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Microbe Atlas · 真菌

Trichophyton tonsurans

分類
皮膚糸状菌 / DermatophytesTrichophyton
科目
Medical Microbiology
トピック
4/5: Mycoses of the skin and its adnexes: dermatophytoses
原因となる疾患
皮膚糸状菌症(白癬)
作用する薬剤
グリセオフルビンテルビナフィン

🧠 全体像:Trichophyton tonsuransはを起こす菌の代表格で、毛の内部に胞子を作るの感染様式が「黒点状に折れた毛」というを生む。の起因菌の構成は地域差が非常に大きく、本種はTrichophyton violaceumと並ぶ優勢な菌だが「世界のどこでも最多」ではない1。臨床像としては柔道・レスリングなど接触の多いスポーツでの集団発生が典型的で、無症候のを介して静かに広がる。

微生物学的な特徴

  • (Trichophyton)に属し、皮膚・毛髪・爪すべてを侵しうる(3属の守備範囲のはTrichophyton rubrumのノートを参照)
  • :ヒト-ヒト間の直接接触や、・帽子・枕・道着・マットなど共有物を介して伝播する
  • 感染:胞子がの内部に形成されるため、感染毛は皮膚表面近くで折れ、黒い点が皮膚に散在するように見える()——毛の外側を胞子が覆うのMicrosporum canisとは対照的なパターン
  • 培養:コロニー表面は粉状〜ビロード状まで多様で、色調も色〜黄褐色〜赤褐色まで幅がある。表面が折り重なるように盛り上がる(heaped)ことが多く、のが菌糸沿いに見られる

病原性の仕組み

のため感染初期はT. rubrumと同様に炎症が乏しいことが多いが、毛包内への深い感染という点でのような表層感染とは異なる。免疫反応が強く出た場合はに膿瘍性の炎症()を来し、続発性の細菌感染を合併することもある。

  • 内部で胞子が増殖 → 毛がして皮膚表面近くで折れる → 黒点状のとして顕在化
  • 病変から離れた部位に、菌体を含まない免疫反応性の丘疹・小水疱()が生じることもある

感染経路と疫学

  • の起因菌の頻度は地域差が極端に大きい。同じ20年間の文献でも報告される菌種の割合はアフリカ0.4〜87.7%、北米0.2〜74.0%、東アジア0.0〜91.2%、東欧0.0〜69.0%、オセアニア2.9〜86.4%と幅があり、世界で最も多く報告される菌はMicrosporum canis、菌では本種とTrichophyton violaceumが優勢である1
  • 💡 菌によるはに増えてきており、その背景として社会経済状況と人の移動(従来その菌がいなかった地域への持ち込み)が挙げられている1——「どの菌が多いか」は固定の知識ではなく、その土地とその時期の話である
  • 者(・帽子・枕などの共有)が感染源として重要
  • ⭐ 格闘技選手の——柔道・レスリングでの集団発生:組み合う競技特有のに加え、共有マット・防具を介した伝播で選手間に急速に広がる。日本では全日本柔道連盟を通じた全国調査(49施設1,000人)で11.5%がヘラシ法で陽性となり、そのうち現在も過去も白癬の所見がない者は者とみなされた2
  • 💡 上の11.5%は柔道部員という高リスク集団の数字で、日本の小児一般や全体の起因菌構成を表すものではない2
  • の既往(24.2%)・の併存(31.6%)・の増加(32.1%)・家族内感染(20.0%)がある部員では陽性率が20%を超えており、これらはで拾える手がかりになる2
  • 家庭内・保育施設・学校での接触伝播も多く、感染力が強いためのスクリーニングが重要になる
  • ⭐ 日本での位置づけ:2021年の全国調査ではのうち・は0.6%と少数だが、その約40%を10代以下が占める。とでは、ペットブームで台頭したMicrosporum canisと、2000年代から格闘技選手間で流行して台頭した本種の割合が高い3

起こす疾患

病型 特徴
endothrix型の。強い炎症では(疼痛性膿瘍状局面)に進展しうる
(格闘技選手の白癬) 格闘競技での直接接触により生じる。頭部だけでなく体幹・四肢の露出部に出る

詳細は(白癬)を参照。

診断

  • ・折れた毛と鱗屑をし、毛内部の胞子()を確認する
  • :蛍光陰性——Microsporum canisなど蛍光陽性のMicrosporumとの重要な鑑別点で、小児のでこの2菌を見分ける実践的な手がかりになる
  • 集団発生のには培養によるが重要(同一菌種によるかの確認)

治療と予防

⭐ 菌種によって第一選択が入れ替わるのがこの領域の要点。 小児の25試験4,449人を統合した解析では、T. tonsurans感染の完全治癒は経口がより優れ、逆にMicrosporum属のみによる感染ではが優れていた4。

