組織病理学

組織病理学 · H1-035

脂肪変性を伴うニクズク肝

Hepar moschatum adiposum (HE)

描出疾患
慢性心不全
画像所見
ニクズク肝

🧠 全体像:は、右心不全などによる(chronic passive congestion)で生じる。小葉中心部は・低酸素によって暗赤色となり、は比較的保たれ、脂肪変性を伴うと淡黄色となるため、肉眼で状の斑紋を示す。

肝小葉内の酸素勾配

部位 別名 酸素化 うっ血時の変化
腺房zone 3 最も低い うっ血、・壊死を起こしやすい
zone 2 中間 病変進行に伴って障害が拡大
zone 1 最も高い 初期は比較的保たれ、脂肪変性が目立つことがある

💡 zone 3が傷むのは「低血圧だけ」では説明できない。 75 mmHg未満が15分以上続いた非傷31例ではが1例も起こらず、のピークは平均78 IUにとどまった。一方、31例(ピーク平均2,088 IU)は全例がをもち、94%に右心不全があった1。静脈圧が上がってうっ血した肝が、はじめて低灌流に耐えられなくなると読む。

発症機序

flowchart TD
    A["右心不全・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central venous pressure, CVP'>中心静脈圧</span>上昇"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic vein'>肝静脈</span>から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central vein'>中心静脈</span>へ圧が伝わる"]
    B --> C["小葉中心部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>うっ血"]
    C --> D["zone 3の低酸素"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocyte atrophy'>肝細胞萎縮</span>・壊死"]
    D --> F["脂肪変性"]
    E --> G["赤褐色の中心部"]
    F --> H["淡黄色の周辺部"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nutmeg'>ニクズク</span>状斑紋"]
    H --> I

HE標本の観察

  1. とを同定し、小葉の方向を決める。
  2. の拡張、、を探す。42例のでは、拡張とのが受動性うっ血の指標とされた2。
  3. 脂肪滴による透明と、比較的保たれた肝細胞を区別する。
  4. 内皮が単に「消失」したと決めず、周囲の壊死・萎縮と合わせて評価する。

標本ではにもが目立つ領域がある。古典的な肉眼像の淡黄色部はの脂肪変性を反映することが多いが、の分布は病期や併存病変で変わりうる。

早期像と晩期像

早期 晩期
・のうっ血 の壊死・萎縮
低酸素 間の
脂肪変性を伴う斑状外観 心臓性肝硬変へ進展しうる

の程度はと相関し、まで線維化が及んだ段階では線維化がない例や線維化のみの例よりが有意に高い2。晩期像は の晩期 で確認する。

まとめ

  • はの静脈圧上昇によるである。
  • 低酸素に弱いzone 3からうっ血、萎縮、壊死が始まる。
  • 中心部の暗赤色とうっ血、周辺部の比較的保たれた肝細胞・脂肪変性が斑紋を作る。
  • 病変が長期化すると間線維化へ進展する。

出典

  1. 1.Ischemic hepatitis: clinical presentation and pathogenesis(The American Journal of Medicine・2000)収縮期血圧75 mmHg未満が15分以上続いた非肝外傷の対照31例では虚血性肝炎は1例も生じず、ASTピークは平均78±72 IUにとどまった。一方、虚血性肝炎31例(ASTピーク平均2,088±2,165 IU)は全例に器質的心疾患があり、94%(29例)が右心不全を伴っていた。全身性低血圧・ショックのみでは虚血性肝炎は起こらず、右心不全による肝静脈うっ血が肝を低灌流に対して脆弱にする。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Congestive hepatic fibrosis score: a novel histologic assessment of clinical severity(Modern Pathology・2014)慢性心不全42例の肝生検の検討で、類洞拡張と中心静脈周囲(zone 3)の肝細胞萎縮・中心静脈周囲線維化が受動性うっ血の指標であった。うっ血性肝線維化スコアは右房圧と相関し(傾向のP<0.001)、門脈域の線維化を伴う段階(スコア2・3)は線維化なし(P<0.001)や中心静脈周囲線維化のみ(P=0.02)より右房圧が有意に高く、右房拡大(P=0.03)・右室拡大(P=0.02)とも関連した。閲覧 2026-08-24