医療コミュニケーション

医療コミュニケーション · 19

eヘルスと技術ツール

E-health: Use of Technological Tools in Health Communication

🧠 どの技術についても構造は同じ——「便利さ」と「新しいリスク」が必ず対になって出てくる。電話とメールは速くて便利だが患者安全を脅かし医療者の負担を増やす。常時つながれることは利点ではなくバーンアウトの危険因子である。ソーシャルメディアは大きな可能性をもつが、には自分のプライバシーの保護と、という職業に相容れない内容を作らず共有しないことが求められる。そして最も具体的な技能は、診察室のコンピュータを患者から自分を隠す壁にせず、患者と共有するにすることである。

デジタルヘルス・eヘルス・遠隔医療・mヘルス・uヘルスの概念

この領域の用語は入れ子になっている。そして最も外側の枠の名前が変わった。現在 が用いるの傘概念は であり、e ヘルス(m ヘルスを含む)を包含したうえで、さらにビッグデータ・・人工知能といった領域まで含める1。

概念 定義 包含関係
(telemedicine) 距離を越えて医療を行うこと。診療行為そのものを遠隔で成立させる部分を指す(より広く教育・研修・行政まで含める語として telehealth が使われる) e ヘルスの部分集合
m ヘルス(m-health, mobile health) 健康目的での携帯電話・スマートの利用。健康データの収集と送信、教育から自助手法までのアプリ e ヘルスの部分集合
e ヘルス(e-health) 情報通信技術を保健分野で用いること全般。と m ヘルスの両方を含み、電子カルテ・オンライン情報・遠隔監視まで含む デジタルヘルスの部分集合
u ヘルス(u-health, ubiquitous health) 「いつでもどこでも」健康情報が生成・利用される段階——ウェアラブル端末やセンサーが常時データを取り、環境に埋め込まれた形で医療が働く e ヘルスの発展形
デジタルヘルス(digital health) 現在の概念。e ヘルス(m ヘルスを含む)に加え、ビッグデータ・・人工知能などの応用まで含む1 最も広い枠

⚠️ 「e ヘルスが最も広い枠である」という整理は現在の の用語法ではない。用語が置き換わった理由は範囲である——人工知能やデータの応用は「情報通信技術による医療の提供」という e ヘルスの語感に収まらないため、それらを含む語が必要になった。💡 文献を読むときは発表年で語の外延が違うことに注意する。2010年代までの文献の「e ヘルス」は、今日の「デジタルヘルス」にほぼ相当する範囲で使われていることが多い。

💡 Eysenbach は e ヘルスを「技術の名前」ではなく、情報通信技術で医療を改善しようとする思考様式・態度・コミットメントを含む概念として定義した2。つまり「どの機械を使うか」ではなく「医療の形がどう変わるか」が問題である。この着眼はデジタルヘルスという語に移っても変わっていない。

e ヘルスは先進国のものだと考えられがちだが、実際には多くの発展途上国で e ヘルスの解決策が用いられている。医療機関が少ない国でこそ長い距離を橋渡しし、少数のの専門性を遠く離れた患者のケアに行き渡らせることができる——資源が乏しいことが導入の障壁ではなく動機になる。

