Biochemistry

Biochemistry · 11/3

代謝と神経系の機能との関係

The relationship between metabolism and the functions of the nervous system — S II

🧠 脳の代謝は「の電気代を払うための代謝」として読む。 シグナル伝達(signal transduction:活動電位・)で崩れたイオン勾配をするATP需要が、脳のの中心。血液脳関門という関所が、この代謝を血中の変動から守りながら、に必要な前駆体だけを選んで通す。

脳のエネルギー需要の規模

脳は体重の約2%に過ぎないが、全身の酸素摂取・血流・の約20%を占める。成人脳のニューロンは主にグルコースをエネルギー源とするが、長期絶食・ではケトン体、状況により乳酸も利用できる(09-02-metabolic-characteristics-of-brain-and-adipose-tissue-metabolism-of参照)。

  • 脳細胞の中でニューロンが総エネルギーの70〜80%を消費し、残りを(glial cell:アストロサイト・)が使う。
  • エネルギー利用はの活動と直結する:活動電位・したイオン勾配を、Na⁺,K⁺-ATPaseなどがする過程がの主体(10-01-membrane-transporters-na-k-atpase-isoforms-secondary-active-transport参照)。
  • PET(¹⁸F-デオキシグルコース、¹⁵O₂)・fMRI(酸化/比の変化)は、まさにこのエネルギー供給・利用に直結するシグナルを検出する画像技術。

進化・加齢・はすべて「脳のの変化」という共通言語で語れる。 ヒトのの獲得はグルコース利用の増加と関連し、正常加齢ではグルコース・率が低下、パーキンソン病(amyotrophic lateral sclerosis、ALS)ではこの低下がさらに顕著になる。

血液脳関門とその輸送体

脳は自身のエネルギー貯蔵をほとんど持たず、血中からの継続的な基質供給に依存する。血液脳関門・血液-脳脊髄液関門がこの供給を血中組成の変動から保護しつつ制御する。

輸送体ファミリー 機能
イオン輸送体 Na⁺,K⁺-ATPase、Na⁺-H⁺交換体 イオン勾配・pH維持(10-01-membrane-transporters-na-k-atpase-isoforms-secondary-active-transport
SLC輸送体(ATP非依存) GLUT(グルコース・)、MCT(乳酸・ケトン体・ピルビン酸)、アミノ酸輸送体、EAAT)、コリン輸送体 栄養素・神経伝達物質前駆体の供給
ABC輸送体 MRP(多剤耐性関連タンパク)、P-、BCRP(乳癌耐性タンパク) 脂溶性分子の(異物・薬物からの保護)
受容体介在性 インスリン・ 特定タンパク質の関門通過
吸着介在性 非特異的膜結合タンパク質 同上(受容体非依存)

神経伝達物質そのものは血液脳関門を通れない。 ドパミン・GABA・グルタミン酸などは脳内で合成する必要があり、前駆体(グルコース由来ののチロシン・など)を輸送体経由で受け取る(11-01-molecular-basis-of-nerve-impulse-transmission-acetylcholine-synthesis11-02-adrenergic-receptors-molecular-mechanism-of-adrenaline-noradrenalineの各合成経路を参照)。パーキンソン病治療でドパミンでなくL-DOPA(アミノ酸輸送体で脳内へ入る)を投与するのは、この関門透過性のに対する直接的な解決策。

グルコース代謝と神経機能の接点

  • 内皮細胞のGLUT1が血液脳関門でのグルコース取り込みを、別のGLUT1がグリア・への供給を担う。GLUT3はニューロンに発現し、他の輸送体より高いグルコース親和性・輸送能をもつ——が低くても、ニューロンへの供給を優先的に確保する設計。
  • 細胞内でグルコースはによりグルコース-6-リン酸(G6P)に不可逆的に変換され、解糖・に分岐する。
  • ニューロンは優位、アストロサイトは解糖優位という代謝的分業(division of metabolic labor、09-02-metabolic-characteristics-of-brain-and-adipose-tissue-metabolism-ofANLS参照)。

PPP由来のNADPHは神経伝達物質代謝にも使われる。 NADPHは脂肪酸・合成、の維持(の還元)に加え、神経伝達物質のにも利用される。解糖とPPPへの分配バランスが崩れる(解糖側に偏る)とNADPH供給が減り、・細胞死のリスクが高まる。

  • ニューロンのはミトコンドリアに結合しており、ミトコンドリアが産生したATPを直接受け取る「」により、エネルギー効率上の利点を得ている。

代謝と神経伝達物質合成のリンク

そのものがに直接影響する経路がいくつもある。

代謝要因 神経伝達物質への影響
グルコース由来の グルタミン酸・GABA(中間体経由)、アセチルCoA→アセチルコリン
チロシン供給 カテコールアミン合成の材料(THはKmが生理的濃度に近く、供給量が影響しうる)
供給 セロトニン合成の材料。血漿遊離/比が中枢セロトニン合成・疲労感に関与(09-03-biochemistry-of-exercise-midterm-1-s-iiの疲労機序参照)
ビタミンB6(PLP) (AADC、GAD)・——全般に関わる
酸素・低酸素 セロトニン合成()は低酸素に感受性——虚血・低酸素での神経伝達障害の一因

まとめ

  • 脳は体重の2%で全身酸素消費の20%を占め、消費の大半はによる膜電位・に使われる。
  • 血液脳関門はSLC・ABC輸送体とを実現し、神経伝達物質そのものは通さないが前駆体は通す(L-DOPA治療の合理性)。
  • GLUT3はニューロンで・高輸送能をもち、低グルコース環境でも供給を優先確保する。
  • PPP由来のNADPHは脂質合成・に加え神経伝達物質にも使われ、解糖/PPPバランスの破綻は・神経細胞死に直結する。
  • 代謝基質(チロシン・・グルコース)の供給量そのものが、対応する神経伝達物質の合成速度・中枢機能に直接影響する。