組織学

組織学 · 5.2

神経組織:シナプス

Nervous tissue — Synapses

応用トピック
重症筋無力症

🧠 シナプスは「→化学信号→」という変換装置、と覚える。 軸索を伝わってきた活動電位()が、で神経伝達物質(化学信号)の放出に変換され、の受容体がそれを再びに変換する——この2度の変換こそがシナプスの本質的な機能で、()はこの変換ステップを省略した例外として位置づける。

化学シナプスの構造

ほとんどのシナプスはで、神経伝達物質を介して情報を伝達する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic terminal'>シナプス前終末</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axon terminal'>軸索終末</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ampulla'>膨大部</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptic vesicle'>シナプス小胞</span>に神経伝達物質を貯蔵"]
  B --> C["活動電位到達→Ca²⁺流入→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exocytosis'>開口分泌</span>で神経伝達物質を放出"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptic cleft'>シナプス間隙</span>を拡散"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsynaptic membrane'>シナプス後膜</span>の受容体に結合"]
  E --> F["postsynaptic細胞に新たな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PSP, postsynaptic potential'>電気信号</span>(興奮性/抑制性)を生成"]
構成要素 特徴
が膨らんだ構造、多数のとミトコンドリアを含む
神経伝達物質を貯蔵する膜性小胞、により内容物を放出(01-2-membranous-organellesのと同じ原理)
・後膜の間の狭い間隙(約20nm)
神経伝達物質受容体が密に存在し、電気的あるいは代謝的な応答を惹起する

神経伝達物質は、貯蔵と放出の様式によって次のように整理できる。像でどの小胞が見えるかと対応するので、形態から機能を読む手がかりになる。

分類 例 貯蔵する小胞
小分子伝達物質 アセチルコリン、グルタミン酸、、グリシン 芯をもたない明調な小型小胞
ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン 芯の濃い有芯小胞(小型有芯小胞)
神経ペプチド 、、 大型有芯小胞。細胞体ので作られで運ばれる
ガス状伝達物質 、 小胞に貯蔵されない(必要時に合成され拡散する)

⚠️ 「神経伝達物質は小胞に貯蔵され、からへ放出される」という枠組みには例外がある。 は小胞にも入らずもされず、合成されるとそのまま膜を通って拡散する。小脳細胞でNMDA受容体を刺激すると、内皮由来弛緩因子()と同じ性質の拡散性メッセンジャーがCa²⁺依存性に放出され、の受容体活性化を近傍のやへ伝えうることが示された1——→という逆向きの伝達である。

💡 「1個ぶん」が伝達の最小単位である(量子仮説)。 のでは刺激がなくても一定の大きさの小さな脱分極が自発的に生じており2、神経刺激で生じるはこの微小電位を単位とする整数倍の成分の重ね合わせとして説明できる3。この「単位」の形態的な実体がである。カエルを10 Hzで刺激すると、1分で膜が30%減る一方で細胞膜が同量増え、15分刺激では60%減った小胞膜が終末内部の不整な槽として現れ、休ませると槽が消えて小胞が戻る——西洋ワサビを使った追跡から、小胞膜はで細胞膜へ加わったあと被覆小胞として回収され、槽を経て新しい小胞へ再利用されることが示された4。の小胞が刺激で枯渇せずに済むのはこのリサイクルによる。

電気シナプス

一部のシナプスは(02-3-cell-junctions)を介したで、化学伝達物質を介さず活動電位が直接隣接ニューロンへ伝わる。より伝達速度が速いが、信号の増幅・調節はできない。

⭐ =・遅延あり・修飾可能/=・遅延なし・修飾困難という対比は頻出。心筋・平滑筋のによる興奮伝播(04-2-cardiac-muscle)と、ニューロン間のは同じ「を介した電気的結合」という共通原理に立脚している。

シナプスの分類:接続部位による分類

分類 接続の相手
→
→細胞体
→他の軸索(などに関与)

💡 は骨格筋線維とニューロンのとの間に形成される特殊なで、神経伝達物質にはアセチルコリンが用いられる——シナプスの(前終末・間隙・後膜)は神経間だけでなく神経-筋間の伝達にも共通して当てはまる。

まとめ

  • は活動電位→神経伝達物質の→という2段階の信号変換を行う。
  • はを介して活動電位を直接伝え、速いが修飾は困難。
  • シナプスは接続部位により軸索・軸索細胞体・に分類される。
  • は神経-筋間ので、アセチルコリンを神経伝達物質とする。
  • 神経伝達物質は小分子伝達物質・・神経ペプチド・ガス状伝達物質に分かれ、前3者は小胞(明調な小型小胞・小型有芯小胞・大型有芯小胞)に貯蔵される。
  • 伝達の最小単位は1個ぶんであり(量子仮説)、小胞膜は後に被覆小胞として回収されて再利用される。
  • は小胞に貯蔵されず拡散し、からへ逆向きに働きうる例外である。

出典

  1. 1.Endothelium-derived relaxing factor release on activation of NMDA receptors suggests role as intercellular messenger in the brain(Nature・1988)小脳細胞のNMDA受容体をグルタミン酸で刺激すると、内皮由来弛緩因子(一酸化窒素)と極めてよく似た性質をもつ拡散性のメッセンジャーがCa²⁺依存性に放出され、NMDA受容体活性化後のcGMP上昇を説明する。中枢神経系ではこの因子がシナプス後のNMDA受容体活性化を近傍のシナプス前終末やグリア細胞へ連絡しうる閲覧 2026-08-24
  2. 2.Spontaneous subthreshold activity at motor nerve endings(The Journal of Physiology・1952)神経筋接合部の終板で、刺激がなくても自発的に生じる閾値下の小さな脱分極(微小終板電位)を記録した報告。神経伝達物質が一定の大きさの単位で放出されていることを示す最初の電気生理学的証拠閲覧 2026-08-24
  3. 3.Quantal components of the end-plate potential(The Journal of Physiology・1954)終板電位が微小終板電位を単位とする整数倍の成分の重ね合わせとして生じることを示し、神経伝達物質放出の量子仮説を定式化した報告閲覧 2026-08-24
  4. 4.Evidence for recycling of synaptic vesicle membrane during transmitter release at the frog neuromuscular junction(The Journal of Cell Biology・1973)カエル縫工筋の運動神経終末を10 Hzで刺激すると、1分でシナプス小胞膜が30%減る一方それに見合う分だけ細胞膜が増え、15分では60%減った小胞膜が終末内部の不整な槽(シスターナ)として現れる。休止させるとシスターナが消えて小胞が戻り、西洋ワサビペルオキシダーゼはまずシスターナ、次いで新生小胞へ入る。小胞膜は開口分泌で細胞膜へ加わり、被覆小胞として回収されてシスターナを経て新しい小胞へ再利用される閲覧 2026-08-24