💡 格差と文脈の議論は 社会学 第6章:デジタルヘルスの課題 を参照(重複を避けるため、ここでは臨床に焦点を絞る)。

新しい技術が伴うリスクの4領域

新しい技術は、その多様な利点に加えて新しいリスクをもたらす。以下の4領域が、この後の各技術に共通して現れる。

領域 内容
データ・セキュリティ 平文の通信、誤送信、端末の紛失、第三者への漏洩
法的帰結 診療行為としての責任、記録義務、国境を越えた診療の免許の問題
生命倫理 同意、自律、常時監視によるプライバシーの侵食、アクセスの公平性
非言語情報の喪失、関係の化、境界の曖昧化
flowchart TD
  A["eヘルス<br>情報通信技術による医療の総体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='telemedicine'>遠隔医療</span><br>距離を越えて医療を行う"]
  A --> C["mヘルス<br>携帯電話・アプリ"]
  A --> D["uヘルス<br>常時・遍在的な健康データ"]
  B --> E["利点<br>距離の橋渡し<br>専門性の行き渡り<br>迅速さ・利便性"]
  C --> E
  D --> E
  B --> F["新しいリスク<br>データセキュリティ<br>法的帰結<br>生命倫理<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='communication'>コミュニケーション</span>"]
  C --> F
  D --> F
  F --> G["電話・メール<br>患者安全のリスク<br>業務負担の増大<br>常時対応はバーンアウトの危険因子"]
  F --> H["ソーシャルメディア<br>自らのプライバシーの保護<br>職業に相容れない内容を作らない"]
  E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical doctor'>医師</span>に必要な技能<br>コンピュータを壁ではなく<br>患者と共有する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tool'>道具</span>にする"]
  G --> I
  H --> I

診療領域ごとの遠隔医療

今日、多くの領域が日常の実践でのを用いている。

領域 の形
放射線科 遠隔画像診断——画像を送信して離れた医が判読する(最も古く最も定着した形)
病理科 遠隔病理——標本のデジタル画像による診断、のコンサルト
循環器科 心電図の遠隔送信、植込み型デバイス(・ICD)の遠隔監視、心不全患者の在宅モニタリング
神経科 遠隔脳卒中診療——急性期の評価を遠隔で行い血栓溶解の適応を判断する
遠隔——皮疹の画像による相談・
精神科 遠隔精神医療——面接主体の診療なので技術的な親和性が高い

💡 どの領域がに向くかには法則がある。① 情報が画像・波形として転送できる(放射線・病理・皮膚・循環器)/② 診療の実質が会話である(精神科)/③ 距離と時間が予後を決める(脳卒中)。この3条件のどれかを満たす領域から順に定着してきた。

⚠️ 普及の歴史を「技術の進歩によるなだらかな拡大」として理解しない。の利用は 流行下で急拡大したが、その条件になったのは技術ではなくと診療の一時的な緩和だった。流行後は利用が部分的にし、どこまでを恒久化するかが政策課題として残っている3。💡 したがって「でどこまでやれるか」の実際の境界は、臨床的な適否だけでなく、その国の制度がどこまで認めているかで決まる。文献の「普及率」を読むときは、それが流行下のピーク時点の数字か、その後の水準かを確かめる。

携帯電話の健康目的での利用

健康目的での携帯電話の利用(m ヘルス)も急速に発展している。スマートは健康データを収集して送信でき、健康アプリは教育から自助の手法にいたる多くの機能をもちうる。

用途 例
健康データの収集と送信 歩数・心拍・睡眠・血糖・血圧、心電図の記録と送信
教育 疾患・服薬・についての情報提供
自助(self-help)の手法 認知行動的な演習、リラクセーション、症状日記、禁煙・減量プログラム
リマインダー 服薬・受診の通知によるの支援
遠隔監視と警報 転倒検知、不整脈の検出
医療者への連絡 相談・画像送信・予約

💡 の変容そのものの方法論は 第3章:の変容を促す を参照。

診察中のコンピュータの使い方

この主題は、この領域のなかで最も実証の厚い部分である。まず何が起きるかを押さえる。

所見 出典
コンピュータを使っている時間の割合が増えるほど、が患者を見る時間と情緒的なやりとりが減る Noordman ら4
キーボード操作の時間が長い診察では、心理社会的・情緒的な会話が減り、主導の生物医学的な会話に偏る Margalit ら5
コンピュータ使用がアイコンタクト・沈黙の扱い・話題の流れを乱しうる。一方で画面を患者と共有すれば教育のになりうる Sobral ら6

