生理学

生理学 · 8.1

神経細胞とグリア細胞の生理学。

Physiology of nerve and glia cells.

応用トピック
代謝性意識障害臨床神経生理検査:EEG・EMG・ENG・TMS・誘発電位

🧠 ニューロンは「入力(、dendrite)→ 演算(、axon hillockでの)→ 出力(、axon terminal)」という3段階の情報処理装置であり、(EPSP/IPSP、excitatory/inhibitory postsynaptic potential)が閾値を超えるとAP(活動電位、action potential)頻度としてコードされる。この単純な原理の上に、(学習・記憶の細胞基盤)と、による代謝・イオン・伝達物質のというインフラが積み重なっている。

ニューロンの基本構造

  • 細胞体:housekeeping機能を担う
  • :から放出されたNT(神経伝達物質、neurotransmitter)に対する受容体を持ち、入力を受け取る
  • 軸索:から起始し、多くはされており、へ信号を送る

で受け取ったシナプス入力は軸索を通って電気的信号として伝導され、で別の細胞とシナプスを形成する。シナプスはNTを信号分子として利用し、興奮性・抑制性のいずれかに働く。

情報のコーディング

神経系は3つの方法で情報をコードする。

コード様式 内容 例
特定機能に専用化されたニューロン集団。経路上のどこでAPが起きても同じ意味に解釈される 視覚系を電気刺激すると視覚が生じる
感覚野内で刺激のを維持したまま情報が「地図化」される 聴覚系の、の
単一軸索のAP(、burst)の時間的パターンが情報を運ぶ —

💡 隣接する受容器からの情報を運ぶ線維は、脳内でも隣接する領域に投射する——これがの成り立ちである。

ニューラルネットワークの機能

flowchart TD
  A["入力:興奮性・抑制性シナプス終末からNT受容"] --> B["EPSP・IPSPの生成"]
  B --> C["演算:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axon hillock'>軸索小丘</span>でEPSP・IPSPを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sum'>総和</span>"]
  C --> D{"閾値到達?<br>(VG-Na⁺チャネル高密度部位)"}
  D -->|"Yes"| E["出力:AP発生→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axon terminal'>軸索終末</span>へ伝導"]
  D -->|"No"| F["AP発生せず"]
  E --> G["後続ニューロンのシナプス入力に影響"]

シナプス後電位

興奮性シナプス後電位

  • 振幅:0.1〜5 mVの脱分極(数ミリ秒)。後シナプスニューロンをAP発火しやすくする
  • 主にのの開口による
  • 最も頻度の高いNT:グルタミン酸
受容体 種類 透過イオン 備考
Na⁺ 速い脱分極
NMDA受容体 Na⁺, Ca²⁺ 脱分極でMg²⁺が外れて開口。で阻害される
Glu受容体(metabotropic glutamate receptor, mGluR1-8) GPCR(Gタンパク質共役受容体、G protein-coupled receptor、7回膜貫通) — mGluR1・5はGq共役、他はGi共役

抑制性シナプス後電位

  • 振幅:0.1〜5 mVの過分極、または膜電位を負の値に安定化
  • 主にCl⁻チャネル/K⁺チャネルの開口による
  • 最も頻度の高いNT:(、gamma-aminobutyric acid)
受容体 種類 機序
_A受容体(_A receptor) Cl⁻チャネル ベンゾジアゼピン・で活性化可能
_B受容体(_B receptor) GPCR(Gi共役) を開口

シナプス後電位の総和

はで起こり、1個のニューロンは複数の入出力を持つ。3つの様式がある。

  1. :単一のニューロンが短時間に繰り返しNTを放出し、PSPが重なり合う

  2. :複数の入力からのPSPが同時に加算される(より強力)→ 十分に強ければVG-Na⁺チャネルの閾値に達しAPが生じる

  3. :同じ大きさのEPSPとIPSPが打ち消し合う

⭐ AP頻度はPSP振幅に正比例する。 単一の興奮性シナプス刺激だけでは通常閾値に届かずAPは生じない。小さなEPSPは低頻度AP、大きなEPSPは高頻度APを生む——これがPSP振幅のAP頻度への変換則である。

単一ニューロンの発火パターン

同じ持続的な興奮性刺激に対しても、発現するイオンチャネルの構成によって応答パターンが異なる。

タイプ 機序 特徴
速いVG-Na⁺・K⁺チャネルのみ 高頻度APが持続する
緩徐に活性化するVG-K⁺チャネルが追加 過分極電流↑→長い刺激でもAP頻度がに低下
VG-+Ca²⁺活性化K⁺チャネル 脱分極→AP発生→Ca²⁺蓄積→過分極(発火停止)→Ca²⁺除去→再脱分極、のサイクルを繰り返す

視床ニューロンのは特殊な機構による:EPSPは小さく通常のNa⁺チャネル閾値には届かないが、T型(T-type Ca²⁺ channel)(約-70 mVで開口する一過性チャネル)がさらなる脱分極を引き起こしVG-Na⁺チャネルを開口させ、APを生む。T型チャネルはに不活化するため、EPSPが持続してもは自然に終了する。

