発生学

発生学 · 10.1

筋系:骨格筋(横紋筋)

Muscular System — Skeletal (striated) muscle

🧠 骨格筋はほぼすべて由来で、そのうち体幹・四肢のものは体節由来、と覚えるのが幹。 体節はまずとに分かれ、から筋節とが生じる。筋節はさらに背側の epimere(→ 背筋)と腹側の hypomere(→ 四肢・体壁筋)に分かれ、それぞれ脊髄神経の・が支配する。では MyoD・Myf5・MRF4 などのが筋決定と分化を担い、が融合して多核の→筋線維になる。この「体節→→筋節→epimere/hypomere→融合」の流れが本節の全体像。

骨格筋の起源

骨格筋の大部分はに由来する。体幹・四肢の骨格筋は体軸に沿って分節して体節になったから生じ、頭蓋顔面の骨格筋は未分節のから生じる。1

  • 体幹・四肢の骨格筋 → 分節した=体節由来。1
  • 頭蓋顔面の骨格筋 → 未分節の頭部(頭部中胚葉)由来。頭部中胚葉はさらに前・咽頭・側方の3つの中胚葉に分かれ、がを、咽頭中胚葉が咽頭弓を経て・・咽頭を生じる(詳細は 10-2-head-limb-body-wall-muscles)。1
  • 舌の筋 → 由来。の中胚葉細胞が頭部のシグナルでに決定され、に沿って舌へ遊走してからになる(16-2-tongue-thyroid)。2
  • 例外的に、平滑筋・心筋は中胚葉の別系統やから(10-3-cardiac-smooth-muscle)。

⚠️ 「頭頸部の骨格筋はすべて未分節のから」と閉じて書かない。 口腔顔面の筋は咽頭弓の中胚葉とという2つの領域から発生し、そのうち舌の筋は=分節した体節に由来する。2 未分節/分節の対比は「頭蓋顔面の筋 vs 体幹・四肢の筋」という大枠を掴むための整理であって、頭部側に体節由来の筋が一つも無いという意味ではない(10-2-head-limb-body-wall-musclesの表を併せて見る)。

💡 somitomere(体節分節)という語には用法が2つあり、文献ごとに指すものが違う。 ①分節時計を扱う現行の文献では、未分節中胚葉の前端の細胞が形態変化して上皮性の球になったもの——つまり体節になる直前の単位——を指す。13 ②これとは別に、ニワトリ胚の頭部中胚葉に見いだされた「体節の痕跡」を somitomere と呼ぶ用法(Meier 1979)があり、メダカ・ツノザメ・マウスの胚でも報告された。ただし②は追試で同じ形態構造が検出されず、頭部中胚葉の遺伝子発現もそのパターンに合わなかったという報告があり、頭部が分節するか否かは今も決着していない。4 どちらの意味で使われている語かを確かめてから読む。②の意味で書かれた資料を「誤り」と断じるだけの根拠は無い(06-2-mesoderm-derivatives・09-1-skull)。

体節の分化

体節はな3区分へ同時に分かれるのではない。まず腹内側のと背外側のに大別され、から筋節・が、との境界から腱前駆領域であるが生じる、という階層で理解する。35

区分 分化上の位置づけ 主な由来構造・前駆細胞 誘導シグナル
体節の腹 椎骨・肋骨などの ・からの Shh
体節の背 と筋節の共通前駆 背側の WNT、低 BMP
筋節 由来 骨格筋の WNT・Shh(epaxial)/WNT・BMP4(hypaxial)
腱節 と筋節の 椎骨に付着する腱・の前駆 —

のとの細胞がの下に入り込んで筋節を形成し、ここからが生まれる。

💡 ・・筋節がどの位置のシグナルで決まるかは「近い組織が運命を決める」典型例。とに近い腹内側は Shh を浴びて に、背側外胚葉と神経管に近い背側は WNT を浴びて になる(誘導の原則、01-1-induction-signaling参照)。

