組織学

組織学 · 9.4

消化管:胃

Digestive tract — Stomach

応用トピック
胃癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断

🧠 は「深さごとに違う細胞が並ぶ縦のライン」と覚える——頸部に近い浅い側は粘液・幹細胞、中央はを作る、深い底部はを作る主細胞、というように上から下へ役割が変わる。 この「深さ=機能」の対応さえ押さえれば、細胞の名前と分泌物の組み合わせを個別に暗記する必要がなくなる。

胃粘膜の表面:胃小窩

胃の内表面は(のみ)に覆われ、へ向かって陥入するが多数開口する。の底には、胃の領域ごとに異なる名前の腺(・・)が続く。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface mucous cells'>表面粘液細胞</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric pit'>胃小窩</span>を裏打ち、アルカリ性粘液を分泌し胃酸から粘膜を保護"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric pit'>胃小窩</span>の底から腺が続く:領域により<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac glands'>噴門腺</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundic gland'>胃底腺</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyloric glands'>幽門腺</span>"]

胃底腺:領域ごとの細胞配置

・に分布するは胃で最も細胞の種類が多く、深さに応じて異なる細胞が配置される。

細胞 位置(深さ) 分泌物・機能
頸部(腺の浅い部分) 可溶性の粘液、幹細胞的な性質ももつ(ただし増殖・分化の起点となる幹細胞は頸部よりやや上の)1
頸部〜体部に散在 と(ビタミンB12吸収に必須)を分泌、好酸性の強い細胞質(豊富なミトコンドリア)
主細胞 底部に多い を分泌、好塩基性(rER豊富、00-2-staining)
腺全体に散在(は腺の下半分に優位)2 で主役なのは(ヒスタミン)。ほかに(ソマトスタチン)、X/A様細胞()など(13-5-diffuse-endocrine)。を分泌するはではなく幽門前庭部にある

⭐ は強い好酸性、主細胞は強い好塩基性という染色性の対比は頻出——の細胞質にはミトコンドリアとが豊富でに強く染まり、主細胞は合成のためのrERが豊富でに強く染まる、という00-2-stainingの原則(rER発達=好塩基性)がここでも当てはまる。

⭐ は「→→」という3段リレーで動く、と押さえる。 幽門前庭部のが出したは血流に乗って粘膜(部)へ届き、CCK-2受容体を介してのヒスタミン合成・放出を促す。そのヒスタミンがのH2受容体に結合して初めて胃酸が分泌される3。がを直接叩いているのではなく、のヒスタミンを挟むという点が要——が胃酸を抑えられるのはこのリレーの真ん中を断つからである。

💡 は分泌の引き金であると同時に、粘膜の栄養(増殖)因子でもある。は胃の幹細胞との増殖を促し、・の総量を増やす3。逆に前庭部切除で低血症にすると数は減り、持続的なではびまん性の過形成が起こる2。ヒトのは主にからなり、やのようなで頻度が上がる2——「はの量そのものを決めている」と捉えると腫瘍の話までつながる。

⚠️ (EC細胞)と様細胞()は別の細胞である。 ECLの L は like(〜に似た)で、「EC細胞に似ているが同一ではない」という意味の名前にすぎない。EC細胞はセロトニン(5-HT)を産生して消化管全体に広く分布するのに対し、はヒスタミンを産生し、粘膜(部)に限って多い2。名前は紛らわしいが、分泌物も分布も違う。また、はの刺激には応答せず、循環血中のと迷走神経興奮で活性化される2——トピック13-5でいうの振る舞いをする。

胃の3領域の腺の違い

領域 腺 特徴
主に、短い腺
・ ・主細胞が豊富、最も長い腺
主に+(分泌)が豊富、が特に深い

💡 「胃酸を作る・前駆体を作る主細胞はに集中し、には少ない」という分布の偏りは、が主にによる分泌調節の司令塔として機能する(が豊富)のに対し、・が実際の消化液分泌の“現場”であるという役割分担を反映している。

まとめ

  • 表面はに覆われ、の底から領域ごとに異なる腺が続く。
  • は(頸部)・(・)・主細胞(、底部)・が深さに応じて配置され、幹細胞は腺のにある。
  • のの主役は(ヒスタミン)で、を分泌するはではなく幽門前庭部にある。は→→という3段リレーで調節される。
  • EC細胞(セロトニン、消化管全体)と(ヒスタミン、粘膜)は名前が似ているだけの別の細胞である。
  • は好酸性、主細胞は好塩基性という染色性の対比がある。
  • ・・は領域ごとに主要な機能(、消化液分泌、ホルモン分泌)が異なる。

出典

  1. 1.Gastric stem cells: an update(The Keio Journal of Medicine・2003)胃粘膜は前庭部と胃底部で細胞構成も腺構造も異なる。キメラマウスとX染色体不活化を用いた解析から、1つの胃腺につき1個の幹細胞が前駆細胞を介して全分化細胞のクローンを生み、腺分裂による新しい腺の形成・損傷腺の修復も担うと考えられる。この幹細胞は間葉系細胞と細胞外基質からなる腺の峡部(isthmus)のニッチに存在する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Activation and hyperplasia of gastrin and enterochromaffin-like cells in the stomach(Digestion・1986)胃の内分泌細胞は前庭部と胃底腺粘膜(酸分泌部)で構成が異なる。ガストリン細胞は前庭部にあり管腔側のpHや食物に応答する。ECL細胞は多くの動物種で酸分泌部に多く、ラットでは胃底腺粘膜の下半分に優位に分布してヒスタミンを産生・貯蔵する。ECL細胞は管腔刺激には応答せず、循環血中のガストリンと迷走神経興奮で活性化される。持続的な高ガストリン血症はびまん性ECL細胞過形成を起こし、前庭部切除による低ガストリン血症はECL細胞数を減らす。ヒトの胃カルチノイドは主にECL細胞からなり、悪性貧血・Zollinger-Ellison症候群など高ガストリン血症で頻度が上がる閲覧 2026-08-24
  3. 3.Gastrin as a growth factor in the gastrointestinal tract(Regulatory Peptides・2000)幽門前庭部のG細胞から放出されたガストリンは、胃底腺粘膜(酸分泌部)のECL細胞にCCK-2受容体を介して作用しヒスタミンの合成と放出を促す。動員されたヒスタミンが壁細胞のH2受容体に結合して胃酸分泌が起こる。アミド化ガストリンの主要な栄養作用は胃底腺粘膜に対するもので、胃の幹細胞とECL細胞の増殖を促し壁細胞・ECL細胞の総量を増やす閲覧 2026-08-24