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Microbe Atlas · 細菌

Treponema denticola

分類
スピロヘータ / SpirochetesTreponema
性状
Gram陰性 (G−)らせん菌 Spirochete
科目
Medical Microbiology
トピック
2/29: Treponema genus5/5: Normal flora of the oral cavity. Microbes causing infections of the oral cavity (list)
原因となる疾患
歯周炎

🧠 全体像:Treponema denticolaはと同じ属だが、性感染症ではなくに棲む「」の一員として読むとよい。武器はデンチリシンという表面プロテアーゼで、組織を直接壊すだけでなく宿主の免疫シグナルそのものを操作する——P. gingivalis・*Tannerella forsythia*と並ぶ、慢性の重症度に最も強く結びつく菌群の一角である。

微生物学的な特徴

形態・染色性は属共通で、通常のグラム染色では観察しにくいグラム陰性の細長いの菌体(スピロヘータ)で、(periplasmic flagella=endoflagella)による特有の屈曲・回転運動を持つ。培養は困難だが、口腔内の他のスピロヘータ・嫌気性菌とともに中に常在し、健常者からも低頻度に検出されうる。患者ではプラーク中の・検出頻度が顕著に増加する。

病原性の仕組み

主要なはデンチリシン——菌体表面に発現するプロテアーゼ複合体で、宿主の蛋白を分解し、であるIL-1β・IL-6・α()を分解して免疫応答を減弱させる1。一方で、デンチリシンは宿主の(TLR2)とMyD88を活性化し、転写因子Sp1のを介して複数の()の発現を誘導することで、組織破壊性の炎症を能動的に引き起こす経路も持つ2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subgingival plaque'>歯肉縁下プラーク</span>の常在スピロヘータ<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red complex'>レッドコンプレックス</span>の一員)"] --> B["表面プロテアーゼ<br>デンチリシンを産生"]
    B --> C["宿主の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span><br>(IL-1β・IL-6・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>)を分解"]
    C --> D["局所の免疫応答を減弱させ<br>菌の生存に有利にする"]
    B --> E["TLR2/MyD88を活性化し<br>Sp1経由で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='matrix metalloproteinase'>MMP</span>発現を誘導"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>の分解・組織破壊"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periodontitis'>歯周炎</span>の慢性化・進行"]
    F --> G

💡 「免疫を弱める」のと「組織を壊す」の両方をこなす二面性がある。 デンチリシンはを分解してを鈍らせる一方()、TLR2シグナルを介しての発現を誘導し組織破壊を促す(炎症の能動的誘発)——一見矛盾する2つの働きを1つの酵素が担う点がT. denticolaの病原性の特徴である12。

感染経路と疫学

  • :新たな菌の侵入ではなく、口腔常在菌叢の組成が偏ることで病原性を発揮する
  • P. gingivalis・*Tannerella forsythia*とともに検出されると深度・時出血という臨床指標に際立って強く関連する()3
  • 同属の*Treponema vincentii*とは異なり、Fusobacteriumとの型()ではなく、慢性の進行に関連する菌として位置づけられる

起こす疾患

  • :P. gingivalis・*Tannerella forsythia*とともにを構成し、深度の増大と時出血に強く関連する起因菌の一つ3

診断

  • 臨床的にはの深さ・時出血などの重症度評価が中心で、は培養の困難さから分子生物学的検出(等)が実用的
  • 単独の確定は日常臨床では確立していない

治療と予防

  • 治療の基本は他の構成菌と同じく機械的なプラーク・除去()による病原性の物理的除去であり、全身性抗菌薬は重症例・難治例のに限られる
  • 予防はと定期的な歯科受診によるが基本

まとめ

  • Treponema denticolaはグラム陰性のスピロヘータで、に常在し患者で増加する。
  • P. gingivalis・*Tannerella forsythia*とともに「」を構成し、深度・時出血という臨床指標に際立って強く関連する3。
  • は表面プロテアーゼデンチリシン——(IL-1β・IL-6・)を分解して免疫を回避する一方1、TLR2/MyD88/Sp1経路で発現を誘導し組織破壊を能動的に促す二面性を持つ2。
  • 治療の基本は機械的なプラーク除去で、全身性抗菌薬はにとどまる。

出典

  1. 1.The Treponema denticola surface protease dentilisin degrades interleukin-1 beta (IL-1 beta), IL-6, and tumor necrosis factor alpha(Infection and Immunity・2006)Europe PMC(PMID 16552080)の抄録で確認した。*T. denticola*が末梢血単核球中の炎症性サイトカインIL-1β・IL-6・腫瘍壊死因子αを、表面プロテアーゼ**デンチリシン**による分解を介して減少させたことを確認した閲覧 2026-09-08
  2. 2.Treponema denticola dentilisin triggered TLR2/MyD88 activation upregulates a tissue destructive program involving MMPs via Sp1 in human oral cells(PLoS Pathogens・2021)Europe PMC(PMID 34255809)の抄録で確認した。歯周靱帯細胞を*T. denticola*で刺激するとマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群の発現が上昇すること、この上昇がデンチリシンによりTLR2・MyD88依存性に誘導されること(TLR2またはMyD88のノックダウンで効果が消失)、精製デンチリシンの単独刺激でも同じMMP上昇が再現される一方デンチリシン欠損変異株では効果が消失すること、TLR2/MyD88の活性化が転写因子Sp1の核内移行を介してMMP発現を制御することを確認した閲覧 2026-09-08
  3. 3.Microbial complexes in subgingival plaque(Journal of Clinical Periodontology・1998)Europe PMC(PMID 9495612)の抄録で確認した。歯周炎160例・非歯周炎25例の計185例から採取した歯肉縁下プラーク13,261検体を全ゲノムDNAプローブとチェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーションで解析し、複数のクラスタリング・序列化の手法のいずれでも一貫して5つの主要な複合体が観察されたこと。第1複合体が「Bacteroides forsythus, Porphyromonas gingivalis and Treponema denticola」という密に関連した群であり、この複合体が歯周ポケット深度とプロービング時出血という臨床指標に際立って強く関連したことを確認した。⚠️ 抄録には「red complex」という語も色名も出てこない(色名は原著の図に由来する通称)。本研究は横断的な関連の記述であり、因果や病原性の強さを判定したものではない閲覧 2026-09-08