生理学

生理学 · 1.5

静止膜電位の成立。電気緊張電位の成立と性質。

The development of the resting membrane potential. The development and properties of the electrotonic potential.

応用トピック
生命を脅かす電解質異常(Na・K・Ca)の補正低K血症・高K血症小児のNa・K異常:低/高Na血症・低/高K血症

🧠 は「各イオンが自分のに向かって膜電位を引っ張り合った綱引きの結果」だと理解する。 綱引きの勝者はそのイオンへの膜の透過性の高さで決まる——静止時はK⁺透過性が圧倒的に高いため、Em(membrane potential)はEK(equilibrium potential for K⁺)に近いが、わずかに漏れ込むNa⁺のせいでEKよりやや正側にずれる。GHK式はこの「透過性で重み付けしたの」を数式化したものにすぎない。

静止膜電位とは

が活動していないときに測定される、細胞内外の。神経細胞などでは活動電位と活動電位の間の状態を指す。

細胞種 Em
骨格筋 −90 mV
ニューロン −70 mV
赤血球 −10 mV

拡散電位と平衡電位

  • : イオンが濃度勾配に従って拡散する際に膜を介して生じる。大きさは濃度勾配の大きさに、符号はそのイオンの電荷に依存する。イオンのが=を生む(例:KClがK⁺とCl⁻に解離して拡散する過程ではにが生じるが、最終的には解消する)。
  • : あるイオンについて、開いたチャネルを通る正味のがゼロになる膜電位。濃度勾配によると電気的勾配によるが釣り合った状態で、ので計算できる。
Eion=−60⋅1z⋅log⁡cICcECE_{ion} = -60 \cdot \frac{1}{z} \cdot \log\frac{c_{IC}}{c_{EC}}

による濃度比→の変換がの式の核心であり、このを線形近似などで誤るとの計算を誤る1。

💡 透過性は「平衡に達するまでの時間」だけを左右し、の値そのものには影響しない。 はあくまでイオン濃度比だけで決まる。

イオン 骨格筋のE_eq ニューロンのE_eq
K⁺ −94 mV −90 mV 1(基準)
Na⁺ +65 mV +60 mV 0.01
Cl⁻ −88 mV −70 mV 0.1

静止膜電位の成立過程

は、一次・(1-02-structure-permeability-and-transport-functions-of-the-cell-membrane)が作った濃度勾配に沿ってイオンがへ向かおうとする結果として生まれる。膜の透過性が最も高いイオンが、Emに最も大きな影響を与える。

flowchart TD
  A["静止時:K+透過性が高くNa+透過性は低い"]
  A --> B["K+チャネルが開き一部が漏出<br>Em ≈ EK = -94mV"]
  B --> C["わずかに開いているNa+チャネルからNa+流入(E_Na=+65mV)"]
  C --> D["Emは-94mVからやや正側の-87mVへ"]

ゴールドマン・ホジキン・カッツ式

複数イオン(主にK⁺、Na⁺、Cl⁻)が同時に膜電位に寄与する場合、各イオンの濃度とで重み付けした式で膜電位を求める2。

Em=−60×log⁡pK[K+]ic+pNa[Na+]ic+pCl[Cl−]ecpK[K+]ec+pNa[Na+]ec+pCl[Cl−]icE_m = -60 \times \log\frac{p_K[K^+]_{ic} + p_{Na}[Na^+]_{ic} + p_{Cl}[Cl^-]_{ec}}{p_K[K^+]_{ec} + p_{Na}[Na^+]_{ec} + p_{Cl}[Cl^-]_{ic}}

⚠️ Cl⁻だけ分子・分母の位置が逆になる(なのでの向きがと逆——負に帯電した領域から出て、より正の領域へ向かおうとする)。

イオン IC濃度 EC濃度 E_ion
K⁺ 150 mM 5 mM 1 −94 mV
Na⁺ 12 mM 145 mM 0.01 +65 mV
Cl⁻ 4 mM 120 mM 0.1 −88 mV

この値を用いてGHK式を計算すると約 −85 mV となり、実測Em(−87 mV)に近い値が得られる。

⚠️ この表の数値は「ぴたり一致する」ようには作られていない。 上の濃度をGHK式に入れると −85 mV 前後で、実測値として挙げた −87 mV とは数 mV ずれる。また E_ion 列も同じ濃度から導いた値ではない——K⁺の 150 mM / 5 mM を37℃のNernst式に入れると約 −91 mV であって、表の −94 mV にはならない。濃度・透過性・・実測Emは、それぞれ別の教科書的な代表値を並べたものだと理解する。 試験では「K⁺透過性が支配的なのでEmはE_Kに近く、Na⁺の漏れ込みでやや正側にずれる」という関係の向きが問われるのであって、数値の完全一致ではない。

💡 透過性を上げると、Emはそのイオンのの方向へ動く。 [K⁺]EC↑や pK⁺↑(K⁺透過性上昇)は膜電位をEKに近づける方向、pNa⁺↑は脱分極方向に働く。ただしCl⁻の透過性を上げても、E_Cl(−88mV)が元のEm(−87mV)にほぼ等しいため実質的に何も起こらない——これはCl⁻透過性がEmを安定化させる「抑制的」な役割を果たせることを意味する。

Na⁺/K⁺-ATPaseの寄与

はATP加水分解を使い、濃度勾配に逆らって3Na⁺を細胞外へ、2K⁺を細胞内へ運ぶ体。

  • 電気的に非対称(electrically asymmetric、3:2)なため、それ自体がEmをわずかに負側に傾ける(electrogenic pump、起電性ポンプ)。
  • より本質的な役割は、Na⁺・K⁺の濃度勾配を維持し続けること——この勾配があるからこそ、を介したイオン移動が持続的に起こり、が維持される。

電気緊張電位

刺激に応じて生じる局所的な(local)膜電位変化で、大きさとは刺激の強さに比例する()。

  • 変化が最大値の1/eまで減衰する距離を長さ定数/と呼ぶ。
  • 脱分極: 発火()に近づく方向(より正)。
  • 過分極: 発火から遠ざかる方向(より負)。
  • 再分極: 脱分極後に元のを回復すること。
活動電位
信号の性質 デジタル(digital、全か無かの法則 all-or-none law) アナログ(振幅が変動する電気パルス)
波形 定まった形 時空間的な減衰・の程度により波形が変化
極性変化 脱分極のみ 脱分極・過分極どちらもあり得る

まとめ

  • は各イオンの(式で算出)への「綱引き」の結果で、最も透過性の高いイオン(通常K⁺)のに最も近づく。
  • GHK式は複数イオンの透過性で重み付けしたとして膜電位を与える。Cl⁻だけ分母・分子の位置が逆。
  • は濃度勾配を維持し、電気的非対称性(3:2)によりEmをわずかに負側に傾ける。
  • (グレイド電位)はで、活動電位(デジタル・全か無か)と対比される。

出典

  1. 1.The critical role of logarithmic transformation in Nernstian equilibrium potential calculations(Advances in Physiology Education・2017)ネルンストの式が対数関係によってイオン濃度比を平衡電位に変換すること、この対数変換の扱いを誤ると平衡電位の計算・教育上の誤りにつながることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.The enduring legacy of the constant-field equation in membrane ion transport(Journal of General Physiology・2017)Goldman-Hodgkin-Katz(定電場)式は複数のイオン種の膜透過性と濃度勾配を統合して膜電位を与えるモデルであり、透過性の大きいイオンほど膜電位への寄与が大きいという前提に立つことを確認した閲覧 2026-08-26