微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · ウイルス

Tick-borne encephalitis virus

ダニ媒介性脳炎ウイルス

分類
フラビウイルス / Flaviviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(+)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/24: Flaviviruses: tick-borne encephalitis, West Nile and Zika virus5/12: The most important bacteria causing meningitis and encephalitis (list), their diagnosis, and principles of treatment
原因となる疾患
ウイルス性脳炎デング熱ほかアルボウイルス感染症(黄熱・ジカ熱)

🧠 全体像は、他のの多くが熱帯・亜熱帯を主戦場にするのに対し中欧・東欧・北欧からロシア極東にかけての温帯林が舞台という点で異色である。ベクターは蚊ではなくマダニ(Ixodes属)で、さらに未殺菌の生乳・乳製品の経口摂取という非経皮的な感染経路を持つ数少ないでもある。臨床像はの経過(第1相:ウイルス血症期の発熱性疾患→数日の無症状期→第2相:中枢神経系病期)を取ることが多く、有効なが実用化されている——これが対症療法しかない他の多くの節足動物媒介性脳炎ウイルスとの決定的な違いになる。

微生物学的な特徴

Flavivirus属・に属するで、エンベロープを持つをとる。の3亜型が存在し、臨床的な重症度はが最も高く(致死率20〜40%)、が最も軽い(致死率約1〜2%)——同じウイルス種でも地理的亜型により病原性が大きく異なる点は他のにはあまり見られない特徴である。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["マダニ刺咬(または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unpasteurized milk'>未殺菌乳</span>製品の摂取)"] --> B["皮下・所属リンパ節で初期複製"]
    B --> C["第1相:ウイルス血症<br>発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malaise'>倦怠</span>感・頭痛・悪心"]
    C --> D["数日間の無症状の寛解期"]
    D --> E{"第2相へ進行するか<br>(約1/3)"}
    E -->|"進行"| F["血液脳関門を越えて中枢神経系へ"]
    F --> G["髄膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='meningoencephalitis'>髄膜脳炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encephalomyelitis'>脳脊髄炎</span><br>意識<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>"]
    E -->|"進行せず"| H["第1相のみで回復"]

⚠️ TBEはダニ刺咬以外に「製品の経口摂取」でも感染しうる。 ヤギ・ヒツジ・の生乳・チーズを介したは、の中では珍しい非経皮的経路であり、アウトドア活動歴だけでなく食歴の聴取も診断上重要になる。

💡 の経過を知らないと診断を誤る。 第1相(ウイルス血症期)は非特異的な発熱性疾患で自然軽快したように見えるため、数日後の無症状期を経て第2相(中枢神経系病期)で再度発熱・頭痛が悪化した患者を「別の疾患の新規発症」と誤認しやすい。という病像そのものがTBEを疑う手がかりになる。

感染経路と疫学

  • ベクターはマダニ(Ixodes ricinusなど)——ヨーロッパでは春〜秋のダニに一致した季節性がある
  • 中欧・東欧(ハンガリーを含む)・北欧からロシア極東にかけて流行——森林・草地でのハイキング、キャンプ、林業などのアウトドア活動が主要な曝露機会
  • 製品(ヤギ・ヒツジ・の生乳・チーズ)の摂取でも感染しうる
  • 進行例(第2相)は全体の約1/3で、残りは第1相のみで自然軽快する

起こす疾患

病型 特徴
第1相のみ( 発熱・感・・頭痛・悪心・嘔吐で自然軽快
第2相:髄膜炎・ 意識を伴いうる。致死率は亜型により約1〜40%は軽症、は重症)
慢性 一部の患者(特に)で持続するを残す

ほか・ジカ熱)も参照。

診断

  • 血清学:髄液・血清でのIgM/IgG ELISAが中心
  • PCR第2相(中枢神経系病期)ではウイルス血症がすでに消退していることが多く、検出感度が低い——血清学が診断の主体になる理由はここにある
  • 髄液所見は

治療と予防

  • 治療は対症療法のみ——特異的な抗ウイルス薬はない
  • が実用化されており、中欧・東欧のでは定期的なが推奨される。 旅行者・ハイカー・林業従事者など屋外活動が多い集団が主な対象で、初回シリーズと追加接種で長期免疫を維持する
  • 予防のもう一つの柱はマダニ対策(防虫剤、肌の露出を避ける服装、活動後のダニチェック)と乳製品の

まとめ

  • TBEVはFlavivirus属で、(または製品の経口摂取)により中欧・東欧を中心に流行する。
  • 欧州・シベリア・極東の3亜型があり、致死率はが最も高くが最も低い——同一種内での地理的な病原性差が特徴的。
  • 臨床像は(第1相:発熱性疾患→無症状期→第2相:中枢神経系病期、進行は約1/3)を取ることが多い。
  • 診断は血清学が中心——第2相ではウイルス血症が消退しておりPCR感度は低い。
  • が実用化されている点が、他の多くの節足動物媒介性脳炎ウイルスとの決定的な違いで、中欧・東欧のではの対象になる。