組織病理学

組織病理学 · H2-137

内水頭症(脳室拡大の標本読影)

Internal hydrocephalus

描出疾患
水頭症
画像所見
経上衣性浸出脳室拡大

🧠 全体像:「内水頭症(internal hydrocephalus)」は(内側の腔)そのものが髄液で拡大する状態を指し、現在一般に単に「水頭症」と呼ばれる病態にあたる。(外側の腔)が拡大する外水頭症(H2-136)と対になる古典的な肉眼病理学の用語で、と交//代償性の分類は頭蓋内圧亢進の病理・障害(水頭症)に譲り、本ノートでは肉眼標本でみられる所見の読み方に絞る。

標本の所見

このような標本のラベルは、一般に以下のような構造・所見を示すために付けられる。個々の標本で実際にどの所見が確認されたかは、画像なしには判定できない。

所見 一般的な解釈
の高度拡大 への髄液蓄積を示す、内水頭症の中心的な肉眼所見
脳幹周囲の相対的な目立ち 脳幹自体が腫大しているというより、周囲の大脳半球が萎縮することで脳幹が相対的に大きく・目立って見える現象を指すことが多い
大脳半球の萎縮 皮質・白質の。慢性のに伴う二次的な・萎縮を反映する場合と、萎縮そのものが先行して脳室が受動的に拡大する場合()とがあり、この所見単独では区別できない1

真の内水頭症と代償性拡大の鑑別

⚠️ が拡大しているという所見だけでは、髄液の産生・吸収・流出路の異常による「真の水頭症」と、に伴う(hydrocephalus ex vacuo)を区別できない。頭蓋内圧、脳室周囲のの有無、・の萎縮パターンなど、複数の所見を統合して判断する。認知症のない59〜85歳の高齢者92人を4年間追跡した縦断では、全脳が年5.4±0.3 cm3減るのと並行して脳室が年1.4±0.1 cm3増えており、医学的にも認知的にも極めて健康な24人に限っても年1.2 cm3の脳室増加がみられた2。加齢だけでも脳室は確実に広がる——読むべきは拡大の有無ではなく拡大の型である。

💡 「脳室が大きい」がどれだけ弱い所見かは数字で押さえられる。 61歳および70〜72歳の地域住民790人にを行った前向き研究では、Evans index>0.3のが51人(6.46%)にみられたのに対し、の画像所見(+の・の狭小化)まで満たしたのは12人(1.52%)、症候を伴う「疑い」は4人(0.51%)にとどまった1。874例を統合したでも、Evans indexは感度96%と高い一方で特異度83%と低く、(感度91%・特異度93%)より特異度が有意に劣る3。は入口の所見であって、そこから先はの分布(+開大+の狭小化=DESH)で絞り込む4。

💡 は「何度なら鋭いか」まで数字で持てる。 34例・34例・健常対照34例の3D を比較した研究では、レベルので測ったが66±14度、104±15度、健常対照112±11度で、健常対照の平均−2SDにあたる90度を閾値にするととの判別は正確度93%・感度97%・特異度88%だった5。注目すべきは、萎縮側()のが健常とほとんど変わらないことである。脳室が大きいだけならは保たれ、が鋭くなるのは脳室が下方から押し広げられているときで、ではその変化が起きない。

⚠️ ただし逆向き——「所見が無いから真の水頭症ではない」——にも使えない。 168例の術前を13種類の形態指標で評価した研究では、DESHに該当したのは36%、の狭小化は36%にとどまり、後に68%が改善したにもかかわらず、どの形態指標も術後改善の有意な予測因子ではなかった6。形態所見は真の水頭症を示唆するが、その欠如は除外根拠にならない。標本・画像で決着させようとせず、髄液圧・臨床症候・の側から詰める。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral ventricles'>側脳室</span>の拡大を認める"] --> B{"髄液の産生・吸収・流出路に異常があるか"}
    B -->|"あり"| C["交<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facultative'>通性</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncommunicating'>非交通性</span>の真の内水頭症"]
    C --> D["脳室内圧上昇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periventricular edema'>脳室周囲浮腫</span>を伴いうる"]
    B -->|"なし、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain parenchyma'>脳実質</span>の萎縮が先行"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocephalus ex vacuo'>代償性拡大</span>"]
    E --> F["脳室内圧は正常、周囲浮腫を伴わない"]

💡 この分岐の「産生・吸収・流出路」という三段モデル自体が、水頭症のすべてを説明するわけではない。 小児水頭症の総説は、水頭症を髄液生理の障害によると広く定義したうえで、単純な流路閉塞にとどまらず脳のコンプライアンス(容れ物としての柔らかさ)やでの水輸送も病態に関与すると整理している7。閉塞部位が同定できない例を「吸収低下」で片づけると、この分岐図の左側に無理に押し込むことになる。

