微生物学

微生物学 · 1/10

滅菌の原理と実際、LAL試験

Principles and practice of sterilization, LAL test

🧠 のゴールはただ一つ、「芽胞を含むすべての微生物を殺す」こと。 熱・放射線・ガス・濾過のどれを選ぶかは、対象物が熱に耐えられるか、液体か、気体透過性かで自動的に決まる。そして芽胞よりもさらに厄介な は、通常の法が効かない例外中の例外として別枠で覚える。

滅菌とは

とは、調製物中のすべての微生物( を含む)を殺滅・除去する過程を指す。無菌 とは、処理された物品が生きた生物を一切含まない(germfree)状態を意味する。

💡 は病原体を含むすべての微生物を死滅させる点で、病原性微生物のみを減らす消毒(1/11)とは区別される。

が用いられる対象(無機物):

  • ・器材、医薬品、輸液、カテーテル、注射針——患者の安全のため
  • 、検体容器、接種ループなど——検体の汚染を避けるため
  • 感染性廃棄物の除去

法は大きく物理的方法と化学的方法に分けられる。

💡 「無菌」は0か1かではなく、確率で定義されている。 生き残る微生物が1個もいないことは原理的に証明できないため、工業的なは保証水準(SAL、sterility assurance level)という確率で規定される。では SAL 10⁻⁶——すなわち「後の製品1個あたり、生きた微生物が残っている確率が100万分の1以下」が標準的な目標で、(ISO 11135)でも放射線でもこの水準に合わせて条件が決められる1。だから「オートクレーブを何分かければよいか」という問いには、対象物にどれだけ菌が付いているか(デン)と、その菌の(D値)が絡む。

物理的滅菌法

熱

熱はタンパク質・核酸を不可逆的に変性させ、細胞膜のを破壊することでする。

種類 用途 プロトコル
ガラス製器具、一部の金属器具、可燃性材料、シャーレ・ピペット・ゴム製品の 熱風循環式オーブンで、140℃×3時間 → 160℃×2時間 → 180℃×1時間
(オートクレーブ) 、繊維製品、、超高温殺菌飲料 121℃+1気圧×30分 → 134℃+2気圧×10分 → 「フラッシュオートクレーブ」3分

放射線

  • :で核酸を損傷する。通常は産業用途に限られる。
  • 紫外線:手術室や検査室の空気中の微生物を殺滅する。

化学的滅菌法

  • :反応性の高いで、ヒトに対して毒性()を持つ。低温で作用するが、最低48時間の換気を要する。実験室機器、部屋、製器具、医薬品に使用。

  • :(H2O2)蒸気をまたはによって低温プラズマ(物質の第4の状態=電子が剥ぎ取られたの集合)に変換する方法。反応性の高いが膜・ペプチド・などの高分子を破壊して微生物を殺滅する。過程の終わりにはが酸素と水に変換され、毒性残留物は残らない。金属・・熱に弱い材料に使用。プロトコル:30〜60℃、下で最低1時間。

  • 液体薬剤/溶液:、ヨウ素、、、過酢酸。

膜濾過法

  • 大きさによる微生物の排除を利用し、熱に弱い液体のに用いる。

  • 汚染された溶液を膜濾過すると、細菌を含むが膜上に捕捉される。

  • 膜は(ガラスの代わりに)酢酸/ で作られる。

  • は0.1〜0.45 μmの範囲で調整可能。

滅菌法の選び方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sterilization'>滅菌</span>したい対象は?"] --> B{"熱に耐えられるか?"}
    B -->|"耐えられる(ガラス・金属など)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry heat'>乾熱</span> or <span class='jp-term jp-term-diagram' title='moist heat'>湿熱</span>(オートクレーブ)"]
    B -->|"耐えられない"| D{"液体か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid'>固体</span>・気体透過性材料か?"}
    D -->|"熱に弱い液体"| E["膜濾過(0.1〜0.45μm)"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plastic'>プラスチック</span>・機器・部屋など"| F["ETOガス or <span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma sterilisation'>プラズマ滅菌</span>"]

