組織病理学

組織病理学 · H2-125B

軟骨腫瘍(内軟骨腫と軟骨肉腫の鑑別)

SPECIMEN - Chondroma

🧠 全体像:の分類(・)と・Maffucci症候群はに既出である。本項では、軟骨性腫瘍の臨床上もっとも悩ましい問題である「との鑑別」を補足する。

組織像だけでは鑑別できない理由

IDH1・IDH2遺伝子変異はにも通常型にも共通してみられる。頻度でみるとIDH1・IDH2のはの87%、通常型の約50%に認められ(最多はIDH1 p.R132C、約60%)、むしろ良性側のほうが陽性率が高い1。したがって、これらの変異の有無を鑑別マーカーとして単独で使うことはできず、細胞密度や軽度の核異型といった組織所見も、と低悪性度のあいだで重なり合う。

⚠️ 「組織像で鑑別できない」は誇張ではない。 良性の異型軟骨病変とgrade 1は組織学的にほぼ判別不能とされ、傾向として軟骨病変が概して低細胞密度なのに対しgrade 1はを示すという程度の差にとどまる2。だからこそ下の表のように、疼痛・・・内膜scallopingの深さ・部位・増大という臨床像と画像所見を組織像と同格の判断材料として扱う。

💡 名称の更新:四肢のgrade 1は「異型軟骨性腫瘍」と呼ばれる。 四肢(中心性)に生じるこの病変は、以前はgrade 1(CS1)と呼ばれていたが、現在はという中間悪性()の腫瘍名で呼ばれる3。名称が変わっただけでなくの重みも異なり、のACTはのような広範切除ではなく、経過観察またはで管理される4。ACT 108例を+で治療した報告では、平均48.7か月の追跡で全例が局所再発なく95.4%だった一方、10.2%に骨折が生じており、これが主な合併症である3。⚠️ 旧称のgrade 1も実習・試験や本ノートの以下の記載でなお用いられるため、ACTと同じものを指すと対応づけて覚える。

⚠️ ただし「grade 1」は旧称として消えたのではなく、では現行の名称として残っている。 第5版(2020年)は、組織学的に同じ腫瘍を発生部位で呼び分ける。四肢骨格(・短管骨)のものはにふるまい転移しないので、完全な悪性能をもつものとしては分類せず「異型軟骨性腫瘍」と呼び、局所治療で足りるとする。これに対し、骨盤・・頭蓋底といった()の組織学的に類似した腫瘍には「grade 1」の語を用いる。これらの部位では予後が悪く、より積極的な治療を要することを名称に反映させている5。

💡 「体軸か四肢か」の線引き自体に、体系間の食い違いがある。 2020年分類はと頭蓋底をに入れるが、・の第8版はこれらを四肢骨格側に含める5。同じ部位の同じ腫瘍でも、どの体系に沿って報告されたかで名称が変わりうるので、報告書を読むときは準拠した分類も併せて確認する。

鑑別に用いる画像・臨床所見

所見 を示唆 を示唆
疼痛 外傷との持続痛・は乏しい 持続する、夜間に増悪する疼痛
皮質・軟部組織 やを伴わない 皮質の著明な菲薄化・破綻、膨張性の形成、石灰化に乏しい成分の存在を伴う2
内膜の 軽度・浅い 目安として病変周径の2/3を超えるような深い陥凹
部位 手足の小骨に多く、小型にとどまる 体幹骨(骨盤・・肋骨)や近位に多く、大型化しやすい
経過観察で不変 連続する画像で増大傾向を示す
flowchart TD
    A["軟骨性病変を疑う画像所見"] --> B["発生部位を確認:手足の小骨か体幹骨・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long bone'>長管骨</span>近位か"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cortical destruction'>皮質破壊</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soft-tissue mass'>軟部腫瘤</span>・深い内膜scallopingの有無を評価"]
    C --> D{"悪性を疑う所見が複数あるか"}
    D -->|"乏しい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Enchondroma'>内軟骨腫</span>として経過観察"]
    D -->|"あり"| F["骨軟部腫瘍専門チームで臨床・画像・組織所見を統合判定"]
    F --> G["四肢<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long bone'>長管骨</span>では異型軟骨性腫瘍(ACT)として経過観察・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='curettage'>掻爬</span>も選択肢;<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade (aggressive)'>高悪性度</span>が疑われれば広範切除"]

