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Microbe Atlas · 真菌

Trichophyton rubrum

紅色白癬菌

分類
皮膚糸状菌 / DermatophytesTrichophyton
科目
Medical Microbiology
トピック
4/5: Mycoses of the skin and its adnexes: dermatophytoses
原因となる疾患
皮膚糸状菌症(白癬)
作用する薬剤
イソコナゾールイトラコナゾールグリセオフルビンクロトリマゾールケトコナゾールシクロピロクステルビナフィン

🧠 全体像Trichophyton rubrumは世界で最も高頻度に分離されるであり、の最多原因菌という臨床上の地位を占める。この菌の性格を決めているのは「(ヒトに完全適応した感染源)」という一点で、がこの菌を強い異物として認識しないため炎症は乏しく、その代わり慢性・難治性の経過をたどる。が派手な炎症で目立つのとは対照的に、T. rubrumは静かに居座り続ける。

微生物学的な特徴

Trichophyton)・Microsporum)・Epidermophyton)の3属に分かれ、どのを侵せるかが属ごとに決まっている。

侵す組織 代表種
Trichophyton 皮膚・毛髪・爪すべて T. rubrumTrichophyton mentagrophytesTrichophyton tonsuransTrichophyton schoenleinii
Microsporum 皮膚・毛髪(爪は侵さない Microsporum canisMicrosporum gypseum
Epidermophyton 皮膚・爪(毛髪は侵さない Epidermophyton floccosum

属名の由来がそのまま覚え方になる。 “Tri”()は3組織すべて、は毛髪だけ除外、Microsporumは爪だけ除外——3属の守備範囲は互いに補い合う関係にある。

  • の糸状菌で、を持つ
  • 培養:綿毛状の白色コロニーを作り、裏面がワイン赤〜ブルゴーニュ色に色素沈着するのが同定の決め手
  • 顕微鏡:が菌糸に沿って多数付着し、はまれで筆状
  • 感染源によって(ヒト→ヒト)・(動物→ヒト)・(土壌→ヒト)の3型に分けられ、T. rubrumの代表種
感染源 定義 炎症の強さ 代表種
ヒト→ヒト接触 弱い(慢性・軽微) T. rubrumTrichophyton tonsuransEpidermophyton floccosumTrichophyton schoenleinii
動物→ヒト接触 強い Microsporum canisTrichophyton mentagrophytes
土壌との接触 強い Microsporum gypseum

💡 なぜほど炎症が強いのか。 ヒトに適応した菌は、から「見慣れた抗原」として扱われやすく、免疫応答が穏やかなぶん排除されにくく慢性化する。逆に動物・の菌はヒトに適応していないため、がこれを強い異物として認識し、激しい炎症反応(膿疱・のような化膿性病変)を起こす代わりに自然治癒しやすい。「炎症が強い菌ほど治りやすく、大人しい菌ほど治りにくい」というがここから生まれる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Trichophyton rubrum の付着"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratinase'>ケラチナーゼ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum'>角層</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratin'>ケラチン</span>を分解"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum'>角層</span>内で増殖・定着"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anthropophilic'>好人性</span>のため<span class='jp-term jp-term-diagram' title='host immunity'>宿主免疫</span>の認識が弱い"]
    D --> E["炎症は軽微<br>掻痒はあるが発赤・膿疱に乏しい"]
    E --> F["排除されにくく慢性化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tinea pedis'>足白癬</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moccasin-type'>モカシン型</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tinea unguium'>爪白癬</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal lateral subungual onychomycosis'>遠位側縁爪甲下型</span>)"]

⚠️ 生きた組織には侵入しない。 を唯一の栄養源とする表在性感染であり、を越えて真皮以深や血流に達することはない。や致死的経過をたどるAspergillus fumigatusRhizopus oryzae)の全身性真菌症とはこの点で根本的に異なる。

感染経路と疫学

  • 感染者との直接接触、または床・タオル・靴・靴下・爪切りなど共有物を介した間接接触で伝播する
  • 高温多湿・密閉性の高い靴、多汗、公衆浴場やジムの共有スペースが増悪・になる
  • 世界的にの最多原因菌であり、特に成人のでこの菌の占める割合が高い
  • 慢性・難治性の経過をとりやすく、家庭内でのの温床になりやすい

起こす疾患

病型 特徴
足底から側縁にかけての慢性の角化・型に比べ炎症が乏しく気づかれにくい
遠位側縁からの黄白色によるの最多原因菌
を伴う、鱗屑性辺縁

詳細な病型分類・鑑別は(白癬)を参照。

診断

  • :皮膚・爪の検体でを確認する第一段階の検査
  • T. rubrumを含む蛍光を発しない(蛍光陽性はMicrosporumの一部菌種に限られる)
  • 培養:綿毛状白色コロニー・裏面のワイン赤色素で同定を確定する。や難治例では必須
  • は治療前に必ず菌学的確認を行う——乾癬・爪部腫瘍などの爪変化とされやすい

治療と予防

病型 治療
限局した体部・股部・ などの外用抗真菌薬を2〜4週間
経口が第一選択(手爪6週・足爪12週が目安)。代替は経口

⚠️ 診断未確定の環状皮疹にステロイド配合外用薬を使わない。 炎症だけを一時的に抑えて感染が拡大する(tinea incognito)を招く。

  • 爪は伸長が遅いため、菌学的治癒と見た目の改善には数か月〜1年以上の時間差がある
  • 予防として足の乾燥、靴・靴下・タオルの共有回避、爪切りの個別化が有効

まとめ

  • (皮膚・毛髪・爪すべて)・(皮膚・毛髪)・(皮膚・爪)という3属の守備範囲の違いが
  • T. rubrumの代表種で、の認識が弱いぶん炎症が乏しく慢性化しやすい。の菌ほど炎症が強い。
  • の世界的な最多原因菌に定着するが生きた組織には侵入しない表在性感染。
  • は蛍光陰性(Microsporumの一部との重要な鑑別点)。培養では裏面のワイン赤色素が同定の決め手。
  • は外用では届かないためが必要。の第一選択は経口