⚠️ コンピュータは「三人目の参加者」として診察に入り込む。放置するとと患者のあいだの壁になる——だから技能とは、それを壁から共有のに変えることである。

以下は電子カルテを患者中心の診察に統合するための技法である7。

# 技法 理由
1 診察の冒頭は画面を見ずに患者を見て聴く(最初の数分は入力しない) 患者が最も重要なことを話すのは冒頭。ここで目を離すと関係が作れない
2 画面を患者から見える位置に置き、共有する(三角形の配置:・患者・画面) 共有すると画面は教育のになる6(の推移、画像、図を一緒に見る)
3 入力する前に予告し、目的を言う(「お薬の記録を見ますね」) 沈黙の理由が分かれば患者はされたと感じない
4 打ちながら話さない。区切って行う(聴く/打つを分ける) 同時並行は両方の質を落とす
5 情緒的な話題が出たら手を止めて患者に向き直る 情緒的なやりとりが減ることが最大の害だから54
6 記録の要約を声に出して確認する(「〜と書きました。合っていますか」) 記録の正確さと患者の参加を同時に得る
7 診察前に記録を読んでおく 診察中の画面時間そのものを減らせる
8 診察の終盤は再び画面から離れて締める 最後の印象が診察全体の評価を決める

💡 診察のは 第2章:‐患者面談 を参照。

インターネットで情報を調べてくる患者

患者が自分で調べた情報を持ち込んだとき、医療者の反応は3つの型に分かれる8。

内容 評価
中心的(として退ける) 「そんなものは信用できません」「ネットは見ないでください」 権威へのと受け取る反応。患者は次から言わなくなり、誤情報が水面下に残る
患者中心的(協働する) 持ち込まれた情報を一緒に検討し、患者の解釈を尊重しつつ評価する 推奨される形
情報源へ導く(guidance) 信頼できるサイトを事前に紹介しておく 予防的で有効。情報探索そのものは止められないので、質を上げる方向に働く
実践
「何を読みましたか」「それを読んでどう思いましたか」と尋ねる(内容ではなく懸念が本題であることが多い)
調べてきたことを歓迎する態度を示す(恥じさせない)
情報の質の評価の仕方を一緒に確認する(誰が書いたか、いつのものか、利害関係、出典があるか)
信頼できる情報源をあらかじめ渡す
調べてきたことを「無知」の証拠として扱わない

💡 情報の質と患者の読み解く力の問題は 第4章:ヘルスリテラシーを高める に、関係の対称性の変化は 社会学 第9章:‐患者関係 に接続する。

この変化を当事者の側から述べたものとして、Dave deBronkart の随筆「患者コミュニティはいかに私の命を救ったか」がある。腎細胞がんの当事者が、患者コミュニティから得た情報がに決定的だったと述べ、患者を情報の受け手ではなく参加者(e-patient)と見る「参加型医療」を主張する9。💡 の権威は情報の独占に依るのではなく、情報を一緒に評価する能力に依るべきだという立場である。

電話

利点 問題
迅速・便利・移動が不要 非言語情報が失われる(表情・姿勢・皮膚の色・呼吸の様子が見えない)
軽微な相談・結果の連絡・経過確認に有効 ができないので・重大な疾患の見落としの危険がある(患者安全のリスク)
アクセスの改善(遠隔地・移動困難) 本人確認ができない(守秘の破綻。家族が代わりに出る)
の振り分け() 場所と環境を選べない(患者の側に他人がいる/騒がしい)
記録が残りにくい(口頭のみで済んでしまう)
業務負担の増大と、常時対応の要求

⚠️ 「電話だから略式でよい」ということはない。電話での会話も‐患者関係の一部であり、対面の場面に適用されるのと同じ法的・倫理的・記録上の規則が及ぶ——本人確認、説明と同意、守秘、そして診療録への記載が必要である。

