組織学

組織学 · 5.3

神経組織:神経膠細胞(グリア)

Nervous tissue — Neuroglia

応用トピック
脳腫瘍の病理学的分類

🧠 は由来で2グループに分かれる、と覚える——(アストロサイト・・)は「もとから神経系の一員」、中胚葉由来のだけは「胎生早期に卵黄嚢から移り住んだマクロファージ」という部外者。 さらにCNSとPNSで担当が分かれる細胞(はCNS担当、はPNS担当の髄鞘形成細胞)を対応させて覚える。

CNSのグリア細胞:神経外胚葉由来

中枢神経系のには以下の4種がある。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroglia'>グリア細胞</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Neuroectoderm derivatives'>神経外胚葉由来</span>"]
  B --> B1["アストロサイト:最多、支持・血液脳関門"]
  B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>オリゴデンドロサイト</span>:CNSの髄鞘形成"]
  B --> B3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ependymal cell'>上衣細胞</span>:脳室・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid plexus'>脈絡叢</span>の内張り"]
  A --> C["中胚葉(卵黄嚢)由来"]
  C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microglia'>ミクログリア</span>:CNSのマクロファージ<br>卵黄嚢の原始マクロファージ由来・自己複製で維持"]
細胞 由来 機能
アストロサイト 最も数の多い。ニューロンへの代謝支援、血液脳関門(blood–brain barrier)の形成への関与、損傷後の()。さらにシナプスを取り巻いて伝達を調節し(三者間シナプス)、AQP4を介して脳の排出路(グリンパティック系)を支える
CNS内での髄鞘形成(05-4-nerve-fibers)。の突起を伸ばし、近傍の多数の軸索にそれぞれ1つずつ髄鞘分節を与える
脳室・脊髄の内張り、の上皮を構成し脳脊髄液の産生に関与
中胚葉(唯一の例外)。ただし造血幹細胞系列ではなく卵黄嚢の原始マクロファージ由来 CNSに常在するマクロファージ、貪食・(03-1-cellsの)。成体では血液からの補充を受けず自己複製で維持される

⚠️ だけが中胚葉由来という点は最頻出の引っかけ——他の3種の(アストロサイト・・)はいずれもでニューロンと“同郷”だが、だけは別の起源をもつ。

⚠️ その「別の起源」は骨髄の造血幹細胞でも血中の単球でもない。 「は血液由来の単球がCNSに定着したもの」という記載は多くの教科書に残っているが、現在は否定されている。マウスので、成体は胎生8日より前に生じる原始に由来し、生後のは成体脳のの恒常性にほとんど寄与しないことが示された1。この前駆細胞は胎生8.5日の卵黄嚢で発生する赤芽球で、造血幹細胞とは別系統として胎児肝へ移住し、・・を生む——これらは生後1年のマウスでも造血幹細胞由来の細胞にごくわずかしか置き換わらない2。さらに個体間で血流を共有させるパラビオーシス実験では、でもモデルでも血流からの前駆細胞の動員は起こらず、の維持と損傷時の増加は常在細胞の自己複製のみで説明された3。卵黄嚢も中胚葉なので「中胚葉由来」という枠組み自体は正しく、直すべきは「造血幹細胞系列」「血中単球の定着」という部分である。

⚠️ 「グリアはニューロンより数が多い(10:1)」も数え直しで覆っている。 分画法でヒト脳を数え直すと、脳全体のグリア:ニューロン比は1:1未満、グリア総数は1000億未満(推定幅400〜1300億)であり、「ニューロン1000億に対しグリア1兆」という半世紀続いた通説は誤りだった(過去の組織学的データも一貫して全脳で約1:1を支持していた)4。「グリアの方が圧倒的に多い」ではなく「脳全体では概ね同数」と覚え直す。

