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Microbe Atlas · 真菌

Epidermophyton floccosum

絮状表皮菌

分類
皮膚糸状菌 / DermatophytesEpidermophyton
科目
Medical Microbiology
トピック
4/5: Mycoses of the skin and its adnexes: dermatophytoses
原因となる疾患
皮膚糸状菌症(白癬)
作用する薬剤
グリセオフルビン

🧠 全体像:Epidermophyton floccosumはの唯一の種で1、侵すのは皮膚と爪で、毛髪への侵入はきわめてまれという守備範囲の限定が最大の特徴である。ロッカールームや共同生活環境での接触伝播を背景に、の古典的原因菌として知られる。ただし近年の症例集積ではもと同程度に多く、分離自体が減少傾向にある2。

微生物学的な特徴

  • (Epidermophyton)に属し、侵すのは皮膚・爪で、毛髪への侵入はきわめてまれである(守備範囲のはTrichophyton rubrumのノートを参照)
  • はE. floccosum一種のみで構成されるである。多遺伝子座のに基づく2017年の分類でもに置かれる種は1種のみだった1
  • :ヒト-ヒト間の直接接触や共有物を介して伝播する
  • 培養:カーキ色〜緑色のコロニーを形成し、比較的緩徐に発育する。(クラブ状)で平滑なが房状にするのが特徴。を作らない点が、を豊富に作るTrichophyton属などとの形態学的な鑑別点になる

⚠️ 「は3属」という枠組みは分子分類では成り立たない。 2017年の多遺伝子座系統分類では、従来多系統だったTrichophytonが整理され、とその近縁菌はTrichophyton(16種)・Epidermophyton(1種)・Nannizzia(9種)・Microsporum(3種)・Lophophyton(1種)・Arthroderma(21種)・Ctenomyces(1種)に再配置された(このほかGuarromyces・Paraphytonの2属が新設されている)。地生性やヒト圏から遠い動物の種がNannizzia・Lophophyton・Arthrodermaへ移った結果、ヒトに関わる種はより小さな群にまとまり同定しやすくなった1。

病原性の仕組み

のための認識が弱く、Trichophyton rubrumと同様に慢性・軽微な炎症にとどまることが多い。によるの分解と定着という機序自体は他のと共通する。

感染経路と疫学

  • 感染者との直接接触、または床・タオル・衣類などの共有物を介した間接接触で伝播する
  • ロッカールーム・共同シャワー室・軍隊の共同生活環境でのの集団発生が知られ、発汗・密閉性の高い衣類(下着・運動着)が増悪因子になる。タイの海軍士官候補生で起きた集団発生では、の皮疹で受診した86人のうち鏡検が陽性だった55人を分母として、76.4%(42人)が*E. floccosum*で、危険因子として衣類の共有59.5%・汗で濡れた衣類の着用100%・洗濯していない衣類の再着用81.0%が挙げられた3
  • との合併が多く、足からへすることもある
  • 分離頻度は高くなく、しかも減っている。 タイの外来で鏡検と培養により確定した4,669例のうちE. floccosumによるものは82例(1.8%)で、12年間を通じて分離が一貫して減少した2

起こす疾患

病型 特徴
(白癬) 〜の境界明瞭な紅褐色局面。古典的に本菌を代表する臨床像
や角化性鱗屑
環状・の
の・肥厚
きわめてまれ。毛髪への侵入は例外的だが、報告例はある(下記)

詳細は(白癬)を参照。

⭐ 「の菌」という覚え方は出発点にすぎない。 タイの外来で確定したE. floccosum感染82例の内訳は、39.0%・37.8%・26.8%で、が突出して多いわけではなかった(合計が100%を超えるので複数部位に病変を持つ症例が含まれると読めるが、は分母の数え方を明示していない)。発症時の平均年齢はが38.7歳、が50.6歳、が53.5歳で、有意差は付かなかった2。

⚠️ 「毛髪には決して感染しない」とまでは言えない。 守備範囲が皮膚と爪に限られるのが原則だが、の原因菌としてE. floccosumが分離された報告は存在する——中国本土の成人の文献解析(40論文・269例)では、菌種が同定された症例のうちE. floccosumが2例(報告上1.0%)を占めた4。頻度としては例外的であり、を見たときに第一にする菌ではないが、「起こさない」と断定はできない。

