発生学

発生学 · 17.1

中枢神経系:神経管と神経胚形成

Central Nervous System — Neural tube & neurulation

応用トピック
脊椎・脊髄の形成異常胎児構造異常・母体骨盤異常による難産胎位・先進部異常主な先天異常
疾患
脊髄脂肪腫

🧠 神経管閉鎖は、頸部付近を主要な開始域としつつ、では複数の部位から不連続に進む複雑なである。 単一のファスナーよりも「複数の閉鎖前線が合流する」像で捉え、最後に残る・が第4週に閉じることを(・)と結び付ける。

神経板の誘導

(05-2-notochord-formation)が真上の外胚葉に働きかける(, 01-1-induction-signaling)により、外胚葉の正中部が肥厚してになる。

神経管の形成

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neural plate'>神経板</span>が正中で陥凹し神経溝(neural groove)を形成"]
  A --> B["神経溝の両縁(神経ヒダ, neural folds)が隆起"]
  B --> C["神経ヒダが正中で接近し癒合開始<br>頸部付近が主要な開始域"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammal'>哺乳類</span>では複数の閉鎖開始点から<br>癒合前線が頭側・尾側へ進行"]
  D --> E["癒合前線が合流し前後の神経孔が閉鎖<br>神経管が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface ectoderm'>表面外胚葉</span>から分離"]
  • 神経ヒダの癒合は・頸部境界付近を主要な開始域として頭尾方向へ進むが、の閉鎖は単一地点からの連続的なジッパー運動ではない。マウスでは複数の癒合開始点が実測されており、閉鎖前線が合流して神経管が完成する。12
  • 癒合が完了するまで、頭側と尾側の両端には一時的に開いたままの部分=(神経孔)と(尾側神経孔)が残る。
  • は11(体節13〜20対の時期)の終わりごろに閉じる。この閉鎖も一方向のジッパーではなくに進み、天井部でより速く、底部では胚性と将来の板を形づくりながら閉じていく。この段階でははまだ開いたままである。3
  • は続く12(体節21〜29対)のあいだに、多くは体節25対がそろった時期に閉じる。最後に閉じる位置は将来の第31体節=第2レベルにあたり、ここが閉じ残ることがののに関わると考えられている。4
  • 受精後日数に置き換えると、O’Rahilly & Müller 1987 の参照表では段階11が第24日・段階12が第26日・段階13が第28日にあたるので、この表を採ればの閉鎖は受精後およそ第24〜26日、の閉鎖はおよそ第26〜28日に収まる。このノートの日数はすべてこの1987年の表による。5

⭐ ・が第4週のうちに閉じ終えることが最頻出のポイント。 この時期を過ぎてもこれらの孔が閉じないと、それぞれ()・()というの原因になる(17-6-clinical)。多くの妊婦がまだ妊娠に気づいていない時期に閉鎖は終わっているため、葉酸によるは妊娠が判明してから始めたのでは間に合わない。

⚠️ ここでの日数は「受精後(排卵後)日数」であり、から数える妊娠週数とは約2週間ずれる。 さらに、同じに何日を割り当てるかは参照表によって異なり、段階ごとの胚齢を系統的に比較した総説では出版物間で最大11日の開きがあった。5 神経孔が閉じる段階も例外ではない。

(形態の指標) O’Rahilly & Müller 1987 Hill 2007 O’Rahilly & Müller 2010
11(が閉じつつある) 24日 24.5日 29日
12(が閉じ、が閉じつつある) 26日 28日 30日
13(が閉じ終わる) 28日 30日 31.5日

同じ総説は、複数のコレクションの標本を用いている点を評価して Hill 2007 の表を現時点のとして提案しており、その表を採れば神経孔の閉鎖はいずれも2日ほど後ろへずれる。5 このノートが1987年の表を採っているのは、閉鎖の時期を記載した原著(O’Rahilly & Müller の1986年・1987年論文)と同じ表に揃えるためであって、どの表を正典とするかを決めたからではない。したがって、他のノートが同じ段階に違う日数を書いていても、多くは所見が食い違っているのではなく参照表が違うだけである(06-5-external-appearanceの外観の表は2010年の表に準拠した日数を使っている)。「第25日」「第27日」のような単一の日付だけで覚えると、起点の違いと参照表の違いで容易にずれる。体節数とを軸に覚え、日数は目安として添えるのが安全である。

神経堤細胞の分離

境界に規定された細胞群は、神経管閉鎖の前後にとして分離し、(01-1-induction-signaling)を起こして全身へ広く遊走していく。遊走開始のには種差があり、「神経管が完全に閉じた後」に限られない。6 これらは06-1-ectoderm-derivativesで述べた・・顔面骨格などの起源となる。

二次神経胚形成

レベルなど、の最尾側に由来する部分の神経管は、の折りたたみではなく、間葉細胞の索が二次的にするという別の様式()で形成される。

が始まるのは12、すなわちが閉じるのとほぼ同じ時期である。はこの閉鎖のころまで存続し、その後はに置き換わって、以後の尾側の体節・・神経索はここから作られる。一次発生と二次発生の境界は、が最後に閉じた部位(第2レベル)にほぼ一致すると考えられている。4

