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Microbe Atlas · 真菌

Microsporum canis

犬小胞子菌

分類
皮膚糸状菌 / DermatophytesMicrosporum
科目
Medical Microbiology
トピック
4/5: Mycoses of the skin and its adnexes: dermatophytoses5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
皮膚糸状菌症(白癬)
作用する薬剤
グリセオフルビン

🧠 全体像:Microsporum canisはの中で(ネコ・イヌが)の代表種で、ペットとの接触がそのまま感染経路になる。ヒトに適応していないため強い炎症反応を起こしやすい一方、ではで病毛が緑黄色に光るという明確な診断的手がかりを持つ(同じ性質はM. ferrugineumなどごく一部の菌種に限られる)1。

微生物学的な特徴

  • (Microsporum)に属し、皮膚・毛髪を侵すが、爪はふつう侵さない(3属の守備範囲のはTrichophyton rubrumのノートを参照)
  • 感染:胞子がの外側を鞘状に覆う。では侵された毛包の開口部がで点々と緑黄色に光り、の中でも臨床的に重要な蛍光陽性種の代表である1
  • 培養:・厚壁で表面にを持つ(6分節以上)が特徴的。コロニー表面は白色〜黄褐色の羊毛状、裏面は黄橙色の色素を伴う

病原性の仕組み

のためがこの菌を強い異物として認識し、感染初期から著明な炎症反応を起こす。特に小児のでは、この強い免疫応答が(疼痛性の膿瘍状局面、毛包から膿が滲出する)に進展することがある。一方でこの激しい炎症は同時に菌の排除にも働くため、のTrichophyton rubrumのような慢性遷延化はきたしにくい。

感染経路と疫学

  • はイヌ・ネコ(特に無症候のまま保菌する子ネコが感染源として重要)で、家庭内でのペットとの接触が主要な感染経路
  • ペット飼育率の高い地域・年代層では、小児の・の主要な原因菌になる。日本でもT. rubrum・T. tonsuransと並ぶの主要な原因菌で、主にペット、とくにネコから感染する1
  • Microsporum属によるは、南米・南欧・中欧・アフリカ・中東で多く、米国ではの89%超がTrichophyton属による2
  • ヒト-ヒト間の伝播も起こりうるが、疫学の中心は動物→ヒトの伝播

小児のはM. canisとTrichophyton tonsuransが二大原因菌だが、感染源もも対照的である。

項目 M. canis() Trichophyton tonsurans()
感染源 ネコ・イヌ ヒト(・共有物)
胞子の位置
陽性(緑黄色) 陰性
炎症 強い(になりやすい) 軽度〜中等度
典型的な集団発生 家庭内(ペット由来) 柔道・レスリングなど格闘技

起こす疾患

病型 特徴
強い炎症を伴う。重症例では(疼痛性膿瘍状局面)に進展しうる
複数の局面として現れることが多い

詳細は(白癬)を参照。

診断

  • ⭐ 検査(365 nmの長波長紫外線)で緑黄色の蛍光——侵された毛包の開口部が点々と光り、病変の範囲の確定や治療判定にも役立つ1。日本の小児のでこの所見があればM. canisをまず考える
  • で外側を覆う胞子鞘()を確認する
  • 培養で・厚壁・を持つを確認し確定する

⚠️ 同じでもMicrosporum gypseumで蛍光がみられるのは一部にとどまる1。「Microsporum属はすべて陽性」という単純化は誤りで、蛍光陽性はM. canis・M. ferrugineumなど一部の種に限られる。逆に蛍光が無くてもは否定できない(のT. tonsuransは陰性)。

治療と予防

は内服治療が原則で、だけで治そうとしない。日本の指針は外用治療で悪化しうることから推奨せず1、米国の総説は外用薬が毛包に届かないことを理由に挙げる2。どのを選ぶかは国によって違う。

日本 米国
の 経口または(内服療法を強く勧める、推奨度A)1 現在は経口が第一選択(・有効性・安価さから)2。かつては6〜8週間が標準で、4〜6週間が同等の効果と安全性を示して置き換わった。米国の症例の大半はTrichophyton属なので、渡航歴が無ければから始めるのが妥当とされる2
Microsporum属の場合 よりの有用性が示されているが、日本ではを使えない。とを直接比べたは無く、海外のガイドラインはを推奨している1 よりが優れる可能性があり、培養でMicrosporum属と分かればが必要になりうる2
投与期間の目安 は4〜8週間の内服が勧められる。日本の用量設定は欧米の約半量のため投与期間は長くなる傾向がある1 6〜8週間、4〜6週間2
小児への使用 ・とも小児への適用が無く、剤形・体重・原因菌などを総合して十分な説明のもとで使う1 —
抗真菌薬を含むシャンプーは再発予防を含めて有効と考えられる1 最初の2週間に・などのシャンプーを併用すると伝播を減らしうる2

