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Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 病態

皮膚そう痒症

Cutaneous pruritus

別名
皮膚瘙痒症汎発性皮膚そう痒症Generalized pruritus
臓器系
免疫・膠原病肝胆膵腎・泌尿器内分泌・代謝
科目
DermatologyInternal Medicine
トピック
皮膚科 3-25:腫瘍随伴性皮膚症状内科学 L-37:慢性腎臓病・尿毒症症候群

🧠 全体像:皮膚そう痒症は、「痒いから皮疹ができた」のか「皮疹があるから痒い」のかを逆転させて考える診断名である。や蕁麻疹のように皮疹が先にあってそう痒を伴う病態とは違い、皮膚そう痒症は皮膚病変を認めないのにそう痒だけがある状態を指し、日本の医薬品添付文書でも独立した効能・病名として扱われる。診療の核心は治療そのものより基礎疾患の除外にあり、腎不全・肝疾患・・・悪性腫瘍のいずれかが背後に隠れていないかを系統的に検索したうえで、初めて「特発性」の診断に至る。

症状としての掻痒との違い

そう痒という感覚そのものは掻痒という症状ノートで扱う内容と同じである。 掻痒は皮膚原発性(、乾癬、など皮疹に一致する痒み)と全身性(皮膚に一次性病変がなく、肝胆道系・腎・内分泌・悪性腫瘍・薬剤という「皮膚の外」の原因による痒み)に大別されるが、皮膚そう痒症という診断名が指すのは、このうち皮膚病変を伴わない痒みのほうである1。両者はコレクション上も別の実体として扱う——掻痒は症状(何を訴えているか)、皮膚そう痒症は診断(その症状の背景に何があるか、あるいは何も見つからなかったか)という階層の違う概念であり、疾患どうしの関係フィールドで結ぶものではない。

⚠️ 国際的な分類(IFSI:International Forum for the Study of Itch)でも同じ考え方をとる。 皮疹上に生じる痒み(Group I)と、正常にみえる皮膚に生じる痒み(Group II)を最初に区別し、Group IIでは全身性疾患・・精神疾患・薬剤性を鑑別に挙げる。旧来の「pruritus sine materia(病変を伴わない痒み)」という呼び方は、病態そのものが存在しないかのような誤解を招くため、現行のヨーロッパのガイドラインでは使用せず、原因が同定できない場合は「pruritus of unknown/undetermined origin(原因不明のそう痒)」という用語を用いる2。

分類

日本学会のガイドラインは、皮膚そう痒症を痒みの分布でと限局性に分ける1。

分類 内訳 特徴
特発性・加齢性・症候性・妊娠性・薬剤性・ 広い範囲または体表面の特定部位に限局せず痒みを生じる。基礎疾患の除外が診療の核心
肛囲・陰部症、頭部症など 体表面の限られた部位に固定して痒みを生じる

⭐ 臨床で問題になるのはほとんどのほうである。 限局性は部位ごとに原因が絞られ、局所の診察で見えることが多いのに対し、は「基礎疾患をどこまで検索するか」という診断そのものが主題になる。以下は主に皮膚症を扱う。

基礎疾患の検索が診療の核心

皮膚そう痒症の診断は、である。 皮膚症の原因として頻度が最も高いのは加齢性皮膚症(によるドライスキン)だが、これを診断するにはに頼るだけでなく、同時に基礎疾患を除外しておく必要がある1。

系統 代表疾患
腎疾患 、
肝・胆道系疾患 、閉塞性、肝硬変、
内分泌・代謝疾患 甲状腺機能異常、糖尿病、妊娠、閉経後、痛風、副甲状腺機能異常
症、、、
悪性腫瘍 、、
、、
精神障害・ 、神経症、

⚠️ 薬剤性の可能性も必ず考慮する。 オピオイド、、()、、心(阻害薬、等)、利尿薬、βラクタム系、ホルモン剤(エストロゲン・プロゲステロン)など多くの薬剤がそう痒を誘発しうる。高齢者はのことが多く、原因が特定できない場合はを見直す1。