筋原性調節因子

への運命決定と分化は、bHLH 型転写因子であるが担う。

因子 役割
Myf5・MyoD 細胞をへ運命づける(determination)
Myogenin の融合・分化を進める(differentiation)
MRF4 筋決定にも働き、後期の分化・成熟にも関与

⭐ MyoD と Myf5 は中心的なだが、MRF4もとして働きうる。 Myf5・MyoDをともに欠く条件でもMRF4発現が保たれれば骨格筋が形成されるがあり、「決定=MyoD/Myf5のみ」と固定しない。試験上は「MyoD/Myf5 = 決定、Myogenin = 融合・分化」を基本に、MRF4の決定作用を補足する。6

背側筋節と腹側筋節

各筋節は、脊髄神経が2つの枝に分かれるのに対応してとに分割される。

区分 由来する筋 支配神経
脊柱の伸筋群= 脊髄神経の
四肢筋・体壁筋(外・内・、、前頸筋)・横隔膜の一部 脊髄神経の

⚠️ 各筋は自分を作った筋節を支配する脊髄神経を「連れて」移動する。そのため筋が発生位置から大きく移動しても神経支配は元の分節を反映する(例:横隔膜は頸部 C3–C5 の筋節由来 → が頸部から下降する。11-3-diaphragm-formation・11-4-clinical 参照)。この原則が神経支配パターンの理解の鍵。

筋芽細胞の融合と筋線維の形成

筋節のが伸長・整列し、互いに融合して多核のを形成する。

  • の細胞質に=アクチン・ミオシンの筋フィラメントが規則的に配列 → 横紋が現れる。
  • 核は細胞辺縁(直下)に押しやられる。
  • の一部が筋線維表面に残り、成体での筋の成長・再生を担う筋幹細胞となる。
  • 筋の成長は主に肥大(既存線維の肥大)により、出生後の新たなは限られる。
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraxial mesoderm'>傍軸中胚葉</span>→ 体節"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dermomyotome'>皮筋節</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsomedial lip'>背内側縁</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventrolateral lip'>腹外側縁</span>の細胞"]
  B --> C["筋節に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoblast'>筋芽細胞</span>が出現<br>MyoD・Myf5 が運命決定"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoblast'>筋芽細胞</span>が整列し融合 → 多核の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myotube'>筋管</span><br>Myogenin が融合・分化を促進"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibrils'>筋原線維</span>が配列し横紋を示す筋線維へ"]
  E --> F["一部は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satellite cell'>サテライト細胞</span>として残存し再生を担う"]

まとめ

  • 骨格筋の大部分は由来。体幹・四肢の骨格筋は分節して体節になったから、頭蓋顔面の骨格筋は未分節の頭部から生じ、そのうちがを、咽頭中胚葉が咽頭弓を経て・・咽頭を作る。
  • ただし舌の筋は(=分節した体節)由来で、「頭頸部の筋はすべて未分節のから」とは書けない。
  • somitomere は「体節になる直前の単位」を指す用法と、頭部中胚葉の体節の痕跡を指す用法の2つがあり、頭部が分節するか否かは決着していない。
  • 体節はまずとへ分かれ、から筋節・が、との境界から腱節が生じる。
  • MyoD・Myf5・MRF4(決定)と Myogenin(融合・分化)が骨格筋分化を制御する。
  • 各筋節は(背筋・支配)と(四肢・体壁筋・支配)に分かれる。
  • 筋は支配神経を連れて移動するため、位置が変わっても神経支配は元の分節を反映する。
  • が融合して多核の→筋線維となり、が再生を担う。