💡 なぜMicrosporum属ではが相対的に有利なのか。 本属の寄生形態はで、菌がの外側の鞘にいる。は汗腺・からの分泌・移行に乏しいため、この位置の菌に届きにくいと説明される1。のT. tonsuransとの治療薬の選び方の差は、この「菌がどこにいるか」から来ている。

  • でも、M. canisのようにが多発・汎発化している場合は内服を考える1
  • ⭐ 飼育動物の評価・治療を同時に行うことが予防の要——動物側の皮膚病変()があれば獣医と連携する。ネコ・イヌ・げっ歯類・ハリネズミから感染するT. mentagrophytes、から感染するT. verrucosumなどほかの好獣性菌にも共通する、菌には無い予防上のポイントである1
  • ⚠️ 抗真菌薬とステロイドの配合外用薬は使わない。 や全身性の副作用を起こしうるため、耐性を招かないための抗真菌薬適正使用の一項目として避けるべきものに挙げられている2

まとめ

  • M. canisはの代表種で、イヌ・ネコ(特に子ネコ)が。
  • ヒトに適応していないため炎症反応が強く、ではに進展しうる。
  • で緑黄色の蛍光を示す代表種——ただし同属のM. gypseumで光るのは一部にとどまり、属全体に一般化できない。
  • は内服治療が原則で、米国では現在が第一選択である2。ただしMicrosporum属にはが優れる可能性があり、日本ではそのが使えないため、寄生に届きやすいが選択肢に上がる1。感染源となるペットの評価・治療が予防の鍵。

出典

  1. 1.皮膚真菌症診療ガイドライン2025(日本皮膚科学会・日本医真菌学会合同皮膚真菌症診療ガイドライン策定委員会・2025)全文PDF(日皮会誌135巻13号2511-2566頁)で、本邦の頭部白癬の主要な原因菌が T. rubrum・T. tonsurans・M. canis(主にペット、特にネコから感染)であること、365 nm(Wood灯)検査では M. canis・M. ferrugineum による頭部白癬と M. gypseum によるものの一部で、侵された毛包の開口部が緑黄色に光ること、頭部白癬の治療は原則として経口テルビナフィンまたはイトラコナゾールで(CQ10「内服療法を行うよう強く勧める」推奨度A)、外用抗真菌薬単独の治療は推奨されないこと、Microsporum 属ではテルビナフィンよりグリセオフルビンの有用性が示されているが本邦ではグリセオフルビンを使用できず、Microsporum 属でテルビナフィンとイトラコナゾールを直接比較したRCTは無いものの海外のガイドラインではイトラコナゾールの選択が推奨されていること、本邦ではテルビナフィン・イトラコナゾールとも小児への適用がないこと、抗真菌薬含有シャンプーは再発予防を含め有効と考えられること、外用抗真菌薬による頭部白癬の治療は悪化しうるため本邦では推奨されないこと、体部白癬でも M. canis 感染症のように病巣が多発・汎発化した症例では内服を考慮すること(CQ9)、好獣性菌として M. canis(ネコ、イヌ)のほか T. mentagrophytes(ネコ、イヌ、げっ歯類、ハリネズミ)・T. verrucosum(ウシ)が挙がることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Diagnosis and Management of Tinea Infections(American Family Physician (AAFP)・2025)PMC掲載の全文(PMC12707599、著者署名は Avrom S Caplan・Jeremy A W Gold・Dallas J Smith・John W Ely = Am Fam Physician 2025;112(4):382-392、PMID 41118183)で、逐語「Oral terbinafine is considered first-line therapy for tinea capitis and onychomycosis because it is well tolerated, effective, and inexpensive.」「Although 6 to 8 weeks of griseofulvin therapy has been considered first-line treatment for tinea capitis, randomized clinical trials have shown that shorter treatment courses (4-6 weeks) of terbinafine are equally effective and safe.」を確認した。⚠️ NCBI 側の書誌メタデータだけが壊れており、この PMCID の esummary は Ely JW ら Am Fam Physician 2014;90(10):702-10(PMID 25403034)を指す(本文は T. indotineae・タバボロール・エフィナコナゾールに触れており2014年版ではありえない。pmclivedate は2025-12-17)。したがって year の2025は正しい。以下も同じ全文で確認:頭部白癬は外用薬が毛包に届かないため全身抗真菌薬で治療すること、Trichophyton 属ではテルビナフィンが、頻度の低い Microsporum 属ではグリセオフルビンが優れる可能性があること、米国の頭部白癬の89%超は Trichophyton 属によるが、Microsporum 属は南米・南欧・中欧・アフリカ・中東で多いこと、培養で Microsporum 属と分かればグリセオフルビンが必要になりうること、培養結果が出るまで2〜6週間かかるが米国外への最近の渡航歴が無ければテルビナフィンが妥当な最初の選択であること、最初の2週間に硫化セレン・ケトコナゾールなどのシャンプーを併用すると伝播を減らしうること、皮膚萎縮や全身性の副作用を起こしうるためクロトリマゾール・ベタメタゾン配合剤のような合剤を使わないことを確認した。閲覧 2026-09-27