組織病理学

組織病理学 · H2-047A

慢性膵炎

Chronic pancreatitis

描出疾患
慢性膵炎
疾患
IgG4関連疾患

🧠 全体像:(chronic pancreatitis)は、持続・反復する膵傷害により、実質線維化、腺房脱落、膵管変化を来す不可逆的な線維炎症性疾患である。外分泌機能が先に障害され、進行するとも失われてを生じる。

原因と病型

アルコールは重要な原因だが、単独で決めつけない。喫煙、、反復性、、などの代謝性因子、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、を含めて評価する。

病型・原因 主な特徴
毒性・代謝性 アルコール、喫煙、など
閉塞性 膵管狭窄、結石、腫瘍などの上流に生じる
遺伝性 PRSS1、SPINK1、CFTR、CTRCなどが関与
自己免疫性 関連疾患を含み、を模倣しうる。1型と2型に分ける1
後 壊死と修復の反復が線維化へ進展
特発性 上記のいずれも同定できないもの。若年型・がある

💡 この表の並びには名前がある——TIGAR-O。 Toxic-metabolic(毒性・代謝性)、Idiopathic(特発性)、Genetic(遺伝性)、Autoimmune(自己免疫性)、Recurrent and severe acute pancreatitis(反復性・重症)、Obstructive(閉塞性)の頭文字である。2001年の初版が2019年に第2版(TIGAR-O_V2)へ改訂され、短縮形と詳細形が用意された。重要なのは、これが単一の病因を1つ選ぶ分類ではないというである。個々の患者で複数の因子が重なって進行に寄与しうることを前提に、階層的なチェックリストとして記録・追跡し、を助けるとして作られている2。冒頭の「アルコール単独で決めつけない」はこの考え方そのものである。

💡 は1型と2型に分ける。 国際膵臓学会のは、①膵実質と膵管の画像、②血清学、③他臓器病変、④膵組織所見の4つを基本項目とし、これに⑤ステロイド反応性という任意項目を加えて診断する。各項目は診断的に応じてlevel 1とlevel 2に分けられ、1型・2型それぞれにと準が定義されている。1型は関連疾患の膵病変にあたり、血清学と他臓器病変が効くのに対し、2型は血清学が役に立たず組織所見が決め手になる。症例によっては1型か2型か決められないことがあり、その場合はAIP-not otherwise specified(AIP-NOS)と呼ぶ——「型が決まらない」こと自体が基準に織り込まれている1。

病理形態

所見 意味
小葉内・小葉間線維化 結合組織の増加と実質置換
腺房の減少・萎縮 低下の形態基盤
膵管拡張 閉塞、蛋白栓、結石を伴うことがある
膵管上皮の変化 萎縮、過形成、を示しうる
慢性炎症細胞浸潤 リンパ球・形質細胞などが線維化に伴う
硬化・石灰化 肉眼的に硬い膵、拡張膵管、石灰化を形成
膵上皮内腫瘍(PanIN) 併存しうるで、そのものの定義所見ではない

正常腺房が残る領域と、腺房破壊・線維化が進んだ領域を比較して病変をする。線維化内に神経が取り込まれることはあるが、「巻き込まれた神経」だけでのと判定しない。

不可逆的機能障害への流れ

flowchart TD
    A["持続・反復する膵傷害"] --> B["腺房傷害と慢性炎症"]
    B --> C["実質線維化"]
    C --> D["腺房脱落"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic insufficiency'>膵外分泌不全</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・体重減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>欠乏"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='islet'>膵島</span>障害"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type 3c diabetes mellitus'>膵性糖尿病</span>"]

診断

flowchart TD
    A["反復する上腹部痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='back pain'>背部痛</span>"] --> B["造影CTまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance cholangiopancreatography'>MRCP</span>"]
    B --> C{"石灰化・萎縮・膵管変化"}
    C -->|"明確"| D["原因と合併症を評価"]
    C -->|"不明だが疑いが高い"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic ultrasonography, EUS'>超音波内視鏡</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secretin-enhanced MRCP'>セクレチン負荷MRCP</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal elastase'>便エラスターゼ</span>・栄養・血糖評価"]
    E --> F

進行例ではやリパーゼが正常でも除外できない。はがあるため、単なる診断の第一選択ではなく、主に膵管結石・狭窄などの治療に用いる。線維化、閉塞性変化、新規黄疸や体重減少がある場合はを除外する。

治療と合併症

問題 治療の軸
原因・進行因子 、禁煙、原因性閉塞や代謝異常への対応
食事とともに補充、十分な栄養、・骨量評価
疼痛 非オピオイド鎮痛を基礎に、では内視鏡またはを検討
膵管結石・狭窄 病変に応じ、、手術を専門チームで選択
栄養と血糖を一体管理し、低血糖にも注意
・ 症状、感染、出血、閉塞があれば介入