💡 アストロサイトの役割は「支持・代謝支援・血液脳関門」だけでは足りない。 ①アストロサイトはニューロンの活動に応じて細胞内Ca²⁺を上げ、自らも化学伝達物質を放出してシナプス強度をする。シナプスは前終末・後膜・グリアの三者からなる構造(三者間シナプス)として捉え直されている5。②アストロサイトのが並ぶは脳の排出路になっており、脳脊髄液は周囲から実質へ入りは静脈周囲へ抜ける。アストロサイトのAQP4を欠くマウスではこの流れが滞って間質溶質のクリアランスが約70%低下し、の除去も抑制された(グリンパティック系)6。脳にリンパ管が無いのにタンパク質を捨てられる仕組みが、アストロサイトのの形態と結びついている。

💡 上の4種に加えて、NG2グリア(前駆細胞, OPC)を第4の主要グリアとして数える枠組みが定着している。 NG2を発現し、成熟アストロサイト・・と形態的にも抗原的にも機能的にも区別される細胞集団で、ニューロンからシナプス入力を受ける点でも他のグリアと異なる7。成体中枢神経系では白質・灰白質を問わず広く分布し(白質の密度は灰白質の1.5倍にとどまる)、前駆細胞と髄鞘形成の比は脊髄で約1:4、前脳灰白質では1:1で、BrdU取り込みでは成体中枢神経系で分裂している主要な細胞集団であった8。を除いた「アストロサイト・・」に続く4番目、という数え方であり、上の4種の枠組みを置き換えるものではない。

PNSのグリア細胞

には対応する2種のグリア(支持)細胞がある。

細胞 機能
PNSでの髄鞘形成(1つのが1本の軸索の1区間のみを取り巻く、05-4-nerve-fibers)
末梢神経節内で神経細胞体を密に覆う被膜細胞(05-5-supporting-structures)

💡 (CNS)は1個の細胞が多数の軸索を同時にできるのに対し、(PNS)は1個が1本の軸索の1区間しかしない——この非対称性は、CNS/PNSどちらの髄鞘形成細胞かを問う設問で頻繁に狙われるポイント(詳細は05-4-nerve-fibers)。成熟マウス視神経で単一細胞を色素注入して元すると、1個のは近傍の平均19本(幅12〜35本)の軸索に対してそれぞれ1つずつ髄鞘分節を与えており、節間長は平均138 μm(幅50〜350 μm)だった9。「複数の軸索の複数区間」と丸暗記するより、「多数の軸索に1本ずつ配る」(担当本数と節間長は軸索の太さで変わる)と押さえた方がに近い。

まとめ

  • CNSのにはアストロサイト(支持・血液脳関門)、(髄鞘形成)、(脳室内張り)、(貪食)がある。
  • のみ中胚葉由来で、他の3種はという起源の違いがある。
  • の中胚葉起源は造血幹細胞系列でも血中単球でもなく、胎生早期の卵黄嚢に生じる原始マクロファージ/赤芽球であり、成体では血液からの補充を受けず自己複製で維持される。
  • 「グリアはニューロンより1桁多い」は誤りで、ヒト脳全体のグリア:ニューロン比は1:1未満、グリア総数は1000億未満である。
  • アストロサイトは三者間シナプスの一員としてを調節し、AQP4を介してグリンパティック系による排出を支える。
  • NG2グリア(前駆細胞)は他の3種と区別される第4の主要グリアで、成体中枢神経系で分裂している主要な細胞集団である。
  • PNSのには(髄鞘形成)と(神経節内の被膜細胞)がある。
  • は多数の軸索にそれぞれ1つずつ髄鞘分節を与えるが(マウス視神経で平均19本)、は1本の軸索の1区間のみを担当する。

