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Microbe Atlas · 真菌

Trichophyton indotineae

分類
皮膚糸状菌 / DermatophytesTrichophyton
科目
Medical Microbiology
トピック
4/5: Mycoses of the skin and its adnexes: dermatophytoses
原因となる疾患
皮膚糸状菌症(白癬)

🧠 全体像Trichophyton indotineaeは「分子生物学が新種を作った」典型例である。もともとはTrichophyton mentagrophytes ITS genotype VIIIという、T. mentagrophytesの一亜型として扱われていた株群が、で本種から十分に異なることが示され独立の種としてされた1。この菌を臨床的に特別扱いする理由はただ一つ、への高頻度耐性であり、インド亜大陸から世界へ広がる拡大速度と合わせて、の標準治療(経口)が通用しない例外として押さえる必要がある。

微生物学的な特徴

  • Trichophyton)に属するで、形態学的にはT. mentagrophytesと酷似し、通常の培養形態だけでは両者を区別できない2
  • 由来はT. mentagrophytes ITS(internal transcribed spacer)genotype VIIIとして報告されていた株群で、ゲノム規模の解析により本来のT. mentagrophytesとは十分に異なる系統であることが示され、新種として・独立した1
  • の変異を高頻度に獲得しており、これが標的への結合を阻害して耐性化するである。最も多いのはPhe397Leu(の33.0%)で、次いでAla448Thr(24.5%)だが、Ala448Thr単独では耐性の主因にならないとされ、Phe397Leuとの組み合わせ(18.9%)で問題になる2

⚠️ 「形が同じでも中身(薬剤感受性)が違う」という診断上の落とし穴。 培養での形態同定だけに頼るとT. mentagrophytesとして扱われ、を標準投与して無効に終わる——通常の培養だけでは他のTrichophyton種と区別できないため、難治例では分子同定・が必要になる2

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Trichophyton indotineae の付着"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratinase'>ケラチナーゼ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum'>角層</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratin'>ケラチン</span>を分解"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum'>角層</span>・毛包内で増殖"]
    C --> D["強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Inflammatory Lesions'>炎症性病変</span>を形成"]
    D --> E["股部・体部・顔面の<br>難治性・広範囲の白癬"]
    F["SQLE遺伝子変異<br>(Phe397Leu・Ala448Thrなど)"] --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='squalene epoxidase'>スクアレンエポキシダーゼ</span>への<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='terbinafine'>テルビナフィン</span>結合を阻害"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terbinafine'>テルビナフィン</span>高頻度耐性"]
    H --> E

💡 なぜ「難治」と「耐性」が同じ菌で同時に語られるのか。 を栄養源とする表在性感染という基本的な病態機序は他のと変わらないが、標準治療薬(経口)が効かないぶん感染が排除されずに遷延し、結果として通常の白癬より炎症が強く広範囲・難治性の病変を作る——菌のではなくが臨床像を重症化させるという、この菌ならではの構図である。

感染経路と疫学

  • 直接接触・共有物を介した伝播は他のと同様。
  • インド亜大陸で出現し、ヨーロッパ・アジア・南北アメリカ・オーストラリア・アフリカへと世界的に拡大している2。米国では2021年12月〜2023年3月にニューヨーク市で最初の症例が確認された1
  • 股部・体部・顔面に強いを作りやすく、他のT. rubrumなど)に比べて派手な臨床像を呈する。

起こす疾患

病型 特徴
強い炎症・を伴う難治性・広範囲の環状病変。標準治療(外用・経口)に反応しにくい
顔面白癬 診断の遅れやステロイド外用薬の誤用で悪化・拡大しやすい

詳細な病型・(白癬)を参照。

診断

  • 標準治療に反応しない非典型な白癬、あるいは股部・体部・顔面に強い炎症・を伴う病変では本種を疑う。
  • で菌糸を確認しても菌種までは同定できない。通常の培養でもT. mentagrophytesとの鑑別は困難で、分子同定(ITS配列解析など)とが必要になる2
  • 診断未確定のままステロイド配合外用薬を使うと、典型的な環状の輪郭が失われて感染が拡大し、診断・治療をさらに難しくする()。

治療と予防

状況 治療
耐性が判明・疑われる場合 が第一選択(最大3か月間投与)3
標準治療への反応が不良な股部・体部・顔面白癬 分子同定・を行い、耐性が確認されればへ切り替える

⚠️ 経口を漫然と継続しない。 通常量・通常期間のに反応しない股部・体部・顔面白癬では、早期に本種を疑って治療を切り替えることが遷延化・拡大を防ぐ鍵になる23

  • 患者・同居者への説明として、直接接触・共有物(タオル、衣類)を介して伝播することを伝え、予防に努める。

まとめ

  • T. indotineaeによってT. mentagrophytes ITS genotype VIIIから独立した新種としてされたで、形態は近縁種と区別できない。
  • 最大の特徴は遺伝子変異による高頻度耐性
  • インド亜大陸に由来し世界的に拡大しており、股部・体部・顔面に強い炎症性・難治性の病変を作る。
  • 通常の培養だけでは同定できず、標準治療に反応しない非典型白癬では分子同定・を行う。
  • 耐性が判明・疑われる場合の第一選択は(最大3か月間)で、の漫然投与を避ける。

出典

  1. 1.Terbinafine Resistance in Trichophyton rubrum and Trichophyton indotineae: A Literature Review(Antibiotics (MDPI)・2025)Trichophyton indotineae(T. mentagrophytes ITS genotype VIII)はインド亜大陸で出現しヨーロッパ・アジア・南北アメリカ・オーストラリア・アフリカへ拡大しており、スクアレンエポキシダーゼ遺伝子変異(Phe397Leu・Ala448Thrなど)によりテルビナフィンに高頻度に耐性化する。股部・体部・顔面に強い炎症性病変を作り、通常の培養だけでは他のTrichophyton種と区別できず分子検査・薬剤感受性試験が必要である。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Diagnosis and Management of Tinea Infections(American Family Physician (AAFP)・2025)Trichophyton indotineaeはテルビナフィンに高頻度に耐性を示し難治・広範な感染を起こすため、イトラコナゾール(最大3か月間)が第一選択となる。閲覧 2026-08-04
  3. 3.Notes from the Field: First Reported U.S. Cases of Tinea Caused by Trichophyton indotineae — New York City, December 2021–March 2023(CDC, Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)・2023)それまでTrichophyton mentagrophytes ITS genotype VIIIと同定されていた株は、ゲノム解析によりT. mentagrophytesとは十分に異なることが示され、新種Trichophyton indotineaeとして分類されるようになった。閲覧 2026-08-10