疼痛を伴う閉塞では、手術適応がある患者は反復に先立って外科評価を行う。が拡張しオピオイドを使い始めて間もない疼痛性88例の(ESCAPE)では、群は内視鏡先行群より18か月積算のIzbickiが低く(37対49、群間差マイナス12点、95%信頼区間マイナス22〜マイナス2、P=0.02)、介入回数の中央値も1回対3回と少なかった。ただし追跡終了時の疼痛消失率の差は有意ではなく(58%対39%、P=0.10)、差が長期に持続するかは未確認である3。

ではリスクが上昇するが、すべてのに同一の監視法を適用するのではなく、遺伝性高リスク群などを専門的に評価する。

💡 「リスク上昇」の実際の大きさ。 2015例の国際コホートでは、のは26.3(95%信頼区間19.9〜34.2)と大きいが、これは逆因果を除くため追跡5年以上に限っても14.4と高いままだった。一方、は診断から10年で1.8%、20年で4.0%にとどまる4。比で見れば桁違いに高く、絶対数で見れば大半は発症しない——に一律の画像監視を敷かない理由がここにある。

まとめ

  • は線維化、腺房脱落、膵管拡張を伴う不可逆的疾患である。
  • 外分泌不全から・、からを来す。
  • PanINや神経の巻き込みを単独で癌の根拠にせず、浸潤性異型腺管を検索する。
  • 臨床管理の詳細は で確認する。

出典

  1. 1.International consensus diagnostic criteria for autoimmune pancreatitis: guidelines of the International Association of Pancreatology(International Association of Pancreatology・2011)国際膵臓学会による自己免疫性膵炎の国際コンセンサス診断基準(ICDC)。自己免疫性膵炎を1型と2型に分類し、膵実質と膵管の画像、血清学、他臓器病変、膵組織所見の4つに、任意項目であるステロイド治療への反応性を加えた5つの基本項目で診断する。各項目は診断的信頼性に応じてlevel 1とlevel 2に分けられ、1型・2型それぞれについて確診と準確診が定義される。症例によっては1型と2型の区別がつかないことがあり、その場合はAIP-not otherwise specified(AIP-NOS)とする閲覧 2026-08-24
  2. 2.Pancreatitis: TIGAR-O Version 2 Risk/Etiology Checklist With Topic Reviews, Updates, and Use Primers(Clinical and Translational Gastroenterology・2019)TIGAR-Oは、反復性急性膵炎・慢性膵炎および重複する膵疾患の主要な危険因子と成因を、Toxic-metabolic(毒性・代謝性)、Idiopathic(特発性)、Genetic(遺伝性)、Autoimmune(自己免疫性)、Recurrent and severe acute pancreatitis(反復性・重症急性膵炎)、Obstructive(閉塞性)の6群に並べた分類体系である。2001年の初版以降の知見を受けて2019年に第2版へ改訂され、短縮形と詳細形が用意された。単一の病因を選ぶ分類ではなく、個々の患者で複数の因子が組み合わさって進行に寄与しうることを前提に、階層的なチェックリストとして記録・追跡し治療選択を助ける道具として設計されている閲覧 2026-08-24
  3. 3.Effect of Early Surgery vs Endoscopy-First Approach on Pain in Patients With Chronic Pancreatitis: The ESCAPE Randomized Clinical Trial(JAMA・2020)主膵管が拡張し、強オピオイドを2か月以内・弱オピオイドを6か月以内に開始したばかりの疼痛性慢性膵炎88例を、オランダ30施設で早期手術(無作為化後6週以内の膵ドレナージ手術)44例と内視鏡先行44例に割り付けた無作為化比較試験。18か月間で積算したIzbicki疼痛スコアは早期手術37対内視鏡先行49で、群間差マイナス12点(95%信頼区間マイナス22〜マイナス2、P=0.02)と早期手術が優れた。追跡終了時の完全または部分的疼痛消失は58%対39%(P=0.10)、介入回数の中央値は1回対3回で早期手術のほうが少なかった。差が長期に持続するかどうかと再現性についてはさらなる研究が必要とされた閲覧 2026-08-24
  4. 4.Pancreatitis and the risk of pancreatic cancer. International Pancreatitis Study Group(The New England Journal of Medicine・1993)6か国の施設から集めた慢性膵炎2015例の多施設歴史的コホート研究。平均7.4年の追跡で56例に膵癌が発生し、年齢・性別で調整した期待値2.13に対する標準化罹患比は26.3(95%信頼区間19.9〜34.2)だった。追跡2年以上に限ると16.5、5年以上に限ると14.4となお高い。追跡2年以上の対象での累積膵癌発生率は、膵炎診断から10年で1.8%(95%信頼区間1.0〜2.6%)、20年で4.0%(95%信頼区間2.0〜5.9%)であった。危険上昇は性別・国・膵炎の型によらないと結論された閲覧 2026-08-24