💡 の鑑別。 の紅斑性病変は(辺縁が不明瞭でを伴う)や(Corynebacterium minutissimumによる、でサンゴ赤色に蛍光する)と紛らわしい。E. floccosumによるは境界明瞭で活動性の高い隆起性辺縁を示し、通常は陰嚢まで及ばない点が鑑別の手がかりになる——海軍士官候補生の集団発生では陰嚢に病変が及ばなかったのが95.2%、両側性が87.2%、形態は環状が73.8%だった3。

⚠️ 「かゆいはず」という前提で探すと見落とす。 同じ集団発生では、日常生活を妨げる強い掻痒を訴えたのは7.1%にとどまり、最長2か月かけて緩徐に発症した例が78.9%だった。約2/3がに相談せずの外用薬で済ませていた——症状が軽いことが受診の遅れと集団内伝播の継続につながる3。

診断

  • で分枝したを確認する
  • 培養:のみでを作らないという所見が、Trichophyton属・Microsporum属との鑑別点になる
  • は蛍光陰性

⚠️ 臨床像だけで白癬と決めない。 は湿疹と、は反復する軽微な外傷による爪の変形や乾癬と紛らわしく、見た目だけの診断は信頼できない5。海軍士官候補生の集団発生でも、の皮疹で受診した86人のうち鏡検が陽性だったのは55人(64.0%)にとどまった3。

治療と予防

  • 限局した皮膚病変(体部・股部・足)にはで通常反応する。の適応となるのは、病変が広範な場合・外用で反応しない場合・免疫抑制がある場合・毛包が侵されている場合である5
  • とでは経口が第一選択とされる(・有効性・費用の点から)5。爪の変形は外傷や乾癬でも起こるため、長期の経口治療に入る前に「診断」の節の菌学的確認を済ませる
  • ⚠️ 抗真菌薬との配合は使わない。 転帰の最適化と耐性の予防という抗真菌薬の適正使用の一環として、避けるべきものとして明記されている5
  • ⚠️ 外用でも経口でも治らないときは、新興の白癬を疑う。 近年の新興白癬はより重症になりうるうえ、第一選択の外用薬・では改善しないため、長期の経口治療と専門的な検査を要しうる5
  • 発汗・密閉性の高い衣類を避け、患部を乾燥させることが再発予防の基本
  • タオル・衣類の共有を避け、を合併している場合は同時に治療する。共同生活環境では汗で濡れた衣類・洗濯していない衣類の再着用・衣類の共有を断つことが集団発生の制御につながる3

まとめ

  • E. floccosumはの唯一の種()で、侵すのは皮膚と爪。毛髪への侵入は例外的だが、の原因として分離された報告はある14。
  • で、培養ではを作らずののみを作る点がTrichophyton属・Microsporum属との形態学的な鑑別点。
  • の古典的原因菌——共同生活環境での集団発生が典型的な感染様式で、汗で濡れた衣類・衣類の共有が危険因子。ただし症例集積ではも同程度に多く、分離自体は減少傾向にある23。
  • 治療はには外用が基本で、広範・不応・免疫抑制・毛包病変では経口へ。とでは経口が第一選択で、抗真菌薬とステロイドの配合は避ける5。

