Biochemistry

Biochemistry · 9/2

脳と脂肪組織の代謝的特徴;腸上皮細胞とリンパ球の代謝;飢餓-摂食サイクルとその調節;飢餓時の肝細胞代謝の調節

Metabolic characteristics of brain and adipose tissue; metabolism of intestinal epithelial cells and lymphocytes; the starvation–feeding cycle and its regulation; regulation of hepatocyte metabolism in starvation — L II

応用トピック
不随意体重減少の鑑別診断消化管疾患 症例3小児・思春期の摂食障害

🧠 脳は「ニューロンとアストロサイトの分業(乳酸シャトル、lactate shuttle)」で読み、絶食は「肝が段階的に燃料の質を変えていく時間軸」として読む。 ニューロンはグリコーゲンを貯められず解糖・PPP・ミトコンドリア酸化に依存、アストロサイトがグリコーゲンを貯め乳酸を供給する。全身レベルでは、絶食が進むにつれ肝は糖新生の基質を替え、最終的に脳がケトン体を燃料として使うようになる、という時間発展が要点。

脳の代謝— ニューロンとアストロサイトの分業

脳はが非常に大きく(全身エネルギーの70–80%を消費し、その大半をニューロンが使う)、ニューロンの密度あたりミトコンドリア数はアストロサイトの8〜10倍に達する。

細胞 グリコーゲン貯蔵 主な解糖産物の運命
ニューロン GLUT3 できない(GSK3がを恒常的にリン酸化・・分解) ピルビン酸→ミトコンドリアで酸化(TCA・ETC)
アストロサイト GLUT1 貯蔵する優位) LDH5でピルビン酸→乳酸に変換、ニューロンへ供給

アストロサイトは高いPFK2活性(-2,6-BPを産生しPFK1をに活性化)で解糖を促進し、余剰のピルビン酸を乳酸としてニューロンに供給する。ニューロンはLDH1(乳酸への親和性が高い)でこれを取り込みピルビン酸に戻して酸化する。ニューロンのPDK4発現増加によるPDH不活性化・低いPFK2活性が、この「乳酸を受け取る側」のを補強する。

⚠️ Lafora病はニューロンの阻害機構の破綻。 EPM2A/EPM2B遺伝子(laforin=グリコーゲンホスファターゼ、malin=E3〈ubiquitin ligase〉)の変異により、本来蓄積しないはずの異常な(低分岐・過剰リン酸化)グリコーゲンが脳・筋・心・肝に蓄積し、(progressive myoclonic epilepsy)を起こす。

ペントースリン酸経路と抗酸化防御

ニューロンはグルコース-6-リン酸の一部をPPPに回し、NADPHでを還元型に保ち、から保護する。

脳のケトン体利用

絶食・・運動などでグルコース供給が低下すると、肝は脂肪酸とからケトン体(・3-ヒドロキシ酪酸・アセトン)を産生する。

  • ケトン体はで血液脳関門を通過する。
  • 脳内で、発達段階・細胞の需要に応じ酸化的経路)または経路(アセトアセチルCoA→HMG-CoA→ステロール前駆体〈sterol precursor〉、脂質合成)に振り分けられる。

脂肪組織の代謝的特徴

脂肪組織は(white adipose tissue, WAT、エネルギー貯蔵)と(brown adipose tissue, BAT、熱産生)に大別され、でも・疾患リスクへの寄与が異なる(05-05-mobilization-of-fatty-acids-in-adipose-tissue-and-its-regulation09-07-regulatory-and-adaptation-signals-and-their-mechanism-of-actionで甲状腺ホルモンとの関連を扱う)。を介して直接肝に脂肪酸を送るため、によるインスリン抵抗性の形成に強く関与する(09-05-metabolic-syndrome-biochemistry-of-obesity-s-ii)。

腸上皮細胞とリンパ球の代謝

グルタミンの約25%、遊離アミノ酸の約60%を占める、体内で最も豊富な遊離アミノ酸である(07-04-degradation-of-amino-acids-fate-of-the-carbon-skeleton-role-of-vitamins参照)。

・リンパ球はグルコースよりもグルタミンを好んで燃料にする(グルタミノリシス、glutaminolysis)。 増殖の速い細胞(腸陰窩〈intestinal crypt〉の上皮細胞、活性化リンパ球)は、グルタミンをα-を介してで酸化し、エネルギーとを同時に得る。この特性は腫瘍細胞のグルタミン依存性(07-04-degradation-of-amino-acids-fate-of-the-carbon-skeleton-role-of-vitaminsの例)とも共通する、急速増殖細胞に共通の代謝戦略。

飢餓-摂食サイクル

絶食が進むにつれ、体は燃料源を段階的に切り替える。

flowchart TD
  A["摂食後(数時間)<br>血糖・インスリン高値"]
  A --> B["短期絶食(〜24h)<br>肝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycogenolysis'>グリコーゲン分解</span>が血糖を維持"]
  B --> C["肝グリコーゲン枯渇(〜1–2日)<br>糖新生が優位に(乳酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alanine'>アラニン</span>・グリセロール)"]
  C --> D["長期絶食<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat mobilization'>脂肪動員</span>↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketogenesis'>ケトン体産生</span>↑"]
  D --> E["脳がケトン体を主要燃料として利用<br>(グルコース需要↓→筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proteolysis'>タンパク分解</span>の節約)"]

長期絶食での脳のケトン体利用は「タンパク質を守る」適応。 絶食初期は脳がグルコースに依存するため、糖新生用のアミノ酸(筋由来)が大量に消費される。長期化するとケトン体が脳の主要燃料になり、糖新生の需要が減ることで、致死的な減少を防ぐ(生存期間を延ばす中心的な適応)。

肝細胞代謝の調節

絶食時、肝は以下を協調的に行う:→糖新生への切り替え、の亢進、の取り込み増加。ホルモン的にはインスリン低下・グルカゴン上昇が中心的な04-06-gluconeogenesis-cori-cycle-regulation-of-glycolysis-and-gluconeogenesis09-06-nutrients-regulating-metabolism-through-alterations-in-gene-expressionのPGC-1α・SIRT系の役割も参照)。

まとめ

  • ニューロンはグリコーゲンを貯められず解糖・PPP・ミトコンドリア酸化に依存、アストロサイトはグリコーゲンを貯め乳酸をニューロンへ供給する(ANLS)。Lafora病はこのの破綻。
  • 脳はケトン体をMCT経由で取り込み、酸化的またはに利用する。
  • は門脈経由で肝へ脂肪酸を送りインスリン抵抗性に強く関与する。
  • ・リンパ球はグルタミンを主要燃料とする(グルタミノリシス)、急速増殖細胞に共通の代謝戦略。
  • 絶食は段階的に燃料源を切り替え、長期絶食での脳のケトン体利用は筋タンパクの温存につながる適応。