起因菌 比較上有利な薬 数値
T. tonsurans 1.47(95% CI 1.22〜1.77)
Microsporum属のみ 0.68(95% CI 0.53〜0.86)
両者が混在する小児集団 差なし 1.08(95% CI 0.94〜1.24)
  • は毛包内へ薬剤を届ける必要があり、外用単独では無効。経口の抗真菌薬を用いる(日本の指針も内服療法を推奨度Aとし、は4〜8週の内服を勧めている)3
  • ⚠️ 本種では「体部だけなら外用で済ませる」が通りにくい。 が適用になるのはのみの症例で、日本の指針はこれを推奨度Bとしつつ、T. tonsuransの患者はまたは頭部保菌を伴うことが多く生毛内感染や再発で難治なため、だけでも内服の併用を勧めるとしている3
  • ⚠️ は日本では使えない。 Microsporum属にはの有用性が示されているが本邦では使用できないため、起因菌を問わず経口またはを用い、Microsporum属では海外のガイドラインに準じてを選ぶ。なお本邦では・とも小児への適用がない3
  • ・はTrichophyton感染に対して代替にはなるが最適な選択ではない4
  • ⚠️ この比較の根拠は強くない——組み入れられた試験はすべてが不明または高で、臨床的なも大きいと明記されている4。「=正解」と暗記せず、起因菌の同定と治療反応の確認を伴わせる
  • 対応として、同居者・チームメイトの症状確認とスクリーニング、・帽子・柔道着・マットの個別化と消毒が実務上重要
  • ⚠️ 診断未確定の環状皮疹にステロイド配合外用薬を用いない

まとめ

  • T. tonsuransはの種で、を起こす菌としてT. violaceumと並び優勢だが、起因菌の構成は地域と時期で大きく変わる1。
  • 感染により黒点状に折れた毛を作り、のMicrosporumとは所見(陰性)で鑑別できる。
  • 格闘技選手の——柔道・レスリングでの集団発生が典型的な感染様式で、日本の柔道部員1,000人の調査では11.5%が保菌していた2。スクリーニングと共有物の管理が対策の柱。
  • は外用単独では無効で、が必須。本種にはがより有利で、Microsporum属では逆になる4。⚠️ ただし日本ではが使用できず、内服はまたはで、だけの症例でも内服の併用が勧められている3。

出典

  1. 1.A systematic review of worldwide data on tinea capitis: analysis of the last 20 years(Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology・2021)抄録で、2000年7月〜2019年8月の文献を対象に頭部白癬の起因菌の頻度が地域ごとに大きく変動すること(アフリカ0.4〜87.7%、北米0.2〜74.0%、東アジア0.0〜91.2%、東欧0.0〜69.0%、オセアニア2.9〜86.4%)、世界で最も多く報告される動物好性菌がMicrosporum canisで、好人性菌ではTrichophyton violaceumとT. tonsuransが優勢であること、好人性菌による感染の頻度が経時的に増加して主要菌種になってきたことを確認した。全文は未取得で、確認範囲は抄録に限る。閲覧 2026-09-27
  2. 2.A nationwide survey of Trichophyton tonsurans infection among combat sport club members in Japan using a questionnaire form and the hairbrush method(Journal of the American Academy of Dermatology・2006)抄録で、全日本柔道連盟を通じて49施設1,000人(男性826人)を調査し、ヘアブラシ法で115人(11.5%)がT. tonsurans陽性だったこと、陽性率が20%以上と高かった背景要因が家族内感染(20.0%)・体部白癬の既往(24.2%)・フケの増加(32.1%)・体部白癬の併存(31.6%)であったこと、現在も過去も白癬がないのにヘアブラシ培養陽性の者を無症候性保菌者とみなしたことを確認した。調査対象は日本全国の柔道部員に限られる。全文は未取得で、確認範囲は抄録に限る。閲覧 2026-09-27
  3. 3.皮膚真菌症診療ガイドライン2025(日本皮膚科学会・日本医真菌学会合同皮膚真菌症診療ガイドライン策定委員会・2025)全文PDF(日皮会誌135巻13号)で、T. tonsurans感染症に抗真菌薬の内服療法を行うよう強く勧める(CQ11、推奨度A)こと、外用療法が適用になるのは体部白癬のみの症例で推奨度はB(CQ12「T. tonsurans感染症の体部白癬に抗真菌薬の外用療法を行うよう勧める」)にとどまり、"T.tonsuransによる体部白癬患者は,頭部白癬または頭部に保菌している症例が多く,生毛内感染や再発など難治であるため,基本的には抗真菌薬の外用療法を単独ではなく,体部白癬のみでも抗真菌薬の内服療法を併用することを勧める"と明記されていることを確認した。頭部白癬については内服療法が推奨度A(CQ10)でテルビナフィンは4〜8週の内服が勧められ、"Microsporum属による場合には,テルビナフィンよりもグリセオフルビンの有用性が示されているが,本邦ではグリセオフルビンを使用できない"、Microsporum属ではテルビナフィンとイトラコナゾールを直接比較したRCTは無いが海外のガイドラインではイトラコナゾールが推奨されること、本邦ではテルビナフィン・イトラコナゾールとも小児への適用がないことも確認した。2021年の日本医真菌学会全国調査では皮膚糸状菌症のうち頭部白癬・ケルスス禿瘡は0.6%と少数で、その約40%を10代以下が占め、体部白癬と頭部白癬ではペットブームで台頭したMicrosporum canisと2000年代から格闘技選手間で流行したT. tonsuransの割合が高いと記載されている閲覧 2026-09-28
  4. 4.Systemic antifungal therapy for tinea capitis in children: An abridged Cochrane Review(2017)抄録で、25の無作為化比較試験4,449人を統合した結果として、T. tonsurans感染の完全治癒ではテルビナフィンがグリセオフルビンより優れ(リスク比1.47、95% CI 1.22〜1.77)、Microsporum属のみによる感染では逆にグリセオフルビンが優れる(リスク比0.68、0.53〜0.86)こと、TrichophytonとMicrosporumが混在する小児では両薬の効果が同等(リスク比1.08、0.94〜1.24)であること、イトラコナゾール・フルコナゾールはTrichophyton感染の代替だが最適な選択ではないこと、組み入れ試験すべてがバイアスリスク不明または高であることを確認した。閲覧 2026-09-27