出典

  1. 1.Location, Location, Location: Signals in Muscle Specification(Journal of Developmental Biology・2018)本文冒頭が「Craniofacial muscles and cardiac muscle originate from the unsegmented PM, whereas, the skeletal muscles of body and limbs originate from the segmented PM that gives rise to somites」と述べ、図1の説明も傍軸中胚葉の一部が頭部・咽頭の筋を、別の部分が体節を生じるとする。ただし同総説の図2の説明は「Tongue and neck muscles arise from the medial-dorsal and lateral-ventral domains of the occipital and cervical somites」と書いており(参照文献105・106を典拠とする)、舌筋・頸筋を未分節傍軸中胚葉の側には置いていない。2節「Craniofacial Myogenesis」は「Cranial mesoderm later specifies into the prechordal, pharyngeal, and lateral mesoderm. Prechordal mesoderm gives rise to the extraocular muscles (EOM) which encompass six muscles that control the eye movement. Pharyngeal mesoderm forms the branchial arches (BA) that give rise to the masticatory, facial, pharyngeal and laryngeal muscles, and the secondary heart field」と述べる(原文の語は prechordal mesoderm であり prechordal plate ではない)。5.1節「Somitogenesis」は「Cells from the anterior tip of presomitic mesoderm undergo different morphogenetic changes and form as an epithelial ball, termed somitomeres」と定義しており、somitomere が未分節中胚葉の前端にできる上皮性の球(体節になる直前の単位)を指す語であることを確認した閲覧 2026-09-06
  2. 2.Orofacial Muscles: Embryonic Development and Regeneration after Injury(Journal of Dental Research・2020)「Orofacial Muscle Development」節が、口腔顔面の筋は咽頭弓の中胚葉と後頭部体節という胚頭部の2つの領域から発生し、「The occipital somites give rise to the muscles of the tongue」と述べる。「Molecular Regulation of Tongue Muscle Development」節は、後頭部体節で中胚葉細胞が頭部神経堤細胞のShh・Wntによって筋原性に決定され、決定後の細胞が舌下神経に沿って舌原基へ遊走してから筋芽細胞へ分化することを整理している閲覧 2026-09-06
  3. 3.Understanding paraxial mesoderm development and sclerotome specification for skeletal repair(Experimental & Molecular Medicine・2020)体節は硬節と皮筋節へ分かれ、硬節系譜は椎柱や腱などの組織形成に寄与する。あわせて「Somitogenesis」節で、somitomere の形成周期が未分節中胚葉(presomitic mesoderm)で動く分節時計によって決まること、Mesp2がsomitomereの前方部でEphを上げ、その境界で未分節中胚葉の前端から体節が切り離されることを述べており、somitomere が体節形成の途中段階の単位を指す語であることを確認した閲覧 2026-08-22
  4. 4.Ultrastructure of the lamprey head mesoderm reveals evolution of the vertebrate head(iScience・2023)導入が、頭部が分節するか否かの論争は決着しておらず争点は耳胞前(pre-otic)の頭部中胚葉の由来にあると整理したうえで、「vestiges of somites, known as somitomeres, have been discovered in the head mesoderm of early chicken embryos」(Meier 1979)とし、メダカ・ツノザメ・マウスの胚でも報告されたと述べる。続けて「However, replication studies of somitomeres did not detect such morphological structures, nor did gene expression profiles of head mesoderm fit well with somitomere patterns」と、追試で同じ形態構造が検出されず遺伝子発現もそのパターンに合わなかったことを記す閲覧 2026-09-06
  5. 5.In Vitro Generation of Somite Derivatives from Human Induced Pluripotent Stem Cells(Journal of Visualized Experiments・2019)体節は筋節・硬節・皮節・腱節を生じ、それぞれ骨格筋・軸骨格・背部真皮・軸性腱靱帯へ分化する閲覧 2026-08-22
  6. 6.Mrf4 determines skeletal muscle identity in Myf5:Myod double-mutant mice(Nature・2004)MRF4は分化後の機能だけでなくMyf5・MyoD二重欠損下でも筋系譜決定因子として働きうる閲覧 2026-08-22