プリオンの不活化

  • は誤って折りたたまれたタンパク質であり、中枢神経系の進行性変性を引き起こす。

  • 伝播経路:用器具、移植された硬膜、ヒト 製剤など。

  • 熱による、、酸性pHには一般に抵抗性を示す。

  • アルカリ性(塩基性)pHにのみ感受性を持つ。

⚠️ には通常のプロトコルでは不十分であり、以下のような特別な条件が必要となる。

  • オートクレーブ(+1気圧、121℃、1時間)
  • 5%溶液
  • 1.0 M

💡 数値で押さえるなら「134℃・18分」が欧州で広く採られている条件である。 マウスを用いた定量実験では、134℃18分または121℃30分のオートクレーブ、および1N15分が、いずれも感染性を10⁶分の1以下へ落とした。一方、や過酢酸といった液体は部分的な効果しか示さなかった2。通常のオートクレーブ条件(121℃・15〜20分、134℃・3分)ではまったく足りないことに注意する。なお「アルカリ性pHにのみ感受性」というのは覚え方としての要約で、実際には・強()・過酷なを組み合わせるのが実務上の原則である。

LAL試験

  • LAL(Limulus amebocyte lysate、変形物) は、の血球から得られる抽出物。

  • LALはLPS(lipopolysaccharide)(グラム陰性菌の膜成分、1/4・1/27参照)と反応する。

  • 医薬品中の の存在を検出するために用いられる。

  • LAL試験:LPSの存在下での血液が凝固する反応を利用する。

💡 LAL試験にはを使わない代替法がある。 LALのの引き金となるファクターCを遺伝子組換えで作ったrFC(recombinant factor C、組換えファクターC)を使えば、の採血なしに同じ検出ができる。複雑な基材をもつヒト用ワクチン4製剤での比較では、rFC法はLAL法と少なくとも同等の成績を示し、の3R(replacement 代替・reduction 削減・refinement 改善)に沿う点が利点とされた3。ただし収載状況には地域差があり、rFC法は欧州薬局方には収載された一方、2023年時点では米国薬局方(USP)の公定法にはなっていなかった4。の個体数減少という保全・動物福祉上の論点が、この置き換えを後押ししている。

まとめ

  • は芽胞を含むすべての微生物の殺滅・除去であり、病原体のみを減らす消毒とは区別される。
  • 物理的方法には熱(・)と放射線(・紫外線)があり、それぞれ対象物ので使い分ける。
  • 化学的方法にはETOガス・・液体薬剤があり、熱に弱い器材や医薬品に用いる。
  • 膜濾過は熱に弱い液体を0.1〜0.45μmの膜で物理的に濾過する方法。
  • は熱・・酸性pHに抵抗性で、アルカリ性pH(高濃度NaOHや、あるいは通常より過酷なオートクレーブ条件)でのみ不活化できる例外的な対象である。
  • LAL試験は血球抽出液がグラム陰性菌のLPS()と反応して凝固する性質を利用し、医薬品の検出に用いられる。試薬を使わない組換えファクターC(rFC)法という代替法があり、薬局方への収載状況は地域で異なる。

出典

  1. 1.Advancing the Sustainable Use of Ethylene Oxide through Process Validation(Biomedical Instrumentation & Technology・2021)単回使用医療機器の滅菌の約50%がエチレンオキサイドで行われており、ISO 11135に従った工程バリデーションでは滅菌保証水準(SAL)10⁻⁶が達成目標とされること閲覧 2026-08-26
  2. 2.Quantitative evaluation of prion inactivation comparing steam sterilization and chemical sterilants: proposed method for test standardization(Journal of Hospital Infection・2006)マウスモデルで134℃18分または121℃30分のオートクレーブ、および1N水酸化ナトリウム15分がプリオン感染性を10⁶分の1以下に低減したのに対し、グルタルアルデヒドや過酢酸などの液体消毒薬では部分的な効果にとどまったこと閲覧 2026-08-26
  3. 3.Comparison of Limulus Amoebocyte Lysate and Recombinant Factor C Assays for Endotoxin Detection in Four Human Vaccines with Complex Matrices(PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology・2020)組換えファクターC(rFC)法によるエンドトキシン検出が複雑なワクチン基材でもLAL法と少なくとも同等の成績を示し、動物由来試薬を使わない点で3R(代替・削減・改善)に合致すること閲覧 2026-08-26
  4. 4.Barriers to the Use of Recombinant Bacterial Endotoxins Test Methods in Parenteral Drug, Vaccine and Device Safety Testing(Alternatives to Laboratory Animals (ATLA)・2023)組換えファクターC(rFC)を用いるエンドトキシン試験は欧州薬局方には収載された一方、2023年時点で米国薬局方(USP)には公定法として収載されていなかったという地域差閲覧 2026-08-26