シナプス前抑制と逆行性シグナル伝達

:(多くは作動性)が興奮性に作用し、Cl⁻(またはK⁺)を増加させる → AP振幅↓、Ca²⁺流入↓、伝達物質放出↓=EPSP↓。特定のだけを選択的に抑制できる点が重要(1年次で学んだα2受容体(Gi)と同じ発想)。

伝達(2-AG・CB1R):後シナプス細胞が活動に影響を与える機構。

flowchart TD
  A["後シナプスでGluがmGluR5(Gq)に結合"] --> B["PLC活性化→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inositol 1,4,5-trisphosphate'>IP3</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diacylglycerol'>DAG</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diacylglycerol'>DAG</span>リパーゼ→2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol, 2-AG)"]
  C --> D["2-AGが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptic cleft'>シナプス間隙</span>を逆行性拡散"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>前シナプス</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cannabinoid receptor type 1'>CB1受容体</span>(cannabinoid receptor 1)(Gi)に結合"]
  E --> F["Glu放出抑制(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>作動性終末では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>放出抑制→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>)"]

シナプス可塑性

シナプスは過去の活動パターンに応じて将来の伝達効率を変化させる——これが神経回路に記憶を組み込む基盤となる。

変化の方向 種類
増強 <1秒
増強 増大 数秒
増強 増強 数分
増強 時間〜日(海馬、hippocampusで典型的)
減弱 不活動・低頻度刺激による
減弱 減弱 高頻度または持続的低頻度刺激後
減弱 時間〜日

シナプス:AP連続 → [Ca²⁺]が高いまま維持 → 単一APあたりのNT放出量が増加する。

(LTP):

flowchart TD
  A["低頻度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>前シナプス</span>AP"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AMPA receptor'>AMPA受容体</span>のみ開口(弱い脱分極)"]
  C["高頻度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>前シナプス</span>AP"] --> D["持続的AMPA活性→強い脱分極"]
  D --> E["NMDA受容体開口(Mg²⁺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plug'>プラグ</span>解除)"]
  E --> F["Ca²⁺流入"]
  F --> G["CaMKII(Ca²⁺/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calmodulin'>カルモジュリン</span>依存性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein kinase'>プロテインキナーゼ</span>、calmodulin-dependent protein kinase II)活性化"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AMPA receptor'>AMPA受容体</span>のリン酸化"]
  H --> I["後シナプスの伝達物質感受性↑(LTP成立)"]

グリア細胞

「」——脳容積の半分を占める。はアストロサイト(、astrocyte)、、に分けられる。

⚠️ 「の数はニューロンの10倍」という通説は、直接では支持されない。 ヒト成人の脳を分画法で直接した研究では、ニューロンと非ニューロン細胞(を含む)はおよそ861億対846億とほぼ1対1の比率であり、しばしば引用される「10倍」という値は過大評価だったことが示されている(ヒトの直接データ)1。

部位 種 主な局在
CNS(中枢神経系、central nervous system) アストロサイト(線維性・原形質性、fibrous/protoplasmic) 白質・灰白質
CNS 発生期の脳全体
CNS ミュラー細胞(Müller cell) 網膜
CNS 小脳
CNS 脳室壁
CNS 主に白質
CNS 脳全体
PNS(、peripheral nervous system) 感覚・
PNS 末梢軸索
PNS

アストロサイトの5つの機能

① 乳酸供給(基質バッファリング、substrate buffering、第2のエネルギー):ニューロンは血漿からGLUT3経由で直接グルコースを取り込むか、アストロサイト経由の乳酸を利用できる。

flowchart TD
  A["血中グルコース"] --> B["アストロサイトへ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucose transporter 1'>GLUT1</span>で取り込み"]
  B --> C["グリコーゲンとして貯蔵、または解糖でLAC産生"]
  C --> D["MCT1でLACを細胞外へ輸送"]
  D --> E["ニューロンがMCT2でLACを取り込み"]
  E --> F["ピルビン酸に変換→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='energy production'>エネルギー産生</span>"]

⭐ 一過性のグルコース欠乏時には、アストロサイトのグリコーゲン貯蔵がニューロンへのエネルギー供給を維持する。

② 脳の[K⁺]・pH調節:頻回のニューロン脱分極は局所的に[K⁺]EC↑・[Na⁺]EC↓を招く。アストロサイトは3種の輸送体(、Na⁺/K⁺/2Cl⁻、K⁺チャネル)でこれを緩衝する。

⚠️ K⁺チャネルを介したK⁺流入は例外的である——通常K⁺は細胞外へ向かう。アストロサイトのが非常に負であるため、正電荷のK⁺が細胞内へ駆動される。アストロサイトはで隣接アストロサイトとつながっており、[K⁺]が低い領域の細胞へK⁺を分散させる(空間的バッファリング、spatial buffering)。