常時応対できることはにとっての利点だと考えられがちだが、継続的な対応可能性(continuous availability)はバーンアウトのリスクを有意に高める。💡 だから応答の時間帯と経路の境界を最初に定めておくことが、患者のためでもあり自身の保護でもある。→ 医療心理学 第14章:のメンタルヘルスとバーンアウト。

電話での実践
名乗り、相手が本人であることを確認する
話せる環境かどうかを確認する(「今お話しして大丈夫ですか、周りに人はいませんか」)
見えない分を言葉で補う——要点をさせる(ティーチバック)、間を長く取る、聞こえの確認
電話で扱わないことを決めておく——緊急事態、重大な悪い知らせ、複雑な意思決定
次の行動を明確に決めて終える(悪化時にどうするか=セーフティネットの提示)
診療録に記載する

💡 悪い知らせを電話で伝えるべきでない理由は 第15章:悪い知らせを伝える の原則(対面・私的な場・支援者の同席・反応を受け止める時間)から導かれる。

電子メール

以下は患者との電子メール利用について古典的に整理されている勧告である10。

技術的・運用上の勧告

# 勧告
1 返信までの時間の目安を、あらかじめ患者と取り決める(「2営業日以内」など)
2 緊急事態にはメールを使わないことを明示する(メールは読まれる保証がない)
3 自動応答で受信を通知する(患者は「届いたか」を最も不安に思う)
4 件名で内容を分類する(処方依頼・予約・相談など)
5 やりとりを診療録に取り込む(メールもである)
6 機微な内容(、精神疾患、薬物、性的な内容)はメールで扱わない
7 暗号化された経路・患者ポータルを用いる(一般のメールは平文で流れる)
8 宛先を必ず確認する(誤送信は違反になる)
9 誰がメールを読むかを患者に伝える(本人か、スタッフも読むか)
10 免責表示(disclaimer)を付ける——メールは診察の代替ではないこと、緊急時の連絡先、守秘の限界を記載する

コミュニケーション上の勧告

# 勧告
1 メールに非言語情報はない——簡潔さが冷たさとして読まれうるので、口調に配慮する
2 一通で一つの話題にする
3 診断を確定させる表現をメールで書かない(診察していないため)
4 患者の質問に一つずつ答える(引用して答える)
5 感情的な内容にすぐ返信しない(対面または電話に切り替える)
6 悪い知らせをメールで伝えない

⚠️ メールの導入は「便利だから」ではされない。Cochrane レビューは、患者と医療者のあいだのメール利用が健康を改善するという根拠は不十分であるとしており11、既存の指針も古く内容が一貫せず、現在の実務(患者ポータル、スマート)に合わせた更新が必要であると批判されている12。

ソーシャルメディア

形態

形態 内容 医療での用途
ブログ 個人・組織が発信する記事 健康教育、当事者の経験の共有
ソーシャルネットワーキングサイト(SNS) 人と人のつながりを基盤とする場 患者の自助集団、専門職の交流、キャンペーン
ウィキ 複数の人が共同編集する知識ベース 診療手順・教材の共同作成(が課題)
ソーシャルメディアサイト 動画・画像の共有 手技の教育、患者向け説明動画
仮想世界(virtual worlds) 元の共有空間 教育、模擬患者、自助集団13。出典は Second Life 期(2000年代後半)の応用であり、この形態の利用は当時の期待ほど定着しなかった。今日のの用途は専用の VR/XR 教育プフォームに移っている

💡 この区分は、医療におけるソーシャルメディアの体系的分類(ブログ、ウィキ、SNS、共同フィルタリング、仮想世界)とほぼ一致する14。

健康目的での使い方

用途
健康教育と啓発(広い到達範囲、若年層に届く)
患者の自助集団と(で特に価値が大きい)
の監視と緊急時の情報発信(感染症の、災害)
専門職の学習と情報交換(学会、症例の議論)
研究への参加者募集と
課題:誤情報の拡散、品質の担保、守秘、境界の曖昧化14

