Biochemistry

Biochemistry · 12/1

血栓の形成と除去の概観;フィブリノゲンとフィブリン;プロトロンビンの活性化とトロンビン活性の調節;血液凝固の引き金と開始の増幅

General overview of blood clot formation and elimination; fibrinogen and fibrin; prothrombin activation and regulation of thrombin activity; triggers of blood clotting and amplification of the initiation — L II

応用トピック
抗凝固療法と適応

🧠 止血は「(秒)→凝固(分)→の成熟(時間〜日)」という時間軸で読む。 フィブリノゲンがトロンビンで段階的に切断されフィブリンへ、非共有結合のからFXIIIによる共有結合架橋へと安定化していく。トロンビン自体はという2つの「」経由でのみ生成され、血漿中の高濃度阻害因子(など)に常に監視されている——「作られる」ことと「消される」ことのバランスとして凝固を理解する。

止血と血栓症の基本用語

過程 時間スケール
(primary hemostasis:、血管収縮)
血液凝固(
の成熟(共有結合架橋、退縮、細胞浸潤) 時間〜日

血栓症(凝固依存性)と(血小板依存性)に大別される。

⚠️ NETosisは血栓の「第二の基質」を作る。 好中球が感染部位へ遊走・活性化し(サイトカインIL-8・LPSなどで)、・細胞外殺菌活性を発揮する過程でNETs(:フィブリン・DNA・ヒストンからなる網)が形成され、血栓の構造的な第二の基質として組み込まれる。COVID-19患者ではDIC所見がの71.4%、の0.6%に認められた(NETosisと血栓症の臨床的関連を示す一例)。

フィブリノゲンとフィブリンの構造

フィブリノゲンは分子量約340,000 Daので、2Aα・2Bβ・2で連結された構造。中央のE-ドメイン、両端のD-ドメイン、αC-ドメインからなる。

💡 のC末端20アミノ酸の負電荷が、トロンビン・FXIIIの結合部位。 フィブリノゲンには遺伝的variantがあり、フィブリノゲンγ’は、(別の変異は)との関連が報告されている——同じ分子の些細な構造差が血栓症のリスクを左右しうる例。

フィブリン形成の段階的な切断

トロンビンは高いをもつで、まずAのArg16のペプチド結合を切断する。

flowchart TD
  A["フィブリノゲン"]
  A --> B["トロンビンがA<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha chain'>α鎖</span>Arg16を切断<br>フィブリノペプチドA遊離"]
  B --> C["フィブリンIモノマー<br>(末端-末端で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high affinity'>高親和性</span>に会合、二本鎖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protofibril'>プロトフィブリル</span>形成)"]
  C --> D["トロンビンがB<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta chain'>β鎖</span>Arg14を切断<br>フィブリノペプチドB遊離"]
  D --> E["フィブリンII<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protofibril'>プロトフィブリル</span><br>(末端-末端+側方会合で広範なゲル網=フィブリンゲル)"]
  E --> F["FXIIIaによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma chain'>γ鎖</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha chain'>α鎖</span>間の<br>Nε-(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合形成"]
  F --> G["共有結合架橋された安定フィブリン"]

フィブリノペプチドAとBの切断は「隠れた重合部位を露出させる」鍵。 フィブリノゲンのA・B重合部位はフィブリノペプチドが切断されて初めて利用可能になる(a・b部位は常時利用可能)。A部位は同方向を向き二本鎖構造を、B部位は逆方向を向き広範な空間構造(spatial structure、フィブリンゲル)を作る——ペプチド切断の順序が、最終的な構造の形を決める。

非共有結合から共有結合へ

  • 未架橋のフィブリンは非共有結合性のため、に可溶
  • トロンビンが活性化するが、フィブリン鎖間にイソペプチド結合を形成し共有結合的に安定化する——架橋後のフィブリンは尿素に不溶になる(このの違いが実験的にFXIII活性を評価する原理)。
  • フィブリン自体がFXIII活性化の補因子として働く(正のフィードバック的な安定化)。