出典

  1. 1.Toward a Novel Multilocus Phylogenetic Taxonomy for the Dermatophytes(2017)抄録で、rDNA ITS・部分LSU・リボソーム60Sタンパク・β-tubulin・translation elongation factor 3 を用いた多遺伝子座系統解析により Arthrodermataceae が再編され、新しい分類では*Trichophyton*が16種、***Epidermophyton*が1種**、*Nannizzia*が9種、*Microsporum*が3種、*Lophophyton*が1種、*Arthroderma*が21種、*Ctenomyces*が1種を含むこと、加えて*Guarromyces*と*Paraphyton*の2属が新設されたことを確認した。*Epidermophyton floccosum*は必要に応じて新規タイプ標本・エピタイプが指定された種のひとつである。従来*Trichophyton*が多系統であったため、地生性・ヒト圏から遠い動物寄生性の種は*Arthroderma*・*Lophophyton*・*Nannizzia*へ分けられた。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Prevalence and characteristics of Epidermophyton floccosum skin infections: A 12-year retrospective study(Mycoses・2024)抄録で、タイの皮膚科外来で2009年1月〜2020年12月に鏡検と真菌培養で確定した皮膚糸状菌症4,669例のうち*E. floccosum*によるものが82例(1.8%)だったこと、男女が各50.0%だったこと、最も多い病型が足白癬(39.0%)で次いで股部白癬(37.8%)・体部白癬(26.8%)だったこと(⚠️ この3つの合計は103.6%で、抄録は分母の数え方を明示していない)、発症時平均年齢が股部白癬38.7±18.7歳・足白癬50.6±14.2歳・体部白癬53.5±16.4歳で有意差はなかったこと、12年間で*E. floccosum*の分離が一貫して減少したことを確認した。分母は1施設の皮膚科外来で確定した皮膚糸状菌症であり、地域住民の有病率ではない。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  3. 3.A resurgence of tinea cruris caused by Epidermophyton floccosum: An outbreak among Thai naval cadets(Journal of Medical Mycology・2024)抄録で、鼠径部の皮疹で受診したタイの海軍士官候補生86人(全員男性、年齢中央値19歳)のうちKOH鏡検で分枝した有隔菌糸が55人(64.0%)に認められ、そのうち真菌同定で*E. floccosum*が42例(76.4%)・*Trichophyton mentagrophytes* complex が3例(5.5%)・培養陰性が10例(18.2%)だったことを確認した。病変は紅斑と色素沈着が混在し、約2/3で目立つ鱗屑を伴い、**陰嚢に病変が及ばなかったのが95.2%**、両側性が87.2%、最長2か月にわたる緩徐な発症が78.9%、形態は環状73.8%・斑状14.3%・多環状9.5%だった。**日常生活を妨げる強い掻痒を訴えたのは7.1%にとどまり**、約2/3が医師に相談せず市販外用薬を使っていた。衣類に関する危険因子は衣類の共有59.5%・汗で濡れた衣類の着用100%・洗濯していない衣類の再着用81.0%だった。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Adult tinea capitis in China: A retrospective analysis from 2000 to 2019(Mycoses・2020)抄録で、中国本土の成人頭部白癬の報告例を2000〜2019年にわたり検索した後方視的解析(40論文・269例)において、培養またはITS配列決定で同定された菌種の内訳が*Trichophyton violaceum* 70例(35.2%)・*Microsporum canis* 42例(21.1%)・*Trichophyton mentagrophytes* 32例(16.1%)・*Trichophyton rubrum* 23例(11.5%)・*Microsporum gypseum* 18例(9.0%)・*Trichophyton tonsurans* 6例(3.0%)・*Trichophyton schoenleinii* 4例(2.0%)・***Epidermophyton floccosum* 2例(1.0%)**・*Trichophyton verrucosum* と *Microsporum ferrugineum* が各1例(0.5%)であったことを確認した。すなわち*E. floccosum*が頭部白癬の原因として分離された報告が存在する。⚠️ 抄録は菌種内訳の分母を明示しておらず、挙げられた症例数の合計は199例で組み入れ269例より少ない。また各症例は公表された症例報告・症例集積であり、住民ベースの頻度ではない。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Diagnosis and Management of Tinea Infections(American Family Physician・2025)抄録で、体部白癬・股部白癬・足白癬は一般に安価な外用抗真菌薬に反応するが、**病変が広範な場合・外用で反応しない場合・免疫抑制がある場合・毛包が侵されている場合(頭部白癬など)には経口抗真菌薬の適応となる**こと、**頭部白癬と爪真菌症では経口テルビナフィンが第一選択**と考えられていること(忍容性・有効性・費用の点から)、臨床像のみの診断は信頼できないこと(体部白癬は湿疹と、爪真菌症は反復する軽微な外傷による爪の変形や乾癬と紛らわしい)、新興の白癬は従来型より重症でありうえ第一選択の外用薬・経口薬では改善しないため長期の経口治療と専門的検査を要しうること、**抗真菌薬とコルチコステロイドの配合剤の使用を避ける**ことを含む抗真菌薬の適正使用を強調すべきことを確認した。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27