医師が守るべき規則

これらの技術を用いるとき、には2つの義務がとくに求められる——① 自らのプライバシーを保護すること、② という職業に相容れない内容を作成・共有しないこと。

# 規則
1 公開範囲の設定を確認し、私的な内容を保護する(「公開設定になっているつもりがなかった」は通らない)
2 患者を同定できる情報を投稿しない——氏名を伏せても、日時・部位・稀な疾患名の組み合わせで同定されうる
3 職業に相容れない内容を作らない・共有しない——飲酒・薬物・差別的発言・患者や同僚を貶める発言・性的な内容
4 患者との個人的な「友達」関係を作らない——境界の維持15
5 オンラインで診断や治療の助言を個別に与えない(診察していない相手に)
6 私的な発信とな発信のアカウントを分ける
7 免責表示(disclaimer)を置く——「個人の見解であり所属機関の見解ではない」「一般情報であり個別の医学的助言ではない」
8 所属機関のソーシャルメディア指針に従う(多くの医療機関が職員向けの指針を整備している)
9 一度投稿したものは消えないと考える(スクリーンショット、キャッシュ、転載)
10 利益相反を開示する

⚠️ 私的なアカウントなら何を投稿しても職業上の問題にならない、というのは誤りである。という職業に相容れない内容の投稿は、そのの評判を損なうだけでなく、という職業全体の評価にも負の影響を与えうる。だから、ますます多くの医療機関が職員に対してソーシャルメディア利用の指針を提供している。

これは実際に起きていることである。米国の医学部の60%が学生による非専門職的なオンライン投稿の事例を報告し、患者の違反も含まれていた16。公開されている泌尿器科専攻修了者の Facebook アカウントの相当な割合に、非専門職的または明確に不適切な内容が含まれていた17。「自分は大丈夫」ではなく「よくあること」として扱う。

💡 の考え方:‐患者関係には力の非対称があるので、境界を維持する責任はの側にある15。患者からの友達申請を断ることは冷たさではなく職務であり、断り方をあらかじめ用意しておく(「私は患者さんとは個人のアカウントでつながらない方針です。ご相談は診療で伺います」)。

仮想現実

用途 根拠
恐怖症・不安症の で不安症と特定の恐怖症に大きな効果量18。の手段として実用段階にある
症状の理解の教育 を体験させる仮想現実による教育19
臨床技能の訓練 仮想世界の仮想患者による訓練20、元仮想世界での医学・保健教育13
疼痛の管理 注意の転換による鎮痛(補助)
摂食障害 の歪みを仮想の身体で可視化・修正する試み、食事や鏡の場面への、の測定。有効性の根拠はまだ限定的

人工知能による意思決定支援

膨大な文献とを処理し、やの候補を提示する試みは長く続いている。

歴史的な事例——IBM Watson for Oncology

2010年代に腫瘍学の意思決定支援として広く報じられたのが IBM の Watson for Oncology である。これは現行の診療の代表例ではなく、歴史的事例として扱う。臨床を示す前向きの検証がほとんど公表されないまま商用展開が進み、提携先のプロジェクトが中止されるなどの経緯を経て、IBM は 2022年に Watson Health 部門の資産を売却した(買収後 Merative として再編)。

💡 この事例の教訓は技術の失敗ではなく評価の順序の失敗である。「学習した文献量」や「専門医との」は、患者の転帰が改善したことの証拠ではない。は「既に専門医が到達する判断を再現した」ことしか示さず、しかもの比較対象そのものが訓練データに影響していることがある。だからこの領域では 「有望さ」と「実証」を常に区別する——問うべきは「どのが、誰を対象に、どの設計で改善したか」である。

