組織病理学

組織病理学 · H2-047B

慢性膵炎(病理診断の要点)

HEPATOLOGY Chronic pancreatitis

描出疾患
慢性膵炎

🧠 全体像:(chronic pancreatitis)の診断では、腺房破壊、結合組織増加、慢性炎症、膵管拡張を一組の所見として評価する。膵上皮内腫瘍や線維化内の神経を認めても、それだけで浸潤性とは診断しない。

組織診断のチェックポイント

所見 読み方 落とし穴
腺房破壊・萎縮 正常腺房と比較して外分泌実質が減少 高度萎縮だけで原因は決まらない
結合組織増加 小葉内・小葉間の線維化 腫瘍性間質反応との鑑別が必要
慢性炎症 リンパ球・形質細胞など 関連疾患では分布と追加所見を評価1
膵管拡張 閉塞や結石を示唆 腫瘍による閉塞を除外する
膵管上皮変化 萎縮、過形成、 反応性異型と腫瘍性異型を区別
膵上皮内腫瘍(PanIN) の PanINだけでは浸潤癌ではない2
線維化内の神経 慢性炎症で取り込まれうる と短絡しない

💡 PanINはの膵で「よくある」。 膵を比較した研究では、PanIN病変の頻度は正常膵16%、膵炎60%、82%と段階的に上がる。Grade 3()に限っても、正常膵0%に対し膵炎では4%に見られる(では40%)。良性疾患でも最も低い段階のGrade 1Aは43%に認められ、この群は腫瘍性病変と非腫瘍性病変が混じったものと考えられている2。の膵にPanINがあること自体は、癌の証拠にならない。

💡 PanINの段階づけは2段階に変わった。 消化器腫瘍分類第5版(2019)はの異形成をlow-grade/high-gradeの2段階で報告する方式を全部位の標準とした3。その基になった2015年のBaltimoreコンセンサスは、膵のを・の2段階で報告することを提案し、従来のPanIN-2をに含め、をにあたる最上端(旧PanIN-3)だけに限定した。旧来のPanIN-1A/1B/2/3という4段階は文献や実習で今も見かけるので対応を覚えておく。同コンセンサスはまた、浸潤癌が膵管系へ逆行性に広がる現象を「intraductal spread of invasive carcinoma(colonization)」と呼んで独立させた——これは形態的にPanINを模倣するため、上の落とし穴の裏返しにあたる4。

慢性膵炎と膵管腺癌の鑑別

flowchart TD
    A["線維化した膵組織"] --> B["腺管の配置と形態を評価"]
    B --> C{"不規則な浸潤性異型腺管"}
    C -->|"乏しい"| D["腺房脱落・慢性炎症・膵管変化を統合"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pancreatitis, CP'>慢性膵炎</span>を支持"]
    C -->|"あり"| F["神経周囲・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphovascular invasion'>脈管侵襲</span>を検索"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic ductal adenocarcinoma, PDAC'>膵管腺癌</span>を疑い追加評価"]
を支持 を支持
小葉構築を保つ線維化 無秩序に浸潤する異型腺管
腺房脱落と膵管拡張 不完全腺管、核異型、異常な極性
炎症を伴う反応性上皮 神経周囲・
神経が線維化内に受動的に取り込まれる 腫瘍細胞が神経周囲腔へ進展

やはを模倣し、も上流膵管を閉塞して様変化を起こしうる。病理だけでなく、造影CT、・、、臨床経過を統合する。の国際コンセンサス(ICDC)が、膵組織所見を単独の決め手にせず、膵実質と膵管の画像・血清学・他臓器病変・組織所見の4つに任意項目のステロイド反応性を加えた5項目を、それぞれ診断的のlevel 1/level 2に分けて統合する設計をとっているのも同じ理由による1。

機能障害との対応

flowchart TD
    A["腺房脱落"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic insufficiency'>膵外分泌不全</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・体重減少"]
    A --> D["進行性線維化"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='islet'>膵島</span>障害"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type 3c diabetes mellitus'>膵性糖尿病</span>"]

原因、診断、治療の詳細は に集約する。

まとめ

  • 腺房破壊、線維化、慢性炎症、膵管変化を組み合わせて診断する。
  • PanINはだが、それ自体は浸潤癌ではない。
  • 神経の巻き込みとを形態的に区別する。

出典

  1. 1.International consensus diagnostic criteria for autoimmune pancreatitis: guidelines of the International Association of Pancreatology(International Association of Pancreatology・2011)国際膵臓学会による自己免疫性膵炎の国際コンセンサス診断基準(ICDC)。自己免疫性膵炎を1型と2型に分類し、膵実質と膵管の画像、血清学、他臓器病変、膵組織所見の4つに、任意項目であるステロイド治療への反応性を加えた5つの基本項目で診断する。組織所見だけで決めるのではなく、各項目を診断的信頼性に応じてlevel 1とlevel 2に分けたうえで統合し、1型・2型それぞれに確診と準確診を定義する。1型と2型の区別がつかない症例はAIP-not otherwise specified(AIP-NOS)とする閲覧 2026-08-24
  2. 2.Clinicopathological correlates of pancreatic intraepithelial neoplasia: a comparative analysis of 82 cases with and 152 cases without pancreatic ductal adenocarcinoma(Modern Pathology・2003)膵管腺癌82例と、原発性悪性腫瘍以外の理由(外傷・膵炎・膵転移)で膵切除を受けた152例の膵切除標本を比較した研究。PanIN病変の頻度は、正常膵16%、膵炎60%、膵管腺癌82%と段階的に上昇した。Grade 3のPanINは正常膵0%、膵炎4%、膵管腺癌40%だった。高異型度(Grade 2・3)PanINの頻度は膵管腺癌切除膵で59%、原発癌のない膵で17%である。良性疾患でもGrade 1A(粘液性膵管病変)は43%と高頻度に見られ、この群は腫瘍性病変と非腫瘍性病変の混合を表していると考えられる閲覧 2026-08-24
  3. 3.The 2019 WHO classification of tumours of the digestive system(Histopathology・2020)WHO消化器腫瘍分類第5版(2019)は前駆病変の異形成をlow-grade/high-gradeの2段階で評価する方式を全部位の標準とし、臨床的な曖昧さを理由に「carcinoma in situ(上皮内癌)」という用語の使用を強く非推奨としてhigh-grade dysplasiaに含めた閲覧 2026-08-24
  4. 4.A Revised Classification System and Recommendations From the Baltimore Consensus Meeting for Neoplastic Precursor Lesions in the Pancreas(The American Journal of Surgical Pathology・2015)膵の前駆病変(PanIN・IPMN・粘液性嚢胞腫瘍など)の評価と報告に関する2004年勧告の改訂。すべての前駆病変を低異型度・高異型度の2段階で報告することを提案し、従来のPanIN-2と中等度異型は低異型度に含める。高異型度は上皮内癌にあたる最上端のみに限定する。膵管腺癌を伴う切除膵の断端にPanINが存在しても予後的意味は無いとされる。浸潤癌が膵管系へ逆行性に進展する「intraductal spread of invasive carcinoma(colonization)」は、形態的に高異型度PanINやIPMNを模倣しうるため独立の用語として扱う閲覧 2026-08-24