組織病理学

組織病理学 · H2-119B

無脳症(肉眼標本)

SPECIMEN - Anencephaly

描出疾患
神経管閉鎖不全(二分脊椎・無脳症)

🧠 全体像:は神経管前方()の閉鎖不全により、大脳半球とが形成されない致死的なである。の中で最も重篤な型であり、閉鎖不全の程度・部位によってなどの他の型と連続的に理解する。

神経管閉鎖不全としての位置づけ

では、外胚葉正中部が肥厚してとなり、これが折れ込んで神経管を形成する。神経管の閉鎖は正中部から始まり頭尾方向へ進み、最後まで開いたままの・がそれぞれ閉鎖する時期を過ぎても開いたままだと、閉鎖不全による奇形が生じる。の閉鎖不全が、の閉鎖不全は程度に応じてからまでの一連の病態となる。神経管の正常発生と閉鎖不全全般の整理は中枢神経系:神経管と神経胚形成・中枢神経系:臨床を参照する。

肉眼像として一般に知られる所見

このような標本では、大脳半球およびを欠き、頭蓋底のみが露出した状態が典型像として知られる。露出した頭蓋底の上には、大脳の代わりに血管に富む未分化な結合組織様組織(area cerebrovasculosa)が不整に付着することが多く、眼球が突出してみえる特徴的な「カエル様」を伴うことがある。ただし、これらは一般に共通して報告される肉眼所見であり、この標本個々の詳細な所見は写真を参照しなければ確認できない。

病因と関連所見

葉酸欠乏はの重要な危険因子であり、妊娠可能な女性への葉酸摂取推奨はこの機序に基づく。バルプロ酸などに拮抗する薬剤も危険因子になる。

⚠️ 葉酸は「妊娠が分かってから」では間に合わない。 の閉鎖は受胎後およそ24〜26日で完了しており(トピック17-1「中枢神経系:神経管と神経胚形成」参照)、多くの妊婦がまだ妊娠に気づいていない時期にあたる。したがって推奨も、妊娠可能な人全員が妊娠の少なくとも1か月前から妊娠2〜3か月ごろまで葉酸0.4〜0.8 mg/日を摂取するという形(のGrade A勧告)になっている1。既往にの妊娠がある女性では、でが再発を0.28(95%信頼区間0.12〜0.71)=72%減少させることが示されている2。では機能する大脳・脳幹を欠くため胎児の嚥下反射が働かず、羊水を十分に嚥下できないことからを伴いやすい。また、のでは母体血清・羊水中の(α-フェトプロテイン)が上昇する(ただし一次スクリーニングの位置づけについては後述する)。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural plate'>神経板</span>の誘導・肥厚"] --> B["神経管への折り込み・閉鎖"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior/rostral neuropore'>前神経孔</span>の閉鎖"}
    C -->|"正常に閉鎖"| D["大脳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calvaria'>頭蓋冠</span>が正常に発生"]
    C -->|"閉鎖不全"| E["大脳半球・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calvaria'>頭蓋冠</span>が形成されない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anencephaly'>無脳症</span>"]
    F --> G["胎児の嚥下反射が働かない"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyhydramnios'>羊水過多</span>"]

脳瘤との違い

⚠️ とを混同しない。は頭蓋の限局的な部から髄膜・変形した脳組織が脱出する病態で、分類上は側(頭蓋レベル)のに数えるが、神経管閉鎖自体は一度成立した後の局所的な欠損によることが多く、大脳の広範な欠如を伴うとは発生機序・重症度が異なる。総説も、を神経ヒダが閉じないこと(一次神経胚形成の破綻)に分類する一方、は頭蓋の骨性構造が十分に発生しないときに髄膜が(脳組織を伴うことも伴わないこともある)欠損部からヘルニアを起こすの欠損としてしており、あわせてこうした閉鎖性の病型が広い定義のもとでしばしばに分類されるとも述べている3。

臨床的意義

は致死的であり、多くはまたは出生後短時間で死亡する。予防の観点では妊娠前からの葉酸摂取が確立した対策であり12、ではによるの欠如の確認と上昇の評価を組み合わせる。

💡 と超音波は対等ではない。 母体血清・羊水は病変のスクリーニング指標として古くから使われてきたが、現在の主役は妊娠中期(おおむね18〜20週)のである。英国NHSのプログラムは、この時期の胎児異常スクリーニング超音波を・の主たる検出法と位置づけ、母体血清単独のスクリーニングは行っていない4。は超音波所見を補強する指標として読む。

まとめ

  • はの閉鎖不全により大脳半球・が形成されない、の中で最も重篤な型である。
  • 典型的にはの欠如とarea cerebrovasculosaが知られるが、個々の標本の詳細は画像でのみ確認できる。
  • 葉酸欠乏が重要な危険因子であり(妊娠1か月以上前から0.4〜0.8 mg/日、既往例では高用量)12、嚥下反射の欠如による、上昇がしばしば伴う。
  • の中心は妊娠中期のであり、母体血清単独のスクリーニングは行われなくなっている4。
  • は局所的な部からの脳組織脱出であり、とは発生機序が異なる(分類上は閉鎖不全に含めるが、機序は神経管閉鎖後の頭蓋の欠損である)3。
  • 神経管の正常発生・閉鎖不全全般は中枢神経系:神経管と神経胚形成・中枢神経系:臨床を参照する。

出典

  1. 1.Folic Acid Supplementation to Prevent Neural Tube Defects: Preventive Medication(U.S. Preventive Services Task Force・2023)妊娠可能な人全員への葉酸0.4〜0.8mg/日、妊娠前1か月以上から妊娠2〜3か月までの摂取期間、Grade A(2017年勧告を2023年に再確認)を確認閲覧 2026-08-24
  2. 2.Prevention of neural tube defects: results of the Medical Research Council Vitamin Study(Lancet・1991)既往NTD妊娠のある女性で葉酸補充が再発を相対危険度0.28(95%CI 0.12–0.71)=72%減少させた無作為化試験閲覧 2026-08-24
  3. 3.Neural tube defects(Annual Review of Neuroscience・2014)Figure 1 の説明が病型を発生機序別に分類し、脳瘤について逐語で「Postneurulation defects can arise when the bony structure of the skeleton fails to develop fully. Herniation of the meninges, with or without brain tissue, through a skull defect (shown here as occipital but sometimes parietal or fronto-ethmodial) generates encephalocele, while an analogous defect in the spinal region produces meningocele」とする。本文も「Abnormal development of the skull or vertebrae may also allow herniation of the closed neural tube through the affected bony region, as in encephalocele (Figure 1d) or meningocele, respectively」と述べ、同じ節が「Various other conditions are also associated with abnormalities of the closed brain or spinal cord and are often categorized as NTDs under a broader definition」として閉鎖性の病型も広い定義では神経管閉鎖不全に含まれるとする。無脳症については、閉鎖が始まったあとに頭蓋側の神経ヒダが閉じないこと(一次神経胚形成の破綻)として分類する。⚠️ 取得できたのは PMC4486472 に収載された著者最終稿(Author manuscript)であって誌上版ではない閲覧 2026-09-08
  4. 4.Fetal Anomaly Screening Programme (FASP): programme overview(NHS Fetal Anomaly Screening Programme(英国)・2024)英国では妊娠18〜20週の胎児異常スクリーニング超音波が無脳症・二分脊椎の主たる出生前スクリーニング法で、母体血清AFP単独スクリーニングは行っていないことを確認閲覧 2026-08-24