国際的にも同様の枠組みが推奨されており、一次性皮膚病変を伴わないそう痒に対する初期スクリーニングとして、全血算、クレアチニン/、肝機能検査、鉄関連検査、または、を測定する3。を受診したそう痒患者のうち、一次性皮膚疾患による説明がつかない例の14〜24%に全身性疾患が同定されたとされ、基礎疾患の除外を省略できない理由になっている4。

flowchart TD
    A["皮疹を伴わない全身のそう痒"] --> B["病歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication history'>服薬歴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspection'>視診</span>でドライスキンを評価"]
    B --> C["血算・肝胆道系酵素・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood urea nitrogen'>BUN</span>/Cre・甲状腺ホルモン・血糖で基礎疾患をスクリーニング"]
    C --> D{"異常があるか"}
    D -->|"あり"| E["原疾患の治療を優先"]
    D -->|"なし・頑固な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pruritus'>瘙痒</span>が長期間持続"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral malignancy'>内臓悪性腫瘍</span>の除外(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal occult blood (FOB)'>便潜血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor markers'>腫瘍マーカー</span>・胸部X線・造影CT等)"]
    F --> G{"それでも原因不明か"}
    G -->|"はい"| H["特発性皮膚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pruritus'>瘙痒</span>症(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychogenic'>心因性</span>の関与も念頭に)"]
    G -->|"いいえ"| E

⚠️ 悪性腫瘍のリスク因子を頭に入れておく。 慢性そう痒かつ皮疹を伴わない患者を対象としたでは、年齢60歳超・男性・肝疾患の既往・喫煙歴(現喫煙または既往)が悪性腫瘍発症のを有意に高める予測因子であった5。頑固なそう痒が長期間続き、血液検査で特に異常が見つからない場合には、の合併を念頭に・測定・胸部X線・造影CTなどの画像評価に進む1。

💡 それでも原因が特定できない場合がある。 以上のような精査を尽くしても基礎疾患が同定できない例は少なくなく、その場合は精神障害による皮膚症の可能性も否定できない。ただし実際にどの程度が精神障害によるものかをする方法がないため、実態は明らかではない1。

疫学

ノルウェー・オスロの成人を対象とした横断調査では、皮膚症のは8.4%で皮膚疾患の中で最も一般的な症状であった。国内で全国大学病院を対象に行われたアンケート調査(回答65施設)では、年間外来患者に占める皮膚症の比率は平均1.89%であった1。国際的にも、慢性そう痒のは一般人口の5人に1人、12か月は7%と報告されている2。

治療

治療は原因があるかないかで大きく分かれる。

  • 基礎疾患が同定された場合:原疾患の治療を優先する。患者・患者で既存治療に反応しない難治性そう痒に限り、ナルフラフィン塩(κ)が保険適用上の制限のもとで推奨度Bとして選択肢になる1。
  • ドライスキンを伴う場合:の外用が推奨度Bで、の軽減が見込まれる。ただしドライスキンを伴わない例への効果は明らかでない1。
  • 薬物療法:抗ヒスタミン薬は保険適用の範囲で広く用いられるが推奨度はC1にとどまり、皮膚症患者の一部にしかしない。鎮痒性外用薬、(いずれもC1)、保険適用外ではあるが(B〜C1)、・(C1)なども治療アルゴリズムに含まれる1。

まとめ

  • 皮膚そう痒症は、皮疹などの一次性皮膚病変を認めないのにそう痒を生じる診断名であり、皮疹に一致して生じる掻痒(症状)とは階層の違う概念である。
  • 分布により(特発性・加齢性・症候性・妊娠性・薬剤性・)と限局性(肛囲・陰部症など)に分けられ、臨床で問題になるのは主にである。
  • 診断の核心は基礎疾患の除外にある。腎疾患、肝・胆道系疾患、内分泌・代謝疾患、、悪性腫瘍、、薬剤性を系統的にスクリーニングし、それでも原因不明で頑固なが続く場合はの精査に進む。
  • 国際的にも「pruritus sine materia」という旧称を避け「pruritus of unknown/undetermined origin」と呼ぶことで、原因不明であること自体を診断として扱う。
  • 治療は基礎疾患があればその治療を優先し、ドライスキンには、難治例には抗ヒスタミン薬・・等を組み合わせるが、抗ヒスタミン薬がするのは一部にとどまる。

