組織病理学

組織病理学 · H1-001

腎の貧血性梗塞

Anemic infarction of the kidney

🧠 全体像:腎のは、に近い枝が塞がり、支配領域がのに陥った病変である。低倍率では「被膜側を底辺、髄質側を頂点とする楔形」、高倍率では「細胞の輪郭は残るが核が消えた好酸性の影」を探す。

標本の要点

項目 所見
臓器 腎臓
標本 ・染色(hematoxylin and eosin stain:HE)
病変 動脈閉塞による
壊死形式
低倍率の鍵 境界明瞭な病変、周囲の充血性境界
高倍率の鍵 尿細管・糸球体の輪郭保存、細胞質の好酸性化、核消失、周辺部の

発症機序

腎の区域動脈はに乏しいため、血流遮断後の壊死領域は閉塞した動脈枝のを反映してになる。原因としては心臓由来の血栓塞栓が重要であり、心房細動、、などが背景になりうる。

💡 は「重要」だが「大半」ではない。 94例の連続症例では、原因は23例、自体の傷害(解離・外傷・血管内操作)29例、15例、原因不明27例に分かれ、は約4分の1にとどまった1。心房細動を背景とする44例の検討では平均年齢69.5±12.6歳で、を反映して93%が血清400 U/dL超を示した2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal artery'>腎動脈</span>または区域動脈の血栓・塞栓"] --> B["支配領域の急激な虚血"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal tubular epithelium'>尿細管上皮</span>・糸球体の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulative necrosis'>凝固壊死</span>"]
    C --> D["周辺部の充血・出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute inflammation'>急性炎症</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil infiltration'>好中球浸潤</span>"]
    E --> F["壊死組織の除去"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wedge-shaped'>楔状</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous scar (fibrotic scar)'>線維性瘢痕</span>"]

観察の順序

低倍率

  1. 腎皮質から髄質方向へ伸びるの淡い領域を見つける。
  2. 楔の底辺は被膜側、頂点は閉塞血管の方向である髄質側を向く。
  3. 壊死部と正常腎実質の間に、赤みの強いがある。
  4. 病変の境界がで、正常な糸球体を含む領域と壊死した領域が明瞭に分かれることを確認する。

高倍率

観察部位 読み方
壊死尿細管 基本構築と細胞輪郭は保たれるが、細胞質は均質に好酸性化し、核は濃縮・崩壊・融解を経て消失する
壊死糸球体 糸球体のは影のように残るが、係蹄を構成する細胞核が失われる
境界部 好中球が集まり、壊死組織に対する反応を形成する
血管 内腔を閉塞する血栓を認める場合があり、虚血の原因を直接示す
非梗塞部 核を保つ正常尿細管・正常糸球体が対照になる

💡 では「組織の形が残る」のが重要である。 虚血でタンパク質と分解酵素が変性するため、細胞は死んでいても直ちに融解せず、尿細管や糸球体の輪郭がしばらく保存される。

肉眼像との対応

肉眼ではの黄として認識され、周囲に赤い充血性境界を伴う。時間が経つと壊死組織は除去され、被膜面から陥凹する瘢痕へ移行する。肉眼標本の読み方は H1-006:腎の(肉眼標本) で確認する。

鑑別

病変 鑑別点
びまん性または斑状の傷害が中心で、動脈に一致する病変を作らない
と膿瘍形成が主体で、内の好中球や腎盂から放射状に広がる炎症を認める
腎皮質壊死 両側性・広範なが主体で、単一動脈枝のに限局した梗塞とは分布が異なる
古い 壊死細胞や好中球は目立たず、の線維化と実質の陥凹が主体になる

まとめ

  • 枝の閉塞により、被膜側を底辺とするのが生じる。
  • 組織学的本体は、輪郭保存・好酸性化・核消失を示すである。
  • 梗塞周囲の充血性境界とは、壊死組織に対する急性反応を示す。
  • 治癒後は壊死領域がに置き換わり、のを残す。

出典

  1. 1.Acute renal infarction: a case series(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2013)腎梗塞94例の連続症例で、原因は心原性23例・腎動脈自体の傷害29例・凝固亢進状態15例・原因不明27例に分かれ、心原性塞栓は約4分の1にとどまった。腹部または側腹部痛が96.8%、腎機能障害が40.4%、診断時に未管理の高血圧が46例にみられた閲覧 2026-08-24
  2. 2.Acute renal embolism. Forty-four cases of renal infarction in patients with atrial fibrillation(Medicine (Baltimore)・2004)心房細動に伴う腎梗塞44例では平均年齢69.5±12.6歳、腹痛68%、血尿54%、血清乳酸脱水素酵素が400 U/dLを超えた例が93%(平均1100±985 U/dL)。追跡できた38例中23例(61%)は腎機能が正常化し、30日死亡は11.4%であった閲覧 2026-08-24