現在の枠組み

  • 個々の製品の当否より、評価と規律の枠組みを押さえるほうが陳腐化しない。 は保健分野の人工知能について6原則——自律の保護/人の福祉・安全・公益/透明性と説明可能性/責任と説明責任/包摂と公平/応答性と持続可能性——を示し、性能の主張を実地で検証することを求めている21。
  • 生成 AI(モデル)については別に指針が出されており、もっともらしいが誤った出力、学習データに由来する偏り、責任の所在、実地での評価の必要性が課題として挙げられている22。
  • 💡 の主題としての含意は、ヘルスリテラシーと同じ構造である。患者が AI の出力を持ち込む場面は、インターネットで調べた情報を持ち込む場面(前述)と同型なので、退けるのではなく、一緒に評価する——出力の根拠と限界を説明できることが側の技能になる。

まとめ

  • 包含関係:デジタルヘルス ⊃ e ヘルス ⊃ + m ヘルス。u ヘルスは「いつでもどこでも」の発展形。現在 が用いる傘概念は「デジタルヘルス」で、ビッグデータ・・人工知能まで含む。「e ヘルスが最も広い」という旧来の整理をそのまま現行として書かない。
  • =距離を越えて医療を行うこと。日常で使う領域は放射線科・病理科・循環器科・神経科・・精神科。急拡大の条件は技術ではなく 流行下のと診療の緩和であり、流行後は部分的にした。境界は制度が決める。
  • m ヘルス=健康目的での携帯電話利用。健康データの収集と送信、教育から自助の手法まで。
  • 新しい技術は必ず新しいリスクを伴う——データ・セキュリティ/法的帰結/生命倫理/の4領域。
  • 電話とメールは便利で迅速だが、患者安全にリスクをもたらし医療従事者の業務負担を増大させる。
  • 常時対応できることは利点ではなくバーンアウトの危険因子である。
  • 電話も‐患者関係の一部であり、対面と同じ法的・倫理的・記録上の規則が適用される。緊急事態・悪い知らせ・複雑な意思決定は電話で扱わない。
  • メールの勧告:返信時間の取り決め/緊急時に使わない/受信の自動通知/件名で分類/診療録への取り込み/機微情報は扱わない/暗号化経路/免責表示。健康を改善する根拠は不十分。
  • 診察室のコンピュータ:画面時間が増えるとの視線と情緒的なやりとりが減り、会話が生物医学的に偏る。対策は冒頭は画面を見ずに聴く/画面を患者と共有する(三角形の配置)/入力を予告する/情緒的な話題では手を止める。
  • ネットで調べてきた患者はとして退けない。一緒に評価し(患者中心的)、信頼できる情報源へ導く。
  • ソーシャルメディアの形態はブログ/SNS/ウィキ/ソーシャルメディアサイト/仮想世界。用途は教育・・・専門職の学習。
  • の2つの義務:① 自らのプライバシーを保護する ② という職業に相容れない内容を作成・共有しない。投稿は本人の評判だけでなく職業全体の評価を損なう。患者との個人的なつながりを作らない(境界は側の責任)。
  • 仮想現実は恐怖症・不安症ので上の効果量が大きく、教育・・症状理解にも用いられる。Second Life 期の「仮想世界」の応用は当時の期待ほど定着せず、用途は専用の VR/XR に移っている。
  • 人工知能の意思決定支援は、IBM Watson for Oncology を歴史的事例として押さえる——転帰の前向き検証を欠いたまま商用展開され、2022年に Watson Health 部門は売却された。「文献量」や「専門医との」は転帰改善の証拠ではない。現在のは の6原則と生成 AI の指針(もっともらしい誤り・偏り・責任の所在・実地評価)である。
  • e ヘルスは先進国のものではない。医療資源の少ない国で距離を橋渡しし、少数のの専門性を行き渡らせる。

