに伴う病気ではない。由来のAL、由来のAA、由来のATTRなど、複数の前駆タンパク質が同じ線維構造を形成する1。

肉眼での観察順

  1. 標本に両側腎臓と脾臓が含まれることを確認する。
  2. 腎臓の大きさ、被膜面、皮質と髄質の境界、切面の淡色・蝋様光沢を見る。
  3. 脾臓の大きさと切面の色調を確認し、半透明なまたはびまん性の蝋様変化がないかを探す。
  4. 腫大の程度だけで診断せず、同様の肉眼像を作る他疾患を考える。

腎臓は淡色で腫大し、切面が滑らかで蝋様に見える。脾臓は腎臓より暗い赤褐色であり、肉眼所見だけから優位の「」か優位の「ラード脾」かを断定しない。沈着パターンは型とゆるく相関する(AL型はびまん性、LECT2型は型、多はAA型とAL-κの一部)ものの形態的な重なりが残るため、型の決定にはが要る2。

臓器ごとの沈着部位

臓器 主な 帰結
腎臓 糸球体・係蹄壁、細動脈・動脈壁、間質、 蛋白尿、、腎機能低下
脾臓・優位 内に状沈着 肉眼で半透明の顆粒が散る
脾臓・優位 壁・へびまん性沈着 蝋様でのラード脾
血管 中膜・外膜や基底膜周囲 壁肥厚、、血流障害

⚠️ は原則として細胞外に沈着する。腎では尿細管細胞内ではなく、や間質に沿って蓄積する。ただし「細胞外」はな線引きではなく、国際学会の委員会は、などで様の性質をもちうる細胞内タンパク質凝集体の意義を議論している1。

型の整理

旧来の呼び方 主な型 代表的背景
原発性 AL 形質細胞クローン、形質細胞骨髄腫など
続発性 AA 慢性炎症性疾患、症
遺伝性・加齢関連など ATTRほか TTR遺伝子変異、野生型TTR沈着など

「原発性/続発性」は学習上の大枠として有用だが、現在の診療では沈着タンパク質を同定してAL、AA、ATTRなどと分類する。は「A+前駆タンパク質の略号」で行い、2024年の改訂時点でヒトのタンパク質は42種が登録されている1。治療が型ごとに異なるため、Congo red陽性だけでAL型と決めてはならない。

💡 型の頻度と沈着様式は臓器ごとに偏る。 474例では免疫グロブリン由来が85.9%、AA型が7.0%、LECT2由来が2.7%で、LECT2型やアポリポ蛋白型はびまん性の間質沈着、フィブリノゲンA型は糸球体を閉塞する沈着という具合に、型ごとに沈着の場が違う3。免疫染色による型判定は特異度・感度が低く、レーザーマイクロダイセクションとでは検証セットで98%のが得られている4。

特殊染色との対応

腎組織での沈着分布、、所見は H1-021:() で確認する。確定後は免疫染色・やによる型判定を行う。

鑑別

病変 鑑別点
を示しうるが、Congo red陰性で、などが主体
進行例ではと表面変化が目立つ
白血病・リンパ腫浸潤 腎・脾腫を示しうるが、腫瘍細胞浸潤が主体で蝋様の無構造沈着とは異なる
脾うっ血 暗赤色で血液に富み、門脈圧亢進などの背景を伴う
・線維化 HEで均質に見えてもCongo redの特徴的な異常を示さない

まとめ

  • 腎・脾では、細胞外により臓器が腫大し、淡色・灰白色で蝋様となる。
  • 腎では糸球体、血管、間質、に、脾ではまたはに沈着する。
  • は尿細管細胞内ではなく、原則として細胞外へ沈着する。
  • 肉眼像だけでは確定できず、と型判定が必要である。

出典

  1. 1.Amyloid nomenclature 2024: update, novel proteins, and recommendations by the International Society of Amyloidosis (ISA) Nomenclature Committee(Amyloid・2024)抄録で確認した。国際アミロイドーシス学会の命名法委員会は2024年の改訂でも、アミロイドを線維を構成する前駆タンパク質で命名する一般原則(A+前駆タンパク質の略号。AL、AA、ATTRなど)を変えず、ヒトのアミロイド線維タンパク質は42種としている。神経変性疾患などでアミロイドまたはアミロイド様の性質をもちうる細胞内タンパク質凝集体の重要性が認識されつつあり、その意義を議論しているため、「細胞外沈着」は原則としての区別である。閲覧 2026-09-23
  2. 2.Proteomic Identification and Clinicopathologic Characterization of Splenic Amyloidosis(The American Journal of Surgical Pathology・2023)質量分析で型判定した脾アミロイドーシス69例では、AL型30例(43.5%)、LECT2型30例(43.5%)、AA型8例(11.6%)、フィブリノゲンα型1例(1.4%)で、沈着はびまん性・赤脾髄型・多結節型・腫瘤形成型・血管限局型の5パターンをとった。AL型の多くはびまん性、LECT2型の多くは赤脾髄型、多結節型はAA型とAL-κの一部で見られたが形態的な重なりが残るため、形態のみでの型判定はできず質量分析による型判定が必要である。脾腫はAA型でAL型・LECT2型より有意に多かった。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Renal amyloidosis: origin and clinicopathologic correlations of 474 recent cases(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2013)腎アミロイドーシス474例の連続症例では免疫グロブリン由来が407例(85.9%)、AA型が33例(7.0%)、白血球走化性因子2(LECT2)由来が13例(2.7%)、フィブリノゲンAα鎖由来が6例(1.3%)であった。沈着様式は型で異なり、LECT2型とアポリポ蛋白型はびまん性の間質沈着、フィブリノゲンAα鎖型は糸球体を閉塞する沈着を示した。免疫蛍光は軽鎖アミロイドーシス384例中28例(7.3%)で診断できず、質量分析の併用により97%超で由来を決定できた。閲覧 2026-08-24
  4. 4.Classification of amyloidosis by laser microdissection and mass spectrometry-based proteomic analysis in clinical biopsy specimens(Blood・2009)免疫染色などの従来のアミロイド型判定法は特異度・感度が低い。レーザーマイクロダイセクションとタンデム質量分析を組み合わせた手法は、訓練セット50例で特異度・感度100%、心アミロイドーシス41例の検証セットで98%の正診率を示した。したがってCongo red陽性の確認と型判定は別の作業である。閲覧 2026-08-24