閉塞部位別の原因、、ETV・VPシャントなどの治療は内水頭症(H2-123A)、真の内水頭症との分類・診断・治療の詳細は障害(水頭症)を参照する。

まとめ

  • 内水頭症は(内側の腔)が拡大する状態で、外側のが拡大する外水頭症(H2-136)と対比される古典的な用語である。
  • 拡大と大脳半球萎縮が並存する所見は、真の水頭症・のいずれでも生じうるため、この所見単独で機序を確定できない。
  • 頭蓋内圧、の有無、萎縮パターンを統合して真の内水頭症とを鑑別する。加齢だけでも脳室は年1.4 cm3ずつ広がるため、拡大の有無ではなく拡大の型を読む2。は66度に対し104度・健常112度と分かれ、90度を閾値にした判別は正確度93%である5。地域住民の6.46%がEvans index>0.3を示す一方で症候を伴う例は0.51%にすぎず1、Evans index単独は感度96%・特異度83%と特異度が低い3。逆に、DESHなどの形態所見が無いことは真の水頭症の除外根拠にならない( 168例中DESH陽性は36%)6。
  • 産生・流路・吸収という三段の分類は骨格として有用だが、脳コンプライアンスや実質の水輸送も関与するため、これだけで機序を説明しきれない7。
  • 障害の一般的な分類・診断・治療は障害(水頭症)・頭蓋内圧亢進の病理を参照する。

出典

  1. 1.Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI (AVIM) in the elderly: a prospective study in a Japanese population(Journal of the Neurological Sciences・2009)抄録で、日本の2地域に住む61歳および70〜72歳の住民1,142人のうち790人(69.2%)が脳MRIを受け、Evans index>0.3の脳室拡大が51人(6.46%)にみられた一方、iNPHの画像所見(Evans index>0.3かつ高位円蓋部でのくも膜下腔・脳溝の狭小化)まで満たしたのは12人(1.52%)、うち無症候のAVIMが8人(1.01%)、症候を伴う「iNPH疑い」は4人(0.51%)にとどまったこと、4〜8年の追跡で無症候8人中2人が認知症・歩行障害を発症したことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Longitudinal magnetic resonance imaging studies of older adults: a shrinking brain(The Journal of Neuroscience(Baltimore Longitudinal Study of Aging)・2003)抄録で、ベースライン時59〜85歳の非認知症高齢者92人をベースライン・2年後・4年後のMRIで追跡したボルチモア加齢縦断研究において、灰白質・白質のいずれも有意に減少し(ともにp<0.001)、その傾向は極めて健康な24人の部分集団でも認められたこと、年あたりの組織減少が全脳5.4±0.3・灰白質2.4±0.4・白質3.1±0.4 cm3で、脳室が年1.4±0.1 cm3増加したこと(極めて健康な部分集団ではそれぞれ3.7・1.3・2.4・1.2 cm3)、減少が側頭葉・後頭葉よりも前頭葉・頭頂葉で大きかったことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Diagnostic performance and interobserver agreement of the callosal angle and Evans' index in idiopathic normal pressure hydrocephalus: a systematic review and meta-analysis(European Radiology・2021)抄録で、10研究874例を統合したメタ解析において、iNPH診断における脳梁角の統合感度が91%(95%CI 86〜94%)・統合特異度が93%(95%CI 89〜96%)、Evans indexの統合感度が96%(95%CI 47〜100%)・統合特異度が83%(95%CI 77〜88%)であり、サブグループ解析で脳梁角の特異度がEvans indexより有意に高かったこと、両指標とも観察者間一致は良好であったことを確認した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Guidelines for Management of Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus (Third Edition)(Japanese Society of Normal Pressure Hydrocephalus / Neurologia medico-chirurgica・2021)DESHはiNPHの画像診断で中心的役割を持ち、脳室拡大・シルビウス裂/脳底槽の開大・高位円蓋部/正中部でのくも膜下腔狭小化という3所見の組み合わせで定義され、脳室拡大の指標としてEvans Index>0.3が広く用いられることを確認した。閲覧 2026-08-24
  5. 5.Clinical impact of the callosal angle in the diagnosis of idiopathic normal pressure hydrocephalus(European Radiology・2008)抄録で、特発性正常圧水頭症34例・Alzheimer病34例・健常対照34例の3D MRIについて、前後交連平面に垂直な後交連レベルの冠状断で脳梁角を測定したところ、特発性正常圧水頭症群が66±14度と、Alzheimer病群104±15度・健常対照群112±11度より有意に小さかったこと、健常対照群の平均−2SDにあたる90度を閾値とすると特発性正常圧水頭症とAlzheimer病の判別が正確度93%・感度97%・特異度88%であったこと、脳梁角の測定が特発性正常圧水頭症をAlzheimer病および正常加齢から鑑別する助けになることを確認した閲覧 2026-08-24
  6. 6.Absence of Disproportionately Enlarged Subarachnoid Space Hydrocephalus, a Sharp Callosal Angle, or Other Morphologic MRI Markers Should Not Be Used to Exclude Patients with Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus from Shunt Surgery(American Journal of Neuroradiology・2019)抄録で、特発性正常圧水頭症168例(平均70±9.3歳)の術前MRIについて13種類の形態指標を評価したところ、Evans indexの中央値が0.41、脳梁角の中央値が68.8°、シルビウス裂開大69%、高位円蓋部の脳溝狭小化36%、DESHに該当したのは36%にとどまったこと、シャント術後に68%が改善したにもかかわらず、検討したどの形態指標も術後改善の有意な予測因子ではなかったこと、したがってDESH欠如や脳梁角が鋭でないことをもってシャント手術から除外すべきではないと結論したことを確認した閲覧 2026-08-24
  7. 7.Hydrocephalus in children(The Lancet・2016)水頭症は脳脊髄液生理の障害による脳室拡大で、単純な髄液流路閉塞だけでなく脳コンプライアンスや水輸送も病態に関与する閲覧 2026-08-24