トロンビン生成の経路:2つのテナーゼ複合体

血管壁の損傷がない限り、)は活性化されない。活性化には2種類の「」のいずれかが必要。

経路 構成 トリガー
(extrinsic tenase) FVIIa+Ca²⁺+の細胞表面に発現) 血管壁の破綻(血液がに触れる)
(intrinsic tenase) FIXa+FVIIIa(リン脂質膜上、Ca²⁺依存) 接触相タンパク質(FXII、FXI、)の非膜面での活性化

が生成したFXa(+FVa、Ca²⁺、リン脂質膜=)が、をトロンビンへ活性化する。

FXIIの活性化は「炎症か凝固か」を振り分ける接点。 FXIIは(補因子)・/(正のフィードバック)と協調して活性化される。血小板δ顆粒から放出されるポリリン酸が、この(接触相)経路の活性化を促す物質として注目されている——炎症性シグナルと凝固系のの一端。

臨床検査の理論的基盤

検査 旧名称 評価する経路
(PT) +リン脂質膜を添加)
表面+リン脂質膜を添加)

(詳細な実施手順・12-04-molecular-background-of-congenital-thrombophilia-apti-pti-evaluations-p参照)

血小板によるプライミング

損傷部位にした血小板が、を提供し凝固複合体の組み立て(assembly)を支援する(活性化の「」)。αはトロンビン受容体としても働き、この過程を後押しする。

トロンビン活性の停止

生成されたトロンビンは、血漿中に高濃度(約10⁻⁶ M)で存在する阻害因子群により速やかに不活化される(遊離トロンビン濃度は通常10⁻¹⁰ M未満)。

阻害因子 特徴
(antithrombin) 血漿中約3400 nM。阻害機構(プロテアーゼを「罠」にかけ不可逆的に捕捉)。ヘパリンが作用を著しく促進(ヘパリン補因子IIも同様)
ヘパリン補因子II ヘパリンで促進
α1-
(α2M) ホモ(720 kDa)、プロテアーゼを物理的に「罠」にかける非型機構(Cys-Glx分子内結合の開裂を介する)

💡 TFPI()はの初期ブレーキ。 TFPIはにより異なる補因子(=FXa結合を介した早期FVa阻害、など)をもち、細胞局在(cellular localization:内皮細胞・血小板 vs 内皮細胞のみ)で機能が異なる。の活性を早期に抑え、凝固が過剰に広がるのを防ぐ。

プロテインC系による第2のブレーキ

トロンビン生成のもう一つの依存性抗凝固経路・EPCR・/によるFVa・FVIIIaの不活化)で、血管の解剖学的部位・血流(ストレス、shear stress)に応じて内皮の濃度が変わることがこの経路の効きやすさを左右する(詳細は12-03-cellular-elements-of-the-haemostatic-system-platelets-and-von)。

ビタミンK依存性因子

FII()・FVII・FIX・FX)と・S・Z(抗凝固性)はすべてビタミンK依存性のGlaドメイン(γ-)をもつ。Ca²⁺はGlaドメインの可能な構造に保つ働き(中心4Ca²⁺)と、への直接結合(周辺Ca²⁺)という2つの異なる役割を担う。ワルファリン)はこのGla形成を阻害することで抗凝固効果を発揮する(詳細は12-04-molecular-background-of-congenital-thrombophilia-apti-pti-evaluations-p)。

まとめ

  • 止血は(秒)→凝固(分)→成熟(時間〜日)の時間軸で進む。NETosisは血栓の第二の基質を提供する。
  • フィブリノゲンはトロンビンによる段階的切断(フィブリノペプチドA→B)でフィブリンIからフィブリンIIゲルへ。FXIIIaが共有結合架橋で安定化(尿素不溶化)。
  • トロンビン生成は)・(接触相活性化)→を経る。血小板・αがを支援。
  • トロンビンは高濃度の血漿阻害因子(=型、α2=物理的捕捉)で速やかに不活化される。TFPIがの早期ブレーキ。
  • PT()・APTT()はこれらの経路を反映する臨床検査。ビタミンK依存性因子(Gla・Ca²⁺)が凝固促進・抗凝固の両方を担う。