💡 だから「の異常」はに集中する。 は神経索だけでなく・・尾側の体節をまとめて供給する共通のである。第30〜34体節のもとになる材料も段階12のあいだにここで用意されるので、の低形成はの無形成として、その無形成は排泄腔の欠損や下肢の癒合として現れうる——脊椎・脊髄だけでなく泌尿生殖器・肛門直腸の異常が同じ患者に束になって出るのはこのためである()。4

💡 一次神経胚形成(折りたたみ)と()は尾側で連続する。は一律に「尾側の閉鎖不全」とみなすのではなく、一次神経胚形成、一次から二次への移行、の各段階にまたがる病態群として捉える。7

まとめ

  • のにより外胚葉がになり、神経溝・神経ヒダを経て神経管が形成される(神経胚形成)。
  • 神経ヒダの癒合は頸部付近を主要な開始域とし、では複数の閉鎖前線が合流して、が11の終わり(受精後およそ第24〜26日)に、が段階12(およそ第26〜28日、体節25対のころ)に閉じる。日数は受精後起算で、O’Rahilly & Müller 1987 の参照表による(Hill 2007 の表なら段階11が24.5日・段階12が28日・段階13が30日で、2日ほど後ろへずれる)。
  • が最後に閉じる位置は第2レベルにあたり、ここが一次神経胚形成との境界でもある。
  • 境界のは神経管閉鎖の前後にEMTを起こし、全身へ遊走する。
  • 尾側の神経管は(間葉索の)という別様式で、段階12以降にから形成される。

出典

  1. 1.Neural tube closure: cellular, molecular and biomechanical mechanisms(Development・2017)神経管閉鎖は複数の細胞・分子・力学過程が協調する複雑な形態形成である閲覧 2026-08-22
  2. 2.Neurulation in the mouse: manner and timing of neural tube closure(The Anatomical Record・1989)マウスの一次神経胚形成では複数の癒合開始点から神経ヒダの閉鎖が進む閲覧 2026-08-22
  3. 3.The development of the human brain and the closure of the rostral neuropore at stage 11(Anatomy and Embryology・1986)抄録で確認した。ヒト胚Carnegie段階11(受精後24日、体節13〜20対)の終わりごろに前神経孔が閉じること、その閉鎖が基本的に双方向性であること、この段階では後神経孔がなお開いたままであること閲覧 2026-09-07
  4. 4.The development of the human brain, the closure of the caudal neuropore, and the beginning of secondary neurulation at stage 12(Anatomy and Embryology・1987)抄録で確認した。Carnegie段階12(受精後26日、体節21〜29対)のあいだに後神経孔が閉じ多くは体節25対の時期であること、最終閉鎖部位が将来の第31体節すなわち第2仙椎レベルにあたり低位の開放性二分脊椎の成因に関わりうること、二次神経胚形成が同段階で始まり一次発生と二次発生の境界が最終閉鎖部位とほぼ一致すること、原始線条が後神経孔閉鎖時に尾側隆起へ置き換わること閲覧 2026-09-07
  5. 5.Discrepancies in Embryonic Staging: Towards a Gold Standard(Life・2023)Europe PMC(PMC10222295)で全文を確認した。Carnegie段階に割り当てられる胚齢が出版物間で最大11日ずれること、O'Rahilly 自身の1987年版と2010年版のあいだでも最大7日(段階10)動くこと、最終月経起算の妊娠週数と受精後(排卵後)日数が約2週間ずれること。Table 1(段階別の受精後平均日数)は段階11/12/13を、O'Rahilly 1987 で24/26/28日、Hill 2007 で24.5/28/30日、O'Rahilly 2010 で29/30/31.5日、Heirloom collection 2006 で29/30/32日、Harkness 1997 で30/35.5/36.2日とする。Table 3 の脚注は逐語で「P.O days and embryonic size data utilized within the table were taken from O'Rahilly's study (1987)」と述べ、同表は段階11を「Rostral neuropore closing」、段階12を「Rostral neuropore closed / Caudal neuropore closing」、段階13を「Caudal neuropore closed」とする。結論は逐語で「we can propose Hill's paper from 2007 as the gold standard of embryological staging」であり、複数コレクションの標本を用いている点を理由に挙げつつ「a truly accurate and applicable gold standard does not exist nationally nor internationally yet」と留保している閲覧 2026-09-08
  6. 6.Time to go: neural crest cell epithelial-to-mesenchymal transition(Development・2022)神経堤細胞は神経板境界で規定され、神経管閉鎖前後にEMTと遊走を開始する閲覧 2026-08-22
  7. 7.New classification of spinal lipomas based on embryonic stage(Journal of Neurosurgery: Pediatrics・2017)脊髄脂肪腫は一次神経胚形成異常、一次から二次への連続的異常、二次神経胚形成の早期・後期異常に分類される閲覧 2026-08-22