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Symptoms · Published

補充現象

Loudness recruitment

別名
リクルートメント現象ラウドネスリクルートメント
臓器系
耳鼻咽喉科
科目
PhysiologyENT
トピック
生理学 8.5:聴覚の生理学耳鼻咽喉科 04:純音聴力検査・ティンパノメトリーと主観的・客観的聴力検査耳鼻咽喉科 22:急性・慢性感音難聴
関連疾患
メニエール病感音難聴

🧠 全体像の理解でいちばん大事なのは一点だけである——これは聴覚が過敏になったのではなく、難聴の所見である。患者は「音が響いてつらい」「うるさい」と訴えるためと誤認されやすいが、実体はむしろ逆で、小さい音が聞こえなくなっている(=難聴)のに大きい音の聞こえだけは保たれ、聞こえ始めてから不快になるまでのが狭くなっている状態である。この一点を取り違えると、「」への対症療法に走り、背後にある難聴の評価と、時にはであるの見逃しにつながる。

定義と用語の整理

状態 (小さな音への感度) 不快に感じ始める
正常聴覚 正常 高い 広い
の一分類) 正常 低下する(小さな音でも不快) 狭い——不快点だけが下がる
(難聴の所見) 上昇する(小さな音が聞こえない) ほぼ健常域を保つ 狭い——閾値が不快点に追いつく
正常 音量とは——特定の音の種類が引き金 概念自体が別軸(音量に依存しない情動反応)

⚠️ 「音が響く・うるさい」という訴えの言葉づかいだけでは、を区別できない。 区別する軸の一つが音量依存性で、は音量を上げるほどに不快になる完全な音量依存型であるのに対し、は音量に依存せず特定の音の種類が引き金になる——対極にあるこの2つを踏まえたうえで、での閾値上昇の有無を確認する。

病態生理

蝸牛のは、本来小さな音を選択的に増幅する能動的な)として働く。基底膜の振動を能動的に増強するが、この増幅の寄与は音が大きくなるほど小さくなる——健常な蝸牛でも、大きな音はもともと増幅にあまり頼っていない。

が障害されると、小さな音の増幅だけが失われる。大きな音は増幅を介さずともへ伝わっていたため、聞こえはそのまま保たれる。結果として、を上げていったときのな大きさの増え方が健常者より急に立ち上がる——これがである1

💡 「そのものが壊れた」のではなく、「小さい音専用のだけが壊れた」と捉えると一言で説明できる。

この機序は蝸牛(内耳性)の障害に特徴的で、のようなでは原則みられない。この対比は病変部位の局在診断に使われる2。原因はなど、蝸牛を障害する感音難聴全般に共通する。

検査でとらえる

ではとも低下する感音難聴として現れるだけで、そのものは映らない。を直接とらえるには、より大きい音域での反応をみるが要る。

  • ):左右の耳へに音を提示し、同じ大きさに感じる強度を比較する。閾値では両耳差があっても、大きな音では患側・が同程度の強度で釣り合う「完全補充」を示せば病変を示唆する2
  • ):の20dB上の音に1dBの微小な増分を重ね、検出できた割合をスコア化する。障害では微小な増分でも検出しやすく高スコアになり、では検出しにくく低スコアにとどまる3
  • を測定し、との差()が狭いことを確認する。

の有無は、片側性・非対称性の感音難聴でかを絞り込む手がかりになる。

⚠️ 見逃してはいけないもの

  • ⚠️ 「音が響く」の裏に治療可能な難聴が隠れている。 そのものに緊急性はないが、背景がなら治療可能時間が限られたであり、として対症的に扱うと感音難聴の評価開始が遅れる。時間枠の詳細は難聴に譲る。
  • ⚠️ を欠く片側性・進行性難聴はを疑う。 などが代表で、を前提に補聴器適合だけを進めると画像評価の機会を逃す。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["「音が響く・うるさい」という訴え"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pure-tone audiometry'>純音聴力検査</span>で<br>閾値上昇があるか"}
    B -->|"閾値は正常"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperacusis'>聴覚過敏</span>など<br>他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phonophobia'>音過敏</span>を検討"]
    B -->|"閾値上昇あり(難聴を伴う)"| D{"急性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sudden'>突発性</span>の発症か"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otologic emergency'>耳科救急</span>として<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='urgent audiometry'>緊急聴力検査</span>・ステロイド適応評価"]
    D -->|"いいえ・慢性進行性"| F{"片側性・非対称性で<br>進行性か"}
    F -->|"はい"| G["ABLB・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short increment sensitivity index (SISI) test'>SISI検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loudness recruitment'>補充現象</span>の有無を確認<br>欠如なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrocochlear pathology'>後迷路性病変</span>としてMRIを検討"]
    F -->|"いいえ・両側対称性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cochlear'>蝸牛性</span>難聴として<br>加齢性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Noise'>騒音</span>性・耳毒性などを検索"]

対応の考え方

  • そのものを治療対象にしない。原因となる感音難聴の評価・治療に一本化する。
  • が背景にあれば、への対応より原疾患のステロイド治療などを優先する。
  • 補聴器を適合するときは、単純なでは大きな音がさらに不快になる。⚠️ を用いた調整が必要で、全帯域を均一に増幅する調整のまま処方すると装用継続が難しくなる。

まとめ

  • の核心は「過敏ではなく難聴の所見」という一点にある。小さい音が聞こえないのに大きい音の聞こえは保たれ、が狭くなっている。
  • 機序は)の障害による、小さな音専用の増幅の選択的喪失である。
  • (内耳性)の感音難聴に特徴的で、では原則みられないため、病変部位の局在診断に使える。
  • 検査は測定などのでとらえる。だけでは分からない。
  • 見逃してはいけないのは、「音が響く」の訴えに隠れた治療可能なと、を欠く片側性・進行性難聴に潜むである。
  • 対応はそのものではなく原因となる感音難聴の評価・治療に一本化し、補聴器はでの調整が要る。

出典

  1. 1.A Review of the Neurobiological Mechanisms that Distinguish Between Loudness Recruitment and Hyperacusis(Medical Science Monitor (NCBI/PMC収載)・2022)補充現象は難聴後に生じる中〜高強度音での急峻な音量知覚の増大であり、聴力閾値が正常なまま日常音に不耐性を示す聴覚過敏とは機序が異なること、また外有毛細胞障害による入出力関数の増幅低下(低強度音側での増幅喪失)が補充現象の機序として説明されていることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Behavioral Tests for Audiological Diagnosis(Ento Key (Essentials of Audiology)・2017)ABLB検査(交互両耳ラウドネスバランス検査)は左右の耳へ交互に音を提示し同じ大きさに感じる強度を比較する検査で、閾値では両耳差があっても高強度域で両耳の強度が釣り合う「完全補充」は蝸牛性病変を示唆し、補充を欠く場合は後迷路性病変を疑う所見であることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.How to Perform a Short Increment Sensitivity Index (SISI) Test(Amplivox Ltd.・2023)SISI検査は純音閾値の20dB上の音に1dBの微小な増分を重ねて検出率をスコア化する検査で、70%以上は蝸牛性病変を示唆する陽性、30%未満は正常聴力または後迷路性病変を示唆する陰性と判定されることを確認した閲覧 2026-08-03