出典

  1. 1.Fate mapping analysis reveals that adult microglia derive from primitive macrophages(Science・2010)生後の造血前駆細胞は成体脳のミクログリアの恒常性にほとんど寄与しない。in vivoの系統追跡により、成体ミクログリアは胎生8日より前に生じる原始骨髄系前駆細胞に由来することが確立された。ミクログリアはCSF-1欠損マウスでも発生するがCSF-1受容体欠損マウスでは欠如し、単核食細胞系のなかで個体発生的に独立した集団である閲覧 2026-08-24
  2. 2.Tissue-resident macrophages originate from yolk-sac-derived erythro-myeloid progenitors(Nature・2015)マウスの運命追跡実験で、脳のミクログリア・肝のクッパー細胞・表皮のランゲルハンス細胞・肺胞マクロファージの大半は、造血幹細胞とは別系統の卵黄嚢由来赤芽球骨髄系前駆細胞に由来する。この前駆細胞は胎生8.5日に卵黄嚢で発生し胎生10.5日より前に胎児肝へ移住する。ミクログリア・クッパー細胞・ランゲルハンス細胞は生後1年のマウスでも造血幹細胞由来の細胞にごくわずかしか置換されない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Local self-renewal can sustain CNS microglia maintenance and function throughout adult life(Nature Neuroscience・2007)パラビオーシス(個体間で血流を共有させる)で作ったキメラマウスでは、除神経モデルでも中枢神経変性疾患モデルでも血流からのミクログリア前駆細胞の動員は認められず、ミクログリアの維持と局所での増殖は中枢神経系に常在する細胞の自己複製のみによって支えられる閲覧 2026-08-24
  4. 4.The search for true numbers of neurons and glial cells in the human brain: A review of 150 years of cell counting(The Journal of Comparative Neurology・2016)ヒト脳の細胞数を等方性分画法で数え直すと、脳全体のグリア:ニューロン比は1:1未満、グリア総数は1000億未満(推定幅400〜1300億)である。「ニューロン1000億に対しグリア1兆、比は10:1」という半世紀にわたる通説は誤りで、過去の組織学的データも一貫して全脳で約1:1を支持していた閲覧 2026-08-24
  5. 5.Tripartite synapses: glia, the unacknowledged partner(Trends in Neurosciences・1999)グリアはニューロンの活動に応じて細胞内Ca²⁺濃度を上げ、それが引き金となってグリア自身から化学伝達物質を放出し、ニューロンの活動とシナプス強度をフィードバック調節する。シナプス周囲のアストロサイトとシュワン細胞はシナプスの調節要素そのものであり、シナプスは前終末・後膜・グリアの三者からなる閲覧 2026-08-24
  6. 6.A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β(Science Translational Medicine・2012)脳脊髄液は貫通動脈を取り巻く血管周囲腔から脳実質へ入り、間質液は静脈周囲の経路へ排出される。アストロサイトの水チャネルAQP4を欠くマウスではこの流入が遅くなり間質溶質のクリアランスが約70%低下する。標識アミロイドβもこの経路で運ばれ、Aqp4欠損で可溶性アミロイドβの除去が抑制される閲覧 2026-08-24
  7. 7.Polydendrocytes: NG2 cells with many roles in development and repair of the CNS(The Neuroscientist・2007)NG2プロテオグリカンを発現するグリア細胞(NG2細胞、ポリデンドロサイト)は、成熟アストロサイト・オリゴデンドロサイト・ミクログリアと形態的・抗原的・機能的に区別され、哺乳類中枢神経系の第4の主要グリア細胞集団に相当する閲覧 2026-08-24
  8. 8.NG2-expressing glial progenitor cells: an abundant and widespread population of cycling cells in the adult rat CNS(Molecular and Cellular Neuroscience・2003)成体ラット中枢神経系9領域の解析で、NG2陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞は白質・灰白質を問わず広く分布し、白質の密度は灰白質の1.5倍にとどまる。前駆細胞と髄鞘形成オリゴデンドロサイトの比は脊髄で約1:4、前脳灰白質で1:1である。BrdU取り込み実験でNG2陽性細胞が成体中枢神経系で分裂している主要な細胞集団であることが示された閲覧 2026-08-24
  9. 9.Three-dimensional morphology of astrocytes and oligodendrocytes in the intact mouse optic nerve(Journal of Neurocytology・1994)成熟マウス視神経で単一細胞を色素注入して三次元再構築すると、1個のオリゴデンドロサイトは近傍の平均19本(幅12〜35本)の軸索に対してそれぞれ1つずつ髄鞘分節を提供し、節間長は平均138 μm(幅50〜350 μm)である。アストロサイトは単一の形態集団であり、type-1/type-2という2型への区分は支持されない閲覧 2026-08-24