組織病理学

組織病理学 · H2-046

S状結腸憩室症・ポリポーシスとS状結腸穿孔

Diverticulosis et polyposis sigmae + perforatum sigmae

描出疾患
憩室症・憩室炎

🧠 全体像:S状結腸(sigmoid diverticulosis)は、粘膜・がの脆弱部から外方へ突出する後天性の多発である。炎症が加わるととなり、膿瘍や穿孔へ進展しうる。併存するポリープ状病変は憩室とは別に組織型を評価する。

用語の区別

用語 定義・要点
憩室 腸管内腔と交通する突出
炎症を伴わない憩室の存在
憩室周囲の炎症
膿瘍、穿孔、瘻孔、狭窄・閉塞などを伴う
ポリープ から隆起する病変で、・・炎症性などを組織診断する

「」と「」は同義ではない。多発するポリープ状病変があれば、炎症性、、腺腫、遺伝性などを区別する。

憩室形成から穿孔まで

flowchart TD
    A["加齢・結腸壁構造・運動異常など"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental'>分節性</span>収縮と局所内圧上昇"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasa recta'>直血管</span>貫通部の筋層脆弱部"]
    C --> D["粘膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submucosa'>粘膜下層</span>の外方突出"]
    D --> E["S状結腸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diverticulosis'>憩室症</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impacted stool (fecal mass)'>便塊</span>停滞・微小傷害"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diverticulitis'>憩室炎</span>"]
    G --> H["周囲膿瘍"]
    G --> I["穿孔・腹膜炎"]

低だけを単一原因とみなすのは単純化である。結腸運動、局所内圧、加齢性壁変化、結合組織、などが複合的に関与する。

⚠️ 「不足が憩室を作る」という説は支持されていない。 を受けた2104例のでは、摂取が多いほどが少ないという関係は認められず、むしろ摂取量最高四分位のほうが最低四分位よりが高かった(比1.30、95%信頼区間1.13〜1.50)。総・穀物由来・水溶性・不溶性のどれで計算しても同じ向きだった。便秘も危険因子ではなく、排便回数が週15回を超える群のほうがの危険が70%高かった。運動不足・脂肪摂取・赤身肉摂取もと関連しなかった。著者らは無症候性の危険因子についての従来の仮説そのものを見直すべきだとしている1。ただし再発予防のとしては、質のよい食事・正常な・・禁煙・の回避が今も推奨されており、遺伝的因子の寄与も認められている2。

病理と臨床

状態 主な所見 主な症状
無症候性 多発する 多くは無症状
症候性非 明らかな炎症を伴わない憩室 間欠的左下腹部痛、膨満、
の傷害 無痛性となりうる
急性 憩室周囲の 左下腹部痛、圧痛、発熱
膿瘍形成 限局性 発熱、炎症反応、腫瘤
の腹腔内流出 、敗血症

診断と治療の安全な流れ

flowchart TD
    A["左下腹部痛・発熱"] --> B["造影CTで炎症範囲と合併症を評価"]
    B --> C{"膿瘍・穿孔・閉塞"}
    C -->|"なし"| D["外来または入院で支持療法を個別化"]
    C -->|"あり"| E["抗菌薬と緊急外科評価"]
    E --> F["適応に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='percutaneous drainage'>経皮的ドレナージ</span>"]
    E --> G["腹膜炎・制御不能なら手術"]

免疫正常で軽症の非では抗菌薬を選択的に用いる場合があるが、膿瘍、穿孔、、免疫不全では抗菌薬とが必要である2。穿孔が疑われる急性期に通常のを診断目的で行わず、まずで評価する2。は慢性期の食生活の一部として検討するが、穿孔やの治療にはならない。

💡 抗菌薬を「選択的に」と書ける根拠。 で確認した初回・左側・非528例を経過観察と抗菌薬にした試験(DIABOLO)では、回復までのが14日対12日で有意差なく、への進展(3.8%対2.6%)、再発(3.4%対3.0%)、(3.8%対2.3%)、死亡(1.1%対0.4%)のいずれにも差がなかった。入院期間はむしろ経過観察群で短かった3。ただしこの領域のは3件しかなく、Cochraneレビューは合併症・緊急手術・再発のいずれについても抗菌薬の効果は「不確実」でエビデンスの質は低いと評価している4。「抗菌薬は不要」と断定できる段階ではなく、「ルーチンではなく選択的に」という言い方がこの不確かさを反映している。

