組織病理学

組織病理学 · H2-107A

デスモイド型線維腫症(腸間膜)

Desmoid fibromatosis – MESENTERIUM

描出疾患
軟部肉腫

🧠 全体像:は、遠隔転移能を持たないがが強く再発しやすい線維芽細胞・性腫瘍である。経路の(孤発例の約85%はCTNNB1変異、ではAPC変異)が発生機序の中心であり1、核内β-カテニン蓄積という所見が診断を支える。

組織像

所見 解釈
高分化な線維芽細胞・ 細胞異型に乏しく、悪性肉腫との鑑別点になる
浸潤性の 周囲の脂肪織・腸管・筋膜へしみ込むように広がる
長い束状(fascicular)配列 淡好酸性の細胞質を持つが平行に走る配列
周囲の平滑筋 腸間膜・腸管など病変周囲の正常構造
flowchart TD
    A["APCまたはCTNNB1の変異"] --> B["β-カテニン分解の障害"]
    B --> C["細胞質・核内へのβ-カテニン蓄積"]
    C --> D["Wnt<span class='jp-term jp-term-diagram' title='target gene'>標的遺伝子</span>の恒常的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transcriptional activity'>転写活性</span>化"]
    D --> E["線維芽細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"]
    E --> F["周囲組織への浸潤性進展"]
    F --> G["局所再発を繰り返すが遠隔転移はしない"]

発生部位と背景疾患

腹腔内型は腸間膜・後腹膜に、腹壁型・腹壁外型は胸壁・四肢・体幹軟部に好発する。に伴うでは、APC遺伝子のを背景に腸間膜の頻度が高く、大腸の既往・家族歴がある患者の腹腔内腫瘤ではこの背景を必ず考慮する。

β-カテニン免疫染色

提示標本の後半は、同じ病変に対するβ-カテニン免疫染色である。線維芽細胞の核が褐色(DAB発色)に強陽性となる所見は、通常は細胞膜・部に留まるはずのβ-カテニンが核内へ異常に蓄積していることを示し、のを裏づける補助的所見として用いられる。

所見 解釈
核内の褐色反応(陽性) β-カテニンの核内蓄積。CTNNB1/APC経路異常を支持する所見だが、単独で確定診断とはしない2
細胞膜のみの染色(陰性) 正常なβ-カテニン分布に近く、を積極的には支持しない

⚠️ 核内β-カテニン陽性は診断を支持する有用な所見だが、感度・特異度は完全ではなく、一部の症例で染色パターンが典型的でないことがある。軟部腫瘍270例の検討では、核陽性はの80%(24/30)・に伴う例の67%(8/12)にとどまる一方、56%・低悪性度肉腫30%・線維性腫瘍22%でも核陽性がみられた(=陽性でも他疾患を除外できず、陰性でも線維腫症を否定できない)2。と併せて総合的に判断する。

💡 変異の種類が再発リスクと相関する。 138例ではCTNNB1変異が85%に認められ、その大半はexon 3の2コドンに集中する(T41A 59%、S45F 33%、S45P 8%)。S45F変異例の5年は23%で、T41A(57%)や非変異例(65%)を大きく下回った1。

治療方針

は再発率が高く、広範切除を行っても再発しうることに加え、進行が自然に停止・退縮する例も一定数存在する。そのため、無症状で切迫した臓器障害のない病変では、直ちに広範切除を行うのではなく、まず経過観察(active surveillance)を行い、増大や症状増悪があれば(、、分子標的薬など)や手術を検討する方針が現在は広く推奨される3。

⚠️ 「積極的な広範切除が第一選択」という考え方は現在は見直されており、の状態と再発率の相関も一定しない。従来は手術が標準的な一次治療だったが、2018年にミラノで開かれた国際合意会議(EURACAN・EORTC軟部グループ・患者団体が参加)を経て2020年に公表された世界共同ガイドラインは、より保存的な管理へのパラダイムシフトを明示した3。実習・試験では旧来の「広範切除が第一選択」という記述に出会うことがあるが、その位置づけが変わったものとして押さえる。は腫瘍の部位・症状・増大速度を踏まえて個別に判断する。

線維芽細胞・分化を示す軟部腫瘍全般は線維芽細胞・分化軟部腫瘍、軟部腫瘍のは軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断を参照する。

まとめ

  • は遠隔転移しないが・再発性が強い線維芽細胞・腫瘍である。
  • 経路の(孤発例の約85%でCTNNB1変異、ではAPC変異)が発生機序の中心である1。
  • 核内β-カテニン免疫染色陽性は診断を支持する補助的所見であり、形態学的評価と併用する。
  • 現在は無症状病変への第一選択として経過観察を行い、増大・症状増悪時にや手術を検討する3。

出典

  1. 1.Specific mutations in the beta-catenin gene (CTNNB1) correlate with local recurrence in sporadic desmoid tumors(The American Journal of Pathology・2008)抄録で、孤発性デスモイド138例の遺伝子型判定でCTNNB1変異が117例(85%)に認められ、その内訳がexon 3の2コドンに集中する41A(59%)・45F(33%)・45P(8%)であったこと、45F変異例の5年無再発生存率が23%と41A(57%)や非変異例(65%)より有意に低かったこと、核内β-カテニン発現が標本の98%でみられたことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Immunohistochemistry for beta-catenin in the differential diagnosis of spindle cell lesions: analysis of a series and review of the literature(Histopathology・2007)抄録で、軟部腫瘍270例のβ-カテニン核染色を検討し、孤発性デスモイド型線維腫症で80%(24/30)、家族性大腸腺腫症に伴う例で67%(8/12)が核陽性であった一方、表在性線維腫症56%・低悪性度筋線維芽細胞肉腫30%・孤在性線維性腫瘍22%・乳児線維肉腫20%などでも核陽性がみられたこと、神経鞘腫・神経線維腫・結節性筋膜炎・平滑筋肉腫・炎症性筋線維芽細胞腫瘍では核陽性が皆無であったこと、核染色はデスモイド型線維腫症の診断を支持するが確定的ではなく、陰性であっても線維腫症を否定しないと結論したことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.The management of desmoid tumours: A joint global consensus-based guideline approach for adult and paediatric patients(European Journal of Cancer(Desmoid Tumor Working Group:EURACAN・EORTC STBSG・SPAEN・DTRF)・2020)抄録で、デスモイド腫瘍(デスモイド型線維腫症、侵襲性線維腫症)が転移しない単クローン性の線維芽細胞増殖で、経過が多様かつしばしば予測困難であること、従来は手術が標準的な一次治療であったが近年より保存的な管理へのパラダイムシフトが導入されたこと、本文書が2018年6月にミラノで開催された合意会議に基づく国際共同のエビデンスに基づく合意ガイドラインであり、分子遺伝学・積極的治療の適応・全身療法の選択肢に焦点を当てていることを確認した閲覧 2026-08-24