組織病理学

組織病理学 · H2-111B

軟骨腫

SPECIMEN - Chondroma

🧠 全体像:はからなる良性腫瘍で、手足の小骨に好発する。・骨髄が母床の骨と連続する骨軟骨腫(osteochondroma)とは異なり、は骨の内部や表面に軟骨組織そのものが増殖する点が組織発生上の違いである。

病型

病型 発生部位
内で発生する
骨表面()で発生する

いずれも手足の小骨(指骨・・など)に好発するが、・に生じることもある。

骨軟骨腫との違い

項目 () 骨軟骨腫
病変の主体 軟骨組織そのもの を持つ骨性隆起
との 通常連続しない(髄内に軟骨性として存在) 母床の・骨髄と連続する
好発部位 手足の小骨 (膝周囲など)
孤発例ではまれ、多発例(・Maffucci症候群)で上昇 孤発例ではまれ、遺伝性多発例で上昇

骨軟骨腫の組織学的特徴・多発例の遺伝学的背景はを参照する。

多発性軟骨腫症候群

flowchart TD
    A["受精後に生じたIDH1・IDH2遺伝子の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic mosaic mutation'>体細胞モザイク変異</span>"] --> B["変異細胞が発生初期に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mosaic pattern'>モザイク状</span>に分布"]
    B --> C["複数部位の軟骨性前駆組織で異常増殖"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long bone'>長管骨</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flat bone'>扁平骨</span>に多発する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Enchondroma'>内軟骨腫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ollier disease'>Ollier病</span>)"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Enchondroma'>内軟骨腫</span>+軟部組織血管腫(Maffucci症候群)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chondrosarcoma'>軟骨肉腫</span>への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malignant transformation'>悪性転化</span>リスク上昇"]
    E --> F
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Angiosarcoma'>血管肉腫</span>など他の悪性腫瘍のリスクも上昇"]
症候群 特徴
・に多発する。(家系内で遺伝しない)で、IDH1・IDH2遺伝子の受精後(体細胞)モザイク変異が背景にある1
Maffucci症候群 多発に軟部組織血管腫を合併する。と同様にIDH1・IDH2のが背景で、家族内遺伝はしない1

💡 の根拠。 両症候群40例のうち37例で少なくとも1つの腫瘍にIDH1またはIDH2変異が認められ、そのうち65%はR132C置換をきたす変異だった。さらに、2個以上の腫瘍を調べた19例中18例では同一個体のすべての腫瘍が同じIDH1 Arg132変異を共有し、12例中2例では非腫瘍組織にも低頻度で変異が検出された。この「同一個体の全病変が同じ変異を共有し、非腫瘍組織にもわずかに存在する」という所見が、受精後早期に生じたという理解の直接の根拠である1。

⚠️ ・Maffucci症候群はいずれもへのリスクがより明らかに高く、Maffucci症候群ではさらになど他の悪性腫瘍のリスクも上昇する。両症候群とも生殖細胞系列ではなくの異常であるため、患者の子への遺伝は通常想定しない一方、罹患者本人には長期的な経過観察が必要である。急速な増大、新規の疼痛、画像上のはを疑う所見であり、精査の対象になる。

💡 リスクは病変の分布で大きく変わる。 欧州13施設の144例・Maffucci症候群17例(計161例)ではのは全体で40%だったが、が手足の小骨のみに限局する群では15%にとどまり、・・骨盤に及ぶ群では43〜46%だった。骨盤に病変があるとリスクが上昇し(3.8、p=0.001)、これらは年齢依存的に増えるため生涯リスクとしてはさらに高くなりうる。したがって定期的なスクリーニングの重点は、・(特に骨盤)に病変をもつ患者に置かれる2。

治療

治療の基本はまたは切除であり、不完全な切除では再発しうる。多発例では複数病変の管理と長期的なの監視を要する。

⚠️ 良性のとは組織像だけではほぼ区別できない。 良性の異型軟骨病変とgrade 1は組織学的にほぼ判別不能で、細胞密度(軟骨病変は概して低細胞密度、grade 1は)に傾向的な差があるにとどまる。鑑別には、病変の大きさ、石灰化に乏しい成分の存在、隣接皮質の著明な菲薄化・破綻、膨張性のといった画像・を合わせて判断する3。この鑑別の詳細はトピックH2-125Bに整理してある。

骨腫瘍全般の分類・比較(骨腫、、、骨軟骨腫、、、など)は骨腫瘍・、疫学・病因・は骨腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断を参照する。

まとめ

  • は・骨髄とのを持たない腫瘍で、母床の骨と連続する骨軟骨腫とは組織発生が異なる。
  • は内、は骨表面に発生し、いずれも手足の小骨に好発する。
  • ・Maffucci症候群はIDH1・IDH2のによるの多発症で、へのリスクが孤発例より高い。
  • Maffucci症候群は軟部組織血管腫を合併し、など他の悪性腫瘍のリスクも上昇する。

出典

  1. 1.Ollier disease and Maffucci syndrome are caused by somatic mosaic mutations of IDH1 and IDH2(Nature Genetics(Amary MF, Damato S, Halai D, et al.)・2011)Ollier病・Maffucci症候群の40例中37例で、少なくとも1つの腫瘍にIDH1またはIDH2の変異が認められ、そのうち65%はタンパクレベルでR132C置換をきたす変異であったこと。2個以上の腫瘍を解析した19例中18例では、同一個体のすべての腫瘍が同じIDH1 Arg132変異を共有していたこと。12例中2例では非腫瘍組織にも低頻度で変異DNAが検出されたこと。これらの所見は、IDH1・IDH2変異がこれらの症候群において受精後(post-zygotic)早期に生じる事象であるとするモデルと矛盾しないこと閲覧 2026-08-24
  2. 2.Incidence, predictive factors, and prognosis of chondrosarcoma in patients with Ollier disease and Maffucci syndrome: an international multicenter study of 161 patients(The Oncologist(Verdegaal SH, Bovée JV, Pansuriya TC, et al.)・2011)欧州13施設のOllier病144例・Maffucci症候群17例(計161例)の後方視的研究で、軟骨肉腫の発生率は全体で40%であったこと。内軟骨腫が手足の小骨のみに限局する群(18%)では軟骨肉腫の発生は4例(15%)にとどまったのに対し、長管骨・肩甲骨・骨盤に及ぶ群では43%、両者に及ぶ群では46%であったこと。骨盤に内軟骨腫がある場合に軟骨肉腫発生リスクが上昇すること(オッズ比3.8、p=0.001)。年齢依存性があるため生涯リスクとしてはさらに高くなりうること、長管骨・体軸骨格(特に骨盤)に病変をもつ患者が定期的なスクリーニングを要する集団として同定されること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Enchondroma(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Biondi NL, Tiwari V, Varacallo MA)・2024)内軟骨腫と軟骨肉腫grade 1の鑑別で、皮質の菲薄化・破綻、腫瘍の拡張、軟部組織への進展が悪性・進行病変を示唆すること、病変の大きさ・石灰化に乏しい成分の存在・隣接皮質の著明な菲薄化・膨張性軟部腫瘤が悪性を疑う所見であること、組織学的には良性の異型軟骨病変と軟骨肉腫grade 1がほぼ判別不能である一方、軟骨病変が概して低細胞密度なのに対し軟骨肉腫grade 1は高細胞密度を呈することを確認した閲覧 2026-08-24