💡 エピソード回数でを決めない。 になる危険は初回発症時が最も高く、回数を重ねるほど危険が積み上がるわけではない。したがって「2回目だから切る」という回数基準は推奨されず、重症度・患者の価値観・利益と害を個別に検討して決める。また、まれに大腸悪性腫瘍がとされるため、1エピソード後にを行うかどうかは既往・直近の・重症度と経過から判断する2。

まとめ

出典

  1. 1.A high-fiber diet does not protect against asymptomatic diverticulosis(Gastroenterology・2012)外来大腸内視鏡を受けた30〜80歳の2104例を対象とした横断研究。憩室症の有病率は加齢とともに上昇したが、食物繊維の摂取が多いほど憩室症が減るという関係は認められず、むしろ摂取量最高四分位は最低四分位より有病率が高かった(有病率比1.30、95%信頼区間1.13〜1.50)。この傾向は総食物繊維・穀物由来食物繊維・水溶性・不溶性のいずれで計算しても同じだった。便秘は危険因子ではなく、排便回数が週15回を超える群はむしろ憩室症の危険が70%高かった(有病率比1.70、95%信頼区間1.24〜2.34)。運動不足・脂肪摂取・赤身肉摂取のいずれも憩室症と関連しなかった。無症候性憩室症の危険因子についての仮説は見直しが必要であると結論した閲覧 2026-08-24
  2. 2.AGA Clinical Practice Update on Medical Management of Colonic Diverticulitis: Expert Review(American Gastroenterological Association・2021)結腸憩室炎の内科的管理に関するAGAの14項目の推奨。診断にはしばしばCTが必要で、まれに大腸悪性腫瘍が憩室炎と誤診される。1エピソード後に大腸内視鏡を行うかは、既往・直近の大腸内視鏡・重症度と経過によって決める。免疫正常で軽症の非複雑性急性憩室炎では抗菌薬をルーチンではなく選択的に用いてよいが、免疫不全例には強く推奨される。複雑性憩室炎になる危険は初回発症時が最も高い。待機的S状結腸切除をエピソード回数だけを根拠に勧めるべきではなく、重症度・患者の価値観・利益と害を個別に検討して決める。再発予防には質のよい食事・正常な体格指数・身体活動・禁煙・(心血管二次予防のアスピリンを除く)非ステロイド性抗炎症薬の回避が挙げられるが、遺伝的因子も憩室炎の危険に寄与する閲覧 2026-08-24
  3. 3.Randomized clinical trial of observational versus antibiotic treatment for a first episode of CT-proven uncomplicated acute diverticulitis(The British Journal of Surgery・2017)CTで確認した初回・左側・非複雑性急性憩室炎528例をオランダ22施設で経過観察群と抗菌薬群に無作為に割り付けた試験(DIABOLO)。回復までの期間中央値は経過観察14日対抗菌薬12日で有意差がなく(回復のハザード比0.91、P=0.151)、複雑性憩室炎3.8%対2.6%、遷延性憩室炎7.3%対4.1%、再発3.4%対3.0%、S状結腸切除3.8%対2.3%、再入院17.6%対12.0%、死亡1.1%対0.4%といずれの副次評価項目にも有意差がなかった。入院期間は経過観察群のほうが有意に短かった(2日対3日、P=0.006)。非複雑性憩室炎では抗菌薬を用いない経過観察が適切でありうると結論した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Antibiotics for uncomplicated diverticulitis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2022)非複雑性急性憩室炎に対する抗菌薬のCochraneシステマティックレビュー。抗菌薬あり・なしを比較した無作為化比較試験は3件のみで、短期合併症にはほとんど差がない可能性があり(リスク比0.89、95%信頼区間0.30〜2.62、1329例、確実性は低い)、30日以内の緊急手術も差が不確実だった(リスク比0.47、95%信頼区間0.13〜1.71)。合併症・緊急手術・再発・待機的結腸切除・晩期合併症のいずれについても抗菌薬の効果は不確実で、エビデンスの質は低い。憩室炎は感染症というより炎症性疾患ではないかという危険因子の知見が、抗菌薬使用に疑問を投げかけている閲覧 2026-08-24