③ グルタミン酸-:高濃度のグルタミン酸はを引き起こすため、放出後速やかに除去される必要がある。

flowchart TD
  A["シナプスに放出されたグルタミン酸"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic terminal'>前シナプス終末</span>がEAAT(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excitatory amino acid transporter (EAAT)'>興奮性アミノ酸トランスポーター</span>、excitatory amino acid transporter)で再取り込み"]
  A --> C["アストロサイトがEAATで取り込み"]
  C --> D["グルタミン酸→グルタミンに変換(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamine synthetase'>グルタミン合成酵素</span>、glutamine synthetase)"]
  D --> E["SNAT(Na⁺共役中性アミノ酸トランスポーター)で脳<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular fluid, ECF'>細胞外液</span>へ放出"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic terminal'>前シナプス終末</span>がグルタミンを取り込み"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutaminase'>グルタミナーゼ</span>でグルタミン酸に再変換→小胞に充填"]

グルタミンは受容体に結合できず毒性がない——これがアストロサイトによる防止機構の本質である。

④ の調節:シナプスから漏れ出たグルタミン酸がアストロサイトのmGluR1/5(Gq)を活性化 → → [Ca²⁺]↑ → PLA2(、phospholipase A2) → COX1(1、cyclooxygenase 1)・NOS(、nitric oxide synthase)活性化 → PGE2()・NO(、nitric oxide)産生(血管拡張物質、vasodilator)→ 局所増加、神経活動亢進時のを維持する。

⭐ アストロサイトはの循環(グリンパティック系)にも関与する。 マウスの研究では、脳脊髄液は周囲のからへ流入しは静脈周囲の経路へ排出されるという血管周囲経路が確認されており、アストロサイトのAQP4を欠くマウスではこの流入が遅くなり、を含む間質溶質のクリアランスが約70%低下する。除去のための「脳のリンパ系」として、上記5機能に加わる第6の役割と位置づけられている(マウスのデータ)2。

⑤ 栄養因子の分泌:BDNF(脳由来、brain-derived neurotrophic factor)、GDNF(グリア由来、glial cell line-derived neurotrophic factor)——ニューロンの生存とシナプス形成を促進する。

オリゴデンドロサイトとシュワン細胞

CNS: PNS:
1個の細胞が15〜30の突起で多数の軸索を3 1個の細胞が1本の軸索の1分節のみを
付加機能 脳pH調節、 —

💡 CNSの「1対多」という担当数は実測されている。 成熟マウス視神経の元では、1個のが近傍の平均19本(幅12〜35本)の軸索へそれぞれ1つずつ髄鞘分節を供給していた(マウス視神経の実測データ)3。

ミクログリア——CNSのマクロファージ

  • 単球-由来、全の約20%
  • 活性化すると:増殖、形態変化、獲得、サイトカイン・・NO放出
  • 脳内で最も有効な(活性化は血液脳関門を通過できる)

まとめ

  • ニューロンは(入力)→(・演算)→軸索(出力)という3段階の情報処理装置であり、AP頻度がされたPSP振幅をコードする。
  • EPSPは主にグルタミン酸受容体(AMPA・NMDA・mGluR)、IPSPは主に受容体(_A・_B)を介して生成される。
  • と2-AG/CB1Rを介した伝達は、特定の入力を選択的に調節する機構である。
  • LTP(NMDA受容体依存性のCa²⁺流入→CaMKII→リン酸化)は海馬における学習・記憶の細胞基盤と考えられている。
  • (アストロサイト・/・)はニューロンの代謝・イオン恒常性・・を支える不可欠なパートナーである。

出典

  1. 1.Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain(The Journal of Comparative Neurology・2009)等方性分画法(isotropic fractionator)でヒト男性成人の脳を直接計数した研究で、ヒト脳はニューロン(NeuN陽性細胞)約861億個、非ニューロン細胞(グリア細胞など、NeuN陰性細胞)約846億個からなり、両者はほぼ1対1の比率であることを確認した。「グリア細胞はニューロンの10倍」という広く流布した通説はこの直接計数と一致しないことを示した(ヒトの直接計数データ)閲覧 2026-08-26
  2. 2.A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β(Science Translational Medicine・2012)マウスを用いた研究で、脳脊髄液は貫通動脈を取り巻く血管周囲腔から脳実質へ入り、間質液は静脈周囲の経路へ排出されるという血管周囲経路(グリンパティック系)を確認し、アストロサイトの水チャネルAQP4を欠くマウスではこの流入が遅くなり間質溶質(標識アミロイドβを含む)のクリアランスが約70%低下することを報告した(マウスのデータ)閲覧 2026-08-26
  3. 3.Three-dimensional morphology of astrocytes and oligodendrocytes in the intact mouse optic nerve(Journal of Neurocytology・1994)成熟マウス視神経で単一細胞に色素を注入して三次元再構築すると、1個のオリゴデンドロサイトが近傍の平均19本(幅12〜35本)の軸索へそれぞれ1つずつ髄鞘分節を供給していた(マウス視神経の実測データであり、ヒトでの直接計数ではない)閲覧 2026-08-27