出典

  1. 1.皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020(日本皮膚科学会(佐藤貴浩ほか)・2020)全文(PDF)を確認した。皮膚瘙痒症を「皮膚病変が認められないにもかかわらず瘙痒を生じる疾患(但し搔破により二次的に搔破痕や色素沈着を生じることがある)」と定義し、汎発性皮膚瘙痒症(特発性・加齢性・症候性・妊娠性・薬剤性・心因性)と限局性皮膚瘙痒症(肛囲・陰部瘙痒症、頭部瘙痒症など)に分類すること、汎発性皮膚瘙痒症を惹起する内臓疾患として腎疾患(慢性腎不全、血液透析)・肝胆道系疾患(原発性胆汁性胆管炎、閉塞性胆道疾患、肝硬変、慢性肝炎)・内分泌代謝疾患(甲状腺機能異常、糖尿病等)・血液疾患(真性赤血球増多症、鉄欠乏性貧血、悪性リンパ腫、ヘモクロマトーシス)・悪性腫瘍(悪性リンパ腫、慢性白血病、内臓悪性腫瘍)・神経疾患・精神障害/心因性を挙げること、診断のためには血液検査(血算、白血球分画、BUN、Cre、肝胆道系酵素、甲状腺ホルモン、血糖値)で基礎疾患を除外し、それでも原因不明で頑固な瘙痒が長期間続く場合は内臓悪性腫瘍の合併を念頭に便潜血・腫瘍マーカー・胸部X線・造影CT等の精査を行うこと、それでも特定できない場合は心因性の可能性も念頭に置くこと、治療アルゴリズムでは基礎疾患があれば原疾患の治療を優先し(血液透析・慢性肝疾患で既存治療に反応しない場合はナルフラフィン塩酸塩を推奨度Bで使用)、ドライスキンを伴う場合は保湿剤(推奨度B)、抗ヒスタミン薬(保険適用、推奨度C1)等を用いること、ノルウェー・オスロの横断調査で皮膚瘙痒症の有病率が8.4%と皮膚疾患中最多であったこと、国内アンケート調査(65施設)では年間外来患者に占める汎発性皮膚瘙痒症の比率が平均1.89%であったことを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.European S2k Guideline on Chronic Pruritus(European Dermatology Forum(Acta Dermato-Venereologica)・2025)全文(PMC12529596)を確認した。慢性そう痒の一般人口における生涯有病率が5人に1人、12か月発生率が7%であること、IFSIが皮膚所見に基づきそう痒を3群に分類し、原発性の皮疹上に生じる痒みをGroup I、正常にみえる皮膚に生じる痒みをGroup IIとすること、本ガイドラインはIFSIに準拠し旧来の「pruritus sine materia」という用語を用いず、基礎疾患が同定されない例には「pruritus of unknown origin」または「pruritus of undetermined origin(PUO)」という用語を用いること、原因の特定には正確な診断的検査が必要でありCPの管理はしばしば学際的である必要があること、診断・治療のアプローチとして段階的なアルゴリズム(表3・図1)を示すことを確認した閲覧 2026-09-07
  3. 3.Pruritus: Diagnosis and Management(American Family Physician(Rupert J, Honeycutt JD)・2022)全文を確認した。一次性皮膚病変を伴わない全身性そう痒の初期評価として全血算・クレアチニン/BUN・肝機能検査・鉄関連検査・空腹時血糖またはHbA1c・甲状腺刺激ホルモンのスクリーニング検査を推奨すること、悪性腫瘍(子宮頸癌・前立腺癌・大腸癌等)が汎発性そう痒を来しうること、一次性皮膚病変がなく高齢の患者では悪性腫瘍の評価を考慮すべきことを確認した。なお「一次性皮膚疾患の原因がない例の14〜24%に全身性疾患が同定された」および「罹病期間12か月未満・60歳超・男性・肝疾患の既往・喫煙歴」という具体的な数値・危険因子はこの論文本文には見当たらず、別の出典に基づく記述であることを確認した閲覧 2026-09-07
  4. 4.A Diagnostic Approach to Pruritus(American Family Physician(Reamy BV, Bunt CW, Fletcher S)・2011)全文を確認した。皮膚科へ紹介受診した汎発性そう痒患者のうち、明らかな一次性皮膚疾患の原因がない例の14〜24%に全身性疾患が同定されたこと、慢性・汎発性のそう痒、65歳超の年齢、異常な身体所見があれば基礎疾患への懸念を高めるべきであることを確認した閲覧 2026-09-07
  5. 5.Predictors of malignancy development in patients with chronic pruritus(Journal of Dermatological Science(Fett N, Haynes K, Propert KJ, Margolis DJ)・2016)抄録を確認した。慢性そう痒かつ皮疹を伴わない患者398例(悪性腫瘍を発症)と8,346例(発症せず)の症例対照研究で、年齢60歳超(オッズ比4.04)・男性(オッズ比1.39)・肝疾患(オッズ比2.37)が悪性腫瘍発症の予測因子であったこと、多重代入を用いた探索的解析では年齢60歳超(オッズ比4.13)・男性(オッズ比1.26)・現喫煙または喫煙歴あり(オッズ比2.02)が予測因子であったことを確認した閲覧 2026-09-07