⚠️ 手足の小骨に生じる典型的なは、画像上悪性を疑う所見が乏しければ生検自体を行わず経過観察のみとすることがある。安易な生検・切除はかえって過小評価や治療の遅れにつながりうるため、判断は骨軟部腫瘍を専門とするチームで行う。

まとめ

  • の分類(・)と・Maffucci症候群の詳細はを参照する。
  • と低悪性度は組織像だけで確実に区別できないことが多く、疼痛・・・内膜scallopingの深さ・部位・増大を統合して判断する。
  • 四肢のgrade 1は現在「異型軟骨性腫瘍(ACT)」と呼ばれ、広範切除ではなく経過観察・で管理される中間悪性の腫瘍として扱われる。一方、骨盤・・頭蓋底などの同じ組織像の腫瘍は「grade 1」の名称のままで、悪性群に置かれる5。
  • IDH1・IDH2変異は両者に共通し(87%、通常型約50%)、良性側のほうがむしろ陽性率が高いため、単独の鑑別マーカーとしては使えない1。
  • 骨腫瘍全般の疫学・診断手順は骨腫瘍の疫学・診断、組織分類は骨腫瘍・を参照する。

出典

  1. 1.IDH Mutations in Chondrosarcoma: Case Closed or Not?(Cancers (Basel)(Venneker S, et al.)・2023)IDH1・IDH2のホットスポット変異が内軟骨腫の87%、通常型中心性軟骨肉腫の約50%に認められること、軟骨系腫瘍で最も頻度が高い変異型はIDH1 p.R132C(約60%)であることを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Enchondroma(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Biondi NL, Tiwari V, Varacallo MA)・2024)内軟骨腫と軟骨肉腫grade 1の鑑別で、皮質の菲薄化・破綻、腫瘍の拡張、軟部組織への進展が悪性・進行病変を示唆すること、病変の大きさ・石灰化に乏しい成分の存在・隣接皮質の著明な菲薄化・膨張性軟部腫瘤が悪性を疑う所見であること、組織学的には良性の異型軟骨病変と軟骨肉腫grade 1がほぼ判別不能である一方、軟骨病変が概して低細胞密度なのに対し軟骨肉腫grade 1は高細胞密度を呈することを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Local Treatment with Adjuvant Therapy for Central Atypical Cartilaginous Tumors in the Long Bones: Analysis of Outcome and Complications in One Hundred and Eight Patients with a Minimum Follow-up of Two Years(The Journal of Bone and Joint Surgery (American volume)・2016)中心性の異型軟骨性腫瘍(atypical cartilaginous tumor:ACT)は「以前はgrade 1軟骨肉腫(CS1)と呼ばれていた」中間悪性の腫瘍であること、長管骨のACT/CS1 108例を掻爬+フェノール補助療法で治療した結果、平均48.7か月の追跡で全例が局所再発なく無病生存率95.4%であり、最大100立方cmの大きな病変でも安全であったこと、最も問題となる合併症は10.2%に生じた骨折であることを確認した閲覧 2026-08-24
  4. 4.X-rays radiomics-based machine learning classification of atypical cartilaginous tumour and high-grade chondrosarcoma of long bones(EBioMedicine・2024)長管骨の異型軟骨性腫瘍(ACT)と高悪性度軟骨肉腫は、それぞれ経過観察または掻爬と、広範切除という異なる方針で管理されることを確認した閲覧 2026-08-24
  5. 5.Datasets for the reporting of primary tumour in bone: recommendations from the International Collaboration on Cancer Reporting (ICCR)(Histopathology(International Collaboration on Cancer Reporting)・2023)全文で、WHO軟部・骨腫瘍分類第5版(2020年)が異型軟骨性腫瘍と軟骨肉腫grade 1を、腫瘍が四肢骨格にあるか体軸骨格にあるかで区別していること、四肢(長管骨・短管骨)に生じたものは局所侵襲性にふるまい転移しないため局所治療でよく完全な悪性能をもつものとして分類すべきではないこと、したがって長管骨・短管骨の病変には「異型軟骨性腫瘍」の語が用いられること、対照的に骨盤・肩甲骨・頭蓋底を含む体軸骨格(扁平骨)の組織学的に類似した腫瘍には「軟骨肉腫grade 1」の語が用いられ、それがこれらの部位での予後不良とより積極的な治療の必要性を反映していることを確認した。あわせて、体軸か四肢かの定義は普遍的な合意がなく、2020年WHO分類が肩甲骨と頭蓋底を体軸骨格に分類する一方、UICC・AJCCのTNM第8版はこれらを四肢骨格に含めることも確認した閲覧 2026-08-24