組織病理学

組織病理学 · H2-120A

デスモイド型線維腫症(表在型との鑑別編)

Desmoid fibromatosis – MESENTERIUM

描出疾患
軟部肉腫
疾患
Dupuytren拘縮足底線維腫症表在型線維腫症

🧠 全体像:のβ-カテニン経路異常・組織像・FAP関連・はで扱った。出典テキストは「線維腫症にはとの2型がある」と分類しており、本項目では既出項目が扱わなかったという別カテゴリーと、両者を混同しない理由を補足する。

表在型線維腫症とデスモイド型線維腫症

という名称は、生物学的挙動が大きく異なる2つの群を含む点に注意が必要である。

項目
代表例 の線維腫症()、()、陰茎の線維腫症() 腹壁・腹腔内(腸間膜)・腹壁外の
発生の場 皮下の・筋膜という浅い層 筋膜・筋層を越えてへ浸潤
病変の大きさ・浸潤性 小型で、深部構造への浸潤性は乏しい 大型化・性が強く、局所再発を繰り返す
FAP()との関連 明確な関連はない として腸間膜の頻度が上昇する1
、局所注射など保存的選択肢が中心2 無症状病変ではまず経過観察し、増大・症状増悪時にや広範切除を検討する3

💡 型で「まず経過観察」が一次治療になったのは2020年である。 2018年6月ミラノの合意会議に基づく国際共同ガイドライン(欧州のEURACAN・EORTC STBSG、患者団体SPAEN・DTRFの合同)が、従来の広範切除中心から(active surveillance)を軸とするへのパラダイムシフトを明示した3。型は転移しない一方で自然消退から急速増大まで経過が多様でなため、切除の害が先に来る症例があるという理由づけである。旧来の「見つけたら広範切除」という記載は歴史的な位置づけとして押さえておく。

⚠️ 「線維腫症=すべて同じ疾患」と一括りにしない。は局所的な線維性増殖にとどまりの対象になることは通常なく、深部の型のように腸間膜へ浸潤して腸管合併症を来す病態とは臨床的重みが異なる。

flowchart TD
    A["線維芽細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>性増殖"] --> B{"発生の層"}
    B -->|"皮下<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aponeurosis'>腱膜</span>・筋膜(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superficial'>浅層</span>)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superficial fibromatosis'>表在型線維腫症</span>"]
    B -->|"深部筋膜・筋層を越えて浸潤(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep'>深層</span>)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmoid-type fibromatosis'>デスモイド型線維腫症</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='local excision'>限局切除</span>や局所注射で対応可能なことが多い"]
    D --> F["局所再発を繰り返しうる;FAPでは腸間膜発生が増加"]

腸間膜発生の臨床的な重み

腸間膜に発生するは、腹壁型・腹壁外型に比べて腸管や腸間膜血管を巻き込みやすく、腸閉塞・・水腎症など臓器機能に直結する合併症を起こしうる。このため、同じ「」でも発生部位によって経過観察の許容度やの評価は異なり、腹腔内発生例では特に多職種でのリスク評価が重要になる。

線維芽細胞・分化を示す軟部腫瘍全般は線維芽細胞・分化軟部腫瘍を参照する。

まとめ

  • 線維腫症には、に生じ局所にとどまる(・足底・陰茎の線維腫症)と、深部に浸潤する型の2群がある。
  • はFAPとの関連が乏しく、や局所注射など保存的治療が中心になる(では注射で64.0%が伸展制限0〜5度まで改善し、の6.8%を上回った)2。
  • 型はFAP()との関連があり、・再発性が強い。FAPを持つことは腹腔内発生と特に強く結びつく(18.9)1。
  • 腸間膜発生の型は腸管・のリスクが腹壁型・腹壁外型より高く、部位に応じたリスク評価が必要である。
  • β-カテニン経路異常・組織像・の詳細はを参照する。

出典

  1. 1.A nation-wide study comparing sporadic and familial adenomatous polyposis-related desmoid-type fibromatoses(International Journal of Cancer・2011)抄録で、オランダ全国病理登録の1999〜2009年のデスモイド型線維腫症519例のうち39例(7.5%)が家族性大腸腺腫症(FAP)であったこと、発生率が孤発例100万人年あたり3.42に対しFAP例では2,784と桁違いに高いこと、FAPを持つことが腹腔内発生(オッズ比18.9)・腹壁発生(オッズ比4.8)と強く関連し、男性・より若年発症とも関連したことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Injectable collagenase clostridium histolyticum for Dupuytren's contracture(The New England Journal of Medicine・2009)抄録で、20度以上の関節拘縮を有するDupuytren病308例の無作為化二重盲検プラセボ対照試験(CORD I)において、コラゲナーゼ(1回0.58mg、30日間隔で最大3回注射し翌日に用手矯正)群の64.0%が最終注射30日後に伸展制限0〜5度まで改善し、プラセボ群の6.8%を有意に上回ったことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.The management of desmoid tumours: A joint global consensus-based guideline approach for adult and paediatric patients(European Journal of Cancer(Desmoid Tumor Working Group:EURACAN・EORTC STBSG・SPAEN・DTRF)・2020)抄録で、デスモイド腫瘍が転移しない単クローン性の線維芽細胞増殖で経過が多様かつしばしば予測困難であること、従来は手術が標準的な一次治療であったが近年より保存的な管理へのパラダイムシフトが導入されたこと、本文書が2018年6月ミラノの合意会議に基づく国際共同のエビデンスに基づく合意ガイドラインであることを確認した閲覧 2026-08-24