出典

  1. 1.Global strategy on digital health 2020–2025(World Health Organization・2021)WHO が「デジタルヘルス(digital health)」を上位の傘概念として採用し、e ヘルス(m ヘルスを含む)に加えてビッグデータ・ゲノミクス・人工知能といった領域まで含める枠組みを示したこと閲覧 2026-08-17
  2. 2.What is e-health?(Journal of Medical Internet Research(著者 Gunther Eysenbach)・2001)eヘルスは技術の名前ではなく、情報通信技術によって医療を提供・強化する思考様式・態度・コミットメントを含む広い概念であること閲覧 2026-08-17
  3. 3.The State of Telehealth Before and After the COVID-19 Pandemic(Primary Care: Clinics in Office Practice(著者 Julia Shaver)・2022)COVID-19 流行下で遠隔医療の利用が急拡大し、規制と診療報酬の一時的緩和がその条件になったこと。流行後は利用が部分的に後退し、恒久化の是非が政策課題として残ったこと閲覧 2026-08-17
  4. 4.Consulting room computers and their effect on general practitioner-patient communication(Family Practice(著者 Janneke Noordman, Peter Verhaak, Ilse van Beljouw, Sandra van Dulmen)・2010)診察室でコンピュータを使っている時間の割合が増えるほど、医師の患者への視線と情緒的なやりとりが減ること閲覧 2026-08-17
  5. 5.Electronic medical record use and physician-patient communication: An observational study of Israeli primary care encounters(Patient Education and Counseling(著者 Ruth S. Margalit, Debra Roter, Michele A. Dunevant, Susan Larson, Shmuel Reis)・2006)電子カルテのキーボード操作に費やされる時間が長い診察では、心理社会的・情緒的なやりとりが減り、医師主導の生物医学的な会話に偏ること閲覧 2026-08-17
  6. 6.Computer use in primary care and patient-physician communication(Patient Education and Counseling(著者 Daniela Sobral, Marcy Rosenbaum, Margarida Figueiredo-Braga)・2015)プライマリケアでのコンピュータ使用が、アイコンタクト・沈黙の扱い・話題の流れを乱しうる一方、画面を患者と共有すると教育の道具になりうること閲覧 2026-08-17
  7. 7.How to Integrate the Electronic Health Record and Patient-Centered Communication into the Medical Visit: A Skills-Based Approach(Teaching and Learning in Medicine(著者 Pamela Duke, Richard M. Frankel, Shmuel Reis)・2013)電子カルテを患者中心の診察に統合する具体的技法(画面を患者と共有する、入力前に予告する、冒頭は画面を見ずに聴く、三角形の配置)閲覧 2026-08-17
  8. 8.Patients using the Internet to obtain health information: How this affects the patient-health professional relationship(Patient Education and Counseling(著者 Miriam McMullan)・2006)インターネットで調べた情報を患者が持ち込んだときの医療者の3つの反応型(医師中心的に脅威として退ける/患者中心的に協働する/情報源へ導く)閲覧 2026-08-17
  9. 9.How the e-patient community helped save my life: an essay by Dave deBronkart(BMJ(著者 Dave deBronkart)・2013)患者コミュニティが提供した情報が治療選択に決定的な役割を果たした当事者の記述と、「参加型医療」における医師‐患者関係の変化への見方閲覧 2026-08-17
  10. 10.Guidelines for the Clinical Use of Electronic Mail with Patients(Journal of the American Medical Informatics Association(著者 Beverley Kane, Daniel Z. Sands)・1998)患者との電子メール利用の指針——返信時間の取り決め、緊急事態にメールを使わない、件名で内容を分類、診療録への取り込み、自動応答による受信確認、機微情報の扱い閲覧 2026-08-17
  11. 11.Email for clinical communication between patients/caregivers and healthcare professionals(Cochrane Database of Systematic Reviews(著者 Helen Atherton, Prescilla Sawmynaden, Aziz Sheikh, Azeem Majeed, Josip Car)・2012)患者と医療者のあいだの電子メール利用について、健康アウトカムへの効果を示す根拠が不十分であること閲覧 2026-08-17
  12. 12.A critical appraisal of guidelines for electronic communication between patients and clinicians: the need to modernize current recommendations(Journal of the American Medical Informatics Association(著者 Joy L. Lee, Marianne S. Matthias, Nir Menachemi, Richard M. Frankel, Michael Weiner)・2018)既存の電子的コミュニケーション指針が古く、内容の一貫性を欠き、現在の実務に合わせた更新が必要であること閲覧 2026-08-17
  13. 13.Second Life: an overview of the potential of 3-D virtual worlds in medical and health education(Health Information & Libraries Journal(著者 Maged N. Kamel Boulos, Lee Hetherington, Steve Wheeler)・2007)三次元仮想世界が医学・保健教育(模擬患者、公衆衛生の演習、患者の自助集団)に用いられうること閲覧 2026-08-17
  14. 14.Social Media: A Review and Tutorial of Applications in Medicine and Health Care(Journal of Medical Internet Research(著者 Francisco J. Grajales III, Samuel Sheps, Kendall Ho, Helen Novak-Lauscher, Gunther Eysenbach)・2014)医療におけるソーシャルメディアの分類(ブログ、ウィキ、SNS、共同フィルタリング、仮想世界)とその応用と限界閲覧 2026-08-17
  15. 15.Professional Boundaries in the Physician-Patient Relationship(JAMA(著者 Glen O. Gabbard, Carol Nadelson)・1995)医師と患者の関係における職業的境界の概念——力の非対称ゆえに医師側が境界維持の責任を負うこと閲覧 2026-08-17
  16. 16.Online Posting of Unprofessional Content by Medical Students(JAMA(著者 Katherine C. Chretien, Scott R. Greysen, Jean-Paul Chretien, Terry Kind)・2009)米国の医学部の60%が学生による非専門職的なオンライン投稿の事例を報告し、患者の守秘義務違反も含まれていたこと閲覧 2026-08-17
  17. 17.Unprofessional content on Facebook accounts of US urology residency graduates(BJU International(著者 Kevin Koo, Zachary Ficko, Elias S. Hyams)・2017)公開されている泌尿器科専攻修了者の Facebook アカウントの相当な割合に、非専門職的または明確に不適切な内容が含まれていたこと閲覧 2026-08-17
  18. 18.Affective outcomes of virtual reality exposure therapy for anxiety and specific phobias: A meta-analysis(Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry(著者 Thomas D. Parsons, Albert A. Rizzo)・2008)仮想現実曝露療法が不安症と特定の恐怖症に対して大きな効果量を示したこと閲覧 2026-08-17
  19. 19.Education About Hallucinations Using an Internet Virtual Reality System: A Qualitative Survey(Academic Psychiatry(著者 Peter M. Yellowlees, James N. Cook)・2006)仮想現実で幻覚を体験させる教育が、精神症状への理解を深める手段として用いられうること閲覧 2026-08-17
  20. 20.Virtual patients in a virtual world: Training paramedic students for practice(Medical Teacher(著者 Emily Conradi, Sheetal Kavia, David Burden ら)・2009)仮想世界の仮想患者を用いた救急救命士学生の訓練が実施可能であったこと閲覧 2026-08-17
  21. 21.Ethics and governance of artificial intelligence for health(World Health Organization・2021)保健分野の人工知能に関する6原則(自律の保護、人の福祉と安全と公益、透明性と説明可能性、責任と説明責任、包摂と公平、応答性と持続可能性)と、性能の主張を実地で検証する必要性閲覧 2026-08-17
  22. 22.Ethics and governance of artificial intelligence for health: Guidance on large multi-modal models(World Health Organization・2024)大規模マルチモーダルモデル(生成 AI)を保健分野で用いる際の指針——もっともらしい誤り、学習データに由来する偏り、責任の所在、実地での評価の必要性閲覧 2026-08-17